6 / 26
6.天の英雄
しおりを挟む
それから三日後、商船とグレイ達の雲上船は港につき、グレイとシエルは桃色髪の女—―ルナ=ロージア—―に連れられて宿屋の一室に入った。
「んで……どこまで護衛すれば良いんだよ?」
急かす様に問うグレイに対し、ルナは真剣な目で想定外のことを口にした。
「あなた方は伝説の『天の英雄』なのですか?」
「は?」
何言ってんだ? コイツ。もしかして、俺らヤバい女に捕まったのか? グレイはシエルの方を向くが相変わらず外を見ている。本当に戦闘以外は頼りにならん奴だ。だが、仕方がない。ここ冷静に対応するのだ。
「そんなヤツのことは知らん。俺は仕事と報酬の話をしているんだ」
「私も真剣に話をしています。そして、その『天の英雄』こそが、私の探し求めている人になります」
おいおいおい……ってことはつまり? グレイの焦りを知ってか知らずか、ルナは笑顔で続ける。
「はい。私の依頼は、その『天の英雄』を探し出し、家に帰るまで護衛して頂くことです。ですが、あなた達が『天の英雄』であれば依頼は達成したことになりますね」
グレイは頭が痛くなった。
「天の英雄ってどんな奴なんだ? 俺達に似てんのか?」
「容姿はわかりません。ただ、世界を救う力を持った方だと伺っています」
「じゃあ、俺達じゃない。俺達は世界なぞ救わない。その日暮らしのただの『渡り鳥』だ」
「ですが、あの恐ろしい海賊達を一蹴しました。それほどの力があれば……」
「それは俺達じゃない。他に『天の英雄』とやらの特徴は?」
「わかりません……。王立図書館の文献には黒髪とも天色髪ともありましたが、定かではありません」
「いや、髪の色だけかよ。しかも文献って……故人じゃねえのか?」
「世界に再び魔が侵略した際には現れると書いてあるのです。ですから……」
「そのいるかいねえかもわからんヤツを探すのを付き合えってか?」
「……はい」
グレイの高圧的な物言いにルナは肩をすぼめる。
「ですが……いるはずなのです。どうか協力して頂けませんか? このままでは……」
「断る」
グレイは言い放つ。
「理由は二つだ。一つは達成できねえ依頼を受けるつもりはねえ。俺の仕事の美学に反する」
「……もう一つは?」
「仮に本当にいたとしても、いきなり世界を救えだあ? そんな無責任な依頼をするクライアントに同行するなんて死んでも御免だ」
そうだ。グレイはそれが一番気に入らない。(一人だか二人だか知らねえが、この世界の理不尽の全ての責任をそいつに押し付ける?)
「そもそも世界を救うって何から救うんだ? あのシウニキス一家からか?」
確かにシウニキス一家は放っておけない極悪集団だ。財は奪い、女は犯し、町は焼く。そして、そのような輩はシウニキス一家だけでは無い。グレイとシエルも過去に苦い経験がある。
(奴らが野放しになっているこの世は間違っている)
グレイは心の底からそう思っていた。
「違います」
そんなグレイの思いをよそにルナは否定を返した。
「彼らの様な集団が現れたことこそ兆しではありますが、根本の問題ではありません」
遠まわしな言葉回しにグレイはイラつきを覚えながら返した。
「じゃあ、一体何なんだ。お前はその『天の英雄』とやらを見つけて何をさせたいんだよ」
「『瘴気』を絶って貰います」
ルナはグレイを真っ直ぐに見つめて答えた。
「……『瘴気』?」
聞いたことが無い単語だった。つまりルナの言い分はこうだ。
「今、世界には『瘴気』が蔓延しているから、シウニキス一家の様な凶悪な輩がはびこっていると……?」
「そうです。」
「んで、これ以上『瘴気』が濃くなると更なる脅威にさらされることになる……」
「はい。ご理解頂けたのですね⁉」
ルナの顔が明るくなる。
「誰がこんな与太話を信じるってんだよ」
ルナの顔が一気に暗くなる。
(面白いな、コイツ)
などと思いながらもグレイは本筋の話を進めた。
「じゃあ、そもそもなんで俺やアンタは瘴気の影響を受けてない?」
「それは……瘴気の影響の受けやすさが……」
「あいまいな答えしか出来ないんじゃ誰も信じねえぜ?」
「う……」
ルナは今にも泣きそうだ。グレイは居心地が悪くなり顔を背ける。
(女の涙ってズルいよなあ……)
だが、グレイも折れるつもりは無い。依頼を受けるには分からないことが多すぎる。つい先日あったばかりの女性を信じるほど、グレイはお人好しでは無かった。
「誰も信じないから、このままなんじゃないの?」
急にルナとは真逆の方向から声がした。
「シエル⁉」
「誰も信じないから、シウニキス一家の様な奴らが増えて、どんどん住みにくい世界になってるんじゃないの?」
シエルがもう一度言う。
(これは……驚いたぜ)
グレイは二重の意味で驚いていた。まず、こういった場でシエルが発言したこと。そして、シエルがルナの話に興味を持ったことだ。
シエルはグレイに提案する。だが、それはグレイと二人の時だけだ。ルナと—―クライアントと話している時に口を挟むことは今までなかった。依頼を受けた時や、断った時に後から『それで良かったの?』とたしなめることはあったがオンタイムで発言をすることは無かったのだ。
(コイツは……)
もしかしたら、コイツのことを……再会したときにすっかり変わってしまっていたシエルのことを知るチャンスかもしれない。なんでコイツがルナの話に興味を持ったのか、それが鍵に……。
「わかった。アンタの依頼、受けてやる。」
グレイはルナに答えた。
「え?」
急なグレイの変容にルナが驚く。
「受けてやるって言ってるんだ。次の目的地を教えろ。」
「あ、ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたしますわ‼」
ルナは再び花が綻ぶように微笑んだ。
「んで……どこまで護衛すれば良いんだよ?」
急かす様に問うグレイに対し、ルナは真剣な目で想定外のことを口にした。
「あなた方は伝説の『天の英雄』なのですか?」
「は?」
何言ってんだ? コイツ。もしかして、俺らヤバい女に捕まったのか? グレイはシエルの方を向くが相変わらず外を見ている。本当に戦闘以外は頼りにならん奴だ。だが、仕方がない。ここ冷静に対応するのだ。
「そんなヤツのことは知らん。俺は仕事と報酬の話をしているんだ」
「私も真剣に話をしています。そして、その『天の英雄』こそが、私の探し求めている人になります」
おいおいおい……ってことはつまり? グレイの焦りを知ってか知らずか、ルナは笑顔で続ける。
「はい。私の依頼は、その『天の英雄』を探し出し、家に帰るまで護衛して頂くことです。ですが、あなた達が『天の英雄』であれば依頼は達成したことになりますね」
グレイは頭が痛くなった。
「天の英雄ってどんな奴なんだ? 俺達に似てんのか?」
「容姿はわかりません。ただ、世界を救う力を持った方だと伺っています」
「じゃあ、俺達じゃない。俺達は世界なぞ救わない。その日暮らしのただの『渡り鳥』だ」
「ですが、あの恐ろしい海賊達を一蹴しました。それほどの力があれば……」
「それは俺達じゃない。他に『天の英雄』とやらの特徴は?」
「わかりません……。王立図書館の文献には黒髪とも天色髪ともありましたが、定かではありません」
「いや、髪の色だけかよ。しかも文献って……故人じゃねえのか?」
「世界に再び魔が侵略した際には現れると書いてあるのです。ですから……」
「そのいるかいねえかもわからんヤツを探すのを付き合えってか?」
「……はい」
グレイの高圧的な物言いにルナは肩をすぼめる。
「ですが……いるはずなのです。どうか協力して頂けませんか? このままでは……」
「断る」
グレイは言い放つ。
「理由は二つだ。一つは達成できねえ依頼を受けるつもりはねえ。俺の仕事の美学に反する」
「……もう一つは?」
「仮に本当にいたとしても、いきなり世界を救えだあ? そんな無責任な依頼をするクライアントに同行するなんて死んでも御免だ」
そうだ。グレイはそれが一番気に入らない。(一人だか二人だか知らねえが、この世界の理不尽の全ての責任をそいつに押し付ける?)
「そもそも世界を救うって何から救うんだ? あのシウニキス一家からか?」
確かにシウニキス一家は放っておけない極悪集団だ。財は奪い、女は犯し、町は焼く。そして、そのような輩はシウニキス一家だけでは無い。グレイとシエルも過去に苦い経験がある。
(奴らが野放しになっているこの世は間違っている)
グレイは心の底からそう思っていた。
「違います」
そんなグレイの思いをよそにルナは否定を返した。
「彼らの様な集団が現れたことこそ兆しではありますが、根本の問題ではありません」
遠まわしな言葉回しにグレイはイラつきを覚えながら返した。
「じゃあ、一体何なんだ。お前はその『天の英雄』とやらを見つけて何をさせたいんだよ」
「『瘴気』を絶って貰います」
ルナはグレイを真っ直ぐに見つめて答えた。
「……『瘴気』?」
聞いたことが無い単語だった。つまりルナの言い分はこうだ。
「今、世界には『瘴気』が蔓延しているから、シウニキス一家の様な凶悪な輩がはびこっていると……?」
「そうです。」
「んで、これ以上『瘴気』が濃くなると更なる脅威にさらされることになる……」
「はい。ご理解頂けたのですね⁉」
ルナの顔が明るくなる。
「誰がこんな与太話を信じるってんだよ」
ルナの顔が一気に暗くなる。
(面白いな、コイツ)
などと思いながらもグレイは本筋の話を進めた。
「じゃあ、そもそもなんで俺やアンタは瘴気の影響を受けてない?」
「それは……瘴気の影響の受けやすさが……」
「あいまいな答えしか出来ないんじゃ誰も信じねえぜ?」
「う……」
ルナは今にも泣きそうだ。グレイは居心地が悪くなり顔を背ける。
(女の涙ってズルいよなあ……)
だが、グレイも折れるつもりは無い。依頼を受けるには分からないことが多すぎる。つい先日あったばかりの女性を信じるほど、グレイはお人好しでは無かった。
「誰も信じないから、このままなんじゃないの?」
急にルナとは真逆の方向から声がした。
「シエル⁉」
「誰も信じないから、シウニキス一家の様な奴らが増えて、どんどん住みにくい世界になってるんじゃないの?」
シエルがもう一度言う。
(これは……驚いたぜ)
グレイは二重の意味で驚いていた。まず、こういった場でシエルが発言したこと。そして、シエルがルナの話に興味を持ったことだ。
シエルはグレイに提案する。だが、それはグレイと二人の時だけだ。ルナと—―クライアントと話している時に口を挟むことは今までなかった。依頼を受けた時や、断った時に後から『それで良かったの?』とたしなめることはあったがオンタイムで発言をすることは無かったのだ。
(コイツは……)
もしかしたら、コイツのことを……再会したときにすっかり変わってしまっていたシエルのことを知るチャンスかもしれない。なんでコイツがルナの話に興味を持ったのか、それが鍵に……。
「わかった。アンタの依頼、受けてやる。」
グレイはルナに答えた。
「え?」
急なグレイの変容にルナが驚く。
「受けてやるって言ってるんだ。次の目的地を教えろ。」
「あ、ありがとうございます! どうぞよろしくお願いいたしますわ‼」
ルナは再び花が綻ぶように微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる