僕と神様の、黄昏時

文字の大きさ
6 / 7

第5話 雨景色

しおりを挟む
「嘘つき……」

 敗北した70%の予報にぶつくさ言う僕の横で、ミコトも退屈そうにあくびをした。
 3割は雨って言ってたんだから嘘じゃないでしょ~、と、お母さんは乾燥機を回すのに忙しそうだ。あんたも手伝いなさいと叫ばれて、しぶしぶ重い腰を上げた。
 おばあちゃんの仏壇に線香をあげて手を合わせる。はざま様のとこに行くつもりで、何も予定を入れていなかったのがあだになった。今日はお母さんに振り回されるデーになりそうだ。


 人使いの荒いことに定評のあるお母さんは、なぜか雨の日に「歩いてお使いをしてきなさい」とメモを渡す。
 雨でスリップするのが怖いから、車は出したくないんだと。ちぇっ。

 長靴をはきながら嘆息する僕のもとに、散歩かなと期待を満面の笑みで見せながらミコトが駆け寄ってきた。
 たまに賢いうちのバカ犬は、断らせんぞとばかりにリードまで咥えて持ってきている。仕方ないなあ。

「おかあさーん、ミコトの合羽どこだっけ?」

 階段の上からバサリと黄色い合羽が降ってきた。休日まで騒いでくれるなという、お父さんの無言の圧力かな。
 ともかく、興奮で尻尾を引きちぎれんばかりにフリフリするミコトになんとかかんとか合羽を着せて、僕は傘を手に取った。
 あ、はざま様にも傘のほうがよかったかな。



 ざぱざぱと水たまりを蹴飛ばしながら、ミコトはご機嫌で進んでいく。
 目的地ははざま様のいる山とは反対方向の住宅街にあるスーパーなのに、散歩といえばと言わんばかりに一直線に山へ向かおうとする。
 今日はこっち、と強引にリードを引っ張ったら、不満そうに鼻を鳴らされた。

 スーパーの端にあるちょっとした雨除けスペースの柵に、リードを縛り付ける。
 こいつはすぐ誰にでも飛びかかろうとするから、縄余裕は短めに。

 ミコトが足元をジッと見つめているから、僕もつられてしゃがみこんだ。
 蟻が列をなして、コンクリートの上へと避難しているようだ。
 何匹かのろまな奴が、間に合わずに雨にのまれていく。
 水の上で足を振り回すそいつを、ミコトがタシッと前足でたたいた。おいおい、そういうゲームじゃないんだぞ。
 可哀そうな蟻んこを救い出してやろうかとも思ったけど、自然に手を貸すのは人間の傲慢だとかなんとかおばあちゃんが言っていたことを思い出して、その場を後にした。
 強く生きろよ。


 つないでいる間ぬかるみで楽しそうにはしゃいでいたらしいミコトは、家に帰るまでに合羽も身体もすっかり泥だらけになってしまっていた。
 お冠のお母さんに命じられて、僕は暴れる犬っころと格闘しながらなんとかシャンプーを済ませた。
 食い意地のはりすぎているこいつは、シャンプーをつけると片っ端から舐めようとするから、一苦労だ。

 風呂から上がってぬるめに設定したドライヤーをあててやると、ミコトは気持ちよさそうに耳の裏をかいた。最近飛びかかられた時の獣臭さが鼻についていたから、ちょうどよかった。
 フカフカになった背中に顔をうずめると、ミコトは珍しくなすがままでその場に伏せた。ああ、いい枕だ。


 雨が水たまりで跳ねる音と、洗い立ての犬の香りと、お母さんが試し運転させている今季初の石油ストーブ。
 僕とミコトが夕飯にたたき起こされるまで熟睡してしまったのは、言うまでもないだろう。

 いつの間にか雨は上がっていたけれども、星は一つも見えない、そんな夜だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...