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1章 異界の地
第六話 世界と魔法
しおりを挟むアネリアは小枝を拾い上げ地面に地図を書き始めた。
「ユージ様、簡単にですが、グレイヤード王国とその周辺国の位置関係です」
アネリアが小枝で指し示す。
「大陸南東に私達の住むグレイヤード王国があります」
縮尺は判らないが、大陸自体はオーストラリア大陸に近い形をしている様だ。
(オーストラリアだとシドニー辺りか…)
「北にタティラ共和国、西にマーレ王国が有ります…」
ソベラ大陸には四つの国がある。
グレイヤード王国の北に位置するタティラ共和国は、議会制民主主義と言う、この世界で唯一の民主主義国家らしい。
対してマーレ王国は君主制国家であり、それもかなり強権的な国家のようで、グレイヤード王国との間に五年以上争いの無い時代が続いた事が無いと言う。
大陸北西に位置する小国パレモラ神聖国は、大陸に広く信じられているパレモラ教と言う唯一神を崇める宗教国家だ。
大陸では統一された通貨が流通している。
石貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨とあり銅貨と銀貨は小銅貨、小銀貨と言う半貨が存在するそうだ。
この世界では共通通貨と言う摩訶不思議な通貨システムが昔からあると言う。
複数の国が存在したら独自の貨幣が有るのが普通であるのだが、この大陸以外の国でも、同様の貨幣が使われているらしい。
これは異常な事で、何かしら強大な力が働いていたと、思わずにはいられなかった。
そしてこれは予想通りではあったのだが、タティラ共和国以外の国では強固な身分制度がある。
現代でも資本経済社会と言う強大な枠組みの中で、身分制度の如き格差が発生していたので、それ程意外な感覚を持ってはいない。
アネリアの話すこの世界の姿は、正しく中世ヨーロッパの姿そのものだった。
大きく違うのは【魔法】と【魔物】と言う存在だ。
「アネリア…その魔法ってのはどう言った物なんだ?」
アネリアは少し目を見開き、何かを考え込む仕草を見せ、一つ頷くと魔法の話を始めた。
魔法
世界に満ちる[ガナ]と言う力によって超常ならざる現象を引き起こす。
例えば火を起こしたり、飲水を出したりする生活魔法と呼ばれる魔法なら、体内の[ガナ]を使えば事足る様だ。
魔法にはランクがあり、1ランクの生活魔法以上になると体内の[ガナ]では賄いきれなくなるらしく、体外に満ちる[ガナ]を使う技術を習う必要があるらしい。
魔法専門の学校迄あると言う事からして、この世界では魔法を使う事は一般的なのだそうだ。
その他に神聖魔法なるものがあり、これは魔法とは異なり、どうやら信仰に基づく[神の御業]と言う神様的なものだと言うが…。
(うーん…俺からすると魔法も神の御業もどちらも理解不能なんだが…)
とは言え、アネリアからの情報はこの世界で生きていく上で非常に役立つ事ばかりだった。
「魔物はその発生理由は分かりませんが、神魔大戦以降に発生したと言われてます…そのおかげと言う訳ではありませんが、人は対抗策として魔法を発達させたのです」
「…その神魔大戦ってのがわからないけど」
神が世界を創り給うた…
世界を創造した神の名は今は失われているが、その神は今は居ないそうだ。
世界を創造した神が消えその後に現れた神々、それに対を成すように現れた魔神が、世界を掌握する戦いをしたのが神魔大戦と呼ばれる戦いなのだそうだ。
「神魔大戦は神々の勝利で幕を下ろしましたが、戦いの爪痕は大きく世界にただ一つあった大陸は5つに分断されたのです」
「…つまり俺達が住むこの大陸以外にも大陸は有るって事か…」
アネリアが頷く。
「はい。私達が暮らすこの大陸は5つ有る大陸の一つで、アジェリア大陸と言います。他の大陸へはパレモラ神聖国かタティラ共和国から船に乗り、渡る事が出来ますが、かなり危険が伴うと聞いています」
どうやら魔法と言えども長距離の移動を可能にするような便利魔法は無いようだ。
(俺が魔法を使えるかどうか試す必要があるな…)
アネリアが背嚢からいくつかの小石のような物を取り出すと、焚き火を中心に五メートル程の距離に置いていく。
「これは魔物避けの魔石です」
アネリアは俺の疑問を読んだように話しかけてきた。
「余程強力な魔物以外はこれを置くことで近付かなくなるんです」
「凄く便利ですね」
魔石を置き終わったアネリアが背嚢から小さな袋を取り出し、中から何かの干し肉らしき物をユージに薦めてきた。
「…これは?」
「ブラウラットの干し肉です。携帯食ですが栄養は折り紙付きです」
干し肉を噛みしめれば、思ったよりもジューシーな味わいが口中に広がった。
「それにしても主要街道と言う割には誰ともすれ違わなかったね」
「それは……」
俺の言葉にアネリアが俯く。
(…何か…あるんだろうな)
アネリアから聞く限りモーズラント商会は相当な商家である。
その商会が本店を置く町が簡素な町とは思えない。 物流もさることながら、当然人の行き来も活発な筈なのだが、主要街道には人の行き来が全く無かったのだ。
(だがまぁ、どこの馬の骨ともわからない俺が聞いてもな…)
理由を聞きたいのは山々だが、今はまだ何もわからない世界で、自分の行動に自重をかけねば責任の取りようが無い。
人の命が掛かってる場面に動かないのはどうかと思うが、今この場面では…
(まぁ…絶対に巻き込まれるパターンだよな)
ともあれ俺は、俺なりにこの世界での目標を…と言うより元の世界でやって来なかった事をこの新たな人生での目標にしたい。
取り敢えず…結婚はしたい。
前の世界では結婚をしなかった。出来なかったと言うより、愚かしい限りだが、結婚に何らメリットを感じなかったからだが、歳を重ね色々見るにつれ若かりし自分の考えの浅はかさを痛感していた。
直接の部下では無い長峰に仲人役を頼まれた時、微かな胸の痛みを感じていた。
だからだ、この新たな人生では必ず結婚をしたいと思う。
(冒険もしたい…企業戦士とは違う冒険を…それは多分危険が従うだろうな)
俺は今迄に経験した事の無い高揚感に包まれる。 体が若返ったのが原因なのか、全く体の疲れを感じない。
健全な体には健全な…かどうかは分からないが間違いなくやる気だけは溢れていた。
「アネリア嬢。魔石で有る程度の魔物は近寄らなくなるのは分かったが、魔物以外…例えば野生の動物や虫、あと山賊のような悪党には効果有るのか?」
「…いえ、魔石は魔物にしか効果はありません…」
「あーやはりそうか」
疲れたからとグッスリと全員が寝る訳には行かないのは予想の範囲だったが、交代で休む要員が女性のアネリアでは、流石に無理があるし、妙な男のカッコつけもある。
(まぁ、何故か全く疲労感が無いから構わないが)
アネリアに休んで貰おうと声を掛けようとした時、微かな足音が俺の耳に届き傍らに置いていた剣を取り身構える。
「ユージ様?」
アネリアには聞き取れないのか、俺の行動にビックリした様子だ。
焚き火に土を掛け火を消す。
「人の足音がする。様子を見るので音をたてないでくれ」
俺の言葉にアネリアが頷きゆっくりと見を伏せた。
(敵か味方か…)
意外と落ち着いている自分に驚きながら、叢に身を屈め近付く音に集中するのだった。
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