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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
【4-2】
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身支度を整えて部屋を出て、いつも通りに調理場を目指して階段を降りて行く。その途中でも、窓から陽光が射していて気持ちいい。歴史ある古城を散歩しているかのような、贅沢な気分になる。
無意識に鼻歌を奏でながら歩いていると、背後から羽音が迫ってくるのが聞こえてきた。クックやポッポよりも大きくて迫力のある翼の音、これは──、
「おはようございます、ミカさん」
立ち止まる僕の頭を追い越して、目の前へ優雅に降り立ったのは、想像通りカミュだった。急いで飛んできたからか、彼らしくなく髪が少し乱れている。
「おはよう、カミュ。ちょっと屈んでもらってもいい?」
「えっ? はい」
理由を尋ねることも、警戒することも無く、カミュは素直に腰を落として身を低くしてくれた。それだけ信頼されているという証のようで、なんだか嬉しい。ちょっと浮ついた気分になりつつ、艶があって綺麗な紅い髪へ手を伸ばす。
カミュの髪は特別にセットされている様子も無いし、そもそもそんなに長いわけでもないけれど、いつも美しく纏まっているしサラサラしている。そんな素晴らしい質感の髪を撫でるように手を滑らせて、いつも通りのフォルムへ戻した。
「うん、これでよし!」
「乱れておりましたか? すみません、ありがとうございます」
「ううん、ちょっとだけだったから。カミュの髪、相変わらず綺麗だね。色も素敵だし、サラサラしてるし、ツヤツヤだし」
「お褒めいただき、ありがとうございます。……ちょっと、恥ずかしいです」
カミュがはにかむ姿が可愛らしくて、僕はつい口元が緩んでしまう。すると、美しい悪魔は、負けじと微笑んできた。
「私は、ミカさんの姿の色味がとても好きですよ。肌も髪も淡い色合いで、とても可愛らしくて」
「可愛くはないと思うけど、確かに色素が薄いほうではあるのかな」
僕の髪も目の色も日本人にしては珍しい薄さで、グラスに注いだほうじ茶程度の明るさの茶色だ。髪を染めているとか、カラーコンタクトを装着しているとか、そういった勘違いをされることも多かったけれど、これは生まれつきのものだった。
「でも、この世界の人たちもみんな色が薄いんじゃない?」
キカさんもマティ様も淡くて透明感のある色味の印象の容姿だったし、ジルも髪と瞳は黒いけれど肌は雪のように白い。そのジルだって、元々は金髪翠眼だったようだし。そんなことを考えて首を傾げる僕に対し、カミュはわずかに首を振った。
「いえ、肌も髪も様々な色の方がいらっしゃいますよ。魔王への勝負を挑まれる人々も多岐にわたった容姿ですから、眺めていると楽しいです」
「ああ……、勝負……」
「ええ。でも、ミカさんは近付いてはいけませんよ。とても危ないですからね」
そう。この城へは、キカさんやマティ様のような友好的な人だけではなく、魔王に勝負を挑むことが目的の人の来訪もあるんだ。温かくなってきて長距離の移動もしやすくなってきたからか、何日かに一度くらいのペースで、打倒魔王を目論む人がやって来る。一応は、相手も命懸けとなるのを覚悟して挑みに来るのだからと、ジルはそれなりの対応をしているらしいけど、勝負内容が何であれ魔王が負けることはなく、ボロ負けした挑戦者はジルによって気絶させられた上で怪我を治療されて、魔王の領地外の森へ放り出されるんだそうだ。
「戦ってる人たちの傍に行っても邪魔になるだけだろうし、近寄ったりはしないけど……、どうして無謀な挑戦をする人がそれなりにいるんだろう? 魔王を殺せるのは、基本的には勇者の素質がある人だけなんでしょ? その勇者の素質が出現するのも、魔王が暴走している時期だけだっていうなら……、まだ正気のジルに勝負を挑んでも無駄だよね」
つい先日カミュに教えてもらったことを交えながらの疑問をぶつけると、彼は優しく笑みを深めた。
「夢があるから、と語っていた方がいらっしゃいましたよ」
「……夢?」
「勇者が現れるはずの無い時期に打倒魔王を果たせたら、古の伝説の勇者に匹敵する存在になれるのでは、という夢だそうです。叶いそうにない夢を抱くなんて、人間という生き物は本当に可愛らしいですね」
「そ、そうかなぁ……?」
カミュが言う「可愛い」の感覚がよく分からない。可愛いか否かは置いておくとしても、付き合わされて面倒くさそうに勝負の相手をしているジルのことを思うと、魔王的には迷惑な夢なんだろうなぁ。
ジルを不憫に感じると同時に、僕は自分がどこに向かっている途中なのかを、ふと思い出した。
「そうだ。朝ごはん、作らないと。カミュも手伝ってくれる?」
再び歩き出そうとした僕の行く手を、カミュがさりげなく阻んでくる。
「えっ? どうしたの、カミュ」
「そうでした。私は、ミカさんにお伝えすることがあって、急いで飛んできたのです。すっかり忘れておりまして、失礼いたしました」
「伝えること……?」
「ええ。今日の朝食は、もう既にジル様がご用意されています。ですから、ミカさんには調理場に行かず、そのまま食堂へ向かってほしいのです」
無意識に鼻歌を奏でながら歩いていると、背後から羽音が迫ってくるのが聞こえてきた。クックやポッポよりも大きくて迫力のある翼の音、これは──、
「おはようございます、ミカさん」
立ち止まる僕の頭を追い越して、目の前へ優雅に降り立ったのは、想像通りカミュだった。急いで飛んできたからか、彼らしくなく髪が少し乱れている。
「おはよう、カミュ。ちょっと屈んでもらってもいい?」
「えっ? はい」
理由を尋ねることも、警戒することも無く、カミュは素直に腰を落として身を低くしてくれた。それだけ信頼されているという証のようで、なんだか嬉しい。ちょっと浮ついた気分になりつつ、艶があって綺麗な紅い髪へ手を伸ばす。
カミュの髪は特別にセットされている様子も無いし、そもそもそんなに長いわけでもないけれど、いつも美しく纏まっているしサラサラしている。そんな素晴らしい質感の髪を撫でるように手を滑らせて、いつも通りのフォルムへ戻した。
「うん、これでよし!」
「乱れておりましたか? すみません、ありがとうございます」
「ううん、ちょっとだけだったから。カミュの髪、相変わらず綺麗だね。色も素敵だし、サラサラしてるし、ツヤツヤだし」
「お褒めいただき、ありがとうございます。……ちょっと、恥ずかしいです」
カミュがはにかむ姿が可愛らしくて、僕はつい口元が緩んでしまう。すると、美しい悪魔は、負けじと微笑んできた。
「私は、ミカさんの姿の色味がとても好きですよ。肌も髪も淡い色合いで、とても可愛らしくて」
「可愛くはないと思うけど、確かに色素が薄いほうではあるのかな」
僕の髪も目の色も日本人にしては珍しい薄さで、グラスに注いだほうじ茶程度の明るさの茶色だ。髪を染めているとか、カラーコンタクトを装着しているとか、そういった勘違いをされることも多かったけれど、これは生まれつきのものだった。
「でも、この世界の人たちもみんな色が薄いんじゃない?」
キカさんもマティ様も淡くて透明感のある色味の印象の容姿だったし、ジルも髪と瞳は黒いけれど肌は雪のように白い。そのジルだって、元々は金髪翠眼だったようだし。そんなことを考えて首を傾げる僕に対し、カミュはわずかに首を振った。
「いえ、肌も髪も様々な色の方がいらっしゃいますよ。魔王への勝負を挑まれる人々も多岐にわたった容姿ですから、眺めていると楽しいです」
「ああ……、勝負……」
「ええ。でも、ミカさんは近付いてはいけませんよ。とても危ないですからね」
そう。この城へは、キカさんやマティ様のような友好的な人だけではなく、魔王に勝負を挑むことが目的の人の来訪もあるんだ。温かくなってきて長距離の移動もしやすくなってきたからか、何日かに一度くらいのペースで、打倒魔王を目論む人がやって来る。一応は、相手も命懸けとなるのを覚悟して挑みに来るのだからと、ジルはそれなりの対応をしているらしいけど、勝負内容が何であれ魔王が負けることはなく、ボロ負けした挑戦者はジルによって気絶させられた上で怪我を治療されて、魔王の領地外の森へ放り出されるんだそうだ。
「戦ってる人たちの傍に行っても邪魔になるだけだろうし、近寄ったりはしないけど……、どうして無謀な挑戦をする人がそれなりにいるんだろう? 魔王を殺せるのは、基本的には勇者の素質がある人だけなんでしょ? その勇者の素質が出現するのも、魔王が暴走している時期だけだっていうなら……、まだ正気のジルに勝負を挑んでも無駄だよね」
つい先日カミュに教えてもらったことを交えながらの疑問をぶつけると、彼は優しく笑みを深めた。
「夢があるから、と語っていた方がいらっしゃいましたよ」
「……夢?」
「勇者が現れるはずの無い時期に打倒魔王を果たせたら、古の伝説の勇者に匹敵する存在になれるのでは、という夢だそうです。叶いそうにない夢を抱くなんて、人間という生き物は本当に可愛らしいですね」
「そ、そうかなぁ……?」
カミュが言う「可愛い」の感覚がよく分からない。可愛いか否かは置いておくとしても、付き合わされて面倒くさそうに勝負の相手をしているジルのことを思うと、魔王的には迷惑な夢なんだろうなぁ。
ジルを不憫に感じると同時に、僕は自分がどこに向かっている途中なのかを、ふと思い出した。
「そうだ。朝ごはん、作らないと。カミュも手伝ってくれる?」
再び歩き出そうとした僕の行く手を、カミュがさりげなく阻んでくる。
「えっ? どうしたの、カミュ」
「そうでした。私は、ミカさんにお伝えすることがあって、急いで飛んできたのです。すっかり忘れておりまして、失礼いたしました」
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