転生女神は最愛の竜と甘い日々を過ごしたい

紅乃璃雨-こうの りう-

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第十九話 あなたのためにしたい事

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 春の陽気が夏の暑さへと変わり始める頃。
 私の『暁の調合屋』は変わらずのんびりとしていたが、いつの間にか魔法学園の生徒が多く訪れるようになっていた。
 いや、いつの間にかというのはそうだけど、その理由はなんとなく分かっている。

「ミーフェさんミーフェさん!ここ、ここ分からないんで教えてください!」

 からん、と鈴を鳴らして入ってきたのは、魔法学園の制服を着た少女だ。紫色の髪を頭の下で二つに結んで、それを揺らしながらやって来るこの少女、名前はソーニャちゃん。

「ソーニャちゃん、簡易調合の課題が出るといつも私のところへ来るけど、ちゃんと自分で考えてるの?」
「考えてますよぅ!考えても分からないから聞きに来てるんです!」

 そう言って、ソーニャちゃんは持っていた課題を私に差し出してくる。ついこの間までは何も書かれていなかったが、今回は調合配分や材料の性質について色々と書かれており、きちんと考えていることが分かる。
 私はおお、とつい感心の声を漏らしてしまい、ソーニャちゃんの頬を膨らませてしまった。

「あぁ、ごめんねソーニャちゃん。ちゃんと今までのことを振り返りながら考えてたんだよね。うん、成長してる。すごいすごい」

 頭を撫でながら褒めれば、ソーニャちゃんはにへーとした笑みを浮かべてくれた。彼女の機嫌が治ったのを確認し、私は再度、課題へ視線を落とす。

「ええっと……うん、ソーニャちゃんほとんど答え出てるよ」
「え?!えーっと……じゃあ、調合配分が七対三で…匂いが少ないから…魔花の花びらは一枚……?」
「うん、そう。良く出来ました」

 課題をじっと見つめて、悩みながらも出した答えは正しいものだ。私が正解を告げて頭を撫でると、嬉しそうににっこりと笑みを見せてくれる。可愛いなぁ。

「ミーフェさんのお陰です。私がどんな初歩的な質問をしてもちゃんと答えてくれて、何度も教えてくれたから」
「ふふ、そう言われると教えた甲斐があるよ。さて、ソーニャちゃんの用事はこれで終わりかな?」
「終わりですけど、もうちょっとミーフェさんとお話、」
「あ!いた!」

 入り口のドアを乱暴に開け、ソーニャちゃんを見つけた途端に駆け寄ってきた少女。同じ魔法学園の制服に身を包んでいるから、この少女も魔法学園の生徒なのだろう。
 二つに結んだ薄桃色の髪を揺らしてやって来る少女の後ろには、少年が二人、呆れたような顔をしている。

「ソーニャ!今日は魔法実習があるって言ってたでしょう!」
「え、うそ、もうそんな時間?!」
「そんな時間だよー」

 おっとりとした少年の声にソーニャちゃんは名残惜しそうに私の方を見つめる。そんな目で私を見つめられても困るのだけど…。

「ソーニャちゃん、また暇なときにおいで。その時は色んなお話をしようね」
「うう、絶対ですよ…」
「騒がしくしてすみません、急いでいるのでこれで…!」

 桃色の髪の少女がソーニャちゃんの腕を引っ張って出て行くのを見送る。彼女たちが行った後、少年二人が頭を下げたので、私は気にしないで良いという意味を込めて笑みを浮かべて手を軽く振る。
 二人はぱっと頬を染めて、慌てたように去って行った。……うん?

 *

 今日も一日頑張った、といつもの私なら寝台に倒れこむところだが、今夜は違う。こっそりと買っておいたとある本を開き、じっくりと読み込んでいく。
 最初は開くのも恥ずかしかったが、少しずつ読んでいくことでなんとか読めるようになってきた。

「ううん……なんとなく分かってきたけど、できるかな…」

 今日まで読み進め、良く分からないところは何度も読み直した本を閉じて収納空間へとしまう。おおまかな流れというものは頭に入ったが、果たして上手く出来るだろうか。
 そう考えていると寝室のドアが開き、お風呂から出たグランがやってきた。彼は私の隣に腰を下ろし、ぎゅっと抱き寄せて、そのまま口付けをする。

「ん、んぅ…っ」
「ミーフェ…ん…」

 私の名前を呼びながら、啄ばむように口付けをするグラン。やがてそれだけでは足りず、ぬるりと舌が入ってくる。ちゅぷ、と舌を絡ませられ、だんだんと頭がぼやけてくる。

「ん、は…っ、ミーフェ、今夜もいいか?」

 そう問われて、私ははっと我に帰る。グランとの口付けが気持ちよくてふわふわしてしまったが、今日こそは、と心に決めていたのだ。
 ぎゅっと彼の手を掴んで首を横に振ると、私を抱き寄せていた彼の腕がするりと離れる。

「…そうか。今夜は駄目なんだな……」
「え、あ、違うのっ。そうじゃ、なくて……あの、今夜は、私がしたいの」
「ん?ミーフェがしたい、とは……」

 伝え方が悪かったとすぐに分かった私は、慌てて訂正する。でも、私がしたいという意味をグランは良く分かっていないようだ。
 首を傾げている彼の服の中へ手を入れ、お腹を撫でる。

「っ、ミーフェ?」
「…グランのことを、気持ち良くしたいの。だから、その…触ってもいい…?」

 恥ずかしくて視線を下げながらだが、ついに言うことが出来た。彼のお腹を撫でている手をちょっとずつ下に動かし、触れるか触れないかの位置で手を止める。
 ちらり、と彼の様子を窺えば、欲でぎらついた目を私に向け、熱の篭った息を吐き出していた。

「…っ、触って欲しい。君に、ミーフェに…」
「うん……」


 *
 
 グランにしてあげたかった事をして、そのままいつものように体を重ねて、綺麗に後始末をしてくれた後。
 寝台に寝転んでぎゅっと私を抱きしめるグランが、少し恥ずかしそうに口を開いた。

「……ミーフェ。その…また、今夜のようなことを、してくれるか…?」

 どうやらお気に召したらしい。グランが気に入ってくれたのなら、私の答えはもちろん決まっている。

「うん。グランが望んでくれるなら」
「…ありがとう」

 グランが望むならたくさんしてあげたい、と答える私に、グランは嬉しそうに笑みを浮かべて礼を口にした。お礼を言われるようなことではないけど、その心は嬉しいので受け取っておこう。
 一区切りついたところで、ふわ、と私が欠伸を漏らすと、グランは私の頭を優しくなで始める。

「今夜は私のために頑張ってくれたから、疲れただろう。ゆっくりおやすみ」
「……ん、おやすみなさい…」

 優しくてあたたかい手に、私の瞼は下がり夢の中へと落ちていく。
 グランはそんな私の頬を撫で、しばらく寝顔を見つめてから額に口付けをし、目を閉じた。


*10月21日、修正
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