1 / 70
1章 異界の地
第一話 転生する
しおりを挟む頬を撫でる風で俺は意識を覚ました。
目に映るのは真っ青な空と零れ落ちそうな雲。
あまりの心地良さに俺は深く息を吸い込み、ゆっくりと吐き出し空気の美味さに驚く。
都会暮らしの俺にしたら早朝に吸う空気の冷たさくらいが、美味さを感じる一瞬だった。
それとて煙草を吸い続け、不摂生に生きてきた五十三の俺には、今吸った痛いほどの清々しい空気に違和感を感じ、横たわっていた体を起こし辺りを見渡す。
(おいおい…何処だよここは)
会社のPC画面の壁紙みたいな雄大な風景が目の前に広がっている。
そこで俺は自身の身体の違和感にも気付いて慌てて体を弄ると、五十三のオッサンでは有り得ないスベスベした感触が伝わり、目に映る手足が、体が多少メタボな見慣れた俺の体では無いのを理解して愕然とした。
俺は脳をフル回転させ現状を把握しようとした…が、結局弾き出した答えは有り体に言えばチープな答えだったのだ。
転生
厨二病とは縁もなく生きてきた筈の俺にも思い当たる位、転生と言う言葉は一般的に使われている。
書物、映画、テレビ等を始め宗教の中にも使われる転生と言う言葉はそれなりにメジャーだ。
これが異世界転生となると、最近社内でも若い社員の言う所の、ライトノベルと言うジャンルの書籍のかなり多くの作品に使われているワードらしい。
若者文化を知る為に俺もライトノベルを…と若干ネット小説を漁った俺が考えた末の結論に転生を出す程俺は困惑していたのだ。
「お疲れ様でした部長」
定時で終わった業務に満足し会社の門を超えた所で部下の長峰に声を掛けられた。
「ああ、ご苦労様」
「あの、部長少し御相談が有るのですが…お時間平気でしょうか?」
「かまわんが…君は車かな?」
「いえ、電車通勤です」
「そうか、なら丁度良い。駅前に行き付けの店が有るからそこで良いかな?」
「は、はい」
昭和から平成、そして令和と元号が変わり大手には届かないがそこそこの商社に努めていると様々な人間と出会う。
それは部下を持つ立場になってからより顕著に感じるところだ。
自分に合わない職場に留まる意味が無いらしく、昨今では直ぐに辞表を出す人間が多くなって来ている。
多分それぞれに考え抜いた結果として辞表を出しているのだろうと思いたいのだが、どうやらちょっと気に入らない事があれば何ら改善の意思も行動も起こさず辞表出す者が増えてきているようだ…と課長職に居る者からよく聞く相談事だ。
テーブル席に座りビールを一口飲み椅子に座る長峰を見る。
この長峰と言う若者は直接の部下では無いのだが、入社四年にして社で進めている大きなプロジェクトに加わる程有能な男だ。
(さて、どんな相談だろうな…)
直接の上司では無いので辞表を手渡される事は無いだろう。
プロジェクト関連の相談だろうか?
長峰はビールを飲み干し意を決したように口を開いた。
「部長、実は私此の程結婚する事になりまして」
「ほう、それはめでたい」
「じ、実は部長に仲人をお願いしたいのです」
「…なに」
長年会社勤めをして来て俺に仲人を頼んできた人間は初めてだった。
これは俺が気難しいとか言う理由では無く、俺自身が未婚で有るのが理由である。
中堅の商社とはいえ部長職の立場にいる男が未婚者なのは珍しく、過去には色々と好ましく無い噂も立てられたのだが、現会長の一言で部長昇格した経緯がある。
仲人役は大概既婚者と相場が決まっているようなので俺に仲人役を頼む者は現れなかったのだ。
「何故俺なんだ?君なら直接の上司の田島君に頼むのが筋だろ」
「はい、そうなのですが…実は田島課長は近々離婚されるそうなんです」
これは俺の耳にまだ入って来て無かった情報だったので軽く驚く。
「そうか…で、何故俺なんだ?俺は未婚だぞ?」
「あ、既婚者とか未婚者とかは余り私は気にしませんし…逆に未婚者で役員にまでなった部長に仲人をしてもらう方が嬉しいです」
「相手の女性はどうなんだ?」
「ちゃんと部長の事を話しましたし、彼女の御両親も部長ならばと」
「ん?相手のお嬢さんの御両親は俺の事を知ってるのか?」
長峰は頷く。
「実は彼女の御両親は白沢社長なんです」
俺は食べていた枝豆を喉に詰まらせ咳をする。
「だ、大丈夫ですか部長!」
「大丈夫…」
俺はビールを飲み枝豆を流し込んだ後、フーッと一息吐き改めて長峰を見る。
(いや、なかなか驚かしてくれるやつだな…)
「そうか、社長が良いと言うなら断る理由などないな」
俺がそう言うと長峰がホッとした様な顔して枝豆に手を伸ばした。
そう、確かこの辺りまでの記憶がある…
それが何故この場所に、この姿でいるのか理解出来なかった。
転生ならば俺は死んだ事になるのだが、その記憶が無いのだ。
即死に繋がるような身体的病気は持っていなかったし、車が店内に飛び込んで来て即死…とかは店の造り上有り得なかった。
(原爆が……)
馬鹿馬鹿しい想像が頭を過ぎるが記憶が無いので余りそれに時間をかけるのも無駄であろう。
俺は軽くジャンプする。
(身体が軽い…かなり若い肉体だな、多分10歳程かな…)
着けている衣服は見た限りそれ程高価な物には見えない。
(転生って赤子からじゃ無いのか?)
俺はふと重要な事を思い付きズボンの中に手を入れホッと息を吐いた。
余りの肌のスベスベ感に自分の性別が分からなかったのだ。
女性に何ら含む所がある訳じゃないが、五十三年間男として生きて今更女になりましたとか俺のボンクラ脳では対応出来るとは思えない。
次に確認しなければならないのは此処が何処なのか…だ。
ふとズボンのポケットに何かが入っているのを感じ手を入れて出してみるとスマートフォンタイプの携帯端末だった。
見覚えない機種だったので勝手に電源を入れて良いものかと躊躇したが、携帯端末ならどこかしらに連絡が付く可能性がある為、敢えて電源を入れてみる。
画面が淡く光るとホーム画面に2つのショートカットが置いてあった。
一つはメール管理アプリ、もう一つは冒険者の手引と言うアプリのようだ。
携帯端末の画面をあれこれ操作してみたが、その他のアプリが現れることも無く、不思議な事にバッテリー残量表示や時間、電波状態を示すマークも見当たらなかった。
(玩具…なのかこれは?)
試しに冒険者の手引と言うアプリのショートカットをタップしてみたがアプリが起動しない。
(やはり玩具かな…)
メールのショートカットをタップするとアプリが開き画面にメールの受信トレーだけが表示された。
受信トレーに一通のメールがあるようだが、はたして見て良いのかあれこれ悩んだ末に俺は誰の物かもわからない携帯端末のメールを開くことにした。
21
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』
チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。
気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。
「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」
「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」
最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク!
本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった!
「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」
そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく!
神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ!
◆ガチャ転生×最強×スローライフ!
無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる