魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第5話】君に捧げるフレンチトースト

【5-25】

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「なっ、何言ってるの? カミュは醜くなんてないよ」
「いいえ、いいえ。……私は本当に、魔の者らしい醜さを持っています。クックやポッポのように、それを捨て去ることも出来ない」
「魔の者らしい……醜さ……?」

 カミュは小さく頷き、フォークを置く。そして、溜息まじりに、静かに語り始めた。

「私は、ジル様よりもずっと前の代──それこそ、大魔王の魂が七つに分かれ、各国に魔王が降臨した当初から、ここプレカシオン王国の魔王の補佐兼監視役を任命されておりました。頭首の命は絶対ですし、何の感慨も無く淡々と任務を遂行していましたし、その頃の私は人間が好きではありませんでした」
「そう、なんだ……」
「ええ。魔の者から見れば、人間はあまりにも弱く、そのくせピィピィと騒ぎ喚く生物という印象が強くて、好意的に見たりはしない者が大半なのです。愛玩動物のように扱って面白がる仲間も多いですが、私はそういう性質ではありませんでしたから。……ですから、魔王が人間を虐殺しようと傍観しておりましたし、求められれば私自身が手を下すこともありました。逆に、暴走した魔王が人間の勇者に殺されている様子も、黙って見ていました。思い出すだけで自己嫌悪のあまり胸を掻き毟りたくなりますが、私がそういう残虐で醜い悪魔だったのは確かです」

 以前は魔の者らしい言動だったとも、人間がそんなに好きではなかったとも聞いていたけれど、改めてこうして話されると、少しショックではある。
 でも、だからといって、動揺したりしないし、カミュを嫌いになるはずもない。今のカミュがどういう人物なのか、僕はちゃんと分かっているつもりだ。

「……今のカミュは、そうじゃないでしょ?」
「ええ、そのつもりではあります」
「いつから意識が変わったのか、聞いても……いい?」
「……ええ」

 カミュは小さな深呼吸をしてから、静かに唇を開く。

「ジル様の前の代の魔王は、はじめは……というか、大半は歴代の魔王と同じように、人々を虐殺したり辱めたりしていました。そして、私もそれをただただ傍観していたのです。……ですが、その魔王は、暴走化の数年前から様子がおかしくなりました。いえ、おかしいというより……、正気に戻ったというか。自分は本当は人間が愛おしいのだと後悔の涙を流し、こんなことはしたくないのだと訴える日が増えていきました。彼の言葉に耳を傾け、改めて人間たちを観察しているうちに、私も小さな命を愛しく思うようになったのです」

 そこまで話したカミュは、小さな咳をする。喉が渇いたのかな。そういえば、飲み物を持って来るのを忘れてしまった。どうしようかと無駄にキョロキョロしている僕の肩にそっと触れたカミュは、窓際の台から水差しとコップを魔法で引き寄せ、自分と僕の分をそれぞれ注いでくれる。手渡された水を飲んでみると、柑橘系の風味をほんのりと感じた。何種類か果実水を作って調理場に置いているから、そのうちのひとつを部屋に持って来ていたんだろう。

「先代の魔王が殺されたとき、初めて『魔王の死』に胸が痛みました。その直前、暴走した魔王によって殺されてしまった異世界の人々に対しても、申し訳なく悲しい想いを抱きました。──そして、今代の魔王としてジル様をこの城にお迎えしました。ジル様は、最初から、歴代の魔王とはあまりに違っていらっしゃいました」
「魔王らしくない魔王だった、ってこと?」
「はい。魔王の魂の欠片を宿した者は、少なからず残虐性や暴力性が向上し、元の人格をそのまま保つことも難しいのです。しかし、ジル様は元々の性格のまま、どこまでもお優しい方でした。……この御方を精一杯お守りし、尽くしたいと心から思いました。可能な限り、人間に害を為さない魔王になろうとするジル様をお支えしたいと、人間たちを慈しんでいきたいと、そう誓ったのです。──その矢先の出来事でした。魔王との戦いを望むという名目でこの城にやって来た人間たちが、当時の食事係……アビーさんを人質に取り、ジル様を苦しめたのです」
「えっ……」

 カミュの紅い瞳に、再び翳りが落ちる。声のトーンを落としながらも、カミュはそのまま話を続けてくれた。

「魔王になったばかりのジル様は、今のミカさんと同じ年頃で、ご自身が魔王になったという事実もまだ受け入れられず、心が塞ぎ込まれている時期でした。そんなジル様へ悪質な罵倒の言葉を投げつけ、大怪我ではありませんでしたがアビーさんのことも痛めつけた、……そんな悪質な彼らに対し、私は憤りを抑えられませんでした。つまり、我を忘れて、魔の者の本能に従ってしまった。……どういうことか、ミカさんにもお分かりでしょう?」
「カミュ……」
「ご想像の通りです。──私は、その人間たちを皆殺しにしました。口に出すのも悍ましい方法で、一人残らず」

 カミュは、自分の膝に乗せている手を強く握りしめる。震えている拳が痛々しい。心配になってカミュの横顔を見つめると、視線に気づいたのか紅い瞳がこちらへ向く。
 カミュは後悔を滲ませながらも、うっすら微笑んだ。

「その後、私は自己嫌悪に苛まれ、ジル様も心を病まれて、散々な状態でした。──そんな私たちを叱ってくださったのが、アビーさんでした」
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