孤島のリリア

無垢 れあ

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転校生と魔法

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その少女は突然やってきた。
久遠真衣くおんまいです。どうかよろしくお願いします。」
目元こそ隠れていたが長い髪は艶やかに光り、色白い肌には透き通った不思議な魅力のある少女だった。
魔女あの人から魔法を渡されて橋渡し役となってから
既に5年が経過していた。
この5年で学んだのは、魔法も魔女も本当だったということ。
それと、それを信ずる教団が今も尚残っているということだった。
いい加減橋渡し役を僕は降りたかった。
次の魔女リリアになれる魔女は少なくとも片手で数えられるよりは
多く居るらしい。
その中からひとりを見極めて、僕は魔女リリアを新しく仕立てあげなくてはならない。
しかし、なんの力も持たない僕は魔女を見分けることができない。
時が来れば向こうから接触があるとは聞いているのだが…
こんな孤島に転校生。
なんとなく確信に近い感情が走る。
「魔女…」
嫌われ者の僕は、転校生の席の輪に混ざることができない。
ここは古典的な方法で行こう。
休み時間僕は転校生の下駄箱へと向かった。


放課後の図書館前のラウンジ。
この学校屈指のオシャレスポットである。
「何気にこの学校豪華だよなぁ」
自販機で紙パックのカフェオレを買い外を見ながら啜っていると俯いて転校生がやって来た。
「あの...あなたが桜木蒼介さん?ですか?」
「一応クラスメイトなんだけどねぇ...」
ははっと苦笑する僕にさして彼女は興味が無さそうだった。
「これ...どういうことですか」
彼女の下駄箱に僕が入れたのは走り書きのメモ用紙。
「その名前の意味が分かるかって事だよ。」
彼女の持つ小さな紙切れにはただリリアとだけ書かれていた。
「その...つまりあなたが橋渡し役でいいのですか?」
「そうだよ」
とだけ答える。
探す手間が省けました。と彼女はいって僕にゆっくりと近づいてきた。
「今すぐリリアの力を渡して下さい」
今までとは違い強い言い方だった。
それだけの覚悟を感じた。
「理由は?なんでリリアになりたいわけ。それを聞かせてくれなきゃ僕は選べないんだけど。」
僕は見極めなきゃならないのだ。
誰をリリアにするか。
「理由なんてないです。ただそれだけが生きる理由だったから...」
少女の微かな切なさを見た気がした。
もう正直この子に渡してもいいと思った。
めんどくさいし。
「もう一つだけ。君は代償をわかった上で言っているのか?」
彼女は目を逸らさないで、切なさなど幻だったかのように
「はい。」
強い意志だった。
「後悔はない?」
「はい」
「大変なのわかってる?」
「はい」
「いいことなんてないよ?」
「はい」
「今までの人生は楽しかった?」
彼女の返事が止まった。
「充実は...してました。」
この言い方が僕は気に入らなかった。
いや、引っかかったと言った方が正しい。
目線が逸れたのだ。
ほんのちょっとだけ。
魔女リリアになる時と代償はそれすなわち。
記憶の消失である。

なんとなく繋がってきた。
転校生の挨拶での素っ気なさや物静かな所。
話しかけられていても、返事が上の空だったり。
口下手なのかと思ったがそうではないとみた。
そして記憶を失うというのにあの覚悟と生きがいとまで言った熱意。
彼女はきっと
「お前 、リリアになる為だけに育てられてきたのか?」
びくっと彼女の体が震えた。
「だ ...だとしたら何が悪いって言うんですか!!!」
これは...ダメだ。こうじゃない。これはおかしい。
本能がなんとなくそう告げていた。
「リリアになりたいなら、夜ここに来きて。」
僕は彼女をあの高台に呼び出すことにした。



夕闇を超え、真っ暗な夜空に田舎ならではの星空が浮かんでいた。
彼女は白いワンピース姿で現れた。
「ちゃんと来ました。どうしたらリリアの名前をくれますか?」
はぁ...とため息をついて僕は言う。
ずっと思っていたこと。彼女の話からも思ったこと。
「なあ...魔女ってそんなにいいもんか?」
彼女はきょとんとしていた。
「お前の先輩にあたるリリアから聞いたけど、すごい大変そうじゃんかよ?」
「大変でもそれは魔女として生まれた使命です。」
ノータイムかよ...。こりゃ笑えねえな。
「お前は何の言いなりだ?それでいいと思ってんのかよ?」
「思ってますよ。そうやって今まで生きてきました。」
グチグチ言う奴だな。
「思ってんのか?」
「...思って..るに..きまって」
見てられない。
「じゃあなんで泣いてんだよ。」
泣いてなんか...そういう彼女の声はうわずっていて、隠れている目元から頬を伝い
雫か落ちていた。
「...記憶が消えるんですよ?なら楽しい思い出も友達も嬉しかったことも何もかもなければ関わらなければ。リリアになれると思って...そう思って頑張って来たのに。いざ消えると思ったら。そう思ったら... 」
馬鹿かこいつ。
「辞めちまえよ。魔女リリアになんかなるのは。なったって何にもならな」
そのセリフを遮って彼女は言う。
「なるんですよ!!!お金に!!!妹を...私は妹を救ってあげなきゃ...」
なんだよ。ちゃんと理由あったのかよ。
しかも割とややこしそうな。
こいつの家族はこいつ1人に重荷を背負わせているのか?
馬鹿馬鹿しい。むかつくなぁ。どいつもこいつも。魔女も人間も。
「身勝手なんだよ。」
僕のつぶやきは風で聞こえなかったはずだ。
もう散々だよ。この数年色々棒に降った結果がこれか。
もっとあっさり魔女の力を渡せるんじゃなかったのか。
糞イライラする。
「おい。お前にどんな理由があろうと、僕はお前に力をやらない。」
力が欲しいなら...リリアになりたいなら。
「学校に通え。友達を作れ。幸せを感じろ。それが出来なきゃお前に力はやらない。」
我ながら鬼だなと思う。
けれど僕は橋渡し役でありながら、裁定者でもあるのだ。
楽しい経験もない奴にあの人の後継者はさせられない。
「リリアになるためっ!その為なら私は!頑張ってやれます。」
ふっとなんだか肩の力が抜けた。
「んじゃあまず。僕と友達になってくれよ。」
彼女は何だか照れくさそうには、はいと答えた。
ほんとにこんなので大丈夫なのだろうか。
正直心配だがまあなんとかなるだろう。

「あ、それと前髪切るか上げるかなんとかしろな?」
なんでかって?
だってさっき風で前髪上がって見えたんだがさ?こいつさぁ。

すっげぇ可愛いぞ?











とまあロマンに青春を混ぜて吐き気のするようなやり取りをしたのがかれこれ1週間前。
今はどうかと言うとだなぁ...



「蒼介君!これなんですか!?すごい美味しいです!?クセになる味です!!!」
「お前じゃごりこも知らないの?」

スナック菓子も知らない高校生として何故か僕にひっつき回る変わった子扱いとなっていた。

前髪オープンしてからすごい可愛いと評判になって僕は更にクラスから浮いたけどな。

さてこれからどうなるのやら...
ま、とりあえずはいいか。


「蒼介君これはなんですか!?」
「それはだなぁ...」




島の西側の堤防に1人の女性。
彼女はウミネコしかこの場にいないことを確認して思いを声に出した。

「少年。早く会いに来いよ?...」


        ~続く~
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