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傷ついた心

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「……あっ!」

 絵筆をパレットに戻そうとしたとき、ぴしゃっと油絵の具が跳ねてしまった。

 アマリアのつけていた絵画用エプロンに、赤い色が飛び散る。

 アマリアは驚きでしばらく固まり、その色を見た。

 絵に使っていた赤はただの絵の具なのに、なんだか血のように見えてしまったのだ。

 ……まるで痛みで血が流れたよう。

 思って、小さく首を振る。

 そんな連想はただの妄想だ。

 はぁ、とため息をついた。

 絵筆を今度はそっと置き場に戻す。

 このエプロンはすぐ洗濯に出さなければいけない。

 服が汚れないために着けるのだから、エプロンは毎回多少絵の具がついてしまうものではある。

 だがここまでびしゃっとついてしまうことは、そうそうない。

 洗う使用人にも迷惑だろう。

 そのことまで考えて、アマリアはもうひとつため息をついてしまった。

「お邪魔するわ。アマリア、絵の進みはどう?」

 そのとき、こんこんとドアが音を立てた。

 アマリアがどきっとして振り向くと、そこには開きかけていたドアから姿を見せて、そのドアを片手でノックしていたフィオナがいる。
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