111 / 246
【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-1】
しおりを挟む
しとしとと、雨が降る音が聞こえる。
──以前は、雨音があまり好きじゃなかった。落ち着く音だと言う人もいるけれど、僕にとっては、孤独感を増長させるものだったから。雨音がはっきり聞こえれば聞こえるほど、それだけ静かな空間にひとりぼっちなんだという証のようで。いつも、淋しかった。
でも、今は違う。
廊下の窓から外を眺める僕の両肩には、それぞれクックとポッポが乗っている。屋内で普通に生活できるようになった愛鳥たちは、いつも僕の後をついてきて一緒にいてくれる。
それに、過保護な魔王と悪魔も、何かと僕のことを気に掛けてくれるし、一緒に時間を過ごしてくれる機会も多い。
押し付けがましいわけではないし、一人の時間も尊重してくれているから、気疲れも孤独も無い幸せな日々を送っている。──そして、いつしか、雨音も穏やかな気持ちで聞けるようになっていた。
「今日も雨だね」
「クッ」
「ポッ」
「日本の梅雨と違ってジメジメしてないし、ちょっと涼しいから、過ごしづらいわけじゃないけど……、でも、お日様が恋しくなっちゃうなぁ。この世界では梅雨とは違うかもしれないけど、でも、今の時期って梅雨っぽいんだよね」
異世界の気候の話なんか聞かされても、魔鳥たちには意味が分からないだろう。それでもクックとポッポは健気に頷き、僕の頬に自分たちの頬をすりすりしてくれた。可愛い。
「ああ、ついボーッとしちゃったね。そろそろ、ジルの部屋に行かないと」
「クッ!」
「ポッ!」
魔王の名を聞いた鳥たちは、僕の肩から飛び立ち、早く来いと言わんばかりに先導して行く。最上階の廊下を進み、ジルの部屋の前に到着すると、クックとポッポは大きな扉をくちばしでノックした。
扉が傷みそうだし、くちばしにも良くないんじゃないかと思って、やめさせようとしたこともあったけれど、ジルは気にせずやらせてやれと言うし、魔鳥たちのくちばしはとても頑丈でまったくの無傷だから、好きなようにさせている。
馴染みのノック音が響き始めてすぐに、内側からドアが開かれた。全身真っ黒で長身の魔王──ジルがのそりと顔を出し、僕たちを見下ろしてほんのり微笑む。
「おはよう」
「おはよう、ジル」
「クッ!」
「ポッ!」
朝の挨拶を交わし合うと、ジルは、僕・クック・ポッポの順に頭を撫で、満足そうに笑みを深めた。
「うん、みんな健康そうだな。……ミカは、頭痛は大丈夫か?」
僕が以前、地球では雨の日が続くと頭痛がしていた、という話をしたのを覚えていてくれたんだろう。優しく問い掛けてくれたジルへ、頷きながら返答する。
「大丈夫だよ、ありがとう。気候が違うからかな、ここの世界の雨はそんなに体調が悪くなる感じがしないんだ」
「そうか。それならいいが、無理はせず、少しでも辛かったらちゃんと休んでくれ」
「うん、分かってる。ありがとう。……ね、身支度はもう大丈夫? 平気そうだったら、食堂に行こう!」
「ああ、大丈夫だが……、ぅわっ、なんだ、お前たち」
僕のうずうずした様子が伝染したのか、クックとポッポがジルの服の袖を咥えて、早く来いと言うように引っ張り始めた。困惑しながらも振り払ったりしないジルは、今日も今日とて優しい魔王様だ。
「クック、ポッポ、ジルを離してあげて。ほら、おいで」
「クッ、クッ」
「ポーッ」
肩を叩いてみせると、愛鳥たちは楽しげにさえずりながら僕の肩に飛んできて乗り、器用にバランスを取りつつドヤ顔を披露する。ジルはそれを眺めて、溜息まじりに苦笑した。
「なんだか、やけにはしゃいでいるな。元気なのはいいことだが……、何かあったのか?」
「たぶん、カミュのご機嫌にクックとポッポも影響されているんだと思う」
「……カミュの?」
「うん。……ふふっ」
朝ごはんの支度をしている最中、ずっと目をキラキラさせてそわそわしていた美しい悪魔の可愛らしい姿を思い出して、つい笑ってしまう。ジルがじっとりとした視線を向けてきているのに気付き、僕は「ごめんごめん」と謝った。
「……皆して、随分と楽しそうだな」
「ジルを仲間外れにしているわけじゃないよ。今日の朝ごはんは、ジルも好きだと思うんだ。それにね、主食には君たちに馴染みのあるものと初めて作るものの二種類を用意してるんだけど、それは同じ仲間同士なんだ」
なぞなぞというわけじゃないけれど、少し含みを持たせた言い方をしてみると、思った通り、ジルは興味深そうに黒目を瞬かせる。
「仲間? 同じものを二つ作ったのか?」
「ううん、違うよ。全く同じじゃないんだけど、分類は同じなんだ」
「んん……?」
「ちなみに、食パンを使ってるよ」
食パンと聞いた瞬間、漆黒の瞳に眩い光が宿った。この城の魔王と悪魔と魔鳥たち──つまり、みんな、食パンが大のお気に入りらしい。だから、朝食メニューを知っているカミュは食堂でわくわくしながら待っているだろうし、食パンのおこぼれを貰えることを期待しているクックとポッポもテンションが高いんだ。ジルもつられてそわそわし始めたから、食パンの力は偉大だよね。
「カミュも待ってるから、少し早歩きで行こうか」
「ああ。……だが、ミカが転ばない程度の速度でな」
「大丈夫、大丈夫。そう簡単には転ばないよ」
和やかに笑い合った僕たちは、いつもよりほんの少し速く歩いて、食堂を目指した。
──以前は、雨音があまり好きじゃなかった。落ち着く音だと言う人もいるけれど、僕にとっては、孤独感を増長させるものだったから。雨音がはっきり聞こえれば聞こえるほど、それだけ静かな空間にひとりぼっちなんだという証のようで。いつも、淋しかった。
でも、今は違う。
廊下の窓から外を眺める僕の両肩には、それぞれクックとポッポが乗っている。屋内で普通に生活できるようになった愛鳥たちは、いつも僕の後をついてきて一緒にいてくれる。
それに、過保護な魔王と悪魔も、何かと僕のことを気に掛けてくれるし、一緒に時間を過ごしてくれる機会も多い。
押し付けがましいわけではないし、一人の時間も尊重してくれているから、気疲れも孤独も無い幸せな日々を送っている。──そして、いつしか、雨音も穏やかな気持ちで聞けるようになっていた。
「今日も雨だね」
「クッ」
「ポッ」
「日本の梅雨と違ってジメジメしてないし、ちょっと涼しいから、過ごしづらいわけじゃないけど……、でも、お日様が恋しくなっちゃうなぁ。この世界では梅雨とは違うかもしれないけど、でも、今の時期って梅雨っぽいんだよね」
異世界の気候の話なんか聞かされても、魔鳥たちには意味が分からないだろう。それでもクックとポッポは健気に頷き、僕の頬に自分たちの頬をすりすりしてくれた。可愛い。
「ああ、ついボーッとしちゃったね。そろそろ、ジルの部屋に行かないと」
「クッ!」
「ポッ!」
魔王の名を聞いた鳥たちは、僕の肩から飛び立ち、早く来いと言わんばかりに先導して行く。最上階の廊下を進み、ジルの部屋の前に到着すると、クックとポッポは大きな扉をくちばしでノックした。
扉が傷みそうだし、くちばしにも良くないんじゃないかと思って、やめさせようとしたこともあったけれど、ジルは気にせずやらせてやれと言うし、魔鳥たちのくちばしはとても頑丈でまったくの無傷だから、好きなようにさせている。
馴染みのノック音が響き始めてすぐに、内側からドアが開かれた。全身真っ黒で長身の魔王──ジルがのそりと顔を出し、僕たちを見下ろしてほんのり微笑む。
「おはよう」
「おはよう、ジル」
「クッ!」
「ポッ!」
朝の挨拶を交わし合うと、ジルは、僕・クック・ポッポの順に頭を撫で、満足そうに笑みを深めた。
「うん、みんな健康そうだな。……ミカは、頭痛は大丈夫か?」
僕が以前、地球では雨の日が続くと頭痛がしていた、という話をしたのを覚えていてくれたんだろう。優しく問い掛けてくれたジルへ、頷きながら返答する。
「大丈夫だよ、ありがとう。気候が違うからかな、ここの世界の雨はそんなに体調が悪くなる感じがしないんだ」
「そうか。それならいいが、無理はせず、少しでも辛かったらちゃんと休んでくれ」
「うん、分かってる。ありがとう。……ね、身支度はもう大丈夫? 平気そうだったら、食堂に行こう!」
「ああ、大丈夫だが……、ぅわっ、なんだ、お前たち」
僕のうずうずした様子が伝染したのか、クックとポッポがジルの服の袖を咥えて、早く来いと言うように引っ張り始めた。困惑しながらも振り払ったりしないジルは、今日も今日とて優しい魔王様だ。
「クック、ポッポ、ジルを離してあげて。ほら、おいで」
「クッ、クッ」
「ポーッ」
肩を叩いてみせると、愛鳥たちは楽しげにさえずりながら僕の肩に飛んできて乗り、器用にバランスを取りつつドヤ顔を披露する。ジルはそれを眺めて、溜息まじりに苦笑した。
「なんだか、やけにはしゃいでいるな。元気なのはいいことだが……、何かあったのか?」
「たぶん、カミュのご機嫌にクックとポッポも影響されているんだと思う」
「……カミュの?」
「うん。……ふふっ」
朝ごはんの支度をしている最中、ずっと目をキラキラさせてそわそわしていた美しい悪魔の可愛らしい姿を思い出して、つい笑ってしまう。ジルがじっとりとした視線を向けてきているのに気付き、僕は「ごめんごめん」と謝った。
「……皆して、随分と楽しそうだな」
「ジルを仲間外れにしているわけじゃないよ。今日の朝ごはんは、ジルも好きだと思うんだ。それにね、主食には君たちに馴染みのあるものと初めて作るものの二種類を用意してるんだけど、それは同じ仲間同士なんだ」
なぞなぞというわけじゃないけれど、少し含みを持たせた言い方をしてみると、思った通り、ジルは興味深そうに黒目を瞬かせる。
「仲間? 同じものを二つ作ったのか?」
「ううん、違うよ。全く同じじゃないんだけど、分類は同じなんだ」
「んん……?」
「ちなみに、食パンを使ってるよ」
食パンと聞いた瞬間、漆黒の瞳に眩い光が宿った。この城の魔王と悪魔と魔鳥たち──つまり、みんな、食パンが大のお気に入りらしい。だから、朝食メニューを知っているカミュは食堂でわくわくしながら待っているだろうし、食パンのおこぼれを貰えることを期待しているクックとポッポもテンションが高いんだ。ジルもつられてそわそわし始めたから、食パンの力は偉大だよね。
「カミュも待ってるから、少し早歩きで行こうか」
「ああ。……だが、ミカが転ばない程度の速度でな」
「大丈夫、大丈夫。そう簡単には転ばないよ」
和やかに笑い合った僕たちは、いつもよりほんの少し速く歩いて、食堂を目指した。
1
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~
よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】
多くの応援、本当にありがとうございます!
職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。
持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。
偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。
「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。
草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。
頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男――
年齢なんて関係ない。
五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる