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二話目 残りの三人の行方
しおりを挟むかつての仲間であったリーゼとシュウトに出会ってから、十年の月日が流れた。私とリーゼは十五歳、シュウトは十六歳になった。
体も成長し、男女の体の違いがよく分かるようになった。シュウトは獣人なので人間の男とは作りが多少違うけれども。
「……シュウトはまあ男ですし獣人ですからいいです。でも、アリアはだめです。おかしいです。ほとんど同じものを食べてるはずなのに、なんでそんなに大きいですか?!」
「そう言われても困るんだけど……ねえシュウト」
「僕に振らないでくれ」
限界まで頬を膨らませて羨ましそうに私の胸を見つめているリーゼ。彼女の言う大きいとは私の胸のことで、リーゼに比べて大変に豊かなのだ。羨ましいという気持ちが分からないでもないので、私は対応に困ってシュウトを見るが、彼は我関せずでそっぽを向いている。
「ええと、ほら、まだ成長中の可能性もあるし、ね?今からでも大きくなるよ」
「むう……まあ、そういうことにしとくです。そもそも、こんな話をしに来たわけじゃないですし」
「あ、そうなの?」
「です。成長したなんて言うですから色々と言っただけです。本題は別にあるです」
リーゼは周りを見渡してから姿勢を正す。
あまり聞かれたくない話なのだろうか。ここは村の人があまり通らない大木のそばだからそんなに心配する必要はないと思うけど。
「実は私……なんだか特別な血筋らしいです。遠い昔の私の祖先が聖獣の血を引いてるらしくて、いつか魔獣?を倒さないといけないとかなんとか」
「そうなんだ。それは、ええと大変だね?」
「アリアならその反応だと思ってたです。安心したです」
姿勢を正した割にはあっさりと告げるので、私も同じように返しただけなんだけど。まあリーゼはほっと安堵の息を零しているから、これは心のうちに秘めておこう。別に気持ちを偽っているわけでもないし。
「一応、確認しておくけど聖獣ってあの聖獣だよね?」
「あの聖獣です。この世界で神に一番近いとされる生き物の総称のです」
「わー……。なんか、リーゼの血筋のことがバレるとまずそうだね」
「そうです?前の時の力もあるですし、この話をされたときに力の継承もしたですからそう心配しなくていいと思うです」
そう言ってリーゼは白く細長い包みを指す。大木に立てかけられているこれは、最近リーゼが持つようになったものだ。中身は白い長剣で、どうやらこれが彼女の言う継承した力らしい。
大きな力をまとっている剣だなぁとは思っていたが、なるほど。これなら心配はいらないかもしれない。
「まあそれでも言いふらすようなことをする必要はないだろ。僕も似たようなものだけどな」
「あー。でもシュウトの方が面倒そうです」
「シュウトも何かあるの?」
視線を向ければいかにも面倒そうという顔をして耳を揺らすシュウト。話すつもりはなかったのか、彼が口を開くまでかなりの間があった。
「……僕はまあ、僕自身というよりは家だな。母さんが夢殿っていう国のいいとこの跡取りだったらしい。跡取りは母さん以外に居なかったから、母さんは無理でも僕を連れていくかもしれないっていう。それだけだ」
「それだけって、シュウトもなかなかだよ。あー、でも、夢殿って海の向こうだから、そうでもないのかな」
村の学校で習った世界地図を頭に思い浮かべながらそう口にする。
たしか夢殿への移動手段は船が主で定期便も少なかったはず。シュウトの母以外に跡取りが居なかったとしても、わざわざ他国に来てまで探すかと言われればそうとも言えないし。
「僕のことは心配しなくていい。リーゼのように追加の力はないが、前の力だけでも十分だしな」
リーゼやシュウトが言う前の力は、言葉通り前世で培ってきた力の事だ。私たちは魔術師に造られたホムンクルスだったので魔術そのものや知識は言うまでもない。この世界では魔法と呼んでいるが、発動の理屈にそれほど違いはなくほとんどが使用できた。
身体能力はさすがに人間のものなので、目下鍛錬中である。前世並みにとは言わないけれど、それなりに動けるようにはなりたいところ。
「んー……まあ、何かあったら呼んでね。駆けつけるから」
「こっちの台詞です。アリアこそ、何かあったらちゃんと呼ぶです」
「ああ。今のうちに何かあったら呼ぶように約束しておくか」
「ええ……?」
二人は真面目な顔をして私の手を取り、小指に小指を絡ませる。両手を取られ、ほぼ強制的に約束させられてしまう。
「私だって何かあったらちゃんと呼ぶよ?この体じゃそんなに無理できないし」
「アリアはそう言って無理するです。でも、いま約束したです」
「そうだな。約束を破ったりしないよな」
「……うん」
うまく丸め込まれてしまった気がする。私としては無理と思っていなくても、二人が無理をしたと判断すれば約束を破ったことになってしまう。これはなんというか、どうにもならなさそうだ。
私が頷いたのを見てにこにこと笑みを浮かべる二人。ふとリーゼが思いついたように口を開いた。
「もう十五歳になったですが、紺碧と常磐、群青には会わないです」
「あー、そうだね」
「探しにいくです?」
リーゼの問いかけに私は少し唸る。探しに行きたい気持ちはあるけれど、先立つものがない。具体的には探しに行くための資金が。まあ、私たちなら行く先々で資金やら何やらを集めることは出来るだろうけど。
「探しに行くのはいいと思うが、先立つものがないだろう。なにかと入用だぞ」
「それは、そうです。んー、確か首都にギルドがあったはずですから、そこで資金を調達してからです?」
「そうなるだろうな。それでも、両親が許してくれるかどうかは分からないが」
あー、と私たちは何とも言えない声を漏らす。子供ではないが大人とも言い切れない私たちが、首都に行くと言えばどうなるか。行く先々で資金を集めるよりはまともだが、それでも難しいだろう。
あれやこれやと両親が許してくれるような案を出すが、どれも上手くいかないような気がする。
「……まあ、なんにしても話をしてみないといけないね」
「です。結局ここであれこれ言ってても仕方ないです」
「そうだな。案外、僕らが思っているよりも簡単かもしれないしな」
私たちは頷きあい、互いを鼓舞するように肩を叩く。なんにしてもまずは話をするところからだ、ということでそれぞれの家路につく。
その帰り道の際、なんだか村長の家付近が少し騒がしかったけど気にせず。
*
村を出ることについて話をしてみると、あっさりと許しが出た。村の中だけでなく外の世界も知っておいた方がいい、心配はあるけれど私ならなんとかなるだろう、と。
その翌日。二人も話をしてるだろうし、その成果を聞きにいつもの場所へ向かう途中のこと。
ふと視線を動かした先に、水色が見えた。
「…紺碧?」
私の声にそれが振り向く。水色の髪が揺れ、こちらを向いた女性は驚いた表情のままこちらへ向かってきた。この反応をするってことは、記憶ありかな?
「まあ……お姿は違いますが、深紅ですの?」
「うん。いまはアリアって名前だけど……えーと、とりあえず名前を教えてもらってもいい?」
「そうですわね。わたくしはアリフェ、大樹の精ですわ」
大樹の精と聞いて、私は改めて紺碧、アリフェの姿を確認する。
太ももまである長い水色の髪に透き通る水色の瞳、そして大樹の精の特徴である木の枝のようなものが耳のある位置から伸びていた。
「大樹の精って初めて見たかも。この辺りにいたわけじゃないよね?」
「ええ。私の故郷はもっと西ですわ。ああ、それにしても貴女に会えるなんて……わたくしたち以外にはいないのかと思っていましたわ」
「わたくしたちって、もしかして常磐と群青もいるの?」
「あら……では真白と蘇芳も?」
「この村にいるよ。これから会いに行くから、アリフェも一緒に行こう」
「はい、是非」
そうして私はアリフェをリーゼとシュウトに会わせて、互いの自己紹介も済ませる。そして、残りの二人についてアリフェに聞くことにした。
「わたくしたちはアリアたちを探す旅の途中でしたの。二人は少し用事があって離れていますが、ここで合流する予定ですわ」
「そうですか。いつ頃になるです?」
「明日には合流できると思いますわ。二人については本人から聞く方が良いと思いますので、わたくしからは何も」
「そうか。まあ大樹の精であるアリフェと一緒にいるわけだから、残り二人も人外だろうな」
「うふふふ……」
にこにこと笑みを絶やさないアリフェに私たちもそれ以上のことは聞かなかった。こういう時、彼女は頑として口を割らないと知っているからだ。
そして翌日。アリフェが本人から聞いた方がいいと言った意味を私たちは知ったのだった。
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