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第5話 雨景色
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「嘘つき……」
敗北した70%の予報にぶつくさ言う僕の横で、ミコトも退屈そうにあくびをした。
3割は雨って言ってたんだから嘘じゃないでしょ~、と、お母さんは乾燥機を回すのに忙しそうだ。あんたも手伝いなさいと叫ばれて、しぶしぶ重い腰を上げた。
おばあちゃんの仏壇に線香をあげて手を合わせる。はざま様のとこに行くつもりで、何も予定を入れていなかったのがあだになった。今日はお母さんに振り回されるデーになりそうだ。
人使いの荒いことに定評のあるお母さんは、なぜか雨の日に「歩いてお使いをしてきなさい」とメモを渡す。
雨でスリップするのが怖いから、車は出したくないんだと。ちぇっ。
長靴をはきながら嘆息する僕のもとに、散歩かなと期待を満面の笑みで見せながらミコトが駆け寄ってきた。
たまに賢いうちのバカ犬は、断らせんぞとばかりにリードまで咥えて持ってきている。仕方ないなあ。
「おかあさーん、ミコトの合羽どこだっけ?」
階段の上からバサリと黄色い合羽が降ってきた。休日まで騒いでくれるなという、お父さんの無言の圧力かな。
ともかく、興奮で尻尾を引きちぎれんばかりにフリフリするミコトになんとかかんとか合羽を着せて、僕は傘を手に取った。
あ、はざま様にも傘のほうがよかったかな。
ざぱざぱと水たまりを蹴飛ばしながら、ミコトはご機嫌で進んでいく。
目的地ははざま様のいる山とは反対方向の住宅街にあるスーパーなのに、散歩といえばと言わんばかりに一直線に山へ向かおうとする。
今日はこっち、と強引にリードを引っ張ったら、不満そうに鼻を鳴らされた。
スーパーの端にあるちょっとした雨除けスペースの柵に、リードを縛り付ける。
こいつはすぐ誰にでも飛びかかろうとするから、縄余裕は短めに。
ミコトが足元をジッと見つめているから、僕もつられてしゃがみこんだ。
蟻が列をなして、コンクリートの上へと避難しているようだ。
何匹かのろまな奴が、間に合わずに雨にのまれていく。
水の上で足を振り回すそいつを、ミコトがタシッと前足でたたいた。おいおい、そういうゲームじゃないんだぞ。
可哀そうな蟻んこを救い出してやろうかとも思ったけど、自然に手を貸すのは人間の傲慢だとかなんとかおばあちゃんが言っていたことを思い出して、その場を後にした。
強く生きろよ。
つないでいる間ぬかるみで楽しそうにはしゃいでいたらしいミコトは、家に帰るまでに合羽も身体もすっかり泥だらけになってしまっていた。
お冠のお母さんに命じられて、僕は暴れる犬っころと格闘しながらなんとかシャンプーを済ませた。
食い意地のはりすぎているこいつは、シャンプーをつけると片っ端から舐めようとするから、一苦労だ。
風呂から上がってぬるめに設定したドライヤーをあててやると、ミコトは気持ちよさそうに耳の裏をかいた。最近飛びかかられた時の獣臭さが鼻についていたから、ちょうどよかった。
フカフカになった背中に顔をうずめると、ミコトは珍しくなすがままでその場に伏せた。ああ、いい枕だ。
雨が水たまりで跳ねる音と、洗い立ての犬の香りと、お母さんが試し運転させている今季初の石油ストーブ。
僕とミコトが夕飯にたたき起こされるまで熟睡してしまったのは、言うまでもないだろう。
いつの間にか雨は上がっていたけれども、星は一つも見えない、そんな夜だった。
敗北した70%の予報にぶつくさ言う僕の横で、ミコトも退屈そうにあくびをした。
3割は雨って言ってたんだから嘘じゃないでしょ~、と、お母さんは乾燥機を回すのに忙しそうだ。あんたも手伝いなさいと叫ばれて、しぶしぶ重い腰を上げた。
おばあちゃんの仏壇に線香をあげて手を合わせる。はざま様のとこに行くつもりで、何も予定を入れていなかったのがあだになった。今日はお母さんに振り回されるデーになりそうだ。
人使いの荒いことに定評のあるお母さんは、なぜか雨の日に「歩いてお使いをしてきなさい」とメモを渡す。
雨でスリップするのが怖いから、車は出したくないんだと。ちぇっ。
長靴をはきながら嘆息する僕のもとに、散歩かなと期待を満面の笑みで見せながらミコトが駆け寄ってきた。
たまに賢いうちのバカ犬は、断らせんぞとばかりにリードまで咥えて持ってきている。仕方ないなあ。
「おかあさーん、ミコトの合羽どこだっけ?」
階段の上からバサリと黄色い合羽が降ってきた。休日まで騒いでくれるなという、お父さんの無言の圧力かな。
ともかく、興奮で尻尾を引きちぎれんばかりにフリフリするミコトになんとかかんとか合羽を着せて、僕は傘を手に取った。
あ、はざま様にも傘のほうがよかったかな。
ざぱざぱと水たまりを蹴飛ばしながら、ミコトはご機嫌で進んでいく。
目的地ははざま様のいる山とは反対方向の住宅街にあるスーパーなのに、散歩といえばと言わんばかりに一直線に山へ向かおうとする。
今日はこっち、と強引にリードを引っ張ったら、不満そうに鼻を鳴らされた。
スーパーの端にあるちょっとした雨除けスペースの柵に、リードを縛り付ける。
こいつはすぐ誰にでも飛びかかろうとするから、縄余裕は短めに。
ミコトが足元をジッと見つめているから、僕もつられてしゃがみこんだ。
蟻が列をなして、コンクリートの上へと避難しているようだ。
何匹かのろまな奴が、間に合わずに雨にのまれていく。
水の上で足を振り回すそいつを、ミコトがタシッと前足でたたいた。おいおい、そういうゲームじゃないんだぞ。
可哀そうな蟻んこを救い出してやろうかとも思ったけど、自然に手を貸すのは人間の傲慢だとかなんとかおばあちゃんが言っていたことを思い出して、その場を後にした。
強く生きろよ。
つないでいる間ぬかるみで楽しそうにはしゃいでいたらしいミコトは、家に帰るまでに合羽も身体もすっかり泥だらけになってしまっていた。
お冠のお母さんに命じられて、僕は暴れる犬っころと格闘しながらなんとかシャンプーを済ませた。
食い意地のはりすぎているこいつは、シャンプーをつけると片っ端から舐めようとするから、一苦労だ。
風呂から上がってぬるめに設定したドライヤーをあててやると、ミコトは気持ちよさそうに耳の裏をかいた。最近飛びかかられた時の獣臭さが鼻についていたから、ちょうどよかった。
フカフカになった背中に顔をうずめると、ミコトは珍しくなすがままでその場に伏せた。ああ、いい枕だ。
雨が水たまりで跳ねる音と、洗い立ての犬の香りと、お母さんが試し運転させている今季初の石油ストーブ。
僕とミコトが夕飯にたたき起こされるまで熟睡してしまったのは、言うまでもないだろう。
いつの間にか雨は上がっていたけれども、星は一つも見えない、そんな夜だった。
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