わざわざ50男を異世界に転生?させたのは意味があるんですよね"神たま?"

左鬼気

文字の大きさ
54 / 70
1章 異界の地

第五十四話 過去

しおりを挟む

 巨大なそりの長い列が雪原を進んでいる。
 巨大な橇を引いているのはローゾと言う象の様な生き物だ。
 
 「このまま進めば午後には雪原を超えられます」

 狐顔の男が鎧の男に報告すると、蒼白い鎧の男が肯く。
 白麗の衣と呼ばれるフルプレートアーマーを着込んだ男が、フェイスガードを跳ね上げ前方を睨む。

 視線の先には丘陵があり、そこを超えればロシャの西北にある、タクラの町が見えるはずだ。

 ジグスタン領とサルモン領の間には、巨大な山が立ち並んでいたが、サルモンは雪が残る山を越え、ジグスタン領のタクラに、あと一歩の所まで迫っていた。

 そのタクラからグレイヤード王国のマリ迄二日で侵攻可能だ。
 王都に駐留する騎士団八万の半数は、ボールベンの策略で北方のカナンに訓練と称して王都を離れている。
 
 (……王都の腑抜けた騎士等恐るるに足りぬ)

 サルモン辺境伯の目には既に勝利が見えていたのだった。サルモンの目にはだが……



 (勘弁してくれ……)

 王都マリからサージュに進軍した青銅騎士団は、今はロシャを目指して進軍していた。
 青銅騎士団を率いるロワンは、何故か三千の騎士を引き連れ進軍をしていたのだ。
 
 ボールベン宰相の命令を無視して、ロワンはメルカス伯爵に今迄の経緯を話した。
 ボールベンの下に居ても、何れ破滅しか待っていない予感がしたロワンは、公明正大なメルカス伯爵に、自身の命と引き換えにしても、部下の命と名誉だけは保証して貰うつもりだったのだが……

 メルカス伯爵もシレミナ様もロワンの責任を不問とした。

 (王家縁の者を、命令とは言え襲った俺が、お咎めなしとは…)
 
 だが、ロワンにすれば、余りにも早い事態の流れに、ただ流されている己が滑稽に見えるのだ。
 マーレ王国の侵攻が、近々あるだろうと予想はしていた。
 
 (だからって…敵にも等しい俺に三千近い騎士を預けるかね…)
 
 ロシャに援軍を送るのはわかる。モンタスの状況を説明されたロワンは、八年前に起きたシュプタ丘陵の戦いを思い起こしていた。
 マーレ王国は厳しい山岳を乗り越え手薄なタラクへ攻め込んで来たのだ。
 戦火の爪痕は重くタクラは今でも廃墟の町である。
 
 (…仮にマーレが八年前と同じような二面作戦をするなら…)

 だが、しかしとロワンは考える。
 モンタスに集結しているマーレ王国の軍には、錚々たる名の通った将軍がいるというのだ。
 
 (…だとしたら誰が山越えの指揮を取っているんだ…)

 まさか……

 まさか、あのサルモン辺境伯が自ら……

 (有り得ない話じゃない…奴なら王位簒奪を通り越して、グレイヤード王国自体滅ぼしかねない…)



 サルモンが、地方の小さな町を統治する貧乏貴族だった頃の思い出。

 ロワンとサルモンは同郷の出であり、顔馴染の間柄だった。
 当時のサルモンは貧乏貴族ではあったが、貴族然とした公明正大を絵にしたような若者だった。
 一方ロワンの家は、父親の働きによって騎士爵を賜った、一代限りの貴族だったのだが、十三年前の戦いでロワン自身が、騎士爵を賜り永世騎士爵を叙勲する事になった経緯があった。
 当時、サルモン家の騎士として警備任務を任されていて、度々サルモンと顔を合わせていた…

 (……あいつが変わったのは、やっぱりシレミナ様の事があったからだよな…)
 
 王家の別邸があるロワンの故郷リンドは、幼少のシレミナ様のお気に入りの環境だったようで、月に七日程逗留していた。
 当然と言えば当然だが、領主の長子であったサルモンと、直ぐに仲良くなったようだ。
 幼いとはいえ、王族や貴族の責務は五歳の頃から叩き込まれていた筈の二人は、恋に落ちた。
 地方貧乏貴族のサルモンと、王族の王女では、余りにも身分の差があるのは、当人達にも分かっていたはずだ。
 サルモンの護衛を任されていた父親が、食事の度に"困ったものだ"と溢していたのを聞くのが、ロワンの日常だったのだ。
 事件が起きたのはサルモンが成人の儀を受ける前年、十四歳の時だった。
 父親から聞いていた、サルモンの性格からは到底予想も付かない事件。二人は駆け落ちをした。
 準貴族だったロワンには思いも及ばない行動に、ロワンは感心したものだ、
 二人の駆け落ち騒動は騎士の捜索によって直ぐに解決された。
 シレミナ王女の必死の懇願によって、サルモンの家に罰は下されなかったものの、父親からの激しい叱責があり、半年程自宅から出る事を禁止されたようだ。
 ロワンの父親から聞いた話によると、当時シレミナ様と一緒に別邸に来ていた第二王子に、サルモンは口汚く罵られたと言う。
 
 どのような誹りを受けたのか、父親は話してくれなかったが、苦々しい父親の顔を見て、相当酷い言葉を投げかけられたのだろう。
 直接の罰は無かったものの、当然噂は広まり、サルモンの家は他貴族から疎遠にされ、厳しい状況に陥ったのは仕方のない事だった。

 シレミナ王女と第二王子の婚約が発表されたのは、その半年後。
 謹慎明けに久しぶりに会ったサルモンの顔つきは、以前の彼ではなくなっていた…
 
 サルモン家はその後、自主的に貴族の称号を王家に返還し、北方の地へ移り住んだという。
 どのような生活を送っていたのか分からないが、サルモンは兵士として名を挙げ、その地位を積み上げ、今の爵位まで登り詰めたのだ。
 ここ迄の話なら、美談として思うのだが、十三年前…王弟反乱時のサルモン辺境伯の裏切りを、目の当たりにしたロワンは"やっぱり"と言う思いが湧き上がった。
 
 (……もっと親父からあの時の事を聞いておけば良かった…)

 後三時間程でロシャの街に到着する。
 馬上でメルカル伯から預かった書状が入った革鞄を、そっと抑えロワンは馬を走らせる。
 ジグスタン伯爵に会い、メルカル伯からの書状を渡さなければならない。
 ロワンの予想では……いや、多分間違いなく、ジグスタン伯爵の騎士達に協力してサルモン伯と相対する事になるだろう。
 
 (…あのサルモンとやるのか…)

 剣技には自身がある。
 同等の装備なら負けない自負がロワンにはあった。

 (…問題はあの白麗の衣だな…)

 砂煙を上げ三千の騎士を従え、ロワンは戦いに身を投じる事になるのだった。
 
 腰に吊った剣に手をやり、ロワンは険しい表情を浮かべた。


 (…本当に勘弁してくれ……)
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...