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【第5話】君に捧げるフレンチトースト
【5-22】
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「わっ……、すごくいい匂い……!」
「そうだな、香りも味も悪くはないと思うんだが……思っていた見た目ではなくなってしまった」
どういうことだろう?
好奇心を刺激されて、僕はテーブルに近づいた。サラダやスープや果物が並んでいて、それらが盛られたものよりも深くて大きな皿がメインとして置かれている。そこに品良く盛られているのは──、
「……リゾット?」
そう、濃厚な香りを放っている主食は、どう見てもチーズリゾットだ。驚いて目を瞬かせていると、隣にジルが並び立つ。
「チキュウでは、こんな感じの料理があるのか?」
「うん。リゾットによく似てると思う」
「そうか……。じゃあ、あながち失敗ではないのかもな。味は悪くないし」
「うん、美味しそうだよ」
良い香りにつられて、ついお腹が鳴ってしまう。恥ずかしい。ジルはくすりと笑ったけれど、それは馬鹿にしたものではなく、保護者めいた温かな笑い方だった。
座るように促され、いつもの定位置の椅子に座る。正面にジルも座り、クックとポッポも食卓へ降りて端に置かれた小皿へ近付いていった。鳥たちのごはんとして、パンを細かく千切ったものが小皿に盛られていて、クックとポッポは美味しそうに啄み始める。それを見ながら、僕とジルも声を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
スプーンを手に取り、早速リゾットを一口掬い、ふぅふぅと息を吹きかけて軽く冷ましてから食らいつく。想像通りの濃厚なチーズの風味が口いっぱいに広がり、米を噛む度にミルクの優しい味わいが染み出してくる。しっかりした味だけれど、素朴な印象の優しい一品だ。
「うん、すごく美味しい……! これ、いつものミルク粥にチーズを和えて作ったのかな?」
「よく分かったな。その通りだ」
「ふふっ、なんだか『我が家の味』って感じで安心するね。優しくて、美味しい! どうもありがとう、ジル」
「……どういたしまして」
一口食べたもののすぐにスプーンを置いて仄かにはにかんだジルは、なんだかほっとしているように見える。実際、安心したんだろう。僕がいなくなって、クックとポッポが大騒ぎして、イラさんが再び侵入してきて、おそらくそれに気付いたカミュが追いかけていって。──城に残されたジルは何を思いながら、チーズリゾットを温めて待っていてくれたんだろう。優しい魔王の気持ちが溶け込んだかのような味わいに、心がきゅっとなった。
「本当に美味しいなぁ……」
思わずしみじみと呟くと、ジルの白い頬が薄紅色になった。照れ隠しのように咳払いをした彼は、微妙に視線を逸らしながら、もぞもぞと呟く。
「……これは、ミカのために作ったものだ。お前がどんな状態で帰ってきても食べられて、元気になるようにと。そう願いながら、作った。言葉を重ねるよりも、おかえりという気持ちが伝わるように。……だから、ミカがそうして喜んでくれて、我が家の味とまで思ってくれるのは、とても嬉しい」
その言葉に、ハッとする。ジルは今、とても大切なことを伝えてくれているような気がした。照れを捨てた漆黒の瞳は、視線を合わせてしっかりと頷く。
「お前自身が休んでからでいい。今日でなく、明日でもいい。だが、カミュのために何か作ってやってくれないか?あいつのためだけの、何かを」
「カミュだけのために……?」
「そうだ。カミュだけが食べるのでも、今こうしているようにミカも共に食べるものでもいい。だが、その頭数に俺は加えないでくれ」
「ジルも一緒じゃ駄目なの?」
「ああ。俺が加わってしまうと、あいつはどうしても『魔王のついでに自分も利を得た』と捉えてしまう。卑屈なわけじゃなくて、立場の差の問題だな。……だから、ミカがカミュのために作ったものなんだと強調してやってほしい」
「……それで、カミュは元気になってくれる?」
僕の問いに対し、ジルはわずかに首を傾げて、ほんのり微笑んだ。
「今のミカはどうだ?」
「……僕?」
「俺がミカのために作った、リ、リゾト……? まぁ、とにかく、これを食べて、どうだった?」
これ、とジルが指し示したのはチーズリゾットだ。温かくて優しい、心がぽかぽかするような、ジルの手料理。美味しくて、嬉しい、幸せなごはん。
「嬉しかったよ、とても。帰って来られて良かった、って。待っていてくれて良かった、って。幸せな気持ちになる味だった」
「俺の気持ちは伝わったか?」
「うん、すごく。僕の帰りを待っていてくれたって、ジルからの『おかえり』の気持ちがたくさん伝わってきたよ」
「……ならば、ミカの気持ちも伝わる。ミカの想いが込められた逸品を前にして、あいつが手を伸ばさないはずがない。一口食べれば、溢れんばかりに伝わるだろう」
言葉が耳をすり抜けていったとしても、口から飲み込んだ気持ちは心に届くかもしれない。せめてお腹には届いて、少しは慰められるかもしれない。──出来れば、このリゾットのように噛みしめる度に優しさで包めるものを作ってあげたいな。
「ジル」
「ん?」
「このリゾットを食べ終わったら、手伝ってもらってもいい?」
「勿論だ」
何を、と問うこともなく、ジルは当然のように頷いてくれた。
「ジル。本当に、ありがとう」
心からの感謝を込めて伝えると、優しい魔王は無言で頷き、もう一度スプーンを手に取る。僕も食事を再開し、ジルのリゾットからたくさんの元気と励ましをいただいた。
「そうだな、香りも味も悪くはないと思うんだが……思っていた見た目ではなくなってしまった」
どういうことだろう?
好奇心を刺激されて、僕はテーブルに近づいた。サラダやスープや果物が並んでいて、それらが盛られたものよりも深くて大きな皿がメインとして置かれている。そこに品良く盛られているのは──、
「……リゾット?」
そう、濃厚な香りを放っている主食は、どう見てもチーズリゾットだ。驚いて目を瞬かせていると、隣にジルが並び立つ。
「チキュウでは、こんな感じの料理があるのか?」
「うん。リゾットによく似てると思う」
「そうか……。じゃあ、あながち失敗ではないのかもな。味は悪くないし」
「うん、美味しそうだよ」
良い香りにつられて、ついお腹が鳴ってしまう。恥ずかしい。ジルはくすりと笑ったけれど、それは馬鹿にしたものではなく、保護者めいた温かな笑い方だった。
座るように促され、いつもの定位置の椅子に座る。正面にジルも座り、クックとポッポも食卓へ降りて端に置かれた小皿へ近付いていった。鳥たちのごはんとして、パンを細かく千切ったものが小皿に盛られていて、クックとポッポは美味しそうに啄み始める。それを見ながら、僕とジルも声を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
スプーンを手に取り、早速リゾットを一口掬い、ふぅふぅと息を吹きかけて軽く冷ましてから食らいつく。想像通りの濃厚なチーズの風味が口いっぱいに広がり、米を噛む度にミルクの優しい味わいが染み出してくる。しっかりした味だけれど、素朴な印象の優しい一品だ。
「うん、すごく美味しい……! これ、いつものミルク粥にチーズを和えて作ったのかな?」
「よく分かったな。その通りだ」
「ふふっ、なんだか『我が家の味』って感じで安心するね。優しくて、美味しい! どうもありがとう、ジル」
「……どういたしまして」
一口食べたもののすぐにスプーンを置いて仄かにはにかんだジルは、なんだかほっとしているように見える。実際、安心したんだろう。僕がいなくなって、クックとポッポが大騒ぎして、イラさんが再び侵入してきて、おそらくそれに気付いたカミュが追いかけていって。──城に残されたジルは何を思いながら、チーズリゾットを温めて待っていてくれたんだろう。優しい魔王の気持ちが溶け込んだかのような味わいに、心がきゅっとなった。
「本当に美味しいなぁ……」
思わずしみじみと呟くと、ジルの白い頬が薄紅色になった。照れ隠しのように咳払いをした彼は、微妙に視線を逸らしながら、もぞもぞと呟く。
「……これは、ミカのために作ったものだ。お前がどんな状態で帰ってきても食べられて、元気になるようにと。そう願いながら、作った。言葉を重ねるよりも、おかえりという気持ちが伝わるように。……だから、ミカがそうして喜んでくれて、我が家の味とまで思ってくれるのは、とても嬉しい」
その言葉に、ハッとする。ジルは今、とても大切なことを伝えてくれているような気がした。照れを捨てた漆黒の瞳は、視線を合わせてしっかりと頷く。
「お前自身が休んでからでいい。今日でなく、明日でもいい。だが、カミュのために何か作ってやってくれないか?あいつのためだけの、何かを」
「カミュだけのために……?」
「そうだ。カミュだけが食べるのでも、今こうしているようにミカも共に食べるものでもいい。だが、その頭数に俺は加えないでくれ」
「ジルも一緒じゃ駄目なの?」
「ああ。俺が加わってしまうと、あいつはどうしても『魔王のついでに自分も利を得た』と捉えてしまう。卑屈なわけじゃなくて、立場の差の問題だな。……だから、ミカがカミュのために作ったものなんだと強調してやってほしい」
「……それで、カミュは元気になってくれる?」
僕の問いに対し、ジルはわずかに首を傾げて、ほんのり微笑んだ。
「今のミカはどうだ?」
「……僕?」
「俺がミカのために作った、リ、リゾト……? まぁ、とにかく、これを食べて、どうだった?」
これ、とジルが指し示したのはチーズリゾットだ。温かくて優しい、心がぽかぽかするような、ジルの手料理。美味しくて、嬉しい、幸せなごはん。
「嬉しかったよ、とても。帰って来られて良かった、って。待っていてくれて良かった、って。幸せな気持ちになる味だった」
「俺の気持ちは伝わったか?」
「うん、すごく。僕の帰りを待っていてくれたって、ジルからの『おかえり』の気持ちがたくさん伝わってきたよ」
「……ならば、ミカの気持ちも伝わる。ミカの想いが込められた逸品を前にして、あいつが手を伸ばさないはずがない。一口食べれば、溢れんばかりに伝わるだろう」
言葉が耳をすり抜けていったとしても、口から飲み込んだ気持ちは心に届くかもしれない。せめてお腹には届いて、少しは慰められるかもしれない。──出来れば、このリゾットのように噛みしめる度に優しさで包めるものを作ってあげたいな。
「ジル」
「ん?」
「このリゾットを食べ終わったら、手伝ってもらってもいい?」
「勿論だ」
何を、と問うこともなく、ジルは当然のように頷いてくれた。
「ジル。本当に、ありがとう」
心からの感謝を込めて伝えると、優しい魔王は無言で頷き、もう一度スプーンを手に取る。僕も食事を再開し、ジルのリゾットからたくさんの元気と励ましをいただいた。
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