魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-24】

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「おやつ……? いえ、私は本日は食事は、」
「カミュのために作ったのに?」
「えっ、わ、私のため……?」

 やんわりと断ろうとしていた悪魔は、「カミュのため」と聞いて声を詰まらせる。卑怯かもしれないけれど、今は彼の優しさに漬け込んで距離を縮めさせてもらおう。

「とりあえず、中に入ってもいいかな?」
「え、ミ、ミカさん……?」
「お邪魔します」

 普段の僕なら、こんな強引なことはしない。だからこそ、カミュは余計にオロオロしているような気がした。ちょっと申し訳なく思わなくもないけど、今だけは許してほしい。
 カミュの横をすり抜けて入室すると、美しい悪魔は溜息を零しながらも僕を責めることはなく、静かにドアを閉めていた。
 カミュの部屋は、相変わらず余計な物が無いシンプルな印象で、整理整頓されているというより片付けるべき物が存在しないという感じだ。
 ちょっと寂しいイメージの部屋が、今日は一段と孤独を滲ませているように見える。その空気を払拭できるように、僕はわざと明るい声を出した。

「これ、フレンチトーストっていうんだ。昨日焼いた食パンを使ったおやつなんだよ」
「……それを、私に? 私などがいただくには勿体ないです」
「そう言うかと思って、カミュのために作ったんだけど、僕も一緒に食べようかなって」
「……ミカさんも?」
「うん。座ってもいい?」
「……こちらへ、どうぞ」

 カミュは浮かない表情をしながらも、揃えた指先でベッドを指し示してくれる。ありがとうと伝えてから僕はそこへ座り、カミュにも隣へ座るよう促した。

「カミュも隣に座ってくれる?」
「……失礼いたします」

 今の僕が強情だと察したのか、カミュは渋々といった様子ながらも隣へ腰を下ろしてくれる。二人の間にトレーを置き、二本あるフォークのうち一本をカミュへ手渡した。

「ちょっと行儀が悪いけど、一緒につついて食べよう」
「……ミカさんお一人か、ジル様とご一緒に召し上がっては?」
「言ったでしょ。これは、カミュのために作ったんだって。……カミュが、イラさん──僕を攫って行った人のアジトに来たとき、僕はリュリちゃん──あの女の子に、このフレンチトーストの作り方を教えてあげていたんだ」

 イラさんとリュリちゃんを話題に出すと、カミュはどことなく苦しそうな顔になる。僕はあえてそれに気付かないフリをして、話を続けた。

「作り方を教えながらね、僕はずっと考えていたんだ。フレンチトーストを作ってあげたら、カミュやジルはきっと喜んでくれるんだろうなって」
「え……」
「おかしいかな? 無事にここに帰って来られるかどうかも分からない状況なのに、ここで料理をすることを考えるなんて。……でも、そうだったんだよ。君にフレンチトーストを作りたかった。だから、こうして作ってきたんだ」

 ジルに勧められたことは伏せるように言われたから黙っているけれど、フレンチトーストを作ってあげたいと思っていたことも、カミュがきっと喜ぶだろうと考えてこのメニューを選んだことも事実だ。
 戸惑っているカミュを横目に、僕は「いただきます」と両手を合わせてから、フォークでフレンチトーストを一口分切り取って、パクリと口に含む。芳醇なバターの香りが口いっぱいに広がって、噛みしめると生地の旨みと花蜜の甘みがじゅわっと感じられた。

「うん、我ながら美味しく出来た……! 美味しいっ」

 想像以上の美味しさに、つい素で声を弾ませてしまう。そんな僕の様子にカミュも興味をそそられたのか、頑なな雰囲気が少し和らいだ。そんな彼に、おやつを勧めてみる。

「ね、カミュも食べてみて」
「……はい。いただきます」

 カミュはおずおずとフォークを持つ手を伸ばしてフレンチトーストをつつき、ぱくりと一口食べてくれた。どうだろうとドキドキしながら見守っていると、カミュは僅かに目を瞠り、もう一口、さらにもう一口、と立て続けに食べる。そして、食べるごとに、紅い瞳に輝きが戻っていった。

「美味しいです。……美味しいです、とても」

 全体の四分の一ほどを食べたところで、カミュが感嘆を込めた言葉を発する。穏やかな声音は、だいぶ本来の明るさを取り戻してきているように感じて、ほっとした。

「ほんと? 良かった……!」
「ええ。とても美味しいです。時間を掛けて、心を込めて作ってくださったのだと伝わってきます。優しい甘さと、香り。飾り付けも鮮やかで……、ミカさんがこれを私のために作ってくださったのだと、じんわりと伝わってきます」
「そっか。良かった」

 ジルが作ってくれたチーズリゾットのように、僕のフレンチトーストに込めた気持ちも伝わってくれたんだろうか。少しでもカミュが元気になってくれたなら、とても嬉しい。
 安堵しながらカミュを見上げると、ルビーのような美しい瞳も僕をじっと見つめてきていた。

「私は、果報者ですね。──私はこんなにも自分のことが嫌いなのに、そんな私のことを、貴方は好いてくださっている。あんなに怖い目に遭わせてしまったのに、それでも。……私は、こんなに醜い悪魔なのに」

 紅い瞳が潤み、一筋の涙が彼の頬を濡らしていった。
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