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【第3話】親交を深める鍋パーティー
【3-2】
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「あっ、ジル……! おはよう。お腹空いた? ごめんね、急いで用意するから、って……、わっ」
ジルが朝ごはんを待ちきれなくて来たのかと思って、急いで起きあがろうとしたんだけど、強い力で肩を押さえられてベッドに戻される。てっきりカミュの手かと思いきや、僕を押さえているのはジルだった。
……えっ? いつの間に? ジルの私室ほどじゃないけれど、僕の部屋だってそれなりの広さがあって、ドアからベッドまで二十歩くらいの距離はあるのに? 高速移動したの?
「顔色が悪いな」
「……へっ?」
「カミュが珍しくお前の部屋に行ったようだから、何かあったのかと様子を見に来たんだが……、ミカ、さてはお前、具合が悪いのに無理をしようとしていたな?」
「えっ、いや、そんなこと、」
「そうなんですよ、ジル様! お顔の色が優れないから休んでいてくださいと申し上げても、ミカさんは全然聞き入れてくださらないのです」
「なんだと? ミカ、それは良くないな」
「ああぁぁ、本当に平気なのに……」
目の前にいる世界を脅かす存在のはずの魔王と悪魔は、僕にとっては過保護コンビにすぎない。心配してくれるのはありがたいけれど、寝起きで血圧が低いだけで体調に問題があるわけじゃないし、お客様をお迎えする準備をするほうがよっぽど大事だ。
「ジル、カミュ、僕なんかのことをそこまで心配してくれるのは、本当にありがたいんだけどね? 僕は本当に、本当に大丈夫なんだよ。顔色だって、いつもそんなに良くないでしょ?」
「普段のミカは花弁のような血色の頬というわけではないが、それなりに健康的な顔色だぞ」
「ええ。ミカさんは色白ですが、ジル様のように青みがかっているわけではありません。でも、今は珍しくお顔が青いです」
起き上がろうとしても、彼らの圧がそれを許してくれない。僕の肩を掴んでいるジルの手に触れてみると、彼は彼で困ったような顔をする。……うーん、どうしよう。
「……確かに、今は少し顔色が悪いかもしれないけど、それはちょっと悲しい夢を見たからで……、少ししたら元通りだと思うんだ」
漆黒の瞳が、じっと見つめてくる。負けじと見返すと、優しい魔王は諦めたように溜息をついた。手をどけてくれたから、そろりそろりと身を起こす。ジルは片膝をついて、僕の顔を覗き込んできた。
「嘘はついていないようだな。本当に、少し休めば落ち着くんだな?」
「うん。むしろ、今すぐにでも活動できるくらいだよ。とりあえず身支度して、朝ごはん作りに行っていい?」
「いや……、……カミュ」
「はい?」
ジルは立ち上がり、傍らに立つカミュを見上げる。カミュは先を促すように小首を傾げた。
「お前は、ミカの身支度を見守っていてくれ。朝食は、俺が用意する」
「えっ!?」
「承知しました。ミカさんに異変が無いよう、注意して見守っておりますね」
「ああ、そうしてくれ。何か不調が出るようならすぐに休ませた上で、俺に報告すること」
「かしこまりました」
「えっ、いやいやいやいや、ちょっと待って! ジルが朝ごはん作るって……!?」
あまりにも普通に会話を続けている二人の間に割って入るようにして、僕は一番の疑問をぶつけてみる。でも、魔王と悪魔はきょとんとした顔で、「なんでそんなことを気にしているんだ?」とでも言いたげに視線を交わしていた。
「言ったことなかったか? 俺は、簡単な料理なら作れる。作れる種類があまりにも少ないから食事係の世話になっているが、食事係の不調時に一、二回の代理を務めるくらいは出来る」
「ええ。実際にアビーさんやマリオさんの代にもそういったことがありました。ですから、お言葉に甘えて大丈夫ですよ」
二人ともごく自然な微笑でそう言っているから、きっとそうなんだろうけど……。でも、ジルは一応は魔王様で、僕はその手下なわけで──、ここに来る前、それなりに「社畜」だった僕としては、部下である自分が休んで上司を働かせるということに何となく抵抗をおぼえてしまう。
そんなことを考えている僕を見て何か察したのか、ジルはほのかな苦笑と共に頭を撫でてきた。
「また何か生真面目に考えて悩んでいるな?」
「いや、だって……、魔王様に働いてもらうって、なんかちょっと気が引けるよ」
「魔王だって働くときは働く。というか、共に生活している仲間に食事を用意するくらいのことで、そんな大げさに考えることもないだろう。その顔色でウロウロされるほうが、俺は心配になって、それこそ仕事が手につかない」
「そっか……、じゃあ、お言葉に甘えようかな。ごめんね、ジル」
大した不調ではないのに、無駄に心配をかけているようで申し訳ない。思わず俯いてしまう僕の肩を、カミュが軽く叩いてくる。ハッと顔を上げると、紅い瞳がにっこりと笑いかけてきた。
「ミカさん。こういうときは、『ごめんなさい』より『ありがとう』のほうがジル様も嬉しいと思いますよ」
「あっ……、そっか。うん、そうだよね。ジル、本当にありがとう」
ありがとうと言いつつ、どうしても謝罪の意味も込めた視線を送ってしまう。そんな僕の頭をもう一度撫でてから、ジルは軽く胸を張った。
「朝食のことは心配せず、ゆっくりと身支度をするといい。何かあればカミュを頼ればいいし、とにかく無理はしないように。分かったな?」
「うん、分かった」
「ジル様、ミカさんのことはお任せを」
「ああ、くれぐれも頼んだぞ」
心配性の魔王様は踵を返し、颯爽と部屋を出て行く。その背中が妙にやる気に満ちているように見えたのは、気のせいだろうか。
ジルが朝ごはんを待ちきれなくて来たのかと思って、急いで起きあがろうとしたんだけど、強い力で肩を押さえられてベッドに戻される。てっきりカミュの手かと思いきや、僕を押さえているのはジルだった。
……えっ? いつの間に? ジルの私室ほどじゃないけれど、僕の部屋だってそれなりの広さがあって、ドアからベッドまで二十歩くらいの距離はあるのに? 高速移動したの?
「顔色が悪いな」
「……へっ?」
「カミュが珍しくお前の部屋に行ったようだから、何かあったのかと様子を見に来たんだが……、ミカ、さてはお前、具合が悪いのに無理をしようとしていたな?」
「えっ、いや、そんなこと、」
「そうなんですよ、ジル様! お顔の色が優れないから休んでいてくださいと申し上げても、ミカさんは全然聞き入れてくださらないのです」
「なんだと? ミカ、それは良くないな」
「ああぁぁ、本当に平気なのに……」
目の前にいる世界を脅かす存在のはずの魔王と悪魔は、僕にとっては過保護コンビにすぎない。心配してくれるのはありがたいけれど、寝起きで血圧が低いだけで体調に問題があるわけじゃないし、お客様をお迎えする準備をするほうがよっぽど大事だ。
「ジル、カミュ、僕なんかのことをそこまで心配してくれるのは、本当にありがたいんだけどね? 僕は本当に、本当に大丈夫なんだよ。顔色だって、いつもそんなに良くないでしょ?」
「普段のミカは花弁のような血色の頬というわけではないが、それなりに健康的な顔色だぞ」
「ええ。ミカさんは色白ですが、ジル様のように青みがかっているわけではありません。でも、今は珍しくお顔が青いです」
起き上がろうとしても、彼らの圧がそれを許してくれない。僕の肩を掴んでいるジルの手に触れてみると、彼は彼で困ったような顔をする。……うーん、どうしよう。
「……確かに、今は少し顔色が悪いかもしれないけど、それはちょっと悲しい夢を見たからで……、少ししたら元通りだと思うんだ」
漆黒の瞳が、じっと見つめてくる。負けじと見返すと、優しい魔王は諦めたように溜息をついた。手をどけてくれたから、そろりそろりと身を起こす。ジルは片膝をついて、僕の顔を覗き込んできた。
「嘘はついていないようだな。本当に、少し休めば落ち着くんだな?」
「うん。むしろ、今すぐにでも活動できるくらいだよ。とりあえず身支度して、朝ごはん作りに行っていい?」
「いや……、……カミュ」
「はい?」
ジルは立ち上がり、傍らに立つカミュを見上げる。カミュは先を促すように小首を傾げた。
「お前は、ミカの身支度を見守っていてくれ。朝食は、俺が用意する」
「えっ!?」
「承知しました。ミカさんに異変が無いよう、注意して見守っておりますね」
「ああ、そうしてくれ。何か不調が出るようならすぐに休ませた上で、俺に報告すること」
「かしこまりました」
「えっ、いやいやいやいや、ちょっと待って! ジルが朝ごはん作るって……!?」
あまりにも普通に会話を続けている二人の間に割って入るようにして、僕は一番の疑問をぶつけてみる。でも、魔王と悪魔はきょとんとした顔で、「なんでそんなことを気にしているんだ?」とでも言いたげに視線を交わしていた。
「言ったことなかったか? 俺は、簡単な料理なら作れる。作れる種類があまりにも少ないから食事係の世話になっているが、食事係の不調時に一、二回の代理を務めるくらいは出来る」
「ええ。実際にアビーさんやマリオさんの代にもそういったことがありました。ですから、お言葉に甘えて大丈夫ですよ」
二人ともごく自然な微笑でそう言っているから、きっとそうなんだろうけど……。でも、ジルは一応は魔王様で、僕はその手下なわけで──、ここに来る前、それなりに「社畜」だった僕としては、部下である自分が休んで上司を働かせるということに何となく抵抗をおぼえてしまう。
そんなことを考えている僕を見て何か察したのか、ジルはほのかな苦笑と共に頭を撫でてきた。
「また何か生真面目に考えて悩んでいるな?」
「いや、だって……、魔王様に働いてもらうって、なんかちょっと気が引けるよ」
「魔王だって働くときは働く。というか、共に生活している仲間に食事を用意するくらいのことで、そんな大げさに考えることもないだろう。その顔色でウロウロされるほうが、俺は心配になって、それこそ仕事が手につかない」
「そっか……、じゃあ、お言葉に甘えようかな。ごめんね、ジル」
大した不調ではないのに、無駄に心配をかけているようで申し訳ない。思わず俯いてしまう僕の肩を、カミュが軽く叩いてくる。ハッと顔を上げると、紅い瞳がにっこりと笑いかけてきた。
「ミカさん。こういうときは、『ごめんなさい』より『ありがとう』のほうがジル様も嬉しいと思いますよ」
「あっ……、そっか。うん、そうだよね。ジル、本当にありがとう」
ありがとうと言いつつ、どうしても謝罪の意味も込めた視線を送ってしまう。そんな僕の頭をもう一度撫でてから、ジルは軽く胸を張った。
「朝食のことは心配せず、ゆっくりと身支度をするといい。何かあればカミュを頼ればいいし、とにかく無理はしないように。分かったな?」
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