Sky World Migratory(スカイワールドミグラトリー)

モッチン@パラディワークス

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7.クラーケン

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(マジかよ……)

 雲上船の舵を取りながらグレイはため息をついた。ルナが向かうと言った先は『極寒の地ウィントフォール』。グレイとシエルの故郷。グレイが一番行きたくない場所であった。もちろん、そのことはルナには秘密だ。ただでさえ妙なことを言われている。これ以上、ルナの目的に深入りすることは避けたかった。グレイが依頼を受けたのはあくまでシエルがこの依頼に反応したからである。その原因が分かればルナの目的なぞどうでも良い。むしろ、妄言を言っているこの女とはすぐにはなれたかった。

(だが、シエルはそうは思って無さそうなんだよな)

 あれからシエルは今までと変わらない。俺とルナが会話している時は興味無さそうに遠くを見ている。

(気のせいだったか?)

 時々、その様に不安になるが仕方がない。既に依頼を受けてしまったのだ。ここで契約破棄は『渡り鳥』としての信頼に関わる。信頼を失ったら、この稼業は続けられないのだ。グレイは陰鬱な気持ちで羅針盤を確認した。

(ありゃ……?)

 方向が少しずれている。

(おかしい……さっき確認したばかりなのに……)

 グレイは手すりに寄り掛かり雲を眺めているシエルに声をかけた。

「シエル! ギルドにこの辺りの海域で妙な手配書は無いって言ってたよな?」

 雲海の情報は町のギルドに集まる。何か害になる海賊や事象があれば必ずギルドの手配書として掲示されるのだ。シエルには雲海に出る前に手配書を確認するように伝えておいていた。

「うん、無かったよ。『私が気になった』のはね」

 グレイの背中に一筋の汗が流れる。

(まさか……)

「お前が気になるもの以外では何かあったのか?」

「うん。ここ、クラーケンが出るみたい」

 ッゴオオオオオオオオン‼

 シエルが答えると同時に船体が揺れ、同時に船の周りにタコの触手が顔を出す。その長さはメインマストに並ぶ勢いだ。

 クラーケン――それは雲海に潜む大ダコの怪物……船乗り達の天敵だ。船団であれば襲われている船を犠牲にして逃げることも出来るかもしれないが、今、周囲に他の船はいない。逃げ移ることも出来ない。このままでは船も粉砕され。あっという間にクラーケンの口の中だ。

 ダアアアン‼
 銃声が響く。

(ん? 銃声?)

 グレイの得物はカトラス、そして、シエルの武具は長剣と小盾だ。銃を持っている者など……

「下がりなさい‼ この船を落とさせるわけには行きませんわ‼」

 ルナが銃を構えながら叫んでいた。その視線の先を見るとクラーケンの触手の一つは先端が吹き飛んでいる。ルナの持つ小銃に不相応なその威力……思案したグレイは答えを導き出した。

「魔導銃か‼」

 魔導銃は魔法の弾丸を打ち出す古代遺物(アーティファクト)であり、巷に出回らない特別な武器だ。どうやらルナは魔導獣から高威力の散弾を発射したようだ。

(クライアントが戦ってるんだ。ここは仕事をしねえとな。)

「シエル‼」

 グレイが看板にいるシエルに声をかけると舵の隣にある青いスイッチを押す。同時に雲上船に搭載されている八門の砲台が一斉に火を放つ。それらの砲弾シエルの能力により、それぞれが不可思議な軌道を描き、クラーケンの触手を貫いた。

「ナイスコントロールだ」

相変わらずシエルの能力が意味が分からラないが頼りになる。雲上船はクラーケンの束縛を離れた。

「よし、全速前進だ‼」

 グレイが舵の隣についている赤いスイッチを押すと船体の後ろにある砲台が火を噴いた。瞬間、雲上船は一気に前に飛び出し、クラーケンと距離を取った。

「脱出成功!」

 これらのスイッチはグレイが独自にカスタマイズしたものだ。

「王国騎士を目指すんじゃなくて技工士を目指していた方が良かったのかもな」

 思わず言ってしまった独り言だったが、グレイはすぐに後悔した。

「王国騎士を目指してたのですか?」

 ルナに聞かれていたのだ。

「……昔の話だよ」

 グレイはバツの悪そうにルナから目をそらしながら答えた。その件については思い出したくないことが多すぎる。

 ッゴオオオオオオオオン‼

「またかよ!」

 船体が揺れる。どうやら他のクラーケンのテリトリーに入ってしまったようだ。

「また先ほどの様に脱出は……」

「出来ねえよ! 補充する余裕なんかなかっただろう⁉」

「では……」

「戦って殺すしかないよ」

シエルがグレイとルナの近くに背中越しに舞い降りた。

「私が足を無力化する。グレイは……」

「わかったよ」

どうやらヤツの息の根を止める役目は俺が担うことになったようだ。

「……じゃあ、頼むぜ」

「もうかけてあるよ」

 空中浮遊のスキルーシエルが【プラーナフェザー】と呼ぶものはすでに俺にかけられていた。それを実感し、クラーケンの心臓のある頭に向かって飛翔する。幸い8つの足はシエルが操る『飛ぶ短剣』によって動きを封じられグレイの方には向かってこない。

「ここだ!」

 クラーケンの頭上に飛び、頭にあると言う心臓に向かって斬りかかるべく、グレイがカトラスを振り上げた。

「危ない‼」

 ルナの声が響き、グレイがふと下を見るとクラーケンの口がグレイを真っ直ぐを捉えていた。

(やばい……!)

 クラーケンが口を広げるとそのおぞましい螺旋状の口内が見えた、そこから発射される墨は強力な酸を含んでいる。人間が被ればまず助からない。

(回避は……)

 出来る体制ではない。クラーケンが今まさに墨を発射するその時であった。

 ダアアアン‼
 先ほど聞いた銃声がまた響いた。

「間に合いましたね」

 ルナが撃った弾丸がクラーケンの口を捉えた。クラーケンの口が再び閉じる。

「この野郎!」

 グレイが再びクラーケンの頭に狙いを定める。

「終わりだ!」

 グレイが両手に持つカトラスを目の前に交差させ、クラーケンの頭に突進しながらを一気に切り抜く。刹那、クラーケンの頭は中にあった心臓と一緒にくり抜かれた。

「……縄張りに入っちまって悪かった。せめて安らかに眠ってくれ」

 グレイは振り返り、動かなくなったクラーケンに向かってそう言うと、踵を返して船に戻った。

(助けられちまったな。あの雇い主様に……)
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