転生女神は最愛の竜と甘い日々を過ごしたい

紅乃璃雨-こうの りう-

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第二十四話 海底遺跡

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 その海底遺跡は透明な膜のようなものに覆われていて、その内側は水もなく地上と同じように行動が出来るようになっていた。おそらく、なんらかの魔法が施されているのだろう。
 私たちまず水着から通常の服装に着替え、準備を整えてから遺跡の中へ入ることにした。
 ラースさんとセラフィーヌさんが先頭を務め、真ん中にソーニャちゃんとルーファスくん、後ろに私とグランという並びだ。
 入ってすぐに増え始めたという魔物の襲撃もなく、私も彼らに続いて遺跡の内部へと向かう。磨き上げられたように輝く乳白色の石床を踏むと、つきり、と胸の奥が痛んだ。

「ん…?」

 ほんの一瞬、なぜか痛みを覚える。なんだろうと思って胸に手を当ててみるが、先ほどのような痛みは感じない。

「ミーフェ?どうした?」
「あ、ううん。何でもない」
「…何でもないのならいいが、もし何かあるのなら言ってくれ」
「うん、ありがとうグラン」

 私が立ち止まったことに気づいたグランが心配そうに声をかけてくれた。彼は私の言葉を聞いて少し不満そうだったが、特に追及することもなくそのまま私の手を取って、先に進んでしまっているラースさんたちのもとへ向かう。

「さて、ここから先はソーニャとルーファスの方針に従うことにする」
「私たちの課題ですもんね」

 入口から少し進んだ先にある広い空間で立ち止まり、どう課題をこなすかという話し合いをしているようだ。その空間の左右に道があり、片方ずつ進むか二手に分かれて進むかをソーニャちゃんとルーファスくんが話し合っている。

「グラン、ミーフェ。あの二人は危なっかしいところもあるだろうが、なるべく手を出さずに見守っていてくれ。ただ、危険があるときは助けてやってほしい」
「ああ、それはもちろん。成長には試練も必要だからな」

 二人の監督役であるラースさんにそう小声で伝えられ、グランはそう口にする。私も同じ思いなので頷くと、ラースさんは助かる、と礼を言う。

「セラフィーヌはこの手の依頼を何度かこなしているから勝手もわかるが、お前らは初めてだからな」
「私はともかくとして、ミーフェは際限なく助言を与えてしまうだろうから、そういう注意はありがたい」
「うん…気を付けます」

 私が好んだ人間には甘いことを知っているグランがそう言う。私もそれは自覚しているので、気を付けてはいるのだけれど。なんだかやらかしてしまいそうなので、心に刻んでおこう。

「ノイラート先生、二手に分かれて遺跡を調査することにしました。左右の道は同じ部屋に辿り着きますし、出てくる魔物もそう強くないという話ですし」
「おう。なら、分け方はどうするんだ?」

 大体の方針が決まったらしい二人がラースさんに確認を取りに来た。ルーファスくんが代表して話をしているのは、ソーニャちゃんだと上手く伝わらないからだろう。

「俺とグランさんとノイラート先生の組と、ソーニャとセラフィーヌさんとミーフェさんの組にしようかと。これならちょうどいい具合に攻撃役が分かれると思うんですが」
「そうだな。グランとミーフェはそれでいいか?」
「…あまりミーフェと離れたくはないが、仕方ないか」
「私は大丈夫ですよ」
「わかった。お前たちの決めたことに従う」

 おそらくセラフィーヌさんはこの分け方に異を唱えないだろうから、私とグランに聞いたのだろう。グランは私と離れることに少し不満そうだったけど、仕方のないことと割り切るようだ。
 そんなに心配しなくても、もうほとんど力も戻ってきているし、大丈夫なんだけどなぁ。

「よし、じゃあ私たちは右側の道ですね。ほとんど一本道なので、迷ったりしないのが安心ですね」
「そうだな。だが、魔物が出るのだから十分に気を付けないといけないよ」
「はい!」

 セラフィーヌさんの忠告にしっかり頷き、元気よく返事をするソーニャちゃん。
 私たちはソーニャちゃんの言葉通り、右の道を進んでいく。先頭は剣を扱えるセラフィーヌさんで、私とソーニャちゃんはほぼ魔法が主体なので、彼女の後ろだ。
 戦闘の際の行動を確認し、ルーファスくんたちと別れて、私たちは進むことにした。

 *

 別れた道の先を進み始めると魔物の襲撃が増えてくるが、セラフィーヌさんが愛剣で切り伏せ私たちが後方で魔法を撃てばすぐに片付いてしまう。まあ、出現頻度もそれなりにあるけれど。

「大した強さではないが、数が多いな」
「そうですね。でも、セラフィーヌさんがほとんど切ってくれるので、私たちは楽です!」
「はは、ソーニャの魔法でも十分に蹴散らせるだろうし、私は少し遠慮するかな」
「ええ?!」

 セラフィーヌさんとソーニャちゃんはそんな軽口を言い合いながら、現れる魔物を倒していく。二人が頑張ってくれているおかげで、私はたまに魔法を放つくらいだ。
 ほとんど暇といっても差し支えないほどなので、私は遺跡の内部を観察しながら彼女らの後を追う。

「……やっぱり見覚えがある気がする…。どこ、だろう」

 記憶にないはずなのに、どこかで見たことがあるような気がする。私も長く生きているから、忘れてしまっていることもあるだろう。
 うーん、と唸りながら二人の後を追う私だが、ふと、何かが気になって視線を進行方向からずらす。

「なんだろう……扉?」

 行き止まりであることがすぐに分かる場所の手前、淡い光で扉が作られているように見える。
 ソーニャちゃんはほとんど一本道だと言っていたから、余計にあの扉が気になってしまう。私は少し悩んでから、前を行く二人に声をかけた。

「ソーニャちゃん、セラフィーヌさん!ちょっと来てもらえますか?」

 私が声をかけると、二人はすぐにこちらへ来てくれた。そして、私の前にある扉らしきものを見て驚いている。

「これは……」
「扉、ですか?え、でも、ここは一本道だって……。もしかして、この先に魔物が増えた原因が?」
「わからない。でも、すごく気になる」

 どうしてこんなに興味をひかれるのか分からない。この先に『行かなければならない』と、私の奥底にある何かがざわめいている。
 セラフィーヌさんとソーニャちゃんも、多少の興味はあるようで、扉の周りを調べ始めた。

「うーん…この扉、取っ手がないですね。どうやって開けるんだろう」
「遺跡には特有の仕掛けがあったりもするが、この手のものは私も見たことがないな」
「扉を開けるためのもの……んー…」

 不意に頭の中に映像が浮かぶ。ざらざらとした不明瞭なものだけれど、何もない壁に誰かが手をつくと滑るように扉が開く。
 同じように手を伸ばして、扉の横の壁に触れれば……扉は呆気なく開いた。

「わあ、開いた!ミーフェさんいったいどうやって…?」
「適当に壁を触ったら……。えっと、とりあえず開いたし、少し進んでみる?」

 ソーニャちゃんの疑問に適当な嘘をついて誤魔化し、扉の先に進むかどうかを聞いてみる。ソーニャちゃんはどうするべきかを悩んで、何かを思い出したのか懐から硝子玉のようなものを取り出した。
 手のひらに乗る程度のそれは何度か明滅し、声を届ける。

『ソーニャ?どうしたんだ、何か見つけたのか?』
「見つけたっていうか、なんか扉があるの。進んでも大丈夫かな?」
『扉?……いや、俺たちがそっちに向かうから、それまで待て』

 どうやら離れた相手と会話ができる魔法具のようだ。
 私はソーニャちゃんとルーファスくんの会話を聞きながら、開いた扉の先を見つめる。点々とか細い明りがついているだけで、特に何かあるようには見えない。
 もうちょっと奥が見えないかなぁ、と思って、少し身を乗り出したら、何かに引っ張られるように部屋の中へ足を踏み入れてしまった。

「ミーフェ?!」
「えっ、あ、」

 セラフィーヌさんの慌てた声が聞こえたと思ったら、瞬く間に扉が閉まった。

「あー…閉まっちゃった」

 外の音が一切聞こえてこないので、セラフィーヌさんとソーニャちゃんの様子はわからないが、かなり慌てていることだろう。うかつに近寄った私が悪いので、戻ったらちゃんと謝罪をしてしっかり叱られよう。
 まあ、それはそれとして。入ってしまったものは仕方ないので、少し調べてみるとしよう。

「かろうじて足元が見えるけど、暗いなぁ」

 とりあえず、奥に進んでみる。つまずいたりしないように気を付けて歩いていくと、すぐに壁際へとたどり着いた。んー、意外と狭いのかな。

「ええと、さっきみたいに開かないかな。どこか、扉とか……」

 壁に手を這わせて探してみると、運良く扉を開けるためのものに当たった。少し離れた壁が開いて、わずかに明かりが差し込んでいるのが見える。わかりやすいところでよかった。
 明かりを頼りに進み、扉の先へ向かう。

「……なるほど。これが魔物が増えた原因かな」

 小さな部屋の中央に、禍々しく光る魔法陣が描かれている。両の手のひらくらいの大きさだが、これは魔物を生み出す機能を持ったものだ。
 私やグランが眠る前は邪神や魔族がよく作っていたものだが、まさかこんなところで見つけるとは。

「どこかの誰かが作ったものかな。んー、でもこんなところに作ってもあんまり意味なさそうなんだけど……」

 人間の負の感情を好む彼らにとって、ここはあまりにも人が少なすぎる。何か他の目的でもあるのだろうか、とその魔法陣をじっと見つめれば、また胸の奥が痛む。

「…胸の奥が痛いのは、これが原因?でも、どうして」

 こんな魔法陣は過去に何度も見てきた。その時は何もなかったのに、目の前にあるこれを見ていると胸の奥がずきずきと痛む。ならば、この魔法陣は特別なのだろう。
 私は深呼吸をして、魔法陣に手を伸ばす。今の私なら、これを作った人物を残っている魔力を頼りに見ることができるはず。
 禍々しく光る魔法陣のふちに、

 **

 ああ、どうして。マスターは死んでしまった。
 ああ、どうして。あいつは生きているんだ。
 消えゆくこころを繋ぎ合わせて、朽ちゆく体を作り直して、私は叶えなければ。
 悲劇を増やさないために。
 それがマスターの最期の望み。この身に宿る力を利用して、必ず叶えなければいけない。
 ―すべての世界を滅ぼしてほしいという、マスターの最期の命令を。

 **

「―ミーフェ!!」

 後ろから名前を呼ばれて、私ははっと意識が引き戻される。声の主が誰か確認しようと振り向く前に、思いきり抱き締められた。うん、これはグランだ。

「お前らいちゃいちゃするのは後にしろ、後に。子供が見てるんだぞ」
「気持ちが分からないでもないが、もう少し自重した方がいいんじゃないか?」

 ラースさんとセラフィーヌさんの声が聞こえてきて、グランは不満そうに私を解放した。動けるようになって視線を巡らせると、ソーニャちゃんは目を輝かせていた。

「情熱的でいいですね!」
「…状況を弁えた方がいいと思うけどな」

 ルーファスくんの目がちょっと冷たく感じる。
 微妙に緩んだ空気の中、こほん、とラースさんが咳ばらいをして注意を向けさせた。

「まあ、そこの二人は置いておいて、だ。おそらくあの魔法陣が魔物が増加した原因だろう」
「これってなんなんですか?」
「魔物を生む魔法陣だ。こんなところにある理由はわからないが、この規模なら破壊が可能だ」

 ソーニャちゃんたちの意識を私たちから海底遺跡に来た目的に向けさせ、ラースさんは私の後ろにある魔法陣を指す。
 どうやらラースさんはこれがどういうものかちゃんと分かっているらしい。初めて会った時も五百年だかなんだか言っていたし、意外と長生きなのかもしれない。

「ええ、これ壊せるんですか?どうやって?」
「魔力を注ぎ込めばいい。製作者以外の魔力を一定以上注げば壊れる」
「ノイラート先生、それは俺とソーニャだけでは難しいのでは?」
「そうだな。だが、このまま残しておくわけにもいかない。俺たち全員でやれば、まぁいけるだろ」

 行き当たりばったりに近いラースさんの言いように、ルーファスくんとソーニャちゃんは大丈夫か、という視線を向けている。まあ、ここにはグランがいるので、その心配は無用だ。
 さっさと壊してしまおう、とラースさんの号令の下、魔法陣に魔力を注いでいく。数秒もしないうちにひびの入るような音がして、硝子を割るような音と共に魔法陣は消えてなくなった。

「よし、これでいいだろう。あとは帰るだけだが、気を抜くなよ」

 ひとまず原因と思われるものを排除し、私たちは海底遺跡をあとにする。入るときは特定の時間でしか入れないが、出るときは自由に出られるのでありがたい。まあ、それ故にほとんど調査されていたのだろうけど。

 水中で呼吸ができるようにまた魔法をかけ、リートゥスの砂浜へと戻る中、私は海底遺跡を振り返る。
 灰色の四角い建物。乳白色の床。知らないはずの扉の開け方。魔法陣に触れて聞こえた、抑揚のない言葉。
 浮かんでくる疑問と不安に頭を振り、私は先を行く彼らの後を追った。
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