66 / 246
【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
【4-3】
しおりを挟む
「ジルが朝ごはんを……? なんで?」
前に一度、マティ様が来るという日にジルが朝食を作ってくれたことはある。あのときは、僕の顔色が悪いからと気遣ってくれたからだけど、今朝はどうして料理してくれたんだろう。
チラリとカミュを見ると、美しい悪魔は視線を泳がせた。珍しい。目力のある彼は、いつでもまっすぐに視線を受け止めて、ストレートに見つめ返してくるイメージがある。こんな風に目を逸らすなんて、殆ど無い。
「……カミュ?」
「あー……、えぇと、そうですね……、今日はミカさんに朝食を作ってさしあげたい気分なんだと思いますよ」
「そうなの? たまたま、そういう気分だったのかな」
「たまたまというか……、まぁ、今日はそういう日なのかと」
よく分からないけれど、カミュは慎重に言葉を選んでいるというか、彼らしくない口ごもり方をしている。どうしたんだろう。でも、体調が悪いようには見えないし、機嫌も悪くなさそうだし……、単にジルの気持ちを代弁なんて出来ないから困っちゃっただけなのかな。
これ以上突っ込んで訊くようなことでもないし、今日はこのまま食堂に向かわせてもらおう。
「じゃあ、食堂に行くね。……あ、でも、何か手伝うことあるかもしれないし、通りすがりに調理場を覗いていこうかな」
「無いです!」
「……えっ?」
「大丈夫です。ミカさんがお手伝いするようなことは無さそうでしたので、このまま食堂に参りましょう! ええ、もう! ぜひ、そういたしましょう!」
ね? と念押ししてくるカミュの笑顔に、なんとなく圧があるような。気のせいだろうか。よく分からないけれど、彼はどうしても食堂に直行してほしいみたいだし、言う通りにしようかな。
「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて、今朝はこのまま食堂に行っちゃおうかな」
「ええ、ええ! それでは、参りましょうね」
ほっとしたように肩の力を抜いたカミュが、黒い翼をパサリとはためかせる。そしてわずかに浮いた彼は恭しい一礼をして、先導し始めた。
◇
食堂には、既に良い匂いが立ち込めていた。この、卵たっぷりでふわふわな感じの香りは──、
「ロロだ……!」
ジルの生まれ故郷で定番の朝食だったというロロは、パンケーキとクレープの中間地点にあるような食感の生地に好きな具材を巻き込んで食べるものだ。具材の組み合わせによって味も変化する、楽しいメニューだと思う。
テーブルの上に載った様々な具材を眺めていると、調理場に通じている扉からジルがやって来た。香ばしいコーヒーみたいな匂いがするし、三つのカップを宙に浮かして移動させているから、カボ茶を運んできたと思われる。
「おはよう、ミカ。変わり映えしない献立だろうが、今朝は俺が作らせてもらった」
「おはよう、ジル。またロロを食べたいなって思っていたから、とっても嬉しいよ。ありがとう!」
素直にお礼を伝えると、ジルは目元を和らげて微笑んだ。そして、揃えた指先で椅子を示す。
「それなら、良かった。さぁ、座れ。カミュもな」
「うん!」
「分かりました。ありがとうございます」
三人とも着席したところで、「いただきます」と唱和する。そこで改めて、テーブルに載っている具材を眺めた。
鳥肉に香草をまぶして焼いて薄切りにしたもの、目玉焼き、炒めた春野菜に酸味をきかせたもの、ちぎったチーズっぽいもの(モッツァレラチーズによく似ている)に花蜜と塩を和えたもの、木の実と食用花を和えたもの──、うん、どれも美味しそう!
「すごいね、ジル! この前ロロをいただいたときとは、具材が全然違う……!」
「ああ。少し目新しい気分になるだろう? ちょうど、食用花や花蜜が色々と手に入る良い時期になったからな。春らしい具材をいくつか用意できたと思う」
「うん、見た目もとっても綺麗だね。素敵な朝ごはん、嬉しいなぁ」
この世界では食用とされる花の種類が多いようで、料理に花弁を彩ったり、花の蜜を多用したりするらしい。マリオさんが手記に残していたレシピにも、春向けのものとして花をたくさん使った料理が載っていたし、添えられている料理のイラストも華やかなものだった。
「どの組み合わせで食べようか迷っちゃう。こうして悩みながら食べられるのも、ロロの楽しいところだよね」
わくわくと目移りしながら言うと、向かいの席のカミュが穏やかに笑う。
「ふふっ。ミカさんは、ロロがとてもお気に召したようですね」
「うん、大好き! とっても美味しいけど、ロロだけは自分で作ってみたいとは思わないんだよね。甘えかもしれないけど、これはジルに作ってもらったものを食べたいというか……」
そこまで言ったところで、お前は食事係のくせに何を言っているんだと呆れられてしまわないかと心配になり、斜め横の上座に座っているジルに視線を向けると、意外にも彼は上機嫌に口角を上げていた。
「可愛いことを言ってくれる。こんなものでいいなら、いつでも作ってやるぞ」
「あっ、う、うん。ありがとう。でも、食事係は僕だからね。これからも、しっかりとごはんを作るよ。……だけど、本当に時々でいいから、ジルの気が向いたときにロロを作ってくれたら嬉しいな」
「ああ、勿論だ」
快諾したジルが腕を伸ばして、頭を撫でてくる。こうされるのは日常茶飯事だけれど、なんだか今日は格別に嬉しく感じて、僕は無意識に目を細めた。
前に一度、マティ様が来るという日にジルが朝食を作ってくれたことはある。あのときは、僕の顔色が悪いからと気遣ってくれたからだけど、今朝はどうして料理してくれたんだろう。
チラリとカミュを見ると、美しい悪魔は視線を泳がせた。珍しい。目力のある彼は、いつでもまっすぐに視線を受け止めて、ストレートに見つめ返してくるイメージがある。こんな風に目を逸らすなんて、殆ど無い。
「……カミュ?」
「あー……、えぇと、そうですね……、今日はミカさんに朝食を作ってさしあげたい気分なんだと思いますよ」
「そうなの? たまたま、そういう気分だったのかな」
「たまたまというか……、まぁ、今日はそういう日なのかと」
よく分からないけれど、カミュは慎重に言葉を選んでいるというか、彼らしくない口ごもり方をしている。どうしたんだろう。でも、体調が悪いようには見えないし、機嫌も悪くなさそうだし……、単にジルの気持ちを代弁なんて出来ないから困っちゃっただけなのかな。
これ以上突っ込んで訊くようなことでもないし、今日はこのまま食堂に向かわせてもらおう。
「じゃあ、食堂に行くね。……あ、でも、何か手伝うことあるかもしれないし、通りすがりに調理場を覗いていこうかな」
「無いです!」
「……えっ?」
「大丈夫です。ミカさんがお手伝いするようなことは無さそうでしたので、このまま食堂に参りましょう! ええ、もう! ぜひ、そういたしましょう!」
ね? と念押ししてくるカミュの笑顔に、なんとなく圧があるような。気のせいだろうか。よく分からないけれど、彼はどうしても食堂に直行してほしいみたいだし、言う通りにしようかな。
「……うん。じゃあ、お言葉に甘えて、今朝はこのまま食堂に行っちゃおうかな」
「ええ、ええ! それでは、参りましょうね」
ほっとしたように肩の力を抜いたカミュが、黒い翼をパサリとはためかせる。そしてわずかに浮いた彼は恭しい一礼をして、先導し始めた。
◇
食堂には、既に良い匂いが立ち込めていた。この、卵たっぷりでふわふわな感じの香りは──、
「ロロだ……!」
ジルの生まれ故郷で定番の朝食だったというロロは、パンケーキとクレープの中間地点にあるような食感の生地に好きな具材を巻き込んで食べるものだ。具材の組み合わせによって味も変化する、楽しいメニューだと思う。
テーブルの上に載った様々な具材を眺めていると、調理場に通じている扉からジルがやって来た。香ばしいコーヒーみたいな匂いがするし、三つのカップを宙に浮かして移動させているから、カボ茶を運んできたと思われる。
「おはよう、ミカ。変わり映えしない献立だろうが、今朝は俺が作らせてもらった」
「おはよう、ジル。またロロを食べたいなって思っていたから、とっても嬉しいよ。ありがとう!」
素直にお礼を伝えると、ジルは目元を和らげて微笑んだ。そして、揃えた指先で椅子を示す。
「それなら、良かった。さぁ、座れ。カミュもな」
「うん!」
「分かりました。ありがとうございます」
三人とも着席したところで、「いただきます」と唱和する。そこで改めて、テーブルに載っている具材を眺めた。
鳥肉に香草をまぶして焼いて薄切りにしたもの、目玉焼き、炒めた春野菜に酸味をきかせたもの、ちぎったチーズっぽいもの(モッツァレラチーズによく似ている)に花蜜と塩を和えたもの、木の実と食用花を和えたもの──、うん、どれも美味しそう!
「すごいね、ジル! この前ロロをいただいたときとは、具材が全然違う……!」
「ああ。少し目新しい気分になるだろう? ちょうど、食用花や花蜜が色々と手に入る良い時期になったからな。春らしい具材をいくつか用意できたと思う」
「うん、見た目もとっても綺麗だね。素敵な朝ごはん、嬉しいなぁ」
この世界では食用とされる花の種類が多いようで、料理に花弁を彩ったり、花の蜜を多用したりするらしい。マリオさんが手記に残していたレシピにも、春向けのものとして花をたくさん使った料理が載っていたし、添えられている料理のイラストも華やかなものだった。
「どの組み合わせで食べようか迷っちゃう。こうして悩みながら食べられるのも、ロロの楽しいところだよね」
わくわくと目移りしながら言うと、向かいの席のカミュが穏やかに笑う。
「ふふっ。ミカさんは、ロロがとてもお気に召したようですね」
「うん、大好き! とっても美味しいけど、ロロだけは自分で作ってみたいとは思わないんだよね。甘えかもしれないけど、これはジルに作ってもらったものを食べたいというか……」
そこまで言ったところで、お前は食事係のくせに何を言っているんだと呆れられてしまわないかと心配になり、斜め横の上座に座っているジルに視線を向けると、意外にも彼は上機嫌に口角を上げていた。
「可愛いことを言ってくれる。こんなものでいいなら、いつでも作ってやるぞ」
「あっ、う、うん。ありがとう。でも、食事係は僕だからね。これからも、しっかりとごはんを作るよ。……だけど、本当に時々でいいから、ジルの気が向いたときにロロを作ってくれたら嬉しいな」
「ああ、勿論だ」
快諾したジルが腕を伸ばして、頭を撫でてくる。こうされるのは日常茶飯事だけれど、なんだか今日は格別に嬉しく感じて、僕は無意識に目を細めた。
2
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる