1 / 8
一章
1話
しおりを挟む
会社に1人ずつ支給されたデスクの上で頬杖をつき2階の窓から静かに夕日が沈んでいくのを柳栄子は眺めていた。
「今日も疲れたな。」
そう言うと両腕を高く頭の上へとあげ深い溜息をついた。
現在、26歳入社して3年目になる柳栄子の仕事内用は主に会社の書類の作成・整理•ファイリング等デスクワークを中心にしており事務職がほとんどで一日中パソコンと向き合うという流れであった。
—午後17時頃—
退勤時間となり他の者達は時計を確認し、ぐったりとした表情で各々自分のデスクに向かって「また明日。」と別れを告げるかのように席を後にしていた。
タイムカードを抜き退勤している仲間を見て柳栄子は「私も帰らなくては。」と焦りながら黒色の鞄に荷物を詰め込んだ。
栄子のデスク上には、会社用のパソコン•小さな観葉植物•愛用のマグカップ•愛用のボールペンが置かれていた。
そのデスクの隅の方で埃を被って立て掛けられている小さな木枠の写真立てには向日葵の花を背景に少女は麦わら帽子を被り艶のある黒髪を風になびかせカメラに向かって微笑みながら隣の少年の腕を組んでいた。
隣に映るその少年は黒髪に短髪、少女よりも少し背は高く夏の照りつける日差しがそうさせたのか少年の頬を焦がし赤らめ照れ臭そうにしながらも穏やかな表情で少女の方を優しく見つめる様子が写真には収められていた。
「よし帰ろう。」
鞄を持った栄子はタイムカードを抜き会社を後にした。
現在、独身の栄子には縛られるものはなく自由奔放に生活を楽しんでいた。
会社からの帰路の途中、歩きながら栄子は腕を捻り身につけた腕時計の針を確認した。
「17時過ぎか。」
「ちょっと小腹空いたし寄り道しようかな。」
1人暮らしの栄子は普段から仕事が終わるとスーパーに寄って晩御飯の材料を買う前、帰る途中で売られている小腹を満たせそうな甘い物を買って食べた後買い物に行くのがルーティンとなっていた。
「今日はどのお店にしようかな。」
「昨日はあそこで食べたし、今日はあそこのどら焼き屋さんにしよっかな。」
そうして妄想を膨らませ仕事帰りには毎日、色々な店を上機嫌な様子であちらこちらと伺いながら見て回っていた。
すると何処からか、食欲を唆る上質なコーヒーの匂いが栄子の鼻へと入ってきて辺りを見渡した。
「うん?良い香りがする。どこからだろ。」
珈琲豆を挽いた香りがする方へ足を進めて行くと踏み入れた事のない路地裏へと辿り着いていた。
その路地裏には薄汚れたごみバケツ、外壁も剥がれ落ち悲惨な有り様を見て「こんな所からコーヒーの匂い?」と疑っていた。
だが、「確実に匂う。」そう思った栄子は更に奥へと歩みを進める。
そうすると、この寂れた路地裏には似つかわしくない喫茶店を見つけたのだ。
何段もの赤茶色のレンガを重ねて建てられた外観をしており正面入り口には、この店の店主が大事に育てているのであろう艶やかな花達が咲き誇っていた。
「綺麗…。」栄子は花を見つめ呟いた。
だが、肝心のメニューが記された看板は立て掛けておらずopenと書かれている訳でもなかった。
しかし、目の前に見える黒い扉の上にはこの店の名前だろうか「Arde」と丁寧にも記されていた。
横の窓から覗こうと試みたがすりガラスになっており中の様子は伺えなかったが店内の照明は淡くオレンジ色に発光しているのをガラス越しからでも認識する事ができた。
栄子は首を傾げ「うーん。入って大丈夫なのかな。」と戸惑っている様子であった。
「でも、ここまで来たし。もしかしたらまだ誰も知らない喫茶店かも。」
「このお店の常連客になったりして。」
栄子は緊張のせいか生唾を呑み込む。
「よし、入ろう。」
扉のノブを握りしめゆっくりと捻り手前に引いた。
扉に着いた鈴が耳へと鳴り響く。
中へ入ると埃1つないほどに清掃されており床も綺麗に磨きあげられていた。
入って左側に視線を移すと茶色の木目を使用した横長いカウンターに椅子が4脚置かれていた。
右側にはテーブル席が3卓あり2脚ずつ椅子が置かれていた。
店主らしき男は栄子に深々と頭を下げ「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。」そう言ってきたのだ。
店主が頭を下げる瞬間、一瞬見間違いだろうとは思ったが栄子にはその店主が不敵な笑みを浮かべていた様な気がした。
「今日も疲れたな。」
そう言うと両腕を高く頭の上へとあげ深い溜息をついた。
現在、26歳入社して3年目になる柳栄子の仕事内用は主に会社の書類の作成・整理•ファイリング等デスクワークを中心にしており事務職がほとんどで一日中パソコンと向き合うという流れであった。
—午後17時頃—
退勤時間となり他の者達は時計を確認し、ぐったりとした表情で各々自分のデスクに向かって「また明日。」と別れを告げるかのように席を後にしていた。
タイムカードを抜き退勤している仲間を見て柳栄子は「私も帰らなくては。」と焦りながら黒色の鞄に荷物を詰め込んだ。
栄子のデスク上には、会社用のパソコン•小さな観葉植物•愛用のマグカップ•愛用のボールペンが置かれていた。
そのデスクの隅の方で埃を被って立て掛けられている小さな木枠の写真立てには向日葵の花を背景に少女は麦わら帽子を被り艶のある黒髪を風になびかせカメラに向かって微笑みながら隣の少年の腕を組んでいた。
隣に映るその少年は黒髪に短髪、少女よりも少し背は高く夏の照りつける日差しがそうさせたのか少年の頬を焦がし赤らめ照れ臭そうにしながらも穏やかな表情で少女の方を優しく見つめる様子が写真には収められていた。
「よし帰ろう。」
鞄を持った栄子はタイムカードを抜き会社を後にした。
現在、独身の栄子には縛られるものはなく自由奔放に生活を楽しんでいた。
会社からの帰路の途中、歩きながら栄子は腕を捻り身につけた腕時計の針を確認した。
「17時過ぎか。」
「ちょっと小腹空いたし寄り道しようかな。」
1人暮らしの栄子は普段から仕事が終わるとスーパーに寄って晩御飯の材料を買う前、帰る途中で売られている小腹を満たせそうな甘い物を買って食べた後買い物に行くのがルーティンとなっていた。
「今日はどのお店にしようかな。」
「昨日はあそこで食べたし、今日はあそこのどら焼き屋さんにしよっかな。」
そうして妄想を膨らませ仕事帰りには毎日、色々な店を上機嫌な様子であちらこちらと伺いながら見て回っていた。
すると何処からか、食欲を唆る上質なコーヒーの匂いが栄子の鼻へと入ってきて辺りを見渡した。
「うん?良い香りがする。どこからだろ。」
珈琲豆を挽いた香りがする方へ足を進めて行くと踏み入れた事のない路地裏へと辿り着いていた。
その路地裏には薄汚れたごみバケツ、外壁も剥がれ落ち悲惨な有り様を見て「こんな所からコーヒーの匂い?」と疑っていた。
だが、「確実に匂う。」そう思った栄子は更に奥へと歩みを進める。
そうすると、この寂れた路地裏には似つかわしくない喫茶店を見つけたのだ。
何段もの赤茶色のレンガを重ねて建てられた外観をしており正面入り口には、この店の店主が大事に育てているのであろう艶やかな花達が咲き誇っていた。
「綺麗…。」栄子は花を見つめ呟いた。
だが、肝心のメニューが記された看板は立て掛けておらずopenと書かれている訳でもなかった。
しかし、目の前に見える黒い扉の上にはこの店の名前だろうか「Arde」と丁寧にも記されていた。
横の窓から覗こうと試みたがすりガラスになっており中の様子は伺えなかったが店内の照明は淡くオレンジ色に発光しているのをガラス越しからでも認識する事ができた。
栄子は首を傾げ「うーん。入って大丈夫なのかな。」と戸惑っている様子であった。
「でも、ここまで来たし。もしかしたらまだ誰も知らない喫茶店かも。」
「このお店の常連客になったりして。」
栄子は緊張のせいか生唾を呑み込む。
「よし、入ろう。」
扉のノブを握りしめゆっくりと捻り手前に引いた。
扉に着いた鈴が耳へと鳴り響く。
中へ入ると埃1つないほどに清掃されており床も綺麗に磨きあげられていた。
入って左側に視線を移すと茶色の木目を使用した横長いカウンターに椅子が4脚置かれていた。
右側にはテーブル席が3卓あり2脚ずつ椅子が置かれていた。
店主らしき男は栄子に深々と頭を下げ「いらっしゃいませ、お好きな席へどうぞ。」そう言ってきたのだ。
店主が頭を下げる瞬間、一瞬見間違いだろうとは思ったが栄子にはその店主が不敵な笑みを浮かべていた様な気がした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
【完結】限界離婚
仲 奈華 (nakanaka)
ミステリー
もう限界だ。
「離婚してください」
丸田広一は妻にそう告げた。妻は激怒し、言い争いになる。広一は頭に鈍器で殴られたような衝撃を受け床に倒れ伏せた。振り返るとそこには妻がいた。広一はそのまま意識を失った。
丸田広一の息子の嫁、鈴奈はもう耐える事ができなかった。体調を崩し病院へ行く。医師に告げられた言葉にショックを受け、夫に連絡しようとするが、SNSが既読にならず、電話も繋がらない。もう諦め離婚届だけを置いて実家に帰った。
丸田広一の妻、京香は手足の違和感を感じていた。自分が家族から嫌われている事は知っている。高齢な姑、離婚を仄めかす夫、可愛くない嫁、誰かが私を害そうとしている気がする。渡されていた離婚届に署名をして役所に提出した。もう私は自由の身だ。あの人の所へ向かった。
広一の母、文は途方にくれた。大事な物が無くなっていく。今日は通帳が無くなった。いくら探しても見つからない。まさかとは思うが最近様子が可笑しいあの女が盗んだのかもしれない。衰えた体を動かして、家の中を探し回った。
出張からかえってきた広一の息子、良は家につき愕然とした。信じていた安心できる場所がガラガラと崩れ落ちる。後始末に追われ、いなくなった妻の元へ向かう。妻に頭を下げて別れたくないと懇願した。
平和だった丸田家に襲い掛かる不幸。どんどん倒れる家族。
信じていた家族の形が崩れていく。
倒されたのは誰のせい?
倒れた達磨は再び起き上がる。
丸田家の危機と、それを克服するまでの物語。
丸田 広一…65歳。定年退職したばかり。
丸田 京香…66歳。半年前に退職した。
丸田 良…38歳。営業職。出張が多い。
丸田 鈴奈…33歳。
丸田 勇太…3歳。
丸田 文…82歳。専業主婦。
麗奈…広一が定期的に会っている女。
※7月13日初回完結
※7月14日深夜 忘れたはずの思い~エピローグまでを加筆修正して投稿しました。話数も増やしています。
※7月15日【裏】登場人物紹介追記しました。
2026年1月ジャンルを大衆文学→ミステリーに変更しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる