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第1話 7月20日
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街灯の上でゆっくりと赤い陽が沈むのを見つめる海鳥。
しかしきっとそうではなく俺が三時間もかけて必死に釣ったこのたった五匹の小魚を狙っているに違いない。
ついでに背後には鯖色の毛並みをした猫もジッと竿先を見つめ好機を狙っている。
カァカァと鳴くお前の姿、俺を嘲笑っているのか海鳥よ。
ニャアと鳴く愛しい姿、俺を誘惑しているのか猫よ。
もうじき十八時の時刻を知らせるサイレンが空襲のようにこの島全体に響きわたる。
ーーここは人口ニ〇〇人にも満たない人々が住む小さな離島 鼠祢島
今こうして係船柱に座った俺が釣り糸を水面に垂らしていると反射した夕日がゆらゆらと揺れる。
防波堤から眺める景色はいつも変わらず、数えきれない程の養殖網が広がっており見渡す限りでも青色へと染まっている。
この島は、人口ニ〇〇人にも満たないと言ったが過言ではなく本当にそうだ。
鼠祢島には保育園から小学校までしかなく中学生になると同時にこの島から必然的に出て行かなくてはならない。
出て行かなくてはならないと言っても月曜日から金曜日までの五日間。
中学になると寮生活が始まり少しばかり親元を離れる。
自分の家の船を出すか定期船に乗れば島から一時間半ほど掛かった処に町がある。
だから、そうそう行ける訳もなく二十四時間空いているコンビニなども未だに指を数えるほどしか行ったことがない。
定期船だって何度も来たりする訳ではない、一日に朝、夕方の二回だ。
保育園、小学校の先生達は朝の便でここに来て島の子供達に学業を教え、夕方の便で町へと帰る。
俺達もそうだった。
月曜日の憂鬱なる朝、定期船へと乗り込み寮での暮らしを金曜日まで耐え抜き夕方になるとまた定期船へと乗り曽根島へと帰る。
当然、それが面倒な先生達もいるので教員住宅的な建物も存在するが山の近くなので虫が多いと女性教員達は嫌がり町へ逃げるようにして船に乗る。
明日からは待ちに待っていた夏休みが始まる。
明日から勿論のこと長い休みが始まるので小学校の時にお世話になった顔馴染みの先生達と入れ違いで船に乗る姿を見送った後、こうして防波堤でのんびりと一人で釣りをしていた訳だ。
俺の名前は岸想太
十四歳、中学三年生。
家からここまで五分くらいの距離を自転車に乗って一人できた訳だ。
自転車の籠には餌の冷凍エビを入れてきたが夏のせいでもあるが既に溶け無数のハエが集っていた。
「ああ、今日も全然釣れんかったなぁ。」
溜め息を漏らしながら餌も喰われ軽いままの釣り系を巻き上げていると
「想太ー!ご飯できたってー!」
数メートル先からチリンチリンと自転車のベルを鳴らしながら漕いで来る女が来た。
艶もあり腰まで綺麗に伸びた黒髪を一本に結び、ぱっちりとした二重が特徴的で鼻も高ければスタイルも良く島人ゆえの焼け焦げた肌の色はしていない。
本人曰く「私、全然肌は焼けないの。」と言うが日焼け止めクリーム全身に塗りたくっているのを何度も目撃している。
その抜群な容姿の為、中学でも他の男子から人気があると言うのは噂で聞いた覚えがある。
若宮花月
十四歳、中学三年生。
こいつとは保育園から幼馴染の地区も同じでなんなら家も近所なのだ。
「ちょっと!聞いとる?」
「てか、どんな?ちょっとは釣れた?」
背後で自転車のブレーキをかけ話し掛けてくる。
花月は「見せて見せて。」そう言って勝手に近くに置いてあるクーラーボックスを臭いと言いつつも開ける。
「すっくなっっ!」
「うるさい。」
「あんた結構釣りよったんにこんだけ?」
「今日は調子が悪かったんよ。」
「ふ~ん、今日は?今日も?ね。」
「はいはい。」
呆れた顔をしながら花月は「こんな小っちゃい魚食べる方が可哀想よ、そこの猫にあげさい。」そう言って一匹の魚の尻尾を指で掴むように持ち猫へ放り投げる。
猫は魚を口に咥えたまま走り去っていった。
「あ!何やっとんよ!せっかく釣れた魚を!」
花月は走り去る猫に手を振り想太の声など聞いてはいなかった。
「ほら、帰ってご飯食べるよ。」
「あのなあ、ご飯食べるよって俺ん家の飯やん。」
「今日は私んとこのお母さんが想太の家で食べてこいって言うたけん。」
想太と花月の家は近所なのもあるが親も仲が良く昔からの付き合いであった。
「ご飯できたけん美幸さんがいつもの防波堤におるやろうけん想太呼んで来てって。」
美幸とは想太の母親である。
「はよ帰るよー。」
「わかったわかった。」
後片付けを終えた想太は「お腹空いたな、帰るか。」そう言って自転車に跨った。
「想太、あれ見て。」
「うん?」
花月が想太の左側、海の方を指差す。
同時に十八時、鼠祢島のサイレンが島中に響き渡った。
しかしきっとそうではなく俺が三時間もかけて必死に釣ったこのたった五匹の小魚を狙っているに違いない。
ついでに背後には鯖色の毛並みをした猫もジッと竿先を見つめ好機を狙っている。
カァカァと鳴くお前の姿、俺を嘲笑っているのか海鳥よ。
ニャアと鳴く愛しい姿、俺を誘惑しているのか猫よ。
もうじき十八時の時刻を知らせるサイレンが空襲のようにこの島全体に響きわたる。
ーーここは人口ニ〇〇人にも満たない人々が住む小さな離島 鼠祢島
今こうして係船柱に座った俺が釣り糸を水面に垂らしていると反射した夕日がゆらゆらと揺れる。
防波堤から眺める景色はいつも変わらず、数えきれない程の養殖網が広がっており見渡す限りでも青色へと染まっている。
この島は、人口ニ〇〇人にも満たないと言ったが過言ではなく本当にそうだ。
鼠祢島には保育園から小学校までしかなく中学生になると同時にこの島から必然的に出て行かなくてはならない。
出て行かなくてはならないと言っても月曜日から金曜日までの五日間。
中学になると寮生活が始まり少しばかり親元を離れる。
自分の家の船を出すか定期船に乗れば島から一時間半ほど掛かった処に町がある。
だから、そうそう行ける訳もなく二十四時間空いているコンビニなども未だに指を数えるほどしか行ったことがない。
定期船だって何度も来たりする訳ではない、一日に朝、夕方の二回だ。
保育園、小学校の先生達は朝の便でここに来て島の子供達に学業を教え、夕方の便で町へと帰る。
俺達もそうだった。
月曜日の憂鬱なる朝、定期船へと乗り込み寮での暮らしを金曜日まで耐え抜き夕方になるとまた定期船へと乗り曽根島へと帰る。
当然、それが面倒な先生達もいるので教員住宅的な建物も存在するが山の近くなので虫が多いと女性教員達は嫌がり町へ逃げるようにして船に乗る。
明日からは待ちに待っていた夏休みが始まる。
明日から勿論のこと長い休みが始まるので小学校の時にお世話になった顔馴染みの先生達と入れ違いで船に乗る姿を見送った後、こうして防波堤でのんびりと一人で釣りをしていた訳だ。
俺の名前は岸想太
十四歳、中学三年生。
家からここまで五分くらいの距離を自転車に乗って一人できた訳だ。
自転車の籠には餌の冷凍エビを入れてきたが夏のせいでもあるが既に溶け無数のハエが集っていた。
「ああ、今日も全然釣れんかったなぁ。」
溜め息を漏らしながら餌も喰われ軽いままの釣り系を巻き上げていると
「想太ー!ご飯できたってー!」
数メートル先からチリンチリンと自転車のベルを鳴らしながら漕いで来る女が来た。
艶もあり腰まで綺麗に伸びた黒髪を一本に結び、ぱっちりとした二重が特徴的で鼻も高ければスタイルも良く島人ゆえの焼け焦げた肌の色はしていない。
本人曰く「私、全然肌は焼けないの。」と言うが日焼け止めクリーム全身に塗りたくっているのを何度も目撃している。
その抜群な容姿の為、中学でも他の男子から人気があると言うのは噂で聞いた覚えがある。
若宮花月
十四歳、中学三年生。
こいつとは保育園から幼馴染の地区も同じでなんなら家も近所なのだ。
「ちょっと!聞いとる?」
「てか、どんな?ちょっとは釣れた?」
背後で自転車のブレーキをかけ話し掛けてくる。
花月は「見せて見せて。」そう言って勝手に近くに置いてあるクーラーボックスを臭いと言いつつも開ける。
「すっくなっっ!」
「うるさい。」
「あんた結構釣りよったんにこんだけ?」
「今日は調子が悪かったんよ。」
「ふ~ん、今日は?今日も?ね。」
「はいはい。」
呆れた顔をしながら花月は「こんな小っちゃい魚食べる方が可哀想よ、そこの猫にあげさい。」そう言って一匹の魚の尻尾を指で掴むように持ち猫へ放り投げる。
猫は魚を口に咥えたまま走り去っていった。
「あ!何やっとんよ!せっかく釣れた魚を!」
花月は走り去る猫に手を振り想太の声など聞いてはいなかった。
「ほら、帰ってご飯食べるよ。」
「あのなあ、ご飯食べるよって俺ん家の飯やん。」
「今日は私んとこのお母さんが想太の家で食べてこいって言うたけん。」
想太と花月の家は近所なのもあるが親も仲が良く昔からの付き合いであった。
「ご飯できたけん美幸さんがいつもの防波堤におるやろうけん想太呼んで来てって。」
美幸とは想太の母親である。
「はよ帰るよー。」
「わかったわかった。」
後片付けを終えた想太は「お腹空いたな、帰るか。」そう言って自転車に跨った。
「想太、あれ見て。」
「うん?」
花月が想太の左側、海の方を指差す。
同時に十八時、鼠祢島のサイレンが島中に響き渡った。
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