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一章
7話
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栄子は栞里の瞳を真っ直ぐに見つめ自らが喫茶店で体験したことを訴えかけるように話しだした。
「あれは、そう一昨日の事だった。」
「一昨日ですか。」栞里の相槌に栄子は首を縦に振った。
「私は仕事から帰る途中いつも晩御飯の買い物をする前に美味しそうな食べ物が売ってあるお店を見つけてね、そこで買って食べては小腹を満たして帰るのが日課になっていたの。恥ずかしい話しだけど。」
栄子は話しの途中途中で咳払いをしながら恥ずかしそうな表情を浮かべ自然と栞里に向けられた視線を逸らしていた。
「それで、私はその日も仕事が終わってからいつも通り美味しいスイーツが売ってそうなお店を探していたの。」
「それでそれで、お目当ての食べ物は見つかったんですか?」
食い気味に聞いてきた栞里の問い掛けに「いや、違うの。私は別に食いしん坊とかじゃないから。」と否定するように返したが「まさか、見つからなかったんですか…。残念…。私、美味しいスイーツが売ってるお店いっぱい知ってますから栄子さん今度一緒に行きましょうよ。」そう言って誤魔化そうとする栄子の言葉には耳を貸さず栞里は励ますように声をかけた。
栄子は呆れた顔で「違うんだけどなぁ、まあ気になるから時間合えば今度連れてってよ。」と返した。
栞里は「本当ですか、一緒に栄子さんと行けるなんて…。是非行きましょう。」と赤子のように目をキラキラとさせ嬉しがるように言った。
栄子は咳払いをし脱線した会話を戻した。
「栞里ちゃん、それでね話しは戻るけど私が街を歩きながらお店を探してると急にどこからかコーヒーの匂いがしてきたの。」と話すと「コーヒーの匂いですか?」と栞里は首を傾け言葉を返す。
「そう、お腹空いてたのもあったけど食欲が無性に唆られる感覚で例えるなら一度嗅いだら忘れられなくなる。そんな匂いだった。」
栄子は少し考え込み「でも私ね、今思えば昔あのコーヒーの香りをどこかで嗅いだことがあったかもしれない。」と話した。
「昔ですか?」
「うん、でもその記憶は曖昧で思い出せないかも昔の話しだから。」
「一度嗅ぐと忘れられないような匂い…か。」
「おばあちゃん家のタンスの匂い?」
「確かに忘れられないし懐かしいなあって感じにはなるけどちょっと違うかな。」
栄子は目を細め「栞里ちゃん真面目に私の話し聞いてる?」と問い掛けた。
「は、はい、もちろんです、ちゃんと聞いてます。すいません。」と栞里は焦りながら答えた。
「うーんでも、私があの喫茶店に行った時はお店は開いてたはずなのにコーヒーの匂いなんてしなかった。」
「何でだろう。」
「私にもわからない。」
「それでね、私はそのコーヒーの香りが気になってこんな近くに喫茶店なんかあったっけと思って近くまで歩いて行ったの。」
「そうしたら路地裏に喫茶店Ardeがあった。」
「私は意を決して店の中へと入ったの。」
「だけど中にはマスターしかいなかった。」
「マスターですか…他の人は?」
「ううん、私とマスターの2人だけ。その日はお客さんはもう来ないと思って閉めるところだったって言ってた。」
「店に入ったらマスターから挨拶されてとても礼儀正しい人で好印象だった。」
「その後はマスターからおすすめのコーヒーとチーズケーキを頂いたの。上品でとっても美味しかったのを覚えてる。」
「最初は緊張してたけどマスターと話していくうちに徐々にほぐれていってマスターの真剣な表情で語る姿を見てとても素敵な人だなと思ったの。とても悪だとかそんな言葉が似合わない人だった。」
「喫茶店の雰囲気も良かったし栞里ちゃんがさっき言ってたようなゾンビみたいな人はいなかったよ。」と話した。
栞里は栄子の一連の話しを聞いて深く考え込み腑に落ちない表情を浮かべ「そうでしたか。」とひとこと言った。
「あ、そうだ。」
栞里はおもむろに制服のポケットからメモ用紙とペンを取り出し「マスターの顔とか覚えてます?」と栄子に聞いた。
「一応覚えてはいるけど、私似顔絵とか自信ないよ?」と答えた。
栄子は栞里から渡された紙切れにArdeのマスターの顔を自分が見たままに描いた。
思い出しながら描いた男の顔を自信無さそうに「どう?栞里ちゃん見たことある?」と渡した。
「うーん、私は見たことないですね。」
「そっか。」
「力になれなくてごめんね。」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます。この紙、一応私が持っておきますね。」そう言って栞里は紙切れを折り畳み制服にしまい込んだ。
「それともう一つ。栞里ちゃんの話しで気になった事があって。隼人くんの事なんだけど。」
「何ですか?」
「私の憶測なんだけどね。」
「昨日、美波の家に行ったとき何故か玄関の扉は開いてたの。」
「えっ…。それ本当ですか?」
「本当なの。」
「普通、鍵閉めるじゃない帰ったら。」
「1人暮らしなら尚更。でもね、鍵が掛かってなかった。」
「あの時、私はただの閉め忘れかと思ったんだけど今思うと不自然で靴は綺麗に並べられてて、暗闇だったけど部屋の中は荒れた形跡はなかった。だからね…。」
栄子は生唾を飲み込み一呼吸置いて再び喋りだした。
「栞里ちゃん、私、美波は自殺じゃないと思う。」
「美波は誰かに殺されたんじゃないかって思うの。」
「栄子さん、私もそう思います。」
「美波は絶対に自殺なんかしない。」
「ありがとう栞里ちゃん。」
「だとしたら、栄子さん、美波の家に簡単に入り込める人物って1人しかいないですよね。」
「隼人くん。」 2人は顔を見合わせた。
「あの隼人君の異常なまでに豹変した姿を見てしまったらそう考えるしかないのかもしれません。」と栞里は話した。
「それと私、思ったんですけど何であんな路地裏なんかに喫茶店を建てたんですかね?」
「その事は私も気になってマスターに直接聞いたの。だけど今は言えないって言われた。」
「私はあの時、言いづらい理由でもあるのかなって深くは追求しなかったけど今考えたら怪しいよね。」
「人目に付かないから…ですかね。」
栄子と栞里は目を合わせながら「あの喫茶店のマスターと隼人君はきっと何か関係があるに違いない。」そう考えていた。
「栄子さん、お話しできて良かったです。」
「ううん、こちらこそありがとうね。」
「お互い辛いけど頑張ろうね。」
「ありがとうございます。」
「暫くは安静に入院していてくださいね。」
「ううん、明日には退院しようと思ってるから。」
「私、もう一度Ardeに行ってみようと思う。」
栞里はその言葉に耳を疑い「だめです、栄子さん、1人じゃ危ないですよ。」と声を荒げる。
「栞里ちゃんには迷惑かけれないから。仕事頑張ってね。私は大丈夫だから。」と栞里を宥める。
「隼人君のことも気になるし。」
「栞里ちゃん、私の連絡先渡しておくからもし何か分かったら連絡ちょうだいね。」
「分かりました…。気をつけて栄子さん。」
「これが終わったら美味しいスイーツのお店紹介してね。」
栞里は「分かりました、約束ですよ。」そう言って頭を下げ病室を後にした。
その後、栞里が部屋を出て行ったのを確認した栄子は私服に着替え「美波、待っててね。」そう呟き病院を後にした。
「あれは、そう一昨日の事だった。」
「一昨日ですか。」栞里の相槌に栄子は首を縦に振った。
「私は仕事から帰る途中いつも晩御飯の買い物をする前に美味しそうな食べ物が売ってあるお店を見つけてね、そこで買って食べては小腹を満たして帰るのが日課になっていたの。恥ずかしい話しだけど。」
栄子は話しの途中途中で咳払いをしながら恥ずかしそうな表情を浮かべ自然と栞里に向けられた視線を逸らしていた。
「それで、私はその日も仕事が終わってからいつも通り美味しいスイーツが売ってそうなお店を探していたの。」
「それでそれで、お目当ての食べ物は見つかったんですか?」
食い気味に聞いてきた栞里の問い掛けに「いや、違うの。私は別に食いしん坊とかじゃないから。」と否定するように返したが「まさか、見つからなかったんですか…。残念…。私、美味しいスイーツが売ってるお店いっぱい知ってますから栄子さん今度一緒に行きましょうよ。」そう言って誤魔化そうとする栄子の言葉には耳を貸さず栞里は励ますように声をかけた。
栄子は呆れた顔で「違うんだけどなぁ、まあ気になるから時間合えば今度連れてってよ。」と返した。
栞里は「本当ですか、一緒に栄子さんと行けるなんて…。是非行きましょう。」と赤子のように目をキラキラとさせ嬉しがるように言った。
栄子は咳払いをし脱線した会話を戻した。
「栞里ちゃん、それでね話しは戻るけど私が街を歩きながらお店を探してると急にどこからかコーヒーの匂いがしてきたの。」と話すと「コーヒーの匂いですか?」と栞里は首を傾け言葉を返す。
「そう、お腹空いてたのもあったけど食欲が無性に唆られる感覚で例えるなら一度嗅いだら忘れられなくなる。そんな匂いだった。」
栄子は少し考え込み「でも私ね、今思えば昔あのコーヒーの香りをどこかで嗅いだことがあったかもしれない。」と話した。
「昔ですか?」
「うん、でもその記憶は曖昧で思い出せないかも昔の話しだから。」
「一度嗅ぐと忘れられないような匂い…か。」
「おばあちゃん家のタンスの匂い?」
「確かに忘れられないし懐かしいなあって感じにはなるけどちょっと違うかな。」
栄子は目を細め「栞里ちゃん真面目に私の話し聞いてる?」と問い掛けた。
「は、はい、もちろんです、ちゃんと聞いてます。すいません。」と栞里は焦りながら答えた。
「うーんでも、私があの喫茶店に行った時はお店は開いてたはずなのにコーヒーの匂いなんてしなかった。」
「何でだろう。」
「私にもわからない。」
「それでね、私はそのコーヒーの香りが気になってこんな近くに喫茶店なんかあったっけと思って近くまで歩いて行ったの。」
「そうしたら路地裏に喫茶店Ardeがあった。」
「私は意を決して店の中へと入ったの。」
「だけど中にはマスターしかいなかった。」
「マスターですか…他の人は?」
「ううん、私とマスターの2人だけ。その日はお客さんはもう来ないと思って閉めるところだったって言ってた。」
「店に入ったらマスターから挨拶されてとても礼儀正しい人で好印象だった。」
「その後はマスターからおすすめのコーヒーとチーズケーキを頂いたの。上品でとっても美味しかったのを覚えてる。」
「最初は緊張してたけどマスターと話していくうちに徐々にほぐれていってマスターの真剣な表情で語る姿を見てとても素敵な人だなと思ったの。とても悪だとかそんな言葉が似合わない人だった。」
「喫茶店の雰囲気も良かったし栞里ちゃんがさっき言ってたようなゾンビみたいな人はいなかったよ。」と話した。
栞里は栄子の一連の話しを聞いて深く考え込み腑に落ちない表情を浮かべ「そうでしたか。」とひとこと言った。
「あ、そうだ。」
栞里はおもむろに制服のポケットからメモ用紙とペンを取り出し「マスターの顔とか覚えてます?」と栄子に聞いた。
「一応覚えてはいるけど、私似顔絵とか自信ないよ?」と答えた。
栄子は栞里から渡された紙切れにArdeのマスターの顔を自分が見たままに描いた。
思い出しながら描いた男の顔を自信無さそうに「どう?栞里ちゃん見たことある?」と渡した。
「うーん、私は見たことないですね。」
「そっか。」
「力になれなくてごめんね。」
「大丈夫ですよ、ありがとうございます。この紙、一応私が持っておきますね。」そう言って栞里は紙切れを折り畳み制服にしまい込んだ。
「それともう一つ。栞里ちゃんの話しで気になった事があって。隼人くんの事なんだけど。」
「何ですか?」
「私の憶測なんだけどね。」
「昨日、美波の家に行ったとき何故か玄関の扉は開いてたの。」
「えっ…。それ本当ですか?」
「本当なの。」
「普通、鍵閉めるじゃない帰ったら。」
「1人暮らしなら尚更。でもね、鍵が掛かってなかった。」
「あの時、私はただの閉め忘れかと思ったんだけど今思うと不自然で靴は綺麗に並べられてて、暗闇だったけど部屋の中は荒れた形跡はなかった。だからね…。」
栄子は生唾を飲み込み一呼吸置いて再び喋りだした。
「栞里ちゃん、私、美波は自殺じゃないと思う。」
「美波は誰かに殺されたんじゃないかって思うの。」
「栄子さん、私もそう思います。」
「美波は絶対に自殺なんかしない。」
「ありがとう栞里ちゃん。」
「だとしたら、栄子さん、美波の家に簡単に入り込める人物って1人しかいないですよね。」
「隼人くん。」 2人は顔を見合わせた。
「あの隼人君の異常なまでに豹変した姿を見てしまったらそう考えるしかないのかもしれません。」と栞里は話した。
「それと私、思ったんですけど何であんな路地裏なんかに喫茶店を建てたんですかね?」
「その事は私も気になってマスターに直接聞いたの。だけど今は言えないって言われた。」
「私はあの時、言いづらい理由でもあるのかなって深くは追求しなかったけど今考えたら怪しいよね。」
「人目に付かないから…ですかね。」
栄子と栞里は目を合わせながら「あの喫茶店のマスターと隼人君はきっと何か関係があるに違いない。」そう考えていた。
「栄子さん、お話しできて良かったです。」
「ううん、こちらこそありがとうね。」
「お互い辛いけど頑張ろうね。」
「ありがとうございます。」
「暫くは安静に入院していてくださいね。」
「ううん、明日には退院しようと思ってるから。」
「私、もう一度Ardeに行ってみようと思う。」
栞里はその言葉に耳を疑い「だめです、栄子さん、1人じゃ危ないですよ。」と声を荒げる。
「栞里ちゃんには迷惑かけれないから。仕事頑張ってね。私は大丈夫だから。」と栞里を宥める。
「隼人君のことも気になるし。」
「栞里ちゃん、私の連絡先渡しておくからもし何か分かったら連絡ちょうだいね。」
「分かりました…。気をつけて栄子さん。」
「これが終わったら美味しいスイーツのお店紹介してね。」
栞里は「分かりました、約束ですよ。」そう言って頭を下げ病室を後にした。
その後、栞里が部屋を出て行ったのを確認した栄子は私服に着替え「美波、待っててね。」そう呟き病院を後にした。
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