デニム

峯岸メイ

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デニム

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    幼馴染の涼子ちゃん家とは、家族ぐるみの付き合いだった。だから結婚式には家族総出だったし、今回の新居のお披露目パーティもまた、我が家全員お呼ばれしたのだ。

  もちろん親父もメンバーのはずだったのだが、今日は月初めの日曜。恒例の町内会議に会長がいないわけにはいかなかった。

    そんな訳で今日は俺、妹、母の三人旅である。

    二世帯住宅になって、娘夫婦と暮らす事になった彼女の親父さんは、ローカル線の駅長をやっている。

 不便な田舎町につき俺たちは、普段の出勤や通学は車を使っているし、本当はそっちの方が話は早い。

   とは言え親父さんに敬意を表して、向うへ行く時には家から半時間の無人駅から、列車に乗るのが慣わしだった。

 お袋の足のスピードを計算して早く家を出たのだが、なんとわが母は意外な健脚を発揮して、二十分以上も早く着いてしまった。

   電車が来るまでちょっと休憩と言うことで、ちゃんと入れ替えをしてるのかと思う程、年季の入った自販機で3本の缶ジュースを買ったのだが、これがいけなかった。妹のリクエストのコーラを落としてしまったのだ。

   なんだか缶が膨らんでるなと思いつつ慌てて拾い上げて渡したのだが、リングプルを引いた途端に、プシューッ!と勢いよく水柱。

    お気に入りの白のワンピースの胸を、茶色の液でぼとぼとにしてしまった。

   わちゃ~!電車が来るまでほぼ15分。次の電車は1時間近く後だから、いくら昔馴染みだと言ってもそこまで遅刻はできない。近くに店もないし、いったいどうすれば?焦る俺に妹が、

「そうだ!お爺ちゃんに持って来て貰おうよ。涼ねえちゃん家だもん、カジュアルになってもいいんじゃない?」

「そうだな。自転車飛ばしてもらうか」

「お義父さん分かるかねぇ」

    申し遅れたが、うちは5人家族だ。多少ボケてはいるが、親父の親父。すなわち父方の爺さんが、去年亡くなった婆さんの家からうちに来て、今は主に留守番をして貰っている。

   早速妹が電話をかけたのだが…

「あのね。わかる?私がいつも着てる白のブラウスと青いデニムのパンツよ」

「お?おお、おお。お前の部屋の、あの衣紋掛けのヤツのう。そ、それでもお前。で、でにむのぱんつだぁ?よ陽子!年頃の娘がぱんつとは何ごとぢゃ!そんな格好で出歩くつもりかっ!ふしだらな!」

   漏れ聞く声で、爺ちゃんの激昂が分かる。俺は電話を代わった。

「爺ちゃん、パンツじゃないパンツじゃない。ほら、Gパンあるだろ。陽子の部屋に」
「なんぢゃ光一まで!誰がジジイバンぢゃ!オバタリアンの次は、そんな言葉が流行っちょるのか!馬鹿にすな!」

   いやいや、オバタリアンもそうとう古いって。陽子が携帯を引ったくった。

「お爺ちゃん。お兄ちゃんは、そんなこと言ってないから。ジーンズよ。分からないかな?青い…」

「二人してなんぢゃ、じーじーって!わしゃその呼ばれ方が一番嫌いなんぢゃ!お爺さんとなんで呼べんのぢゃ!全くどいつもこいつも!」

    それほど難しい言葉は使っていないと思うのだが、昭和初期生まれには難題なのか。

「うーん、耳が遠くなってるのかなぁ」

「もやもやするねぇ…」

「困ったな。時間もないのに、お義父さんたら。ちょっとそれ、貸して」

    最終兵器登場である。さてこの場合、年の功は通じるのか?

「お義父さん、私です。この子たち分からないことばかり言ってすみません。陽子の部屋にあるでしょう。デニムの…」

「おう、霧子さんかい。もう、しょうのない孫たちぢゃっ!あんた達の教育はどうなって」

「いえ、そうじゃなくてデニムのね」

「おう、でにむか」

   んっ?デニムは分かるの?

「そう、デニムのズボンが陽子の部屋にあったでしょ。駅にいるから届けて下さいな」

「おう、あいつが時々穿いちょるあれか。なんじゃズボンぢゃったか。分かった!ちくとそこで待っちょれ」

    爺さんが自転車を飛ばしてくれて。妹は受け取った衣装をすぐ隅にあるトイレで着替えて。俺たちはなんとか列車に飛び乗ることができた。

   モノは変わらねど、世代の言葉か…

[了]
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