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女神の憂鬱
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ある異世界に女神がいた。だがその女神は今自己嫌悪で沈んでいた。
確かに自分は神だ。一から世界を、人間を創ってみせた。だが創ったあとのこのざまは何てことだろう。
創るまではむしろ簡単だった。だが維持するのがとんでもなく神力を使うのだ。
数十年平和な世界を保ってみせたのに、そのあと急に意識が遠のき気絶したように眠ってしまった。
再び起きた時、地上は凄惨な状態だった。
女神が管理できない、神力が供給されない世界は砂の城が崩れ落ちるように荒れ果てた。作物が実らず生物が減っていく世界が十年も続けば、親が子を食い、子が親の亡骸にすがるような光景がそこかしこに見られるようになる。
この有り様を見た女神は慌てて世界に神力を送り、再び平和な世界にしたのだが、時間が経つと再び電池が切れるように眠ってしまう。
女神は悟った。これはもう持病のようなものなのだと。
世界は一定でいられない。自分の力は定期的に枯渇してしまう。取り戻すには休眠が必要なのだ。
けれどだからと言って女神は自分が眠っている間は苦しんでいてね、などと言えるような性格ではなかった。
自分は神だ。人間達を守る義務がある。欠点のある世界だから製造責任者として滅ぼしてしまえとも思えない。
だが自分だけではとても世界が回らない。――なら、代替案を見つけねばならなかった。
神の力であらゆる平行世界や異世界を巡っていると、その中の一つに魔力に満ち溢れた星を発見した。
自分が休眠期にはいるぶん丸々補えるほどの魔力が人間一人一人に普通にあるのだ。
それなのにこの世界には魔力という概念が無いのか、あるいは発見されていないのか、魔力をただただ、無駄にしていた。
女神は世界を一巡りし、この世界に神がいないことを確認した後、男より女の方が魔力量が多いと分かったので、戦地で今にも死にそうな女の子を一人失敬した。要するに攫ったのだ。
『ここで魔力を提供してくれれば、貴方にお姫様のような暮らしを約束するわ』
女の子は嬉しい、と笑っていた。だが……。
魂アレルギー。女神が概念としてつけたその病気は、こちらに地球から人間を連れてきても、魂が世界に馴染めず身体にアレルギーのような症状が出始め、やがて死に至るという病だ。
何人連れてきても結果は同じだった。死期をほんの少し延ばしただけの女神の行動に、それでもほとんどの少女が「お姫様みたいな生活、楽しかった」 と言って死んでいった。
こちらに持ってくるのはダメだった。なら別の方法は……。
そこで女神は考えた。
こちらの世界の魂をあちらに持っていくのだ。どこかの世界、いや、なるべく治安の良い場所で、死産で生まれる子の身体にその魂を与え、魔力の豊富な身体に生まれさせる。そして生まれた時にこちらに戻せば完璧ではないか?
女神は早速実行した。
しかしこの方法にも問題があった。
生まれてすぐ消失した我が子という事実に母親が発狂する事例が多すぎた。いつかそれが異世界からの干渉だったと知られたら、間違いなく大問題になる。やむなく育った頃に事故か何かに見せかけて元の世界に帰そうとした。
だがそこで魂アレルギーのような症状が向こうの世界でも出るのだと知った。ただし、転生者本人ではなく周りに、だ。
周りの人間はそこにいるのは別世界の人間の魂だと本能的に感じ取り、無意識でも意識的にでも排除したくてたまらなくなる。
異世界に送り込んだ魂は、年頃になった頃には虐待やら苛めやらが普通ですっかり卑屈な人間に育っていた。
だが女神にとってはむしろ好都合だった。
虐待してきた人間達なら真実を知ったところで帰せと言われることもないだろう。愛されて育った子が呼び戻しても「ここは私の世界じゃない!」 とごねるようなら面倒だ。今のほうがいい。虐待されて育った人間なら少し優しくしただけで言うことを聞くだろう。冷たいかもしれないが、世界存続の危機なのだ。この問題は、少女の魂が呼び戻された時に埋め合わせするという方向で……。
呼び戻された魂の魔力はそのままだと異世界に居すぎたせいなのか、魔力が水と油のようにこの世界に馴染まず使えなかったので、やむなく女神は精霊達を作り、少女の神力をこの地に馴染ませる手伝いをしてくれと頼んだ。
そしてこの世界を支配する人間――王家に自分が魔力枯渇で眠る間に死にたくなかったら、召喚する少女、いや聖女を丁寧にもてなして四方の精霊をに合わせ、最後のこの地に戻って眠る私を起こす儀式をしろ、と言い聞かせた。
そしてこの世界には召喚システムが出来上がった。
確かに自分は神だ。一から世界を、人間を創ってみせた。だが創ったあとのこのざまは何てことだろう。
創るまではむしろ簡単だった。だが維持するのがとんでもなく神力を使うのだ。
数十年平和な世界を保ってみせたのに、そのあと急に意識が遠のき気絶したように眠ってしまった。
再び起きた時、地上は凄惨な状態だった。
女神が管理できない、神力が供給されない世界は砂の城が崩れ落ちるように荒れ果てた。作物が実らず生物が減っていく世界が十年も続けば、親が子を食い、子が親の亡骸にすがるような光景がそこかしこに見られるようになる。
この有り様を見た女神は慌てて世界に神力を送り、再び平和な世界にしたのだが、時間が経つと再び電池が切れるように眠ってしまう。
女神は悟った。これはもう持病のようなものなのだと。
世界は一定でいられない。自分の力は定期的に枯渇してしまう。取り戻すには休眠が必要なのだ。
けれどだからと言って女神は自分が眠っている間は苦しんでいてね、などと言えるような性格ではなかった。
自分は神だ。人間達を守る義務がある。欠点のある世界だから製造責任者として滅ぼしてしまえとも思えない。
だが自分だけではとても世界が回らない。――なら、代替案を見つけねばならなかった。
神の力であらゆる平行世界や異世界を巡っていると、その中の一つに魔力に満ち溢れた星を発見した。
自分が休眠期にはいるぶん丸々補えるほどの魔力が人間一人一人に普通にあるのだ。
それなのにこの世界には魔力という概念が無いのか、あるいは発見されていないのか、魔力をただただ、無駄にしていた。
女神は世界を一巡りし、この世界に神がいないことを確認した後、男より女の方が魔力量が多いと分かったので、戦地で今にも死にそうな女の子を一人失敬した。要するに攫ったのだ。
『ここで魔力を提供してくれれば、貴方にお姫様のような暮らしを約束するわ』
女の子は嬉しい、と笑っていた。だが……。
魂アレルギー。女神が概念としてつけたその病気は、こちらに地球から人間を連れてきても、魂が世界に馴染めず身体にアレルギーのような症状が出始め、やがて死に至るという病だ。
何人連れてきても結果は同じだった。死期をほんの少し延ばしただけの女神の行動に、それでもほとんどの少女が「お姫様みたいな生活、楽しかった」 と言って死んでいった。
こちらに持ってくるのはダメだった。なら別の方法は……。
そこで女神は考えた。
こちらの世界の魂をあちらに持っていくのだ。どこかの世界、いや、なるべく治安の良い場所で、死産で生まれる子の身体にその魂を与え、魔力の豊富な身体に生まれさせる。そして生まれた時にこちらに戻せば完璧ではないか?
女神は早速実行した。
しかしこの方法にも問題があった。
生まれてすぐ消失した我が子という事実に母親が発狂する事例が多すぎた。いつかそれが異世界からの干渉だったと知られたら、間違いなく大問題になる。やむなく育った頃に事故か何かに見せかけて元の世界に帰そうとした。
だがそこで魂アレルギーのような症状が向こうの世界でも出るのだと知った。ただし、転生者本人ではなく周りに、だ。
周りの人間はそこにいるのは別世界の人間の魂だと本能的に感じ取り、無意識でも意識的にでも排除したくてたまらなくなる。
異世界に送り込んだ魂は、年頃になった頃には虐待やら苛めやらが普通ですっかり卑屈な人間に育っていた。
だが女神にとってはむしろ好都合だった。
虐待してきた人間達なら真実を知ったところで帰せと言われることもないだろう。愛されて育った子が呼び戻しても「ここは私の世界じゃない!」 とごねるようなら面倒だ。今のほうがいい。虐待されて育った人間なら少し優しくしただけで言うことを聞くだろう。冷たいかもしれないが、世界存続の危機なのだ。この問題は、少女の魂が呼び戻された時に埋め合わせするという方向で……。
呼び戻された魂の魔力はそのままだと異世界に居すぎたせいなのか、魔力が水と油のようにこの世界に馴染まず使えなかったので、やむなく女神は精霊達を作り、少女の神力をこの地に馴染ませる手伝いをしてくれと頼んだ。
そしてこの世界を支配する人間――王家に自分が魔力枯渇で眠る間に死にたくなかったら、召喚する少女、いや聖女を丁寧にもてなして四方の精霊をに合わせ、最後のこの地に戻って眠る私を起こす儀式をしろ、と言い聞かせた。
そしてこの世界には召喚システムが出来上がった。
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