許せなかった僕たちへ

古川ゆう

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一章

1.7 現実+2

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僕は、智子おばあちゃんに帰り際「ありがとう。」と一言伝えた。

おばあちゃんは、僕が何に対して「ありがとう。」と言ったのか。

そんな事はどうでもいいのだと
そう表すかのように「いいんだよ。よく頑張ったね。」とおばあちゃんは微笑ましい表情で僕に返してくれた。

でも、本当ならおばあちゃんは偽りの言葉ではなく僕達の口から真実を知りたかった筈なんだ。

だけど僕は真実を言わなかった。

今思うと悍ましい程の嘘つき者だ。

今日、僕は初めて人に嘘をついたと思う。


過去に一度、蓮に言われた事があった。

「結人、俺は思うんだよ。」

「結人は真面目すぎる。」

「嘘もついたことねえだろ?」

「親の事とかどうでもよくね?」

「俺がこれからも結人と葵といっぱい遊ぶからさ。」

「もうちょっと気抜いてさ、自由に生きてみたら人生楽しめると思うんだけどな俺は。」

「結人、いっつも何かに縛られてるみたいだぞ。」

「まぁ、俺らまだ小学生だし、そんなの考えすぎかもしれないけどさ。」
と蓮は笑いながら僕に言ってきた。

蓮の表情はどことなく真面目に見えて
「俺は蓮にそうなってほしい。」
そう言われている様にも感じた。


「たしかに自分でも思う所がある。」

「わかってた。」

「あの時、蓮から勉強を教えてくれって言われてなかったら、友達は1人もいなかったと思う。」

「ただ、勉強だけができて。」

「ただ、頭が良いだけのガリ勉君になっていたと思う。」

「今まで他の子からも勉強を教えてほしいって言われた事は何回、何十回とあった。」

だけど、「ありがとう。」

お礼を言われて用が済んだら
帰っていく子ばかりだった。

僕から「友達になろう。」なんて
口が裂けても言えなかった。

蓮、以上に変なプライドが僕にはあると
自分でも思った。

だから僕は
「友達何か別にいらない。」「必要ない。」
とまで思っていたけれど

蓮の「友達になってくれ。」

その一言で僕の心の中が満たされた気がした。

自分を友達として必要としてくれるんだと思った。

僕を変えてくれたのは「蓮」なんだ。

だからあの時、蓮を庇って嘘をついたんだ。

「これで良かったんだよね?蓮?」

「葵、僕の嘘に巻き混んでごめんね。」


2人とは駄菓子屋から別れて帰った。

僕達は、考えていた事も別だったと思う。

僕は、1人無言で家までの帰り道を歩きながら
「これからどうしようか。」と考えていたのだ。

僕は僕なりに事件の事も含め考察を始めていた。

「まずは、男に埋められた死体だ。」

「あの埋められた死体は時期に見つかると思う。早くて今日見つかるだろう。」
そう考えていた。

次に考えなくてはいけないことは
僕達のこの目で見てしまった
殺人犯の「大柄な男」の正体と
その「大柄な男」に刺された男の人だ。

僕はどちらも近所では見たことがなかった。

しかも、あの山に建物がある事さえも
聞いた事がなかったのだ。

蓮が途中で言っていた立ち入り禁止の看板がいつの間にか取り外され無くなっていたのも何か関係があるのだろうか。

だが、結人が1番気になっていたのは
あの少年の事だった。

蓮が僕に嘘をついたであろう
あの少年の事だ。

あの時、僕らが山を降りたタイミングと同時に僕達の背丈と変わらないくらいの少年が
何故あの時山から降りてきたんだ?

少年はどちらかの男と関わりがあったとか…?

それは考え過ぎか…。

今更考えたってもう遅い気がした。


僕は、家までの道のりを3人ではなく
1人、無言で歩いて帰っていた。

結人は歩きながらひしひしと感じるている事があった。
「やっぱり、1人で家まで帰ると相当な距離があるんだ。いつもだったらあの2人と会話しながら帰っているせいか家までの距離がとても短く感じるんだ。」

結人は、帰りながら何もする事がなく、いつもは見ていなかった町の風景や田んぼ、畑、川沿いなどをまじまじと見ながら帰っていた。

「こうやって見てみるとこんなに良いところなんだな。」

「だけど、こんな田舎町であんな無残な殺人事件が起こるとは1ミリも思っていなかった。」

「やっぱり1人はつまんないなぁ。」
結人は嘆いた。

「僕は元からあまり喋る方ではなかった。」

「葵と蓮は良く喋る方だろうな。」

結人はふと何年か前に葵に言われた事を思い出した。

葵も僕に、「勉強を教えて。」と言ってきた事があった。

僕は快く、「良いよ。」と言った。

葵は僕に「すごくわかりやすいよ、学校の先生よりも教え方上手だね。」そう言ってくれた。

すると葵は続けて言った。

「結人、学校の先生になったら?」と言ってきたのだ。

僕はその言葉に「教師か、僕は人と関わる事は得意ではないけれど、葵になったら?と言われたからとりあえず僕の目標は教師になってみようかな。」と、そんな安易な考えで僕の目標は決まった。


だけどそれを僕の父、渡辺雄三わたなべゆうぞうは許すのだろうか。

僕の父親は、この県のトップ。
県議員なのだ。

とても、頭が固い。

小学生に上がった時から僕は父に言われ続けていた事がある。

「いいか、結人、人様に迷惑をかけるんじゃないぞ。」

「結人は父さんの後を継いでもらうんだからな。」

「だから、真面目に勉強して真面目に生きてくんだ。」

僕は父にそう言われ続けた。

僕は生まれた時からずっと父親のレールに敷かれている。

そのレールから外れる事は脱線と同じこと
絶対に許されない事だと思った。

父親の期待を裏切る事になる。

「葵、僕は学校の先生にはなれそうにないや。」

結人は呟いた。

「今日の事件に僕が関わっている事がバレたらとんでもない事になるし、お父さんは議員を辞めないといけなくなるかもしれないよな。」

「はぁ、家に帰りたくないよ。」

結人は色々と頭の中で考え込んでしまい溜息を零した。


やっとの思いで結人は家に到着した。

結人は一度、深呼吸をして
家にあるインターホンを押した。

「帰ったよ~。」

結人は冷静を装いインターホン越しに話した。

「は~い。ちょっと待ってね。」

いつもと変わらない母親
渡辺由紀子わたなべゆきこの声が画面越しから聞こえてきた。

正面玄関の鉄柵の門が横へと開き
僕は意を決して門を潜り足を踏み入れた。

足を踏み入れるとそこには石畳が敷いてありその周りには子供にはよくわからない盆栽や鯉がゆらゆらと泳いでいる溜池がある。

家の玄関まで続く石畳を僕は歩き
玄関のドアノブを引いた。

ドアが開くとそこには母親の姿があった。

モスグリーン色のエプロン姿で僕を帰りを待ってくれていたようだ。

帰ってきた僕を見て由紀子は口を開いた。

「結人おかえりなさい。1学期お疲れさま。」

「成績はどうだった?」

「別に、いつもと変わらないよ~。」

「お腹空いてない?」

「まだ、大丈夫。」

僕は結衣子に悟られないよう冷静に返した。

「そっか。なら良かったわ。あれ、今日は蓮君は一緒じゃなかったの?」

「いつもならインターホン越しに喋ってくれるのに。」

結人はまずいと思ったのか目をキョロキョロとさせ落ち着かない様子を見せた。

「確かにそうだ。蓮は毎日、家の前で僕と別れる時にお母さんとインターホンで話すんだった。」

結人は必死に身振り手振りを使って

「いや、実はね、蓮、今日は違う子と遊ぶ約束してたらしくて、それで…葵とは途中まで帰って家まで送ったんだ。それからは、1人でここまで帰ってきたんだ。」と由紀子に説明した。

由紀子は結人の動揺した姿に疑う様子もなく

「そうだったの。まあ、明日から夏休みだしね。今日遊ばなくても明日から遊べばいいもんね。」そう笑顔で結人に話した。

「そ、そうだね…」結人は言葉が詰まる。

「明日か…お母さんが言っているように僕達は明日からも普通に友達として遊べるのだろうか…。3人で…。」

「また、嘘ついたよ僕…。」

結人はそう考えていると
瞳から涙が溢れそうになった。

「やばい。」そう思って結人は下を向いた。


「結人?どうかしたの?」
由紀子は心配そうに聞いた。

「ごめん、お母さん、トイレ。」

下を向いたまま結人は靴を脱いで玄関を上がりトイレに向かった。

トイレの中に入り置いてある時計をみた。

時刻は17時を過ぎていた。

「もう夕方か。」

「お腹空いたなぁ。」

「とりあえず、部屋に戻ろう。」

そう言って結人はトイレを出て2階へと続く階段を上がる。

結人は部屋に着くと背中に背負っていたランドセルと手提げバッグを床へと置いた。

小学生にしては充分広いと思える程の部屋で結人は何をする訳でもなく部屋のテレビを付け、先程の事件がニュースになっていないか確認した。

一通りチャンネルを変え確認したが
まだニュースにはなっていないようだった。


すると、部屋の扉からコンコンとノックが聞こえた。

「結人、ご飯できたわよ。」
由紀子の声が聞こえた。

「とりあえず、ご飯でも食べよう。」
そう思った。

「これが最後の晩餐になるかもしれない。」
結人は少し言い過ぎだとも思ったが。

結人は由紀子に連れられ、下のリビングまで降りた。

一緒に歩いていると僕の方を見ながら由紀子は「今日は結人の好きなハンバーグにしたんだよ。」と微笑ましそうに言った。

「ありがとう。」と僕は言った。

お母さんの顔はいつもより優しく見えた気がした。 

「結人、ごめん、ちょっとお母さん洗濯物入れるから先食べてて。」
そう言うと由紀子はリビングを離れた。

「先、食べてようかな。」

僕は椅子に座りテーブルに並べられている食事に目を通した。

「美味しそう。」ただそう思い
1人テーブルの椅子に座る結人。

テーブルに置かれていた結人用の箸を
右手で持ち溜息をついた。

「いただきます。」と結人がハンバーグに触れようとしたと同時に家のインターホンが鳴った。

結人の全身は時が止まったかのように静止した。

「誰だろう。」

いや、何となくだが嫌な予感がした。

結人は食べ物ではなく生唾をゴクリと呑み込んだ。

椅子から立ち上がりリビングの壁に取り付けてあるインターホンの画面を恐る恐る覗きこんだ。

そこに映っていた人物は黒いスーツを着た男性だった。

「すいません、渡辺さんのお宅でしょうか?私、こう言う者ですが。」

男はそう言うと胸ポケットから手帳の様な物を出しこちらに示してきた。

結人は察した。

「警察か…。思ったよりも早かったな。」

僕がインターホンの画面を覗いていると由紀子は2階から降りて来た。

「結人、誰か来たの?」

洗濯カゴを片手に持った由紀子は
結人に言った。

「う…うん。」

「何?」

「どうしたの?」

ピンポーン、もう一度チャイムの音が家中に響き渡る。

「はーい、ちょっと待ってくださいね。」

僕の焦る気持ちをつゆ知らず
由紀子は足早に玄関へと向かっていく。

ガチャッと由紀子が玄関を開ける音が聞こえてきた。

「もう、だめだ。」

「隠し通せるわけなかったんだ。」

「あの時おばあちゃんに本当の事を話していたら。」

過去に犯した過ちを後悔していると
閉じていた玄関のドアの開く音が聞こえてきた。

「結人…ちょっと来なさい。」

いつもの聴き慣れた母親の優しい声ではなく
悲しみと怒り困惑が入り混じっている声だと
結人はその由紀子の一言から感じ取った。

結人はその場からゆっくりと歩き玄関へと向かった。

母親と警察、2人の姿があった。

母親は重く苦しそうな表情をしていた。

「渡辺結人君だね。今日あった事件の事で詳しく聞きたいんだけど、署まで一緒に来てくれるかな?」

警察は淡々と僕に言ってきた。

僕は警察に尋ねられたが直ぐに答える事はできなかった。

「結人、何かの事件に関わってるって本当なの?」

「今日は葵ちゃんと途中まで帰ってきたって言ったじゃない。」

結人は黙っていた。

「結人は何もしてないのよね⁉︎」

「結人⁉︎」

由紀子は涙ながらに結人に訴えかけた。

「うん。大丈夫。」

僕はそれしか言えなかった。

「お母さん、詳しい事は署で我々が聞きますから。」

警察が言った。

「ねえ、結人⁉︎」

「お母さん、大丈夫だよ。」
僕は涙を堪えた。

「じゃあ、行こうか。」

「わかりました。」

結人は警察と2人で家を出た。

玄関を出て行く時に由紀子は膝から崩れ落ち呟いていた。

「あの人に何て言えばいいの…。」

その言葉は結人に聞こえいた。

「そうだよね…。あの時の僕はそこまで考えれなかった。何が正しいかなんてわからなかったんだ。」

「お父さん、お母さん。」

「ごめんなさい。」

「せっかく作ってくれてたハンバーグ食べれなかったな…。」

最後の晩餐にもならなかった。


結人は警察車両に乗せられ署まで向かった。
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