1 / 1
デニム
しおりを挟む
幼馴染の涼子ちゃん家とは、家族ぐるみの付き合いだった。だから結婚式には家族総出だったし、今回の新居のお披露目パーティもまた、我が家全員お呼ばれしたのだ。
もちろん親父もメンバーのはずだったのだが、今日は月初めの日曜。恒例の町内会議に会長がいないわけにはいかなかった。
そんな訳で今日は俺、妹、母の三人旅である。
二世帯住宅になって、娘夫婦と暮らす事になった彼女の親父さんは、ローカル線の駅長をやっている。
不便な田舎町につき俺たちは、普段の出勤や通学は車を使っているし、本当はそっちの方が話は早い。
とは言え親父さんに敬意を表して、向うへ行く時には家から半時間の無人駅から、列車に乗るのが慣わしだった。
お袋の足のスピードを計算して早く家を出たのだが、なんとわが母は意外な健脚を発揮して、二十分以上も早く着いてしまった。
電車が来るまでちょっと休憩と言うことで、ちゃんと入れ替えをしてるのかと思う程、年季の入った自販機で3本の缶ジュースを買ったのだが、これがいけなかった。妹のリクエストのコーラを落としてしまったのだ。
なんだか缶が膨らんでるなと思いつつ慌てて拾い上げて渡したのだが、リングプルを引いた途端に、プシューッ!と勢いよく水柱。
お気に入りの白のワンピースの胸を、茶色の液でぼとぼとにしてしまった。
わちゃ~!電車が来るまでほぼ15分。次の電車は1時間近く後だから、いくら昔馴染みだと言ってもそこまで遅刻はできない。近くに店もないし、いったいどうすれば?焦る俺に妹が、
「そうだ!お爺ちゃんに持って来て貰おうよ。涼ねえちゃん家だもん、カジュアルになってもいいんじゃない?」
「そうだな。自転車飛ばしてもらうか」
「お義父さん分かるかねぇ」
申し遅れたが、うちは5人家族だ。多少ボケてはいるが、親父の親父。すなわち父方の爺さんが、去年亡くなった婆さんの家からうちに来て、今は主に留守番をして貰っている。
早速妹が電話をかけたのだが…
「あのね。わかる?私がいつも着てる白のブラウスと青いデニムのパンツよ」
「お?おお、おお。お前の部屋の、あの衣紋掛けのヤツのう。そ、それでもお前。で、でにむのぱんつだぁ?よ陽子!年頃の娘がぱんつとは何ごとぢゃ!そんな格好で出歩くつもりかっ!ふしだらな!」
漏れ聞く声で、爺ちゃんの激昂が分かる。俺は電話を代わった。
「爺ちゃん、パンツじゃないパンツじゃない。ほら、Gパンあるだろ。陽子の部屋に」
「なんぢゃ光一まで!誰がジジイバンぢゃ!オバタリアンの次は、そんな言葉が流行っちょるのか!馬鹿にすな!」
いやいや、オバタリアンもそうとう古いって。陽子が携帯を引ったくった。
「お爺ちゃん。お兄ちゃんは、そんなこと言ってないから。ジーンズよ。分からないかな?青い…」
「二人してなんぢゃ、じーじーって!わしゃその呼ばれ方が一番嫌いなんぢゃ!お爺さんとなんで呼べんのぢゃ!全くどいつもこいつも!」
それほど難しい言葉は使っていないと思うのだが、昭和初期生まれには難題なのか。
「うーん、耳が遠くなってるのかなぁ」
「もやもやするねぇ…」
「困ったな。時間もないのに、お義父さんたら。ちょっとそれ、貸して」
最終兵器登場である。さてこの場合、年の功は通じるのか?
「お義父さん、私です。この子たち分からないことばかり言ってすみません。陽子の部屋にあるでしょう。デニムの…」
「おう、霧子さんかい。もう、しょうのない孫たちぢゃっ!あんた達の教育はどうなって」
「いえ、そうじゃなくてデニムのね」
「おう、でにむか」
んっ?デニムは分かるの?
「そう、デニムのズボンが陽子の部屋にあったでしょ。駅にいるから届けて下さいな」
「おう、あいつが時々穿いちょるあれか。なんじゃズボンぢゃったか。分かった!ちくとそこで待っちょれ」
爺さんが自転車を飛ばしてくれて。妹は受け取った衣装をすぐ隅にあるトイレで着替えて。俺たちはなんとか列車に飛び乗ることができた。
モノは変わらねど、世代の言葉か…
[了]
もちろん親父もメンバーのはずだったのだが、今日は月初めの日曜。恒例の町内会議に会長がいないわけにはいかなかった。
そんな訳で今日は俺、妹、母の三人旅である。
二世帯住宅になって、娘夫婦と暮らす事になった彼女の親父さんは、ローカル線の駅長をやっている。
不便な田舎町につき俺たちは、普段の出勤や通学は車を使っているし、本当はそっちの方が話は早い。
とは言え親父さんに敬意を表して、向うへ行く時には家から半時間の無人駅から、列車に乗るのが慣わしだった。
お袋の足のスピードを計算して早く家を出たのだが、なんとわが母は意外な健脚を発揮して、二十分以上も早く着いてしまった。
電車が来るまでちょっと休憩と言うことで、ちゃんと入れ替えをしてるのかと思う程、年季の入った自販機で3本の缶ジュースを買ったのだが、これがいけなかった。妹のリクエストのコーラを落としてしまったのだ。
なんだか缶が膨らんでるなと思いつつ慌てて拾い上げて渡したのだが、リングプルを引いた途端に、プシューッ!と勢いよく水柱。
お気に入りの白のワンピースの胸を、茶色の液でぼとぼとにしてしまった。
わちゃ~!電車が来るまでほぼ15分。次の電車は1時間近く後だから、いくら昔馴染みだと言ってもそこまで遅刻はできない。近くに店もないし、いったいどうすれば?焦る俺に妹が、
「そうだ!お爺ちゃんに持って来て貰おうよ。涼ねえちゃん家だもん、カジュアルになってもいいんじゃない?」
「そうだな。自転車飛ばしてもらうか」
「お義父さん分かるかねぇ」
申し遅れたが、うちは5人家族だ。多少ボケてはいるが、親父の親父。すなわち父方の爺さんが、去年亡くなった婆さんの家からうちに来て、今は主に留守番をして貰っている。
早速妹が電話をかけたのだが…
「あのね。わかる?私がいつも着てる白のブラウスと青いデニムのパンツよ」
「お?おお、おお。お前の部屋の、あの衣紋掛けのヤツのう。そ、それでもお前。で、でにむのぱんつだぁ?よ陽子!年頃の娘がぱんつとは何ごとぢゃ!そんな格好で出歩くつもりかっ!ふしだらな!」
漏れ聞く声で、爺ちゃんの激昂が分かる。俺は電話を代わった。
「爺ちゃん、パンツじゃないパンツじゃない。ほら、Gパンあるだろ。陽子の部屋に」
「なんぢゃ光一まで!誰がジジイバンぢゃ!オバタリアンの次は、そんな言葉が流行っちょるのか!馬鹿にすな!」
いやいや、オバタリアンもそうとう古いって。陽子が携帯を引ったくった。
「お爺ちゃん。お兄ちゃんは、そんなこと言ってないから。ジーンズよ。分からないかな?青い…」
「二人してなんぢゃ、じーじーって!わしゃその呼ばれ方が一番嫌いなんぢゃ!お爺さんとなんで呼べんのぢゃ!全くどいつもこいつも!」
それほど難しい言葉は使っていないと思うのだが、昭和初期生まれには難題なのか。
「うーん、耳が遠くなってるのかなぁ」
「もやもやするねぇ…」
「困ったな。時間もないのに、お義父さんたら。ちょっとそれ、貸して」
最終兵器登場である。さてこの場合、年の功は通じるのか?
「お義父さん、私です。この子たち分からないことばかり言ってすみません。陽子の部屋にあるでしょう。デニムの…」
「おう、霧子さんかい。もう、しょうのない孫たちぢゃっ!あんた達の教育はどうなって」
「いえ、そうじゃなくてデニムのね」
「おう、でにむか」
んっ?デニムは分かるの?
「そう、デニムのズボンが陽子の部屋にあったでしょ。駅にいるから届けて下さいな」
「おう、あいつが時々穿いちょるあれか。なんじゃズボンぢゃったか。分かった!ちくとそこで待っちょれ」
爺さんが自転車を飛ばしてくれて。妹は受け取った衣装をすぐ隅にあるトイレで着替えて。俺たちはなんとか列車に飛び乗ることができた。
モノは変わらねど、世代の言葉か…
[了]
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
幼馴染、幼馴染、そんなに彼女のことが大切ですか。――いいでしょう、ならば、婚約破棄をしましょう。~病弱な幼馴染の彼女は、実は……~
銀灰
恋愛
テリシアの婚約者セシルは、病弱だという幼馴染にばかりかまけていた。
自身で稼ぐこともせず、幼馴染を庇護するため、テシリアに金を無心する毎日を送るセシル。
そんな関係に限界を感じ、テリシアはセシルに婚約破棄を突き付けた。
テリシアに見捨てられたセシルは、てっきりその幼馴染と添い遂げると思われたが――。
その幼馴染は、道化のようなとんでもない秘密を抱えていた!?
はたして、物語の結末は――?
婚約者の幼馴染?それが何か?
仏白目
恋愛
タバサは学園で婚約者のリカルドと食堂で昼食をとっていた
「あ〜、リカルドここにいたの?もう、待っててっていったのにぃ〜」
目の前にいる私の事はガン無視である
「マリサ・・・これからはタバサと昼食は一緒にとるから、君は遠慮してくれないか?」
リカルドにそう言われたマリサは
「酷いわ!リカルド!私達あんなに愛し合っていたのに、私を捨てるの?」
ん?愛し合っていた?今聞き捨てならない言葉が・・・
「マリサ!誤解を招くような言い方はやめてくれ!僕たちは幼馴染ってだけだろう?」
「そんな!リカルド酷い!」
マリサはテーブルに突っ伏してワアワア泣き出した、およそ貴族令嬢とは思えない姿を晒している
この騒ぎ自体 とんだ恥晒しだわ
タバサは席を立ち 冷めた目でリカルドを見ると、「この事は父に相談します、お先に失礼しますわ」
「まってくれタバサ!誤解なんだ」
リカルドを置いて、タバサは席を立った
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
婚約なんてするんじゃなかったが口癖の貴方なんて要りませんわ
神々廻
恋愛
「天使様...?」
初対面の時の婚約者様からは『天使様』などと言われた事もあった
「なんでお前はそんなに可愛げが無いんだろうな。昔のお前は可愛かったのに。そんなに細いから肉付きが悪く、頬も薄い。まぁ、お前が太ったらそれこそ醜すぎるがな。あーあ、婚約なんて結ぶんじゃなかった」
そうですか、なら婚約破棄しましょう。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
言いたいことは、それだけかしら?
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【彼のもう一つの顔を知るのは、婚約者であるこの私だけ……】
ある日突然、幼馴染でもあり婚約者の彼が訪ねて来た。そして「すまない、婚約解消してもらえないか?」と告げてきた。理由を聞いて納得したものの、どうにも気持ちが収まらない。そこで、私はある行動に出ることにした。私だけが知っている、彼の本性を暴くため――
* 短編です。あっさり終わります
* 他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる