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【第4話】応援フロランタンと祝福ケーキ
【4-17】
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「カミュ?」
名を呼びながら振り返ると、そこには思っていた通り、美しい悪魔が立っていた。柔らかく微笑んだ彼は、綺麗な姿勢で軽く頭を下げる。
「お疲れ様でした、ミカさん。見事な対処でしたね」
「僕は何もしていないよ。アリスちゃんの杖を探してくれたのも、森の先の村へ行くといいっていう情報をくれたのも、カミュでしょ? どうもありがとう」
「あのくらい、お安い御用です。それに、彼女があのように明るい表情で出発していったのは、ミカさんが心を寄せて親身になってさしあげたからだと思いますよ。お兄さんらしく接しているミカさんが新鮮で、見守っていたこちらも和みました」
相変わらず持ち上げ上手というか、些細なことでも褒めてくれるカミュの言葉を聞きながら、僕の心の中にひとつの考えが湧き上がった。
「確かに、今のアリスちゃんとのやり取りは、上手くいったかもしれない。ぼんやり憧れていた通りというか」
「憧れ?」
「うん。自分の考えを相手にしっかりと伝えて、それが相手が求めている答えと合致して、力になってあげられるような、そういうやりとりに憧れていた、というか……」
地球での僕は、他者との関わりが希薄で、誰かと深い会話を交わすことなんて無かった。誰かが僕個人に助けの手を差し伸べてくれることも無ければ、逆に、僕が誰かの力になれたことも無い。
学生時代は学校とアルバイト以外は読書をして過ごし、社会人になってからは家にいる間はずっとサブスクで映画を観続けていた。あらゆる物語に触れて、その世界に溶け込んで主人公の気持ちを辿りながら、いつか僕も誰かと繋がって力になれるような人間になれたら、と夢見ていたんだ。誰かに手料理を振る舞えたら、と願うのと同程度の淡い夢だったけれど、今はそのどちらも叶っている。
「──ミカさんは時々、ご自分は他人との関わり方が下手で、会話を続けるのも苦手だと仰いますが。決してそんなことはないと思います」
「……そうかなぁ?」
「ええ。チキュウではきっと、ミカさんも周囲の人たちへ向けて一歩踏み出そうとされていなかったし、周りの人々もミカさんへ積極的に関わろうとしていなかっただけなのではないかと。だって、ジル様や私とも、キカさんやマティアス様とも、先程の少女とも、ミカさんは上手にお話されています。ね?」
そう言ってくれる声も、言葉の内容も、あまりにも温かい。思わず涙腺が刺激されそうなほどに。それをグッと堪えて、僕はカミュに笑いかけた。
「僕がきちんと話せるようになったんだとしたら、それはカミュとジルのおかげだね。僕の話をきちんと聞いてくれて、色々と話し聞かせてくれる君たちがいるから、僕は足りなかった一歩を踏み出せるようになったのかもしれないね」
少し前向きに捉えられるようになった僕の言葉を聞き、カミュは優しく笑みを深める。そして、彼は不意に何か思い当たったのか、表情の柔らかさはそのままに眉尻を下げて苦笑へと移ろった。
「ミカさんの魅力が増してゆくのは結構なことですが、貴方を養いたい人物が増えてしまったのは少々困りましたね。まぁ、名家のお嬢様とはいえ、王子様には勝てないでしょうから、マティアス様が優勢でしょうか。ただ、王族がゆえに援助がしづらい場合も考えられますから、そういったときのために、候補が増えたのは良かったと見ることも出来るかもしれませんね。そう考えれば、困るどころか喜ぶべきことなのかもしれません」
「……何の話?」
「万が一、ミカさんがこの城を去らねばならないときが来たとしたら、身を寄せる先が無いと困るでしょう? マティアス様にお任せすれば安心だと思っておりましたが、そちらが駄目だった場合の候補先が見つかったのでは、というお話です」
「え……、でも、それって……」
僕が養われる云々はこの際置いておくとしても、僕がこの城を去らねばならないとしたら、それはジルという魔王の僕としての価値や役割が無くなったときのはずだ。魔王である限り、ジルは異世界の人間を誰かしら手元へ置いておかねばならないはずで、僕が城を去るということは、つまり……?
「ミカさん、食堂へ参りましょう」
不穏な未来を想像しかけた僕の思考を引き戻すかのように、カミュが明るい声で言った。そして、彼は側に置いてあった布袋を取り、中を覗いて口元を綻ばせる。
「ああ、食用花も蜜用花も、こんなにたくさん摘んでくださったのですね。とても助かります。ありがとうございました」
「あ、ああ、うん。クックとポッポがすごく頑張ってくれたんだよ」
「そうでしたか。彼らにも後でご褒美をあげましょう。──でも、その前にミカさんのおやつの時間です」
そう言ったカミュは布袋を軽く叩き、それは瞬時に消えてしまった。おそらく転移魔法で調理場へ送ったのだろう。本当に、魔法って便利だ。ここまで魔法を使いこなせる人はそんなに多くないんだろうけど。
「今日のおやつは何を作ろうかな」
「いえいえ、おやつはもう用意してありますよ」
「えっ? ……もしかして、ジルが? 今日のジルはやけに料理をしたがるよね」
ここまで続くと流石に心配になって首を傾げてしまう。しかし、カミュはそんな僕をどこか楽しげに見下ろし、急に何の前触れもなく手を取ってきた。
「えっ? カミュ、どうしたの?」
「ああ、すみません。驚かせてしまいましたか? 転移魔法で食堂までお連れしようかと思いまして」
「えっ、ど、どうして……? 僕、怪我も何もしていないよ」
運動のためにも、僕は普通に徒歩移動しているし、ジルとカミュだって大体は歩いているのに。不審がる僕を気にすることもなく、カミュはマイペースに笑っている。
「まぁまぁ、たまにはいいでしょう? では、目を閉じてくださいね」
「えっ? ちょ、ちょっと……!」
「参りますよ」
有無を言わさぬ口調で告げられ、僕は反射的にぐっと目を瞑り、カミュの手を握りしめた。大きな手がしっかり握り返してきた瞬間、身体中を何かにつままれて持ち上げられているような奇妙な浮遊感があり、変な耳鳴りが聞こえた。
そうして何処かへ身体を放り出されたような感覚があったと思ったら、次の瞬間には何かに座らされている。驚いて肩を震わせる僕の耳元に、カミュの優しい囁き声が落とされた。
「ミカさん、もう目を開けてもいいですよ」
促されるまま、瞼を押し上げる。すると、開けたばかりの目に眩しい光が射し込んできて、それに眩んでいる視界のいたるところで小さな星のような何かがいくつも弾け、色とりどりの花びらが宙を舞った。
な、何だ!? これは一体──!?
混乱していると、ふたつの笑い声が重なって聞こえ、続いて慈しみに満ちた言葉がふたつ飛んできた。
「誕生日おめでとう、ミカ」
「ミカさん、お誕生日おめでとうございます」
名を呼びながら振り返ると、そこには思っていた通り、美しい悪魔が立っていた。柔らかく微笑んだ彼は、綺麗な姿勢で軽く頭を下げる。
「お疲れ様でした、ミカさん。見事な対処でしたね」
「僕は何もしていないよ。アリスちゃんの杖を探してくれたのも、森の先の村へ行くといいっていう情報をくれたのも、カミュでしょ? どうもありがとう」
「あのくらい、お安い御用です。それに、彼女があのように明るい表情で出発していったのは、ミカさんが心を寄せて親身になってさしあげたからだと思いますよ。お兄さんらしく接しているミカさんが新鮮で、見守っていたこちらも和みました」
相変わらず持ち上げ上手というか、些細なことでも褒めてくれるカミュの言葉を聞きながら、僕の心の中にひとつの考えが湧き上がった。
「確かに、今のアリスちゃんとのやり取りは、上手くいったかもしれない。ぼんやり憧れていた通りというか」
「憧れ?」
「うん。自分の考えを相手にしっかりと伝えて、それが相手が求めている答えと合致して、力になってあげられるような、そういうやりとりに憧れていた、というか……」
地球での僕は、他者との関わりが希薄で、誰かと深い会話を交わすことなんて無かった。誰かが僕個人に助けの手を差し伸べてくれることも無ければ、逆に、僕が誰かの力になれたことも無い。
学生時代は学校とアルバイト以外は読書をして過ごし、社会人になってからは家にいる間はずっとサブスクで映画を観続けていた。あらゆる物語に触れて、その世界に溶け込んで主人公の気持ちを辿りながら、いつか僕も誰かと繋がって力になれるような人間になれたら、と夢見ていたんだ。誰かに手料理を振る舞えたら、と願うのと同程度の淡い夢だったけれど、今はそのどちらも叶っている。
「──ミカさんは時々、ご自分は他人との関わり方が下手で、会話を続けるのも苦手だと仰いますが。決してそんなことはないと思います」
「……そうかなぁ?」
「ええ。チキュウではきっと、ミカさんも周囲の人たちへ向けて一歩踏み出そうとされていなかったし、周りの人々もミカさんへ積極的に関わろうとしていなかっただけなのではないかと。だって、ジル様や私とも、キカさんやマティアス様とも、先程の少女とも、ミカさんは上手にお話されています。ね?」
そう言ってくれる声も、言葉の内容も、あまりにも温かい。思わず涙腺が刺激されそうなほどに。それをグッと堪えて、僕はカミュに笑いかけた。
「僕がきちんと話せるようになったんだとしたら、それはカミュとジルのおかげだね。僕の話をきちんと聞いてくれて、色々と話し聞かせてくれる君たちがいるから、僕は足りなかった一歩を踏み出せるようになったのかもしれないね」
少し前向きに捉えられるようになった僕の言葉を聞き、カミュは優しく笑みを深める。そして、彼は不意に何か思い当たったのか、表情の柔らかさはそのままに眉尻を下げて苦笑へと移ろった。
「ミカさんの魅力が増してゆくのは結構なことですが、貴方を養いたい人物が増えてしまったのは少々困りましたね。まぁ、名家のお嬢様とはいえ、王子様には勝てないでしょうから、マティアス様が優勢でしょうか。ただ、王族がゆえに援助がしづらい場合も考えられますから、そういったときのために、候補が増えたのは良かったと見ることも出来るかもしれませんね。そう考えれば、困るどころか喜ぶべきことなのかもしれません」
「……何の話?」
「万が一、ミカさんがこの城を去らねばならないときが来たとしたら、身を寄せる先が無いと困るでしょう? マティアス様にお任せすれば安心だと思っておりましたが、そちらが駄目だった場合の候補先が見つかったのでは、というお話です」
「え……、でも、それって……」
僕が養われる云々はこの際置いておくとしても、僕がこの城を去らねばならないとしたら、それはジルという魔王の僕としての価値や役割が無くなったときのはずだ。魔王である限り、ジルは異世界の人間を誰かしら手元へ置いておかねばならないはずで、僕が城を去るということは、つまり……?
「ミカさん、食堂へ参りましょう」
不穏な未来を想像しかけた僕の思考を引き戻すかのように、カミュが明るい声で言った。そして、彼は側に置いてあった布袋を取り、中を覗いて口元を綻ばせる。
「ああ、食用花も蜜用花も、こんなにたくさん摘んでくださったのですね。とても助かります。ありがとうございました」
「あ、ああ、うん。クックとポッポがすごく頑張ってくれたんだよ」
「そうでしたか。彼らにも後でご褒美をあげましょう。──でも、その前にミカさんのおやつの時間です」
そう言ったカミュは布袋を軽く叩き、それは瞬時に消えてしまった。おそらく転移魔法で調理場へ送ったのだろう。本当に、魔法って便利だ。ここまで魔法を使いこなせる人はそんなに多くないんだろうけど。
「今日のおやつは何を作ろうかな」
「いえいえ、おやつはもう用意してありますよ」
「えっ? ……もしかして、ジルが? 今日のジルはやけに料理をしたがるよね」
ここまで続くと流石に心配になって首を傾げてしまう。しかし、カミュはそんな僕をどこか楽しげに見下ろし、急に何の前触れもなく手を取ってきた。
「えっ? カミュ、どうしたの?」
「ああ、すみません。驚かせてしまいましたか? 転移魔法で食堂までお連れしようかと思いまして」
「えっ、ど、どうして……? 僕、怪我も何もしていないよ」
運動のためにも、僕は普通に徒歩移動しているし、ジルとカミュだって大体は歩いているのに。不審がる僕を気にすることもなく、カミュはマイペースに笑っている。
「まぁまぁ、たまにはいいでしょう? では、目を閉じてくださいね」
「えっ? ちょ、ちょっと……!」
「参りますよ」
有無を言わさぬ口調で告げられ、僕は反射的にぐっと目を瞑り、カミュの手を握りしめた。大きな手がしっかり握り返してきた瞬間、身体中を何かにつままれて持ち上げられているような奇妙な浮遊感があり、変な耳鳴りが聞こえた。
そうして何処かへ身体を放り出されたような感覚があったと思ったら、次の瞬間には何かに座らされている。驚いて肩を震わせる僕の耳元に、カミュの優しい囁き声が落とされた。
「ミカさん、もう目を開けてもいいですよ」
促されるまま、瞼を押し上げる。すると、開けたばかりの目に眩しい光が射し込んできて、それに眩んでいる視界のいたるところで小さな星のような何かがいくつも弾け、色とりどりの花びらが宙を舞った。
な、何だ!? これは一体──!?
混乱していると、ふたつの笑い声が重なって聞こえ、続いて慈しみに満ちた言葉がふたつ飛んできた。
「誕生日おめでとう、ミカ」
「ミカさん、お誕生日おめでとうございます」
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