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二日目
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あの後私は疲れて眠るまで付き合わされて、目が覚めてすぐに腰痛に悩まされていた。
「ごめんない。やりすぎちゃいました」
「い、いいよ。私は今日講義ないから」
久々にハッスルしてたから私も結構興奮したし、一戦は私がリードできたから満足してる。それより何戦したのか、その方が気になる。
カナタはこれから大学の講義があるので、お昼過ぎまでは一人を過ごす。
「なるべく早く帰ってきますから。朝食はそばに置いておくので、起きられそうだったら食べてくださいね」
「どうだろうね……今までに無いくらい激痛だから。これ何戦したの?」
「さぁ……十戦目から先は覚えてないですね」
「じゅっ…?!そ、そっか」
そりゃこれだけ痛むわけだ。しかもまだ余裕がありそうだし、いつか満足させられる日が来るんだろうか。
「あんまりナギサさんからは誘ってくれないので、張り切っちゃいました」
「あはは……柄にもないことしちゃった」
この子清楚な見た目して結構肉食系なんだよなぁ。私も人並み以上に性欲は強いけれど、そんな私でも音を上げるくらいにはカナタは容赦がない。
腰をやったのも今日で八回目だし。
「痛み止めも見つけておきました。今飲んじゃいましょう」
「飲むのはいいんだけどどうしてカナタが口に含んでるのかな」
「なぜって……分かってますよね?」
甘い笑顔の後、口付けを交わす。
「んぅ……ん……ふ………にっがいなこれ」
「ですね、後悔してます……あぁ、あと」
渋い顔をしたかと思うと次にはカナタはおもむろに立ち上がって、テレビ棚の上段を探り始めていた。つま先立ちでプルプルしてる……届いてないな。
「カナタ、何が取りたいの?」
「ナギサさんは寝ててください」
「いや、届いてないじゃん」
「むぅ……この部屋の家具は背が高すぎます」
「まぁ私に合わせて買ってあるからね。平均よりは背高いし、私より小さい男はいなかったし」
そんな彼らには背の高い私は可愛げがなかったらしいけど。それに比べて、アイツらのめんどくさいプライドから解放されて、こんな可愛い子といられる事がどれだけ幸せか。
「こんなんじゃ可愛くないらしいからさ。振る理由は皆同じ、私が女らしくないから」
「高身長いいじゃないですか!かっこいいですよ。あ、その薬箱です」
「カナタからしたらそうだろうけど、野郎共はそうもいかないんだよ……これでよかった?」
「はい、ありがとうございます。じゃあ早く寝てください」
「はいはい」
結構思い切った告白したと思ったのに、なびかないなぁこの子。でもマイペースなのも好きだ。
「突然元カレの話されてもなんだかしっくり来ないんですよね。私にとってはかっこよくて綺麗で素敵な人としか映ってないので」
淡々とそう言いながら、私の腰に湿布を貼る。程よい冷たさが腰に染みる。
「あ"~……効くゥ……」
「えっと、聞いてました?」
「聞いてるよ。まとめるとカナタは可愛いってことだね」
「……もうそれでいいです。急にカミングアウトした挙句に無視する人なんて知りません。私はもう行きます」
「あーごめんごめん!湿布が気持ちよくてつい」
立ち止まることなく足早に出ていってしまった。まずったな。
「……行ってらっしゃいのキスをしそびれた」
さんさんと雨の降りしきる窓越しの空は大きな蓋がされていて、まるで人の活気を吸う怪物のように重く垂れ込む。
十月の初めとしては妥当な天気だし、ここ二、三日は続いているはずなのに。
「いつにも増して気分が落ち込むのは、なんでだろうな……」
その時古びた音の呼び鈴が鳴った。ここは少し作りが古いので、インターホンみたいな大層な設備がない。オマケに覗き穴までないときた。だから宅配を受け取る時は一度チェーンロックをかけて出るようにしている。
「宅配かな。もう少し早く来てくれたらいいのに」
重い腰を上げて玄関まで向かう。いつも通りチェーンをかけてドアを開ける。明らかにいつもの宅配と違う体格、服装。そして漂う香水の香り。
「久しぶり、ナギサ」
たった半年じゃ変わらないその懐かしさに喜んでいる私が、心のどこかに潜んでいる。そのせいで居心地が悪い。
「……いまさら何の用?ハヤト」
カナタと入れ違いでやってきたのは、幼なじみで前カレのハヤト。ただいつものバカみたいな笑顔はない。
「ほんと急にごめん。とりあえず入れて欲しい」
「話すことなんて無い。さっさと帰って」
「大事な話なんだよ。少しでいい」
実に半年ぶりの再会。カナタがいる今、すぐにでも追い返すべきだったんだ。なのに、私は自分の気持ちに負けてしまった。
「……わかった。でも聞くだけだから」
ずっと居座られると迷惑だ。さっさと要件を話して帰ってもらおう。そんな甘えを忍ばせながら玄関に上げた矢先。
「いや……今日はナギサとヨリを戻したくてきた」
思わず毒気を抜かれてしまう。
だめだ、隙を見せてはいけない。
「…なに、ふざけたこと言ってるの?」
「あれからずっと忘れられなかった。まだ、好きなんだと思う」
「だから、何言ってるの?最後に自分が私になんて言ったか忘れた?今更都合がいいにも程があるよね」
「でも、あの時の写真もまだ置いたままってことは、まだ……」
「これは……今の恋人が置いておけってうるさいから」
別れる前のまま置いてある写真。玄関はあの頃のまま、時間が止まっている。どうしてこの状況で惚けてるんだろう。もうこの写真もしまわなくちゃ。
「もう、居るんだな……」
「そりゃ半年も経てばね。君のせいでもう恋愛もできないと思ってたんだけど、あっさり変えられたよ」
「そうか……悪いことした」
「軽はずみに謝るなよ……!返事は聞いたでしょ。早く帰って」
気分が悪い。昔話をするためでも惚けるためでも無いはずだ。私はもう断ったし、玄関でそんな辛気臭い顔を見せられても、私にはもう何も言ってあげられない。
「ひゃー……定期忘れちゃ……た…」
慌てた様子で帰ってきたカナタが鉢合わせて、事態は泥沼化する。持っていたカバンをその場に落とし、カナタは俯く。
「……これ、どういうことですか」
「や、これは違うんだ!」
「違うってなんですか。やっぱりまだ未練あるんじゃないですか」
「そうじゃ……!私は、その……」
強く否定できなかった。未練がないとは言いきれなかったからだ。
カナタは何も言わずテーブルにある定期をひったくる。首筋にじっとりと、汗が絡みつく。
「……詳しい話は帰ってきてから聞きます」
「カナタっ……!」
呼び止める間もなく、強く扉は閉められる。
静寂が、そのまま二人を包む。
「……出てって」
「え、でも今の子は……」
「早く出てってよ!」
「……また連絡入れる」
半ば強引にハヤトを追い出して、ついに家は静まり返る。
「いらないよ……連絡なんて」
激しい喪失感が私の内を強く叩いて、その場にへたり込む。そこでようやく心が追いついて、でも私は、しばらく泣くことしか出来なかった。
「ごめんない。やりすぎちゃいました」
「い、いいよ。私は今日講義ないから」
久々にハッスルしてたから私も結構興奮したし、一戦は私がリードできたから満足してる。それより何戦したのか、その方が気になる。
カナタはこれから大学の講義があるので、お昼過ぎまでは一人を過ごす。
「なるべく早く帰ってきますから。朝食はそばに置いておくので、起きられそうだったら食べてくださいね」
「どうだろうね……今までに無いくらい激痛だから。これ何戦したの?」
「さぁ……十戦目から先は覚えてないですね」
「じゅっ…?!そ、そっか」
そりゃこれだけ痛むわけだ。しかもまだ余裕がありそうだし、いつか満足させられる日が来るんだろうか。
「あんまりナギサさんからは誘ってくれないので、張り切っちゃいました」
「あはは……柄にもないことしちゃった」
この子清楚な見た目して結構肉食系なんだよなぁ。私も人並み以上に性欲は強いけれど、そんな私でも音を上げるくらいにはカナタは容赦がない。
腰をやったのも今日で八回目だし。
「痛み止めも見つけておきました。今飲んじゃいましょう」
「飲むのはいいんだけどどうしてカナタが口に含んでるのかな」
「なぜって……分かってますよね?」
甘い笑顔の後、口付けを交わす。
「んぅ……ん……ふ………にっがいなこれ」
「ですね、後悔してます……あぁ、あと」
渋い顔をしたかと思うと次にはカナタはおもむろに立ち上がって、テレビ棚の上段を探り始めていた。つま先立ちでプルプルしてる……届いてないな。
「カナタ、何が取りたいの?」
「ナギサさんは寝ててください」
「いや、届いてないじゃん」
「むぅ……この部屋の家具は背が高すぎます」
「まぁ私に合わせて買ってあるからね。平均よりは背高いし、私より小さい男はいなかったし」
そんな彼らには背の高い私は可愛げがなかったらしいけど。それに比べて、アイツらのめんどくさいプライドから解放されて、こんな可愛い子といられる事がどれだけ幸せか。
「こんなんじゃ可愛くないらしいからさ。振る理由は皆同じ、私が女らしくないから」
「高身長いいじゃないですか!かっこいいですよ。あ、その薬箱です」
「カナタからしたらそうだろうけど、野郎共はそうもいかないんだよ……これでよかった?」
「はい、ありがとうございます。じゃあ早く寝てください」
「はいはい」
結構思い切った告白したと思ったのに、なびかないなぁこの子。でもマイペースなのも好きだ。
「突然元カレの話されてもなんだかしっくり来ないんですよね。私にとってはかっこよくて綺麗で素敵な人としか映ってないので」
淡々とそう言いながら、私の腰に湿布を貼る。程よい冷たさが腰に染みる。
「あ"~……効くゥ……」
「えっと、聞いてました?」
「聞いてるよ。まとめるとカナタは可愛いってことだね」
「……もうそれでいいです。急にカミングアウトした挙句に無視する人なんて知りません。私はもう行きます」
「あーごめんごめん!湿布が気持ちよくてつい」
立ち止まることなく足早に出ていってしまった。まずったな。
「……行ってらっしゃいのキスをしそびれた」
さんさんと雨の降りしきる窓越しの空は大きな蓋がされていて、まるで人の活気を吸う怪物のように重く垂れ込む。
十月の初めとしては妥当な天気だし、ここ二、三日は続いているはずなのに。
「いつにも増して気分が落ち込むのは、なんでだろうな……」
その時古びた音の呼び鈴が鳴った。ここは少し作りが古いので、インターホンみたいな大層な設備がない。オマケに覗き穴までないときた。だから宅配を受け取る時は一度チェーンロックをかけて出るようにしている。
「宅配かな。もう少し早く来てくれたらいいのに」
重い腰を上げて玄関まで向かう。いつも通りチェーンをかけてドアを開ける。明らかにいつもの宅配と違う体格、服装。そして漂う香水の香り。
「久しぶり、ナギサ」
たった半年じゃ変わらないその懐かしさに喜んでいる私が、心のどこかに潜んでいる。そのせいで居心地が悪い。
「……いまさら何の用?ハヤト」
カナタと入れ違いでやってきたのは、幼なじみで前カレのハヤト。ただいつものバカみたいな笑顔はない。
「ほんと急にごめん。とりあえず入れて欲しい」
「話すことなんて無い。さっさと帰って」
「大事な話なんだよ。少しでいい」
実に半年ぶりの再会。カナタがいる今、すぐにでも追い返すべきだったんだ。なのに、私は自分の気持ちに負けてしまった。
「……わかった。でも聞くだけだから」
ずっと居座られると迷惑だ。さっさと要件を話して帰ってもらおう。そんな甘えを忍ばせながら玄関に上げた矢先。
「いや……今日はナギサとヨリを戻したくてきた」
思わず毒気を抜かれてしまう。
だめだ、隙を見せてはいけない。
「…なに、ふざけたこと言ってるの?」
「あれからずっと忘れられなかった。まだ、好きなんだと思う」
「だから、何言ってるの?最後に自分が私になんて言ったか忘れた?今更都合がいいにも程があるよね」
「でも、あの時の写真もまだ置いたままってことは、まだ……」
「これは……今の恋人が置いておけってうるさいから」
別れる前のまま置いてある写真。玄関はあの頃のまま、時間が止まっている。どうしてこの状況で惚けてるんだろう。もうこの写真もしまわなくちゃ。
「もう、居るんだな……」
「そりゃ半年も経てばね。君のせいでもう恋愛もできないと思ってたんだけど、あっさり変えられたよ」
「そうか……悪いことした」
「軽はずみに謝るなよ……!返事は聞いたでしょ。早く帰って」
気分が悪い。昔話をするためでも惚けるためでも無いはずだ。私はもう断ったし、玄関でそんな辛気臭い顔を見せられても、私にはもう何も言ってあげられない。
「ひゃー……定期忘れちゃ……た…」
慌てた様子で帰ってきたカナタが鉢合わせて、事態は泥沼化する。持っていたカバンをその場に落とし、カナタは俯く。
「……これ、どういうことですか」
「や、これは違うんだ!」
「違うってなんですか。やっぱりまだ未練あるんじゃないですか」
「そうじゃ……!私は、その……」
強く否定できなかった。未練がないとは言いきれなかったからだ。
カナタは何も言わずテーブルにある定期をひったくる。首筋にじっとりと、汗が絡みつく。
「……詳しい話は帰ってきてから聞きます」
「カナタっ……!」
呼び止める間もなく、強く扉は閉められる。
静寂が、そのまま二人を包む。
「……出てって」
「え、でも今の子は……」
「早く出てってよ!」
「……また連絡入れる」
半ば強引にハヤトを追い出して、ついに家は静まり返る。
「いらないよ……連絡なんて」
激しい喪失感が私の内を強く叩いて、その場にへたり込む。そこでようやく心が追いついて、でも私は、しばらく泣くことしか出来なかった。
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