魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

文字の大きさ
113 / 246
【第6話】両片想いとフライドポテト

【6-3】

しおりを挟む
「少しツンとしたと思うけど、大丈夫だった?」

 ちょっと不安だったことを尋ねてみると、ジルとカミュはハッとしたように何度か頷いた。

「そういえば、少し辛い風味があったな。多少は驚いたが、俺は別に平気だ。舌がピリッとするというか、唇が少し痺れるというか、鼻がわずかに痛いというか……、斬新な感覚で面白い」
「ええ。私も大丈夫です。興味深く、そして、美味しくいただきました。少し辛味を感じた後だからか、卵の部分の甘じょっぱさが際立っていたように思います」

 概ね好評だったようで、ほっとした。何を使って作ったのか興味津々といった様子の二人に対し、種明かしをする。

「これは、マティ様が来たときに持ってきてくれたホラマロバ王国の食材の中にあった、練ってある調味料みたいなのをパンの表面に薄く塗ったんだよ。たくさんつけると辛いから、ほんの少しね。僕がいた国でカラシって呼ばれていたものと、よく似た風味のものがあったから」

 日本のカラシは黄色かったけれど、ホラマロバ王国のカラシっぽいものは黄緑色で、カラシというよりワサビのような見た目だ。でも、風味はカラシだったから、パンにバターを塗った後、これを薄く重ね塗りして出汁巻き卵を挟んでみた。

「なるほどな……、どうりで馴染みのない風味のはずだ。ホラマロバ王国の食材はアビーもマリオも使わなかったし、魔王になる前も縁が無いものだったから」
「私も、初めて味わいました。歴代の魔王の食事係や奴隷たちも、このようなものは使っていなかったと思います」
「そうなんだ。ホラマロバ王国の食材って僕には馴染みのある味わいのものばかりなんだけど、二人にとっては未知のものだろうから、けっこう恐る恐る使ってるんだ。美味しく食べてもらえたなら、良かった」

 和食系のものを作るときには、慣れていない味や食材に抵抗感があるのではと心配になったりする。ジルもカミュも、いつも何でも美味しそうに食べてくれるからありがたいけれど、それでも新メニューを出すときには不安になるものだ。

「ミカが作りたいものを好きに作ってくれていいと、いつも言っているだろう。俺たちは何を出されても嬉しいし、本当に気にしないでくれ」
「そうですよ。ミカさんはいつも気を遣ってくださいますが、もっと自由にしてくださいね」
「ありがとう。でも、僕は十分、自由気ままにさせてもらっているよ」

 むしろ、僕のほうこそ、気遣ってもらいっぱなしに思えてならない。でも、それを言ってしまうと、いやいやこちらのほうが、いやいや僕のほうが、という無意味な応酬が始まってしまうのは分かりきっている。
 だから、さらりと流して食事に集中してしまうほうがいい。そう考えて、僕は自分でもサンドイッチを頬張った。──うん、我ながら美味しい。カラシの風味と、出汁の効いた卵焼きは、不思議と相性がいいんだよね。久しぶりの味わいに、つい頬が緩んでしまう。

 僕が食事を始めると、魔王と悪魔も続きを食べ始めた。おかずも美味しそうに平らげていってくれていて、密かに安堵と勝利感を噛みしめる。窓際の愛鳥たちも、トーストを細かく砕いたものを嬉しそうに啄んでいた。

「──なぁ、ミカ。相談があるんだが」

 和やかに食事が進んでいく中、不意にジルからそう言われて、思わず背筋が伸びる。改まって相談だなんて、一体どうしたんだろう。やや緊張して身構えると、ジルは微苦笑を浮かべて首を振った。

「いや、すまない。別に、大層な話じゃないんだ。だから、そんなに構えないでくれ」
「う、うん……」
「本当に、怖かったり悲しかったりする話ではないんだ。……この、新しいほうの卵のサンドイッチ。これは、もっと細く、もしくはもっと小さくすることは出来るか? 片手で持って、出来れば一口で食べ切れるくらいの大きさが望ましいんだが」

 ジルの相談内容が予想外で、目が点になる。たぶん間抜けな顔をしているだろう僕は、それでも答えを返すために頷いた。

「まぁ、うん……、細長くよりは、一口大の真四角のほうが作りやすいかな。それでよければ可能だけど……、どうして?」

 もしかして、食べづらい大きさだったんだろうか。今からでも、小さくカットしてこようかな。
 そんな僕の思考を見透かしたように、ジルはまた首を振る。

「いや、今はこれでいいんだ。食べづらいというわけじゃない。カミュも平気だろう?」
「ええ。私も問題ありませんが……、もしかして、サリハ様のご来訪の際に、でしょうな」
「ああ」

 ──サリハ様?
 聞いたことがない名前だ。カミュが「様」と付けて呼んでいるということは、それなりに地位が高い人物だろう。もしかして、また王族……?

「サリハというのは、ここ七、八年ほど、毎年この時期に勝負を挑みに来る娘の名だ。この国の端の方にある乾地帯に住む民族の者で、雨をもたらす精霊の加護を受けている巫女のようだ」

 情報量が多い。──というか、巫女? 自動翻訳上で「巫女」となっているけれど、この世界にも神様を信奉する宗教があるのかな? そもそも、巫女さんが魔王に勝負を挑むって、どんな状況……?

 考え込み始めた僕を見て、フォークを置きながらカミュがくすりと笑った。

「ミカさん。勝負といっても、魔法や武器で戦うわけではありませんよ。『創世大戦』という盤上遊戯での対決なのです」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...