親愛なる者より

古川ゆう

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一章

1話

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会社に1人ずつ支給されたデスクの上で頬杖をつき2階の窓から静かに夕日が沈んでいくのを柳栄子やなぎえいこは眺めていた。

「今日も疲れたな。」

そう言うと両腕を高く頭の上へとあげ深い溜息をついた。

現在、26歳入社して3年目になる柳栄子の仕事内用は主に会社の書類の作成・整理•ファイリング等デスクワークを中心にしており事務職がほとんどで一日中パソコンと向き合うという流れであった。

—午後17時頃—

退勤時間となり他の者達は時計を確認し、ぐったりとした表情で各々自分のデスクに向かって「また明日。」と別れを告げるかのように席を後にしていた。

タイムカードを抜き退勤している仲間を見て柳栄子は「私も帰らなくては。」と焦りながら黒色の鞄に荷物を詰め込んだ。

栄子のデスク上には、会社用のパソコン•小さな観葉植物•愛用のマグカップ•愛用のボールペンが置かれていた。

そのデスクの隅の方で埃を被って立て掛けられている小さな木枠の写真立てには向日葵の花を背景に少女は麦わら帽子を被り艶のある黒髪を風になびかせカメラに向かって微笑みながら隣の少年の腕を組んでいた。

隣に映るその少年は黒髪に短髪、少女よりも少し背は高く夏の照りつける日差しがそうさせたのか少年の頬を焦がし赤らめ照れ臭そうにしながらも穏やかな表情で少女の方を優しく見つめる様子が写真には収められていた。

「よし帰ろう。」

鞄を持った栄子はタイムカードを抜き会社を後にした。

現在、独身の栄子には縛られるものはなく自由奔放に生活を楽しんでいた。

会社からの帰路の途中、歩きながら栄子は腕を捻り身につけた腕時計の針を確認した。

「17時過ぎか。」

「ちょっと小腹空いたし寄り道しようかな。」

1人暮らしの栄子は普段から仕事が終わるとスーパーに寄って晩御飯の材料を買う前、帰る途中で売られている小腹を満たせそうな甘い物を買って食べた後買い物に行くのがルーティンとなっていた。

「今日はどのお店にしようかな。」

「昨日はあそこで食べたし、今日はあそこのどら焼き屋さんにしよっかな。」

そうして妄想を膨らませ仕事帰りには毎日、色々な店を上機嫌な様子であちらこちらと伺いながら見て回っていた。

すると何処からか、食欲を唆る上質なコーヒーの匂いが栄子の鼻へと入ってきて辺りを見渡した。

「うん?良い香りがする。どこからだろ。」

珈琲豆を挽いた香りがする方へ足を進めて行くと踏み入れた事のない路地裏へと辿り着いていた。

その路地裏には薄汚れたごみバケツ、外壁も剥がれ落ち悲惨な有り様を見て「こんな所からコーヒーの匂い?」と疑っていた。

だが、「確実に匂う。」そう思った栄子は更に奥へと歩みを進める。

そうすると、この寂れた路地裏には似つかわしくない喫茶店を見つけたのだ。

何段もの赤茶色のレンガを重ねて建てられた外観をしており正面入り口には、この店の店主が大事に育てているのであろう艶やかな花達が咲き誇っていた。

「綺麗…。」栄子は花を見つめ呟いた。

だが、肝心のメニューが記された看板は立て掛けておらずopenと書かれている訳でもなかった。

しかし、目の前に見える黒い扉の上にはこの店の名前だろうか「Arde」と丁寧にも記されていた。

横の窓から覗こうと試みたがすりガラスになっており中の様子は伺えなかったが店内の照明は淡くオレンジ色に発光しているのをガラス越しからでも認識する事ができた。

栄子は首を傾げ「うーん。入って大丈夫なのかな。」と戸惑っている様子であった。

「でも、ここまで来たし。もしかしたらまだ誰も知らない喫茶店かも。」

「このお店の常連客になったりして。」

栄子は緊張のせいか生唾を呑み込む。

「よし、入ろう。」

扉のノブを握りしめゆっくりと捻り手前に引いた。

扉に着いた鈴が耳へと鳴り響く。

中へ入ると埃1つないほどに清掃されており床も綺麗に磨きあげられていた。

入って左側に視線を移すと茶色の木目を使用した横長いカウンターに椅子が4脚置かれていた。

右側にはテーブル席が3卓あり2脚ずつ椅子が置かれていた。

店主らしき男は栄子に深々と頭を下げ「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。」そう言ってきたのだ。

店主が頭を下げる瞬間、一瞬見間違いだろうとは思ったが栄子にはその店主が不敵な笑みを浮かべていた様な気がした。























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