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今夜はひとつ、床の中

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「いや、わかっているものか」

 その通りのことをフレイディは指摘してくる。

 わかっていると言ったのに。

 アマリアは不思議と少しの不満を覚えて、少し顔を上げた。

 けれど、見えた先のフレイディにどきっとしてしまった。

 フレイディの手はアマリアの肩から頬へ移動してきて、そっと包んできた。

 その手は今、手袋がなくて、直接皮膚と皮膚が触れ合って……。

 あたたかさも馬車の中で手を握ってくれていたときとは比べ物にならないほど、はっきりと感じられた。

 そんなふうに触れられて、おまけに困ったような顔だったが、間近で見つめられて。

 アマリアの心臓はばくばくしてしまう。

 これはやはり大胆すぎたかしら。

 でも私は寄り添うまでは考えていなかったのだけど。

 呑気すぎることが頭によぎったけれど、実際、だいぶ呑気だっただろう。

「きみを想う男がこうして床の中にいるのだ。なにも起こらないと思ったのかい」

 静かに、小さな声で言われて、アマリアは目を丸くしてしまう。

 なにも……起こらないと……?

 言われたことを頭の中で繰り返してしまったくらいだ。
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