ほむてん!~シキサイノユメ魔法雑貨店の店員たち~

紅乃璃雨-こうの りう-

文字の大きさ
1 / 3

それは、しあわせにおわった、はなし

しおりを挟む

 私は魔術師によって生み出されたホムンクルスだ。その目的は自身の子の世話をさせるため。
 魔術師は忙しく、家に帰れる時も少ない。そして、魔術師は有名でなにかと恨みやひがみを買うことが多い。そのため、どこからか人を雇って世話を任せるということもできない。
 だから私は生まれた。

 魔術師の子供であるマリアは、すくすくと育っていった。
 マリアが大きくなりにつれ、私と同じホムンクルスが増えて六体になった。絵本を読んだり、一緒に遊んだり、料理をしたりする役割が必要になったから。
 魔術師、主は相変わらず忙しい。けれどマリアの誕生日には帰ってきて、家族の時間を過ごしていた。
 嬉しそうな顔をしているマリアを、幸せそうな顔をしている主を見るのが私たちの幸福だった。

 マリアが初等学園に通うほどの歳になった頃。主は能力の衰えによって前線を引退した。今までの無理が祟ったのか、体が弱くなっていた。
 それでも体の調子が良い時は何かと私たちに機能を追加したり、活動に必要なもの以上の魔力石を与えたりしていた。その理由を私たちは知っている。

 その三年後、主は静かに息を引き取った。マリアは幼いながらも父親の死というものを分かっているようで、大粒の涙を零して泣いていた。私たちにできるのはマリアを抱きしめ、頭を撫でることだけだった。

 それから、どのくらい月日が流れただろうか。
 マリアは美しく成長し、大人と称する歳になった。そして人生の伴侶と出会った。
 相手は少し弱気なところもあるものの、私たちが課した試練を突破した。一抹の不安は残るものの、マリアを任せるに値する人物だと私たちは判断した。

 そうして、数日後に結婚式を控えた日。
 私は屋敷の裏庭へと足を運んだ。月の光を受けて青白く輝く花弁が揺れるその場所には、三番目に生まれたホムンクルスだけが居た。

「残っているのはあなただけ?」
「ああ。でも、俺ももう行くよ」

 三番目のホムンクルスがそう言うと、体が少しずつ崩れていく。その現象は、私たちの活動限界を迎えた証だ。

「……俺、…いや、いままで楽しかった。さよなら」
「うん、さよなら」

 三番目のホムンクルスは何かを言いかけて止め、最期の言葉を残して崩れていった。それが風にさらわれたころ、マリアがこの庭にやって来た。

「裏庭に来てほしいって、どうしたの?」

 不思議そうにしているマリア。幼いころの面影を残しつつも、もう立派な淑女だ。

「マリア。マリアにはもう私たちは必要ないでしょう。あなたは私たちのようなもとで、立派に育ちました」
「……え?待って、必要ないって……そんなことないわ。だって、ずっと傍に居てくれるって約束してくれたじゃない」

 その約束は、マリアが生まれてから五年ほど経った頃に交わしたものだ。幼い頃の記憶は忘れていくと認識していた私は、安易にその約束をかわした。
 覚えているなんて思っていなかった。

「どうして……?」
「マリア、私たちは主に造られたホムンクルスです。主の魔力を動力として動いています。だから、本来なら主が死んだと同時に消えてしまいます。
 主は自身の死期を悟っていました。でも、幼かったあなたを残してしまうことを憂い、私たちに出来うる限りの延命を施しました。ですが、ここまでです」
「ここまでって……消えてしまうって、こと…?」
「はい。できれば、マリアの結婚式を見届けたかった」

 私の言葉にマリアは大粒の涙を零す。ぽろぽろと零れていく雫は青白く光る花の中へ消えていく。
 その涙をぬぐい、抱きしめることはもうできない。

「どうか泣かないで。私は、私たちはいつでもマリアの傍に居ます。あなたの記憶に私たちが居る限り、ずっといます。だから、どうか……わらって、ください」

 伸ばそうとした腕が崩れていく。踏み出そうとした足が崩れて、マリアの方へ倒れこむ。
 ぬくもりを感じないけれど、マリアはたしかに私を抱きしめている。
 視界がなくなり、意識というものが薄くなっていく中、声が聞こえた。

「…っ、いままで、ありがとう……!」

 泣きじゃくるような声で、マリアはそう言った。
 ああ、その言葉を聞けただけで私たちは安心して消えていける。
 さようなら、私たちの愛しき姉。最愛のマリア。
 その先の旅路に、祝福を。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

ちくわ
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...