魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-1】

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 ──暗い。寒い。怖い。悲しい。
 あの報せを聞いたとき、真っ暗闇に突き落とされたようだった。

『先生、とても嬉しそうに帰っていって……、今日は息子の誕生日なんだ、大きなケーキを買って帰らなきゃ、って。それが、あんな……』

 信号無視して猛スピードで突っ込んできた車に撥ねられた中水上なかみかみのおじさんの身体の傍では、白い大きな箱が潰れていたという。事故の直前、おじさんは馴染みのケーキ屋さんで、予約していた一番大きなサイズの誕生日ケーキを買ったらしい。
 ──そのケーキさえ買っていなければ、事故に遭っていなかったかもしれないのに。

海風みかくん、誕生日には何が欲しい? 遠慮せずに、一番に欲しいものを言ってくれたらいいんだよ』

 欲しいものなんて、無いよ。
 おじさんが一緒にいてくれること以上に欲しいものなんか、無いよ。

『何も無いの? そっか……、じゃあ今度、僕と一緒に買い物に行こうか。一緒に見て、何か気に入るものを見つけられたらいいね。誕生日は、特別な日だから。海風くんが生まれてくれたことをお祝いして、感謝する日。だから、記念になりそうなものを一緒に見つけよう。約束だよ』
『ああ、そうだ。今度、遊園地に行こうか。海風くん、行ったことないって言ってたでしょ? おじさんもね、行ったことないんだ。初めて同士、きっと楽しいよ。これも、約束だからね』

 約束したのに。
 約束してくれたのに、どうして。

 お経を読むお坊さんの声、あちこちから聞こえるすすり泣きの声、線香の匂い。
 目が眩むような白と黒の世界の中、僕は「どうして」と思い続けていた。

 どうして、神様は僕の大切なものを奪い続けるのだろう。
 どうして、仏様は僕の大切な人を連れて行ったのだろう。

 お願い、──ひとりにしないで。


 ◆◆◆


「ミカさん!」

 強く肩を揺すられ、耳元で大きな声が響き、僕はハッと覚醒した。
 少しずつクリアになっていく視界の中、紅く美しい瞳が間近にこちらを見下ろしているのが分かる。

「カミュ……?」

 名前を呼ぶと、美しい悪魔は安堵したように表情を和らげ、ベッドに乗せていた片膝を退けて、姿勢を正して立った。

「おはようございます、ミカさん。勝手にお部屋にお邪魔して、失礼いたしました。酷くうなされている声が聞こえたものですから、心配になってしまって……」
「ううん、ありがとう。心配をかけて、ごめんね。……僕、そんなに大きな声を出してた?」
「いえ、そんなことはないのではないかと。ただ、私は聴覚が鋭いほうですから。……嫌な夢を見たのですか?」

 遠慮がちに尋ねてくる彼に、緩く首を振って答える。

「ううん。嫌というか……、悲しい夢かな」
「悲しい夢?」
「うん。大切な人が死んじゃって、ひとりぼっちになっちゃう夢」
「……」

 カミュは息を呑み、僕をまじまじと見つめてきた。そして、彼はしみじみと呟く。

「独り遺された痛みは、私にもよく分かります。繰り返し夢に見てしまう悲しみも、それを悪夢と呼びたくない心情も、私にも覚えのあるものです。……辛かったですね、ミカさん」

 魔王に仕える魔の者であり不老不死でもあるカミュは、ジル以前の魔王たちとも生活を共にしていたはずで、たくさんの別れを経験してきたのだろう。それこそ、彼は僕の何倍も悲しい思いをしてきたはずだ。
 ──でも、僕はまだ、そこまで踏み込めるほどカミュのことを知らない。いつか、彼を慰められるくらい深く分かり合えたらいいけれど。

「カミュが起こしてくれて、助かったよ。ありがとう」
「いえいえ、とんでもない。……しかし、久しぶりにそういった夢を見たということは、何か心理的に負荷がかかっているのかもしれませんね。今日のこと、緊張していますか?」

 今日のこと。──そう言われて、寝起きの頭ながらに思い出す。そうだ、今日は大切なお客様を迎える日なんだ。

「緊張していないわけじゃないけど、夢でうなされるほどじゃないよ」
「本当ですか? でも、自覚以上に不調がある場合もありますし……、ちょっと失礼」

 心配そうに眉根を寄せたカミュが、僕の額に手のひらを宛がう。彼の手は、思っていたよりひんやりしていた。しばらくそうしてから、カミュはそっと手を離す。

「熱は無さそうですね」
「うん。僕、なんともないよ」
「うーん……、ですが、顔色もよろしくないのですよ。せめて、お客様をお迎えするまでは横になって休まれていたほうがいいかもしれません」
「えっ……、本当に平気だよ。それに、朝ごはんと昼ごはんの用意もしなくちゃ。お客様が来る前に、お茶菓子も作っておきたいし」

 ベッドから起き上がろうとすると、慌てたカミュに制止された。

「いえいえ、せめてもう少し休んでいたほうがいいです」
「大丈夫だよ。カミュは心配性だなぁ……」
「ですが、本当にお顔が青いのですよ。目も少し疲れた感じが出ていらっしゃいますし……」

 カミュが顔を曇らせたところで、部屋のドアがノックされる。二人してそちらへ注目すると、魔王が静かに入室してきた。
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