魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
100 / 246
【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-16】

しおりを挟む
「うーん……、確かに固くなっちゃってるね。でも、完全に固まってるわけじゃないし、表面はともかく中の方は弾力も残ってるんじゃないかな? 指で押してみると、ぷにっとしてる感じはする?」
「うん。いつも、中の方はちょっと柔らかいわ」

 姫君お手製のパレド、つまり、リュリちゃんが作ったパンをまじまじと観察してみたところ、焼き加減に問題があるようには見えない。
 となると、生地──というか、たぶん種がクセモノなんだろう。この世界のパンであるパレドは、パレドードという魔法のパン種を使って作るのだけれど、このパレドードの質によってパレドの仕上がりが左右されると、確かキカさんが言っていたはず。

 食べたわけじゃないから断言は出来ないけど、リュリちゃんのパレドを見る限り、生地の練り込みや寝かせ方が足りないわけじゃなさそうだし、焼き加減も悪くなさそうだ。となると、必然的にパレドードに問題がある気がする。
ただ、そんなことはリュリちゃんも分かっているはずだ。 一人でパレドを作れるのだから、パレドードの重要性は理解しているはずで、それでもそれを改善できないということは、他のパレドードを入手できないのだろう。盗賊であるイラさんが食材調達するためのルートは、そんなに選択肢が多くないのかもしれない。

 だったら、この状態のパレドを、毎回ではなくとも、たまにでもいいから、美味しくアレンジして食べられる方法を教えてあげるのがいいだろう。それも、なるべく簡単で、手間が掛からないもの。──そう結論づけた僕は、腰をかがめてリュリちゃんと視線を合わせた。

「リュリちゃん。ここには、卵と、あと……飲める状態になっているカーシの乳はある?」

 卵は自動翻訳で伝わるはずだし、ミルクは確かこの言い方でいいはずだ。リュリちゃんにはきちんと伝わったようで、「あるわ」と保冷箱の中を見せてくれる。棚には花蜜を詰めたと思われる瓶も置いてあるし、これならいけるだろう。

「リュリちゃんも、イラさんも、甘いものは好き?」
「うん、大好き!」
「そっか。じゃあ、きっと美味しく食べてもらえる良い方法があるから、教えるね。固いパレドも、じゅわっと柔らかくなるはずだよ」
「ほんとっ?」

 宝石のように綺麗なエメラルドグリーンの瞳が、キラキラと輝いた。期待の眼差しを向けられて、少し照れくさいけれど、僕はしっかりと頷く。

「うん、ほんと。……リュリちゃんは、文字を書ける?今から方法を教えるから、できれば書いておいてもらったほうがいいんじゃないかなって。僕は、この世界の文字の読み書きが出来ないんだ」
「わかった! わたし、ミカさんの教えてくれたことを、ちゃんと書いておくね」

 リュリちゃんは、文字の読み書きが出来ないという僕を見下すこともなくサラリと流し、張り切ってクッションを二つ置き、棚の引き出しから帳面と羽ペンとインク瓶を出し、にこにことしながら座った。
 もうひとつのクッションに座るよう促されて腰を下ろした僕は、早速、フレンチトーストの作り方を教え始めた。
 
「まずは、パレドを横に三等分か四等分にして……、これはナイフで切ってもいいし、手で割ってもいいからね」
「うんうん」
「それから、パレドをフォークでグサグサ刺そう。生地が千切れちゃわないように気をつけながら、そうだなぁ……切ったパレド一枚につき八回から十回くらいは刺したほうがいいかな。力は入れなくていいよ」
「わかった!」

 ある程度の食器や調理器具については自動翻訳が適用されるから、ありがたい。
 もしかしたらフレンチトーストに似た料理が存在するのではと思ったけど、溶き卵と乳を混ぜた液にパレドを浸す、と説明してもリュリちゃんは不思議そうな顔をしているから、少なくとも彼女が知る範囲には似たものは無さそうだ。
パレドが液を十分に吸ってくたくたに柔らかくなったら、弱火でじっくりと両面を焼いて、花蜜を掛けて食べるといい。そう教えると、姫君は美しさよりも好奇心を優先させたような笑顔で見上げてきた。

「どんなふうになるのか想像できないけど、美味しそうな気がするわ! 早速、試してみる!」
「本当は一回作ってみてあげたほうがいいんだろうけど、僕も早めに帰らなきゃいけないから……」
「ううん、十分! どうもありがとう、ミカさん!」
「どういたしまして」

 教えてるうちに、僕もフレンチトーストを作りたくなってきた。城に戻ったら、作ってみようかな。お昼ごはんの時間になってるだろうし。
 ジルとカミュは、僕の失踪に気付いていないだろうか。出来れば、気付かずにいてほしい。それが一番、平和で幸せな結末の気がする。

 ──そう考えた、その矢先。隣の部屋、つまり、さっきまでイラさんも含めて過ごしていた部屋の方から、ドタバタと慌てて駆け込んできたような音と、悲痛な叫び声が同時に聞こえてきた。悲鳴の主はイラさんだ。

「悪魔! 赤い、悪魔が……!」

 赤い悪魔。──まさか!
 僕は無意識に瞬時に立ち上がり、リュリちゃんをそのまま置き去りにして、隣の部屋へ飛び込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

御家騒動なんて真っ平ごめんです〜捨てられた双子の片割れは平凡な人生を歩みたい〜

伽羅
ファンタジー
【幼少期】 双子の弟に殺された…と思ったら、何故か赤ん坊に生まれ変わっていた。 ここはもしかして異世界か?  だが、そこでも双子だったため、後継者争いを懸念する親に孤児院の前に捨てられてしまう。 ようやく里親が見つかり、平和に暮らせると思っていたが…。 【学院期】 学院に通い出すとそこには双子の片割れのエドワード王子も通っていた。 周りに双子だとバレないように学院生活を送っていたが、何故かエドワード王子の影武者をする事になり…。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スキル買います

モモん
ファンタジー
「お前との婚約を破棄する!」 ローズ聖国の国立学園第139期卒業記念パーティーの日、第3王子シュナル=ローズレアは婚約者であるレイミ・ベルナール子爵家息女に宣言した。 見習い聖女であるレイミは、実は対価と引き換えにスキルを買い取ることのできる特殊な能力を有していた。 婚約破棄を受け入れる事を対価に、王子と聖女から特殊なスキルを受け取ったレイミは、そのまま姿を消した。 レイミと王妃の一族には、数年前から続く確執があり、いずれ王子と聖女のスキル消失が判明すれば、原因がレイミとの婚約破棄にあると疑われるのは明白だ。 そして、レイミを鑑定すれば消えたスキルをレイミがもっている事は明確になってしまうからだ。 かくして、子爵令嬢の逃走劇が幕を開ける。

莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ

翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL 十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。 高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。 そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。 要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。 曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。 その額なんと、50億円。 あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。 だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。 だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。

処理中です...