31 / 246
【第2話】焼き立てパンは仲直りの味
【2-17】
しおりを挟む
「意気込んでるわね、ミカ。でも、そんなに緊張しなくたって、パレドは簡単に作れるのよ。ちっちゃい子が初めて習う料理、って感じなんだから」
そう言って笑ったキカさんは、今日納品した箱のひとつへ近付き、中から麻袋を取り出す。A 4サイズくらいの袋へ手を突っ込んで彼女が取り出したのは、オフホワイトくらいの色味の玉みたいなものだった。
キカさんは人差し指と親指で挟むようにしてそれをつまみ、ぐにぐにと押す。大きめの白玉というか、質量と弾力を伴う柔らかいピンポン玉というか、めちゃくちゃぷにぷにしているスーパーボールというか……、とにかく、そんな感じの物体だ。
「これが、パレドード。パレド自体はこれを使って誰でも作れるけど、パレドードを作れるのは修行した職人だけなのよ」
「へぇ……、職人の技が無いと作れないんだね」
「そうね、技と感覚を研ぎ澄ませないと作れないらしいわ。生成魔法と魔力の加減が、とても繊細なんですって。職人の腕によって、パレドの食感もかなり違うのよ。熟練された職人が作るパレドードを使って焼いたパレドは、ふわふわもっちりで美味しいの!」
もちもちのパンを想像しただけで、よだれが出てきてしまいそうだ。きっと美味しいに違いない。どうしたって期待感が高まってしまう。
「焼きたてのパレドに、鳥の香草焼きと、ベラーシ、あとは……食後のお楽しみってことで、果物を冷やしておこうかな」
この世界でも鳥肉を食べる文化があって、鶏じゃないけど似たような味と食感をいただける。城の側程度ならジルから離れても大丈夫だというカミュが狩りをして捌いてくれるから、僕も料理に何度も取り入れた。
──でも、ベラーシってなんだろう?
僕の表情から疑問を読み取ったのか、カミュがにこやかに解説を挟んでくれる。
「ミルクを使った、コクのあるスープのようなものが、ベラーシです。たくさんの野菜と一緒に煮込んで、ほくほくとした食感となめらかな汁を楽しみます。今のように寒い季節には特に美味しく感じますね」
「うんうん、聞いているだけで、もう美味しそう!」
シチューみたいな感じなのかな? 焼き立てパンに、シチューと、グリルチキン。デザートには果物もあるらしい。想像しただけで、すごく楽しみになってくる。
「絶対にミカも美味しいって思うだろうし、ジル好みの献立のはずよ。順番としては、まずはパレドの生地を仕込む。焼く前に少し時間を置いて生地を寝かさなくちゃいけないから、その間にベラーシを煮込んで、最後に鳥を火に掛けてじっくり焼きつつ、パレドを焼き上げる。──うん、これで、どれもちょうどいい時間に出来上がるはずよ」
「分かった。頑張るね」
「頑張るほどのこともないって。大丈夫よ。あ、カミュ。マセメラを冷やしておいてくれる? 二個でいいわ」
「承知しました」
快く引き受けたカミュは、慣れた様子でひとつの木箱へ近付いて、中から紺色の果実を二つ取り出した。そう、このマセメラという果実は城の周りでも採れるから僕も知っていたのだけど、皮は濃紺なのに、形も香りも味も林檎そのものだ。ちょっと不思議な感じはするけれど、甘酸っぱくて美味しい。
そして、この世界に電化製品は無いから冷蔵庫ではないけれど、食材を冷やして保管するという概念はあって、保冷魔法をかけた木箱が使われている。もちろんこの調理場にもあって、カミュはその蓋を魔法で器用に開けて、マセメラを入れていた。
「じゃあ、ミカ。あたしの言う通りに材料を量ってね」
「うん、分かった」
ミカさんの指示を受けながら、木製の大きめのボウルへ材料を量り入れていく。小麦粉っぽいものと、バターみたいなものと、塩的な調味料を、カミュの魔法の力を借りつつ準備した。
「そうしたら、ここにパレドードを入れるの」
「うん。……わっ、すごくぷにぷに」
持たせてもらったパレドードは、クセになりそうな弾力がある。すごい……、永遠にぷにぷにもちもち出来そう。
「ふふっ。ミカのお気に召す感触かな? パレドの生地を捏ねるのも気持ちいいのよ。量った材料の中にパレドードを入れて、よーく捏ねてね」
「うん、やってみるね」
言われたとおりにパレドードを落とした材料を捏ねてみる。最初は粉っぽい感じが、だんだんしっとりもっちりまとまってくるのが気持ちいい。潰れて馴染んでいくパレドードの感触を楽しみながら、ひたすら捏ねる。
「うん、いい感じね。けっこう粘り気があるでしょ?」
「うんうん、伸ばそうと思えばどこまでも伸びそう」
「でしょ? これが、良い生地の証なの。生地を捏ねている段階で粘りが強いと、焼いたときにいい食感になるのよ」
「そうなんだ、楽しみだね」
「ねー、楽しみ! ……うん、そんな感じでいいわね。じゃあ、全体的に丸くまとめてひとかたまりにして」
「……こう?」
「うん、いい感じよ。で、表面にツムト粉をはたいてあげたら、布巾をかけて、寝かせてあげる。……で、その間に、他の料理も用意しましょ!」
「うん! わくわくするね」
「わくわくしますね」
三人で顔を合わせて笑って、手を洗う。そして、そこから先も、夕飯の支度を次々に進めていった。
そう言って笑ったキカさんは、今日納品した箱のひとつへ近付き、中から麻袋を取り出す。A 4サイズくらいの袋へ手を突っ込んで彼女が取り出したのは、オフホワイトくらいの色味の玉みたいなものだった。
キカさんは人差し指と親指で挟むようにしてそれをつまみ、ぐにぐにと押す。大きめの白玉というか、質量と弾力を伴う柔らかいピンポン玉というか、めちゃくちゃぷにぷにしているスーパーボールというか……、とにかく、そんな感じの物体だ。
「これが、パレドード。パレド自体はこれを使って誰でも作れるけど、パレドードを作れるのは修行した職人だけなのよ」
「へぇ……、職人の技が無いと作れないんだね」
「そうね、技と感覚を研ぎ澄ませないと作れないらしいわ。生成魔法と魔力の加減が、とても繊細なんですって。職人の腕によって、パレドの食感もかなり違うのよ。熟練された職人が作るパレドードを使って焼いたパレドは、ふわふわもっちりで美味しいの!」
もちもちのパンを想像しただけで、よだれが出てきてしまいそうだ。きっと美味しいに違いない。どうしたって期待感が高まってしまう。
「焼きたてのパレドに、鳥の香草焼きと、ベラーシ、あとは……食後のお楽しみってことで、果物を冷やしておこうかな」
この世界でも鳥肉を食べる文化があって、鶏じゃないけど似たような味と食感をいただける。城の側程度ならジルから離れても大丈夫だというカミュが狩りをして捌いてくれるから、僕も料理に何度も取り入れた。
──でも、ベラーシってなんだろう?
僕の表情から疑問を読み取ったのか、カミュがにこやかに解説を挟んでくれる。
「ミルクを使った、コクのあるスープのようなものが、ベラーシです。たくさんの野菜と一緒に煮込んで、ほくほくとした食感となめらかな汁を楽しみます。今のように寒い季節には特に美味しく感じますね」
「うんうん、聞いているだけで、もう美味しそう!」
シチューみたいな感じなのかな? 焼き立てパンに、シチューと、グリルチキン。デザートには果物もあるらしい。想像しただけで、すごく楽しみになってくる。
「絶対にミカも美味しいって思うだろうし、ジル好みの献立のはずよ。順番としては、まずはパレドの生地を仕込む。焼く前に少し時間を置いて生地を寝かさなくちゃいけないから、その間にベラーシを煮込んで、最後に鳥を火に掛けてじっくり焼きつつ、パレドを焼き上げる。──うん、これで、どれもちょうどいい時間に出来上がるはずよ」
「分かった。頑張るね」
「頑張るほどのこともないって。大丈夫よ。あ、カミュ。マセメラを冷やしておいてくれる? 二個でいいわ」
「承知しました」
快く引き受けたカミュは、慣れた様子でひとつの木箱へ近付いて、中から紺色の果実を二つ取り出した。そう、このマセメラという果実は城の周りでも採れるから僕も知っていたのだけど、皮は濃紺なのに、形も香りも味も林檎そのものだ。ちょっと不思議な感じはするけれど、甘酸っぱくて美味しい。
そして、この世界に電化製品は無いから冷蔵庫ではないけれど、食材を冷やして保管するという概念はあって、保冷魔法をかけた木箱が使われている。もちろんこの調理場にもあって、カミュはその蓋を魔法で器用に開けて、マセメラを入れていた。
「じゃあ、ミカ。あたしの言う通りに材料を量ってね」
「うん、分かった」
ミカさんの指示を受けながら、木製の大きめのボウルへ材料を量り入れていく。小麦粉っぽいものと、バターみたいなものと、塩的な調味料を、カミュの魔法の力を借りつつ準備した。
「そうしたら、ここにパレドードを入れるの」
「うん。……わっ、すごくぷにぷに」
持たせてもらったパレドードは、クセになりそうな弾力がある。すごい……、永遠にぷにぷにもちもち出来そう。
「ふふっ。ミカのお気に召す感触かな? パレドの生地を捏ねるのも気持ちいいのよ。量った材料の中にパレドードを入れて、よーく捏ねてね」
「うん、やってみるね」
言われたとおりにパレドードを落とした材料を捏ねてみる。最初は粉っぽい感じが、だんだんしっとりもっちりまとまってくるのが気持ちいい。潰れて馴染んでいくパレドードの感触を楽しみながら、ひたすら捏ねる。
「うん、いい感じね。けっこう粘り気があるでしょ?」
「うんうん、伸ばそうと思えばどこまでも伸びそう」
「でしょ? これが、良い生地の証なの。生地を捏ねている段階で粘りが強いと、焼いたときにいい食感になるのよ」
「そうなんだ、楽しみだね」
「ねー、楽しみ! ……うん、そんな感じでいいわね。じゃあ、全体的に丸くまとめてひとかたまりにして」
「……こう?」
「うん、いい感じよ。で、表面にツムト粉をはたいてあげたら、布巾をかけて、寝かせてあげる。……で、その間に、他の料理も用意しましょ!」
「うん! わくわくするね」
「わくわくしますね」
三人で顔を合わせて笑って、手を洗う。そして、そこから先も、夕飯の支度を次々に進めていった。
2
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる