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1章 異界の地
第十話 剣閃
しおりを挟む「ロゼ!プロテクション!」
ゲダの声に応えるように、ロゼがプロテクションの魔法を詠唱する。
「ガナの集まりたる霊幻の盾 我が守りたる彼の者に守護の光を プロテクション!」
ロゼの詠唱と共に、パーティーメンバーの体の周りに淡い光が包む。
「ゲダ!ヤバいぜこりゃ!」
早々に弓を諦め短剣を構えたバリヤは、この状況の対応を練っていた。
Cランクの冒険者とはいえ、ウルムを相手するには入念な準備が必要だ。 今の様に二匹を同時に相手するには、最低でも練度が高いCランク冒険者が十名は欲しいところだ。
「ああ、ヤバいなこりゃ…」
答えたゲダの太腿からは、最初に一撃を食らった傷口からかなりの出血がある。
盾役の足を封じた後、狙われるのは間違いなく魔術士のロゼであろう。
元々ロゼが最初に狙われたのをゲドが庇い、手傷を負ったわけなので、初志貫徹ならば間違いなくロゼが狙われる。
短刀とナイフを構えたジャンがロゼを守る様な立ち位置を取る。
「いやーこりゃまいったねー せっかくCランクになれたのに、まさかの展開で絶体絶命ですねゲダ」
ジャンがニヤリと笑うと、それに応えるようにゲドもニヤリと笑う。
「まぁ、これが冒険者ってやつよ 楽しいだろ皆」
ロゼが口を尖らせ意義を申し立てる。
「面白く無いですよ!……ああ…せめて男を知ってから逝きたかったわ…」
ロゼの意外な告白は、三人の男にウルムから一瞬視線を外す程の衝撃を与えた。
「…ロゼ…おめえ…」
「いや、ロゼならあり得るかも…」
「……言ってくれればオイラは何時でもオッケーだったのになーいやー惜しい事をした」
「結構です!私にはいつか白馬に乗った王子様が…」
「…………取り敢えず俺にヒール掛けてくれないか?」
「…わかりました。 根源たるガナを身に纏う水霊の王ウスナに乞う 彼の者に癒しの雫を与え給え ヒール!」
ゲダの傷口に蒼白い光が纏う。
「うし!取り敢えず一匹に狙いを定めるぞ。ジャン おめえはロゼの護衛だ、ロゼを失えば…」
「わかってるゲダ」
(狙うのは…俺の脚を引き裂いたあの野郎だ!)
ゲダは構えた剣の動きでバリヤにターゲットを伝えると、一気に右のウルム詰め寄り、剣と盾でウルムの動きを限定する。
少し遅れウルムの動きを想定したバリヤが剣を走らせた。
"ドンッ"と言う音と共にゲダが後方へ弾き飛ばされ、蹌踉めいた。
バリヤからすれば、想定外のウルムの動きに振り切った剣を慌てて戻そうとしたのだが、ゲダを弾き飛ばしたウルムがバリヤの喉元を切り裂くほうが早かった。
〈ガッ!〉
声にならないバリヤのくぐもった擦過音と、頸動脈から吹き出す血煙がゲダの視界を遮る。
ゲダの盾が地面に転がる。
「…あ?なぜ盾が…」
盾を構えるゲダの左手が肘の辺りから綺麗に切断されていたのだ。
ロゼは一瞬遅れゲダにヒールを詠唱したが、絶望に身体を強張らせる。
「バリヤ!…だめだなありゃ…ゲダもヤバいだろうな…」
ジャンはもう一匹のウルムの動きを警戒しながら、生き残る策を必死に巡らす。
「……どんな状況でも生き残るのが一流の冒険者なんだがなー…ロゼこりゃ無理だわ…」
「……私達はまだまだ一流では無かっただけですよ…ジャンも神に祈っておきます?」
ジャンが口元を歪ませ首を振る。
「勘弁してくれ…大体オメエ無信仰だっただろ?」
「……………確かに…そうですね…」
それは何なのか?一瞬何かが目の前を通り過ぎた気がした。
遅れて土煙が舞い上がり、突風に流される様に土煙が流されて行くと同時に《ゴウッ》と言う音が響く。
土煙が走る方向に目をやるロゼとジャンの視界に、見覚えが有る少年が立っていたのだった。
その左手には切り離されたウルムの頭が握られていた。
(…何とか三人は生き残ってるようだな…)
血溜まりの中に倒れているバリヤと言う冒険者は、一見して駄目だとわかっていた。
(後はゲダさんだがまだ平気…だろうな)
俺は切り取ったウルムの頭を道脇に放り投げ、残る一匹を睨みつける。
剣の使い方など中学、高校とたいして真剣にうちこんだわけではないが、基本の打込み方や足捌き等は身に付いているようだが、真剣で敵とやり合う事等無かった…いや、当然の事なんだが…
ウルムの動きに気を付けながらユージはゆっくりと息を吸い…吐き出す。
ブアッ!
風切り音を残しウルムに迫るが、危険を察知したウルムは咄嗟に身を低くしてユージの斬撃を躱した。
ユージの斬撃は勢い余り、街道脇の木々を薙ぎ倒す。
その光景をロゼとジャンが唖然として見る他はなかった。
(なに?何なのあの子……確かアネリア様と一緒にいた子…よね)
(…見えなかった…この俺が…)
ジャンは狼狽えていた。スカウト職の彼は自分のスピードや敵の攻撃を見切る自信があったのだが、数メートル先に立つ子供の斬撃を全く見切れなかったのだ。
(大体何だよあの斬撃…剣で木を切ってないだろあれ…魔法の発動痕は無いって事は…剣撃なのかあれ…)
(チッ!外した)
斬撃は空を切ったが、ウルムに安易に次の行動を起こすのを躊躇わす程の斬撃だったようだ。
身を低くしたウルムは、その姿勢のままジリジリと後退りしていく。
(逃すわけには行かないんだよ!)
ユージは後退りするウルムを追撃する。
「うおおおおお!」
ウルムの脚を狙い横薙ぐ。
後ろ飛びにジャンプしたウルムに返す手で一太刀浴びせる。
"ギャウ!"
ウルムの前足が宙を舞う。
(よし!脚を取った)
前脚を失ったウルムは最後に狙いを定めたのは、左手を失ったゲダだった。
「ゲダさん伏せて!」
ユージの声にゲダが地面に伏せると同時に、ウルムがゲダに襲いかかった。
"ヒュンッ"と言う音が響き、鼻から尾に向けて切断されたウルムが倒れたゲダの上に倒れ込んだ。
「ロゼさんゲダさんの治療御願いできますか?」
「あ、はい。直ぐに手当をします」
「アネリアを一人にしてるので戻ります。嫌な気配は周りに無いみたいですが、一応気を付けて下さい」
「おぅ後は任せて早くアネリア様の元に行ってやれ」
ジャンが片手を挙げて 早く行ってやれ と手振りで施すのを確認した俺は、アネリアの元へ戻って行った。
「…お疲れ様ユージ様。これを」
アネリアの元へ戻った俺に水袋を差し出してくる。
「ありがとうアネリア…でも一人駄目だったよ…」
アネリアはゆっくりと首を振る。
「それはユージ様の責任では無いし、余り御自分に責任の所在があるかの様な考えは、冒険者の彼等の矜持にも関わりますから」
俺は頷く。
「そうだな…確かにそうだ」
「…それにしても…」
アネリアは、冒険者達のいる街道沿いに薙ぎ倒された木々を見て、溜め息をつく。
「予想はしていましたが随分派手にやりましたね…多分直ぐに噂が広まりますわよ?」
俺は飲んでいた水袋から口を離し、アネリアの顔を見ながら固まる。
「……同じ事を出来るとしたらどんな人ですかね…」
「噂では色々凄い方がいると聞き及びますが、実際私が見た方々で同じ事を出来る方を存じません」
(そうですか…ああ、そうでしょう)
「えーと…例えば近衛騎士団長とかは…」
「魔法ならともかく、剣技であのような事を出来る方など…多分居られないかと…」
「え!しかし…ほら達人とか、剣豪とか…いますよね?」
「……何ですかその達人?とか剣豪とか…」
(おいおいおい!剣を使う文明でその手の達人とかいないのかよ…)
「いえ…何でもないです…何か記憶にあった言葉だったので」
記憶喪失設定は意外に使える!
どちらにせよ噂は広まる事は免れないだろう。
(まぁなんにせよ様子見してからだな)
俺はアネリアを連れゆっくりと歩き出した。
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