わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

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1章 異界の地

第九話 生死一如

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 「ユージ様!」
 
 決して浅くはない爪痕が、二の腕に三本の傷と痛みと共に、俺の鈍りまくっていた危機感を呼び起こしていた。
 魔獣ウルムを甘く見ていた訳では無い…が、実際あれ程のスピードで攻撃されるとは思っていなかったのだ。

 (…アネリアを抱き上げてなくて良かった)
 
 「ユージ様大丈夫ですか!」

 アネリアの心配する声に俺はゆっくりと肯く。

 「大丈夫…少し危機感が足りなかったようですが…大丈夫…もう大丈夫ですよ」

 切り裂かれた二の腕の熱い感覚は、研ぎ澄まされてゆく集中力と共に冷たく変わって行く。


 五十三年間生きてきた。
 悪い事も良い事も…少しはしてきた。
 命の危険を感じた時もある。
 海外と取引すると言う事はそう言う危険もついて回った。 そう、昔はそうだった。
 今ではネットで顔合わせをして、送られた来た書類を精査して裏付けを取り、上司の了解を取れれば小綺麗なオフィスで契約書にサインするだけのぬるい取引…
 多分アネリアには俺の顔は見えないだろう。
 きっと今の俺は笑っているのだろう。
 俺の気配が変わったのを感じたウルムは、警戒心を強め身をより低くしてゆっくりと俺の周りを回り始める。

 (このウルムって奴…スピードも凄いが妙な技を使ったな…)
 

 "ゥグァー!"
 俺に飛び掛かるウルムを迎え撃つ。
 正眼に構えていた俺は、左脚を前に滑らせ 腰を少し落しながら、脇構えからの横一文字で迎え撃つ。

 「なっ!!!」

 間違いなく当たると思った瞬間、ウルムはその軌道を物理法則無視で変えてきたのだ。
 振り抜いた剣は俺の動揺を写した様にぶれた。
 歯など磨いた事も無いであろう黄ばんだ牙が俺の首筋に迫るが、右腕を咄嗟に上げ首を庇う。

 「ぐっ!」

 ウルムは首筋を諦め俺の二の腕に前脚をかけジャンプをした。

 (くそ!!野郎 爪で切り裂きやがった!)

 二の腕の外側から内にかけ三本の裂けたような裂傷を付けられた。

 (…出血はともかく、毒気や菌が入ると…)

 何の根拠も無く殺れる気がしていた自分の気の緩みに歯軋りする。

 (…傷の手当を早めにしないと不味いな…)


 アネリアの心配する声を聞きながら次第に頭の芯が冷えてゆく…

 (そりゃそうだ、物理法則とか何を思ってんだか。魔法も有りの異世界だろ!)

 魔獣が魔法を使えるかは不明だが、下手したら切り裂かれただけでは無く、魔法とかで腕を持っていかれた危険性もあったのだ。

 (…一瞬だ!一瞬でなますにしてやる!)

 右脚を前に滑らせ、腰を落し正中線をウルムから外す。
 鞘がある日本刀なら、さしずめ抜刀の様な構えではあるのだが、なんの反りもない直剣では不自然な見た目だろう。
 右脚に重心を掛け俺の周りをゆっくりと回るウルムに狙いを定める。

 (絶対に逃さんぞ!…)

 腹を膨らませ素早く息を吸いゆっくりと息を鼻から出し、奥歯を噛み締める。
 息を吐き出した瞬間右脚を少し浮かし、前に倒れ込むようになりながら左足で地面を軽く蹴る。
 武道で言う瞬歩の動きだったのだが、イメージと違ったのは自分の身体能力だった。
 逃がす為に蹴った左足の力が予想を遥かに凌駕していた為に、漫画やアニメのような馬鹿げたスピードになった。

 (やばい!間に合わん)

 右手で振り抜く予定が相手の横に到達していた為、咄嗟に剣を左手に持ち直しすれ違いざまにウルムの頭部から尾へ刃を滑らす。

 "グアアア!"
 (不味い!!)

 直剣で撫で斬りするには無理があったのか、ウルムに致命傷を与える迄には至らなかったのだ。
 俺は直ぐ様、足を踏ん張り再びウルムに向かい剣を突き込むが、あっさりとウルムに躱される。しかしそれを想定していた俺は、送り足に重心をかけながら回転するように剣をウルムの横っ面に叩き込み…振り抜いた。
 真っ黒な血が(夜だから黒く見えた)下顎から上を失った切断面から噴水の様に噴き上がっていた。
 俺はまだ倒れていないウルムから視線を外さないようにして少しづつ距離を取る。

 (…流石に頭を失えば…死ぬよな?)

 少し離れた場所からアネリアの声が届く。

 「ユージ様……ご無事ですか?」
 「ああ、少し爪でやられたけど問題は多分無いと思う」

 ゆっくりとアルムが倒れ込んだのを確認してからアネリアの元に戻ると、アネリアが慌てて背嚢から小瓶と布束を取り出してきた。

 「ユージ様。傷の手当します」

 そう言うと手馴れたように傷口に小瓶の液体を塗り布を当てる。別の布を切り裂き、包帯のようにして布を固定する様に巻いてゆく。

 「傷口が浅くて良かったです…でもまさかウルムが街道に迄… ウルムは本来山岳地帯に生息する魔獣なのですが…」
 「…アネリア、あの魔獣はどの程度強いんだ?…んーそうだな、例えば冒険者ならどのランクで討伐可能なんだ?」

 俺の質問にアネリアは少し間を置いて答える。

 「…基本的に冒険者はパーティーですので…例えば先程のCランク冒険者の場合一対一でウルムに勝てる可能性が有るのはスカウトの方くらいでしょうか…はっきり言って私、死を覚悟していました…」

 アネリアの驚くべき言葉に俺は絶句する。

 「いや、しかし…そんなばかな…」
 「私も冷静に考えればユージ様の装備や今まで見てきた身体能力から もしかしたら当然なのかもしれません…」
 (……これは…本格的に俺の身体は特別製だと思うしかないか…)
 「アネリア、原因は分からないがウルムがあの一体とは思えない。仮にあと数体いたとして先に出た四人組の冒険者はウルムと戦って生き残れると思うか?」

 アネリアは首を振る。

 「一匹なら…可能性は高いですが、二匹いたら多分無理だと思います……ユージ様まさか…」
 「…………………………」

 自分の能力を過信している訳ではない。実戦で油断するような現代ボケした俺だが今は違う。一瞬の油断が自分の命も他人の命も奪われる事なんだと身に沁みた。
 多分、自分に関わる全ての人間を守るのは無理だろうが、救う事が僅かにでも可能性としてあるのなら…

 「出来るなら救いたいです…アネリアさんを置いてゆく事は出来ないですから…アネリアさん次第です」
 「…そうですね、私個人としては攫われた姉の事も有りますから、出来る限り安全に早く町に戻りたいのですが…」
 (確かにそうだ…攫われた姉妹の事を考えれば、早く手を打ちたいだろう…いかんな…その事を失念していた…)

 「ですが、それは私の事情ですし、どちらにせよこのまま街道を進んだ方が安全です。 ウルムが冒険者達と戦闘になっていると決まっては無いのでしょうから、ユージ様の望むままに進んで宜しいのでは。そもそも、私一人ではウルムの餌食にしかなりません」

 俺は頷きアネリアに手当された二の腕をそっと触れ痛みが無いのを確認した。

 (うん、やれる!…次は最初から全力でやる)

 背嚢を背負いアネリアを抱き上げゆっくりと走り出す。
 漠然と走るのでは無く、辺を探りながら駆け続けると暫くして風に乗って人の声が聞こえて来た。
 街道は緩いカーブを描き、声の主を確認出来ないが、何かが起きているのは間違いないだろう。
 カーブを曲がり切ると街道は見渡しの良い直線。

 (!やはり)

 前方百メートル程先で冒険者達がウルム相手に苦戦しているのが見えた。

 (まずい!一人倒れてる)

 俺は辺を見渡し、安全を確認しアネリアを街道脇にある大木の側に下ろす。

 「アネリアさんここを動かないで下さい」

 アネリアが頷くのを確認した俺は深く息を吸い込む。

 (全力で殺る!)

 腰に挿した剣を引き抜き、俺は駆け出した。
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