月が沈まぬように

古川ゆう

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第3話 7月20日 続

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花月に容姿を褒められ機嫌を良くしたのか調子づくように美穂は話しだした。

「それでそれで、二人で潮崎から来よったけどあっちで何かしよったん?」

「ああ、私はね。」花月は想太を指差し「この坊主がご飯になってもはよ帰ってこんけん呼びに行ったんよ。」と呆れ顔で言う。

「で、一緒に帰りよる途中ってわけ?」

「そう、しかも想太は魚にも遊ばれよったてこと。」

「お前なあ。」

「ああ~いつものね~、釣り下手な癖して毎週のようにどっか行きよるけど今日は潮崎やったわけね。」

「そうかそうか、ところで今日は何匹釣れたのかしら想太くん。発表なさい。」

どうぞ早く出してご覧なさいと言わんばかりに挑発してくる美穂である。

「美穂、ちょっと見てみさい。」そう言って花月は美穂の挑発に笑いを堪えつつも想太の自転車籠に収まるクーラーボックスの金具を勝手に開け、美穂に「じゃん!」と見せた。

クーラーボックスの中には息絶えた四匹の小魚が氷に紛れていた。

「あれ?想太く~ん、お魚はどこですか?」

美穂はクーラーボックスの中に入った魚を一、ニ、三、四と指で数え、「四匹…?」

「そうそう、帰りに私が野良猫に一匹あげてね四匹になったんよ。」

「想太~私にも頂戴よ、そこら辺の猪にでもあげるわ~。」

「あっはっははは~」女子2人は顔を合わせ笑う。

想太は声を荒げ
「ほんとにお前らって奴は、もう知らんけんな!俺は帰るぞ!!」と2人に言い放つ。

「あ~もうごめんごめん、怒らんでもいいやんか~。」そう言いながら美穂は想太の肩を叩いた。

「想太ごめんね~。」美穂に続けて花月も頭を下げた。

「さて、笑ったことやし想太帰ろっか!」

「まだ、美穂はまめの散歩するん?帰らんの?」

花月の言葉に美穂は何かを思い出したかのように「あ!忘れとったわ!」と突然声を上げた。

「どしたん?」

「家出る前にばあちゃんからまめの散歩ついでに農協で何でも良いけん漬け物買ってこいて頼まれたんやった…。」

「ああ、そうやったんやね。ご苦労様です美穂さん。」

「ん?でもさ、金曜日は農協って五時に閉まるんやなかったけ?」花月は首を傾げながら言った。

「うん?今日って金曜日?ほんとやん!さっきサイレン鳴ったし…。六時やん、うわ、ばあちゃんに怒られる…。」

「まあ、仕方ないよ~。」

「想太、やっぱその魚くれん?」

「もしかして、魚でばあちゃん誤魔化す気?諦めて謝りさい、それと魚は漬け物にはならんやろ。」想太は呆れた顔で返した。

「ま、なんとかなるか。」

「そしたら私はまめと御伊勢山おいせやまにでも登ってから帰るわ~。」

三人が話している背後には御伊勢山と呼ばれている山がある。

幾つもの木々が生い茂り、坂は急斜面ではあるものの山の頂上まで誰でも登り参拝できる場所だ。


御伊勢山の頂上には小さい神社ではあるのだがその中に祠がある。

「無病息災、子孫繁栄、商売繁盛……。」などの意味を込めて二体の石像が祀られている。

何故、蛇と猫の形をした石像が祀られているのか。

この島の名前が現在のになる前

鼠祢島と名付けられた由来がある。



ーー今から百年ほど昔、まだこの島に名前も無い時代、何処から渡ってきたのか
一匹のが現れたそうな。

最初にそれ発見したのは島に住む一人の若い漁師であった。

あれはとても寒い時期の早朝であった。

辺りは暗く、吐いた息は凍える風の中へと混じり音を出した風は海面を荒げるほどの日だった。

なぜこれほど荒れた海の中、漁師は沖へと出たのか。

身籠った妻が居た。

だが、妻は身体も弱く重い病気を患っており医者からも「もう長くはないだろう、腹の中の子もどうなるかわからない。」と言われていた。

この時代の島では、不幸にも農作物も育たない魚も釣れない状況が何年にも渡り続いており食糧難に陥っていた。

漁師は、妻を助けるべく決死の覚悟で大時化の中ではあったが舟を出した。

沖へ出ると荒波で舟は大きく揺れ舵も効かない程だった。

漁師は舟にしがみつきながらも必死に釣り糸を垂らし魚を待った。

待っていた。

糸を垂らし切り三十秒ほど経ったところで顔を上げた。

そこで自分の周りに妙な違和感を感じた。

先程まで大荒れだった筈の海や風は無に等しい静寂に包まれ波の音も風の強さも感じない程だった。

すると、一匹の子魚がぴちゃんと海面を跳ねたそうな。

周りの現象に多少おかしくは思ってはいたが小魚一匹跳ねたのは自然の摂理であろうそれほど気にも止めていなかった。

けれど、その刹那

けたたましく海を鳴らす轟音
自身のカラダを、フネを震わせ
漁師の周りを数百、いや、数千数万ではあっただろう無数の魚の群れが海底から一斉に上空へと跳ね上げたのだ。

驚いた漁師はあわや舟から落ちる所だったが何とか力いっぱい端にしがみつき難を逃れた。

跳ね上げた魚の群れは上空からそのまま海面へと雨のように落下し再び海は荒波を立てた。

いつの間にか周りには深い霧がかかっており慌てた様子でいると数メートル先に大きな黒い影がガジガジと音を立て動いているのが見えた。

恐怖のあまり手も震え何度も生唾を呑み込む。

自分の心臓の音もドクドクと脈打つのが聞こえてくるほどだ。

漁師は息を殺し「あれはなんだ?」と目を凝らしその影をジッと見つめる。


霧が晴れ、徐々にその影の正体が現れていく。


だった。
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