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ほかほか焼きうどん
⑤
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焼きうどんに箸を入れる。
ふわっと湯気が立ち、肉の香ばしい香りが漂った。
まずはキャベツを摘まんで、ひとくち。
「……甘い」
キャベツという野菜がこんなに甘いのか。
茂は初めて知ったような気持ちになってしまった。
「ほんとですか。火の通りが悪ければ生っぽいですし、通しすぎれば焦げた味になりますから、今日は上手くいきましたね」
初めて使うキッチンで、これほど上等に作ってしまうのだ。
茂は感心した。
次に食べたにんじんもやわらかく、肉もふっくらちょうど良い加減に火が通っていた。
野菜の下からうどんを引っ張り出す。
さっき焼き目がついたところも美味しそうだったのに、野菜や肉を乗せたために、汁がまぶされて、しっかり味がついていた。
「美味い」
ちゅるっと麺を吸い込み、咀嚼する。
もちもちと弾力があって、噛み応えがある。
惣菜のものを買ってはこうはいかないだろう。
新鮮な食材を使って、それも作りたてでなければ。
「それは嬉しいです」
菜月は、茂が「こんなんで良かったら、おやつにどうだ」と勧めたスルメの袋からひとつ摘まみだした。
口に運んで、固いスルメをもちゅもちゅと食べている。
その様子はなんだかより幼く見えてかわいらしい。
起きてからなにも食べていなかったのだ。
がつがつと、というほど勢いよく食べてしまい、すぐに平らげてしまった。
皿は綺麗に空っぽになる。
「ごちそうさま」
ふぅ、と息をついて、グラスのお茶を煽る。
腹は心地良く満たされていた。
お腹がいっぱいで、満腹感と幸福感が体中に感じられる。栄養がゆっくり回っていくのすら、実感できるような感覚すら覚えた。
「お粗末様でした」
菜月はスルメを飲み込んでから、そう返事をしてくれる。
「ありがとな。すげぇ美味かったよ」
ここまで言いそびれていたお礼をやっと口に出す。
菜月は茂の言ったそれに、嬉しそうに、そりゃあもう、ここまでで一番嬉しそうににこっと笑い、「それは良かったです!」と弾んだ声で言った。
「料理、上手いんだな。好きなのか?」
僅かに残ったお茶を飲みながら聞いてみると、そのまま頷かれた。
「はい! 作るのも食べるのも好きです。楽しいですし、美味しいものって幸せになりますよね」
「そうだな」
茂は平和な気持ちで軽く相づちを打ったのだが、直後、お茶を噴き出しそうになった。
「恋人ができたら、料理を振る舞うのが夢だったんです」
ふわっと湯気が立ち、肉の香ばしい香りが漂った。
まずはキャベツを摘まんで、ひとくち。
「……甘い」
キャベツという野菜がこんなに甘いのか。
茂は初めて知ったような気持ちになってしまった。
「ほんとですか。火の通りが悪ければ生っぽいですし、通しすぎれば焦げた味になりますから、今日は上手くいきましたね」
初めて使うキッチンで、これほど上等に作ってしまうのだ。
茂は感心した。
次に食べたにんじんもやわらかく、肉もふっくらちょうど良い加減に火が通っていた。
野菜の下からうどんを引っ張り出す。
さっき焼き目がついたところも美味しそうだったのに、野菜や肉を乗せたために、汁がまぶされて、しっかり味がついていた。
「美味い」
ちゅるっと麺を吸い込み、咀嚼する。
もちもちと弾力があって、噛み応えがある。
惣菜のものを買ってはこうはいかないだろう。
新鮮な食材を使って、それも作りたてでなければ。
「それは嬉しいです」
菜月は、茂が「こんなんで良かったら、おやつにどうだ」と勧めたスルメの袋からひとつ摘まみだした。
口に運んで、固いスルメをもちゅもちゅと食べている。
その様子はなんだかより幼く見えてかわいらしい。
起きてからなにも食べていなかったのだ。
がつがつと、というほど勢いよく食べてしまい、すぐに平らげてしまった。
皿は綺麗に空っぽになる。
「ごちそうさま」
ふぅ、と息をついて、グラスのお茶を煽る。
腹は心地良く満たされていた。
お腹がいっぱいで、満腹感と幸福感が体中に感じられる。栄養がゆっくり回っていくのすら、実感できるような感覚すら覚えた。
「お粗末様でした」
菜月はスルメを飲み込んでから、そう返事をしてくれる。
「ありがとな。すげぇ美味かったよ」
ここまで言いそびれていたお礼をやっと口に出す。
菜月は茂の言ったそれに、嬉しそうに、そりゃあもう、ここまでで一番嬉しそうににこっと笑い、「それは良かったです!」と弾んだ声で言った。
「料理、上手いんだな。好きなのか?」
僅かに残ったお茶を飲みながら聞いてみると、そのまま頷かれた。
「はい! 作るのも食べるのも好きです。楽しいですし、美味しいものって幸せになりますよね」
「そうだな」
茂は平和な気持ちで軽く相づちを打ったのだが、直後、お茶を噴き出しそうになった。
「恋人ができたら、料理を振る舞うのが夢だったんです」
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