魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第3話】親交を深める鍋パーティー

【3-13】

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「僕と……二人で……?」

 僕が戸惑っている横で、カミュも心なしか警戒し始める。ジルの瞳にも緊張が走った。
 そんな場の空気など全く気にしていないのか、マティ様はマイペースに頷く。

「左様。ただの初対面であれば、二人きりで話をさせてくれといきなり告げても難しいかもしれないが、我々は先ほど互いに歩み寄って多少なりとも交友を深めたであろう。構わないな?」

 ──なるほど。どうやら、この王子様は最初からこれを目標として、僕に気安く接するよう求めてきたんだ。勿論それだけが目的では無いんだろうけど、二人きりで会話する機会を得やすくしたいという意識はあっただろう。実際に今、断りづらい流れが生まれている。

「……ミカと話をするにしても、二人きりに拘るのは何故だ? 俺たちがいる前では出来ない話があるとでも?」

 静かに口を挟んできたジルへ、王子様は人差し指を突きつけた。

「ほら、それが問題なのだ」
「……はぁ?」
「先程から、ずっとそうだ。私がミカへ言葉を投げかけていても、彼が口ごもった途端にカミュやジルが間に入ってくる。それでは、ミカ自身と腹を割った話が出来ぬ」

 ギクリ、とした。図星だ。確かに、さっきから僕は魔王と悪魔に助けられてばかりで、彼らの助け舟があるのをいいことに、気まずい場面では口を閉ざしてしまっている。

「ミカとお前が何を腹を割る必要がある? 彼は食事係だ。本来、出迎えの挨拶のあとは下がっていい立場だろう」
「だが、マリオはただの食事係ではなかった。そなたの家族のような立ち位置で、見守り続けていたではないか。ミカもまた、家族に近しい存在なのではないか? それも、今度はジルが見守る側の立場にある。より一層、思い入れも深いだろう。だからこそ、言葉にしづらいこともあるのではないか? ミカの様子からして、彼はまだ知らないはずだ。──魔王の死期について、」
「マティアス!」

 王子の言葉を、魔王の怒号が遮った。ジルらしくなく、感情が昂っている声音だ。憤りよりも、焦りが滲み出ている。
 そして、ジルが必死に遮っていたけれど、僕は聞いてしまった。魔王の死期、という背筋が凍りそうなフレーズを。シキは、指揮でも士気でも四季でもなく「死期」なのだと、カミュに掛けられた翻訳魔法が教えてくれている。

「やはり、まだ伏せているのだな。だが、ミカが知っておくべき事情ではないのか」
「無論、じきに話すつもりだ。だが、彼はまだこの世界にも慣れていない。ある程度、心身が安定してから、追々ゆっくりと説明していこうと思っていた。それを、お前は……!」
「そなたは悠長すぎるのだ。そうしている間に、そのときが訪れてしまうかもしれないのに。自分でも分かっているはずだ。歴代の魔王よりは長く生きられない可能性が、それなりに高いということを」
「……」
「だからこそ私は懸命に迅速な研究を心掛けているし、ミカも理解しておくべきだと思う。なぜなら、彼はとても若い。高齢だったマリオ以上に、分かっている必要がある」

 ジルは唇を閉ざし、カミュは口を噤んだままだ。──心の中が、ざわざわしている。魔王の死期、即ち、ジルの寿命に関わる話のはずだ。ジルは長生きできない……?
 僕の不安を察したのか、マティ様はこちらをまっすぐに射抜いて来る。

「どうだ、ミカ。魔王のこと──、ジルのことを知りたくないか?」
「それは……、でも……、ジルが話してくれるのを待ちたい気持ちもあって……」
「いつになるか分からぬぞ。あれは相当、口が重たくなっている」

 マティ様からジロリと睨まれても、ジルは気まずそうに顔をそむけるだけで、反論しようとはしない。つまり、マティ様の指摘通り、彼からは話しづらい事情なのかもしれない。

「……ジル、マティ様から話を聞いてもいい?」

 僕の言葉が意外だったのか、ジルとカミュが勢いよくこちらを振り向いて目を瞬かせる。
 僕だって、まさか自分からマティ様との歓談を希望するなんて、ついさっきまで思いもしなかった。苦手なタイプの人と二人きりになるなんて、正直なところ回避したい。──でも、それ以上に、ジルのことをきちんと知りたい。彼がいずれ僕に話すつもりなのは分かっているけれど、話しづらいのなら、他の人の口から聞くのもアリなんじゃないかと、そう思ったんだ。

「俺は止めたりはしない。ミカが望むのなら、そうするといい。──ただし、マティアス」

 僕へと静かに向けられていた漆黒の視線が王子へと移行し、同時に鋭い眼光を宿す。

「くれぐれも、ミカを傷つけるな。ミカは、魔王の食事係。魔王が召し抱えている存在だということを、くれぐれも忘れるなよ」
「……分かっている。ここは、魔王の城。そちらの領域であることも、彼が魔王にとって大切な従僕であることも理解している」
「マティアス。そういう言い方は、」
「うるさい。分かっていると言っているだろう。──というわけで、ミカ。すまないが、二人分の茶を淹れてきてくれるか? 私は先に食堂へ行っている。私とミカが話している間、カミュは積み荷を調理場へ運んでおいてくれ」

 一方的に語るマティ様に対して僕とジルが唖然としている横で、カミュは「かしこまりました」と礼儀正しく頭を下げていた。
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