魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-16】

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「うーん……、確かに固くなっちゃってるね。でも、完全に固まってるわけじゃないし、表面はともかく中の方は弾力も残ってるんじゃないかな? 指で押してみると、ぷにっとしてる感じはする?」
「うん。いつも、中の方はちょっと柔らかいわ」

 姫君お手製のパレド、つまり、リュリちゃんが作ったパンをまじまじと観察してみたところ、焼き加減に問題があるようには見えない。
 となると、生地──というか、たぶん種がクセモノなんだろう。この世界のパンであるパレドは、パレドードという魔法のパン種を使って作るのだけれど、このパレドードの質によってパレドの仕上がりが左右されると、確かキカさんが言っていたはず。

 食べたわけじゃないから断言は出来ないけど、リュリちゃんのパレドを見る限り、生地の練り込みや寝かせ方が足りないわけじゃなさそうだし、焼き加減も悪くなさそうだ。となると、必然的にパレドードに問題がある気がする。
ただ、そんなことはリュリちゃんも分かっているはずだ。 一人でパレドを作れるのだから、パレドードの重要性は理解しているはずで、それでもそれを改善できないということは、他のパレドードを入手できないのだろう。盗賊であるイラさんが食材調達するためのルートは、そんなに選択肢が多くないのかもしれない。

 だったら、この状態のパレドを、毎回ではなくとも、たまにでもいいから、美味しくアレンジして食べられる方法を教えてあげるのがいいだろう。それも、なるべく簡単で、手間が掛からないもの。──そう結論づけた僕は、腰をかがめてリュリちゃんと視線を合わせた。

「リュリちゃん。ここには、卵と、あと……飲める状態になっているカーシの乳はある?」

 卵は自動翻訳で伝わるはずだし、ミルクは確かこの言い方でいいはずだ。リュリちゃんにはきちんと伝わったようで、「あるわ」と保冷箱の中を見せてくれる。棚には花蜜を詰めたと思われる瓶も置いてあるし、これならいけるだろう。

「リュリちゃんも、イラさんも、甘いものは好き?」
「うん、大好き!」
「そっか。じゃあ、きっと美味しく食べてもらえる良い方法があるから、教えるね。固いパレドも、じゅわっと柔らかくなるはずだよ」
「ほんとっ?」

 宝石のように綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、キラキラと輝いた。期待の眼差しを向けられて、少し照れくさいけれど、僕はしっかりと頷く。

「うん、ほんと。……リュリちゃんは、文字を書ける?今から方法を教えるから、できれば書いておいてもらったほうがいいんじゃないかなって。僕は、この世界の文字の読み書きが出来ないんだ」
「わかった! わたし、ミカさんの教えてくれたことを、ちゃんと書いておくね」

 リュリちゃんは、文字の読み書きが出来ないという僕を見下すこともなくサラリと流し、張り切ってクッションを二つ置き、棚の引き出しから帳面と羽ペンとインク瓶を出し、にこにことしながら座った。
 もうひとつのクッションに座るよう促されて腰を下ろした僕は、早速、フレンチトーストの作り方を教え始めた。
 
「まずは、パレドを横に三等分か四等分にして……、これはナイフで切ってもいいし、手で割ってもいいからね」
「うんうん」
「それから、パレドをフォークでグサグサ刺そう。生地が千切れちゃわないように気をつけながら、そうだなぁ……切ったパレド一枚につき八回から十回くらいは刺したほうがいいかな。力は入れなくていいよ」
「わかった!」

 ある程度の食器や調理器具については自動翻訳が適用されるから、ありがたい。
 もしかしたらフレンチトーストに似た料理が存在するのではと思ったけど、溶き卵と乳を混ぜた液にパレドを浸す、と説明してもリュリちゃんは不思議そうな顔をしているから、少なくとも彼女が知る範囲には似たものは無さそうだ。
パレドが液を十分に吸ってくたくたに柔らかくなったら、弱火でじっくりと両面を焼いて、花蜜を掛けて食べるといい。そう教えると、姫君は美しさよりも好奇心を優先させたような笑顔で見上げてきた。

「どんなふうになるのか想像できないけど、美味しそうな気がするわ! 早速、試してみる!」
「本当は一回作ってみてあげたほうがいいんだろうけど、僕も早めに帰らなきゃいけないから……」
「ううん、十分! どうもありがとう、ミカさん!」
「どういたしまして」

 教えてるうちに、僕もフレンチトーストを作りたくなってきた。城に戻ったら、作ってみようかな。お昼ごはんの時間になってるだろうし。
 ジルとカミュは、僕の失踪に気付いていないだろうか。出来れば、気付かずにいてほしい。それが一番、平和で幸せな結末の気がする。

 ──そう考えた、その矢先。隣の部屋、つまり、さっきまでイラさんも含めて過ごしていた部屋の方から、ドタバタと慌てて駆け込んできたような音と、悲痛な叫び声が同時に聞こえてきた。悲鳴の主はイラさんだ。

「悪魔! 赤い、悪魔が……!」

 赤い悪魔。──まさか!
 僕は無意識に瞬時に立ち上がり、リュリちゃんをそのまま置き去りにして、隣の部屋へ飛び込んだ。
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