魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
107 / 246
【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-23】

しおりを挟む
 ◇


「どうかな……? 美味しそうに見える?」

 完成したおやつを乗せた皿と傍らに立つジルの顔を交互に見ながら、不安と共に尋ねると、魔王は柔らかい微笑を浮かべて頭を撫でてきた。

「ああ、とても美味そうだ」

 すぐに返された答えに、ほっとする。
 ──昼食後、僕はジルに手伝ってもらいながら、カミュのためのおやつを作っていた。フレンチトーストだ。パンに卵液を染み込ませている間にカボ茶を飲みながら休憩したけれど、今日は昼食作りも含めてジルはずっと調理場に立っているし、そもそも彼の時間を貰いすぎている。それを思うと、安堵と達成感ばかりに浸っていられない。

「ジル、今日は殆ど魔王の仕事が出来ていないんじゃない?たくさん時間を割いてもらっちゃって、ごめんね。どうもありがとう」
「気にするな。こんな日があったっていい。それに、魔王の仕事などそんなに無い」
「でも、ジルは個人的に色々と管理してるでしょ?今日はカミュも手伝える状態じゃなかったし……」
「気にしなくていい。どちらにせよ、クックとポッポを休ませねばならない以上、今日は諸々の作業を放棄しようと思っていた。──ああ、別にお前たちを責めているんじゃない。気にせず、あと数日はゆっくりと体を休めてくれ」

 窓際のテーブルに載せられた籠の中では、クックとポッポが身を寄せ合って休んでいる。申し訳なさそうな顔をしている魔鳥たちへ、ジルは温かな言葉を掛けてあげていた。そして彼は、完成したフレンチトーストを微笑ましげに見下ろす。

「とても美味そうだな。カミュが羨ましくなる」
「後でジルの分も作るよ」
「いや、今日はいい。今日は、あいつのために作ったということにしてくれ」
「うん」

 食パンを分厚く切って、しっかりと卵液に漬け込み、弱火でじっくりと焼いたフレンチトースト。ジルが魔法で上手く調整して漬け込み時間を短めにしてくれたけれど、半日くらい漬け込んだのと同等のとろとろ具合に仕上がった。バターをたっぷり使って時間をかけて焼き、最後に表面だけ強火に当てたから、外はカリカリで中はじゅわっとした食感になっているはずだ。
 たっぷり掛けた花蜜のてらてら感も、より美味しそうに見せてくれている。砂糖漬けの食用花で飾りつけると、華やかで可愛らしい雰囲気になった。

「元気になってくれるといいなぁ」
「なるだろう。ならなかったら、俺があいつを殴ってやる」
「もう……、そんなこと思ってないくせに」

 彼らしくない冗談は、僕の緊張を解すためのものだ。それが分かっているから、思わず口元が緩んでしまう。すると、それにつられて肩の力も抜けた。

「殴るかどうかは保留にしておくとしても、カミュが元気になるのは確かだと思うぞ。こんなに眩いミカの真心を受け取ったら、感動して泣くかもな」
「えっ……、出来れば笑ってほしいんだけどなぁ」
「感動の涙なら、悪いものじゃない。心の中に溜め込んだものを笑い飛ばして吹っ切るか、涙で押し流すかの違いなんだから」

 そう言って、ジルは近くのトレーを引き寄せ、フレンチトーストの皿を乗せ、片手で持つ。そして、もう片方の手で軽く僕の背を押した。

「カミュの部屋まで送っていく。ミカを一人には出来ないからな」
「うん、ありがとう」
「うん。……お前たちは、そこで休んでいろ。後でまたミカも戻ってくるからな」

 ジルに声を掛けられたクックとポッポは、小さくキュイッと鳴き、じっとこちらを見つめてくる。僕は愛鳥たちと視線を合わせ、頷いた。

「クック、ポッポ、また後でね。僕はジルと一緒だし、行先はカミュの部屋だから、何も心配無いからね」
「クゥ……」
「ポー……」

 行ってらっしゃいと言うように可愛らしく鳴いた鳥たちは、そっと目を閉じる。納得して、休養のために眠ることにしたんだろう。
 ジルと頷き合って、静かに調理場を出て、そのままカミュの部屋を目指す。彼の私室は、本館二階の端の方にある。私物が殆ど無いからと狭めの部屋を使っていて、何度か中に入れてもらったことがあるけれど、確かにミニマリストのような部屋だった。

「……カミュ、寝てたりしないかな。もしそうだとしたら、起こしたら可哀想だよね」

 不意に浮かんだ懸念を口に出すと、ジルは静かに首を振る。

「あいつは、あれだけ落ち込んだ後に不貞寝できるほど図々しくも器用でもない。起きてるだろう」
「そっか」
「大丈夫だ。カミュは、ミカをとても大切にしている。お前の訪問を無下にしたりなんかしないさ。……もし、何か意地の悪いことを言われたら、俺に報告しろ。あいつを殴ってやるから」
「もう、ジルってば。……ふふっ、ありがとう」

 緊張が完全に無くなったわけじゃないけれど、ジルのおかげでだいぶ気持ちが解れたところで、カミュの部屋にほど近い曲がり角まで来た。そこでジルは、トレーを僕に手渡してくる。

「俺は、ここで見守っている。カミュの聴力なら、俺たちの足音は既に察知しているだろうから、訪問されることは把握しているはずだ」
「うん、分かった」
「大丈夫だ。……行ってこい」
「うん。行ってきます」

 ジルに笑いかけてから、トレーを両手で持ち、カミュの部屋の前まで歩き、ドアの前に立つ。ノックしようか声を掛けようか悩んでいる間に、カミュが部屋の中から扉を開けてくれた。

「ミカさん……」

 不安気な眼差しで見下ろしてくる悪魔は、相変わらず美しいけれど、とても疲れているように見える。でも、カミュが自らドアを開けてくれたんだよね。そこに希望を見出して、僕はトレーを掲げ持った。

「カミュ、一緒におやつを食べない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...