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第16話 辛い過去はいい事あっても辛い
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第16話 辛い過去はいい事あっても辛い
あれから僕たちは剣の修行と推し活をする日々だった。
「もうこんな時期か……」
時は流れて一月。雪の降るなか、この街の学生は受験や就職……それぞれがそれぞれの課題へと向かっていった。
「一はどこ受けるか決めたのかい?」
「もう受かったよ。」
「……それはすごいや。てっきりまだかなって思って僕は君の代わりに人一倍頑張ろうと思ったんだけどね。」
「……それもそれで頼もしかったんだけどな。」
(言えない、勉強だるくて推薦で受かったなんて。)
「各末を退治するのは……君だけじゃないよ。」
そう言うと前に出てニコッと笑った。
「実践でも結局倒してんの俺なのによく言うよ……」
「そうだね……確かに君は強い。でも僕も負けないから!」
自信満々にそう言った祐四の姿を見て、一は出来るかもなと返し、その場の会話を終えた。
それから後日。レストランにて。
「いらっしゃい。あら、一じゃない。」
レストランにいたのはYだった。
一は手を振りながらYに案内された場所に座る。
「……知り合い?」
「まあね。先輩かな。」
「……へぇ、そういえば一って可愛い女の子としか会話しないよね。」
「そう?」
「そうだよ、ほらこの間の子なんてコーヒーなんか渡してさ……」
「あー……」
(多分だが、Tのことだな。間違えたけどコーヒー苦手だとか言って俺に渡してきた……。)
「ほら、あの時も!こないだ偶然行ったラーメン屋、アイドルみたいな子が働いてて今日みたいに知り合いで……」
(誘われるとは思わなかったけどHが働いてるから来てね!だとか言ったからちょうどいいやってね……。)
一は照れながら思い出した。
「あ!こないだの写真!間に挟まれてたね!」
「もうやめてくれ……」
(HとМに挟まれたツーショット!記念にだとか言われてスマホに保存してたらスクロールされてバレたっけ……。)
思わず恥ずかしさが増した。
「……」
「……」
その翌日、一は二人っきりで話そうと闇の剣士である黄泉嶋千知に呼ばれた。
「黄泉嶋さん……話って?」
「あぁ、セラちゃん。すまないな、こんな朝の時間に呼び出して。」
「いいですよ……学校も休みですし。」
「そうか……一つ聞かせてくれないか。」
「……なんですか?」
「光の剣士が死亡した事を知ってるか?」
「!?」
一はてっきり世間話にでも誘われたかと思ったが、予想外にも仲間の訃報。
「その反応だと知らないようだな。」
「ちと驚いただけですわ……はは。それにしてもあの人が一体どうして……。」
「死因は分からない……でも私は彼に剣を託された。」
「……」
「しかし……私には扱えなくてな、受け取ってくれぬか。」
一はそう言われると苦笑いしながら彼女の瞳を見る。
「お断りします」
「そうか……君は将来的に二刀流の構えをすると思ったんだがな。この剣ではないか。」
「……何の話ですか?」
「いや、こっちの話だ……。」
そうですか。と一礼し、一は立ち去ろうとする。
「待て。」
「……なんですか?」
「一つ言っておく。」
一の足がピタリと止まる。
「……力を求めるな。」
「……はい。」
一が立ち去る姿を見て少し安心する黄泉嶋。
「やはりセラちゃんは私たちとは違うな。」
真っ直ぐとした眼差しで黄泉嶋は一の背中を見た。
一方、祐四。
「……」
彼は一と共に暮らす家でただただ遠くを見つめていた。
そこにピンポンとインターホンが鳴る。
「はい。」
扉を開けるとそこには天ノ川の姿があった。
「よぉ、元気か。」
「天ノ川さん……。」
祐四を見るやホッとしたような顔をする。
「その顔つきだと風の剣士として成長しているようだな……。」
「えぇ……僕だって一や辰巳に負けないですよ。」
「そうか……だが、なんでだろうな。俺が今、お前から盗んだものに気づいていない。」
「!?」
祐四は自分の荷物を確認する。
「一体何を……!?」
「簡単な話だ。君の視線を俺に向けることでお前は他の事に意識を向けられない。」
祐四は自分の大切なものがないことに気づき、絶望した。
「剣士が剣失ってどうするんだ。」
「……!?」
天ノ川は剣を返す。
「光の剣士が亡くなった事は知ってるだろう。」
「え、えぇ……」
「死因が公表されて無いこともか?」
「えぇ……」
「これだ。」
天ノ川はそう言うと赤い液体を出す。
「なんですか……これ?」
「強化剤だ。」
「強化剤……?」
「サプリメントだとかあちら側にいけばヤクなんて言われるもんさ。アイツは誠実な人のイメージ像を掲げる裏でプレッシャーとしてこれを飲んでいたと。」
「……」
祐四はあまりの急展開に驚きを隠せない。
「それにお前の父ちゃんと一番仲良かったのも彼だしな。尚更この世は……悲しいもんだ。」
「そうだったんですね……。」
「……大切なものってのはいつも失ってから気づく。」
「……」
「覚えておけよ。」
「はい。」
祐四はそう言うと闘志を燃やした。
そう言い、その場を去る天ノ川を見送り、祐四は部屋の掃除を行った。
そこでふとある事に気づいた。
「さっきの……忘れ物だろうか?」
赤い液体に『ストレングス』と書かれた液体を冷蔵庫に入れて保管しようとしたが、なんか違うかなと祐四は自分の持ち物の中に入れて、後日返すことにした。
数分後、一が帰ってきた。
「よっ、何かあったか?」
「ううん……」
「家に何かいたような痕跡があるからさ。」
「あぁ、さっき天ノ川さんが来ただけ。」
「なるほど。」
「それに安心しろよ。」
「ん?」
「たとえ命を散らしてでもこの家は僕が守る!」
「そっか……でも命散らしたらもう家守れねえぞ。」
一は軽くデコピンをしてその日は終わった。
翌日の夜。一は黄泉嶋さんと現場に向かって任務を終わらせた帰りだった。
「本部に戻ろう。」
「はい。」
その日の月は満月だった。
「……不穏だな。」
「え?」
「満月の日というのは私にとって常に不安だ。セラちゃん、今日はなんだかその不安ってのが心を操る。」
一は大人しく彼女の意見を聞いた。
「……不安ですか。」
「あぁ、初めに水の剣士を失った日もこんなに月は満月だった。なんでだろうな……私とした事が不思議と過去に縛られるなんて。」
「誰だって過去を振り返るのは大事ですよ。」
「そうか……なら気にしないでいいのだろうか。」
そんな二人に慌てて話す水の剣士。
「大変だ!今日の闘いの途中であの子が!あの子が!」
「何があった……いや、言わなくてもいい。状況はなんとなくだが理解出来た。」
「……どういうことですか?黄泉嶋さん。」
「簡単な話だ、行けばわかる。」
黄泉嶋さんはそう言うと急ぎ足で向かった。一は何となくで一緒に走ることにした。
「あまり走るな、走っていては簡単なトラップにも勝てない。」
一は黄泉嶋さんに足を合わせることにした。
「セラちゃん……私は間違っていた……」
「何がですか?」
「力を求めるな。なんて言ったがその助言を言うべき相手は君ではなかった。」
「そんな……」
「行くぞ、あの子にその声を届けるために。」
「……はい!」
一と急ぎ足ではありながらも慎重に進む二人。
現場に辿り着いた時にはその光景に苦い顔をした。
「これが……結末かよ……」
一は思わずそんな感情を持った。
「すまん……俺のせいだ……」
目の前にいるのは誰よりも先に後悔している天ノ川だ。
「俺のせいって……」
「お前らの家に試しがてらで忘れ物として荷物を置いた。だが力に飢えてたアイツはそれを飲んじまった。」
多くの散った戦士達の前に一人暴れながら剣を振るう男。
一はその男の前で自らの刀を抜刀する。
つづく
あれから僕たちは剣の修行と推し活をする日々だった。
「もうこんな時期か……」
時は流れて一月。雪の降るなか、この街の学生は受験や就職……それぞれがそれぞれの課題へと向かっていった。
「一はどこ受けるか決めたのかい?」
「もう受かったよ。」
「……それはすごいや。てっきりまだかなって思って僕は君の代わりに人一倍頑張ろうと思ったんだけどね。」
「……それもそれで頼もしかったんだけどな。」
(言えない、勉強だるくて推薦で受かったなんて。)
「各末を退治するのは……君だけじゃないよ。」
そう言うと前に出てニコッと笑った。
「実践でも結局倒してんの俺なのによく言うよ……」
「そうだね……確かに君は強い。でも僕も負けないから!」
自信満々にそう言った祐四の姿を見て、一は出来るかもなと返し、その場の会話を終えた。
それから後日。レストランにて。
「いらっしゃい。あら、一じゃない。」
レストランにいたのはYだった。
一は手を振りながらYに案内された場所に座る。
「……知り合い?」
「まあね。先輩かな。」
「……へぇ、そういえば一って可愛い女の子としか会話しないよね。」
「そう?」
「そうだよ、ほらこの間の子なんてコーヒーなんか渡してさ……」
「あー……」
(多分だが、Tのことだな。間違えたけどコーヒー苦手だとか言って俺に渡してきた……。)
「ほら、あの時も!こないだ偶然行ったラーメン屋、アイドルみたいな子が働いてて今日みたいに知り合いで……」
(誘われるとは思わなかったけどHが働いてるから来てね!だとか言ったからちょうどいいやってね……。)
一は照れながら思い出した。
「あ!こないだの写真!間に挟まれてたね!」
「もうやめてくれ……」
(HとМに挟まれたツーショット!記念にだとか言われてスマホに保存してたらスクロールされてバレたっけ……。)
思わず恥ずかしさが増した。
「……」
「……」
その翌日、一は二人っきりで話そうと闇の剣士である黄泉嶋千知に呼ばれた。
「黄泉嶋さん……話って?」
「あぁ、セラちゃん。すまないな、こんな朝の時間に呼び出して。」
「いいですよ……学校も休みですし。」
「そうか……一つ聞かせてくれないか。」
「……なんですか?」
「光の剣士が死亡した事を知ってるか?」
「!?」
一はてっきり世間話にでも誘われたかと思ったが、予想外にも仲間の訃報。
「その反応だと知らないようだな。」
「ちと驚いただけですわ……はは。それにしてもあの人が一体どうして……。」
「死因は分からない……でも私は彼に剣を託された。」
「……」
「しかし……私には扱えなくてな、受け取ってくれぬか。」
一はそう言われると苦笑いしながら彼女の瞳を見る。
「お断りします」
「そうか……君は将来的に二刀流の構えをすると思ったんだがな。この剣ではないか。」
「……何の話ですか?」
「いや、こっちの話だ……。」
そうですか。と一礼し、一は立ち去ろうとする。
「待て。」
「……なんですか?」
「一つ言っておく。」
一の足がピタリと止まる。
「……力を求めるな。」
「……はい。」
一が立ち去る姿を見て少し安心する黄泉嶋。
「やはりセラちゃんは私たちとは違うな。」
真っ直ぐとした眼差しで黄泉嶋は一の背中を見た。
一方、祐四。
「……」
彼は一と共に暮らす家でただただ遠くを見つめていた。
そこにピンポンとインターホンが鳴る。
「はい。」
扉を開けるとそこには天ノ川の姿があった。
「よぉ、元気か。」
「天ノ川さん……。」
祐四を見るやホッとしたような顔をする。
「その顔つきだと風の剣士として成長しているようだな……。」
「えぇ……僕だって一や辰巳に負けないですよ。」
「そうか……だが、なんでだろうな。俺が今、お前から盗んだものに気づいていない。」
「!?」
祐四は自分の荷物を確認する。
「一体何を……!?」
「簡単な話だ。君の視線を俺に向けることでお前は他の事に意識を向けられない。」
祐四は自分の大切なものがないことに気づき、絶望した。
「剣士が剣失ってどうするんだ。」
「……!?」
天ノ川は剣を返す。
「光の剣士が亡くなった事は知ってるだろう。」
「え、えぇ……」
「死因が公表されて無いこともか?」
「えぇ……」
「これだ。」
天ノ川はそう言うと赤い液体を出す。
「なんですか……これ?」
「強化剤だ。」
「強化剤……?」
「サプリメントだとかあちら側にいけばヤクなんて言われるもんさ。アイツは誠実な人のイメージ像を掲げる裏でプレッシャーとしてこれを飲んでいたと。」
「……」
祐四はあまりの急展開に驚きを隠せない。
「それにお前の父ちゃんと一番仲良かったのも彼だしな。尚更この世は……悲しいもんだ。」
「そうだったんですね……。」
「……大切なものってのはいつも失ってから気づく。」
「……」
「覚えておけよ。」
「はい。」
祐四はそう言うと闘志を燃やした。
そう言い、その場を去る天ノ川を見送り、祐四は部屋の掃除を行った。
そこでふとある事に気づいた。
「さっきの……忘れ物だろうか?」
赤い液体に『ストレングス』と書かれた液体を冷蔵庫に入れて保管しようとしたが、なんか違うかなと祐四は自分の持ち物の中に入れて、後日返すことにした。
数分後、一が帰ってきた。
「よっ、何かあったか?」
「ううん……」
「家に何かいたような痕跡があるからさ。」
「あぁ、さっき天ノ川さんが来ただけ。」
「なるほど。」
「それに安心しろよ。」
「ん?」
「たとえ命を散らしてでもこの家は僕が守る!」
「そっか……でも命散らしたらもう家守れねえぞ。」
一は軽くデコピンをしてその日は終わった。
翌日の夜。一は黄泉嶋さんと現場に向かって任務を終わらせた帰りだった。
「本部に戻ろう。」
「はい。」
その日の月は満月だった。
「……不穏だな。」
「え?」
「満月の日というのは私にとって常に不安だ。セラちゃん、今日はなんだかその不安ってのが心を操る。」
一は大人しく彼女の意見を聞いた。
「……不安ですか。」
「あぁ、初めに水の剣士を失った日もこんなに月は満月だった。なんでだろうな……私とした事が不思議と過去に縛られるなんて。」
「誰だって過去を振り返るのは大事ですよ。」
「そうか……なら気にしないでいいのだろうか。」
そんな二人に慌てて話す水の剣士。
「大変だ!今日の闘いの途中であの子が!あの子が!」
「何があった……いや、言わなくてもいい。状況はなんとなくだが理解出来た。」
「……どういうことですか?黄泉嶋さん。」
「簡単な話だ、行けばわかる。」
黄泉嶋さんはそう言うと急ぎ足で向かった。一は何となくで一緒に走ることにした。
「あまり走るな、走っていては簡単なトラップにも勝てない。」
一は黄泉嶋さんに足を合わせることにした。
「セラちゃん……私は間違っていた……」
「何がですか?」
「力を求めるな。なんて言ったがその助言を言うべき相手は君ではなかった。」
「そんな……」
「行くぞ、あの子にその声を届けるために。」
「……はい!」
一と急ぎ足ではありながらも慎重に進む二人。
現場に辿り着いた時にはその光景に苦い顔をした。
「これが……結末かよ……」
一は思わずそんな感情を持った。
「すまん……俺のせいだ……」
目の前にいるのは誰よりも先に後悔している天ノ川だ。
「俺のせいって……」
「お前らの家に試しがてらで忘れ物として荷物を置いた。だが力に飢えてたアイツはそれを飲んじまった。」
多くの散った戦士達の前に一人暴れながら剣を振るう男。
一はその男の前で自らの刀を抜刀する。
つづく
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