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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-3】
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「少しツンとしたと思うけど、大丈夫だった?」
ちょっと不安だったことを尋ねてみると、ジルとカミュはハッとしたように何度か頷いた。
「そういえば、少し辛い風味があったな。多少は驚いたが、俺は別に平気だ。舌がピリッとするというか、唇が少し痺れるというか、鼻がわずかに痛いというか……、斬新な感覚で面白い」
「ええ。私も大丈夫です。興味深く、そして、美味しくいただきました。少し辛味を感じた後だからか、卵の部分の甘じょっぱさが際立っていたように思います」
概ね好評だったようで、ほっとした。何を使って作ったのか興味津々といった様子の二人に対し、種明かしをする。
「これは、マティ様が来たときに持ってきてくれたホラマロバ王国の食材の中にあった、練ってある調味料みたいなのをパンの表面に薄く塗ったんだよ。たくさんつけると辛いから、ほんの少しね。僕がいた国でカラシって呼ばれていたものと、よく似た風味のものがあったから」
日本のカラシは黄色かったけれど、ホラマロバ王国のカラシっぽいものは黄緑色で、カラシというよりワサビのような見た目だ。でも、風味はカラシだったから、パンにバターを塗った後、これを薄く重ね塗りして出汁巻き卵を挟んでみた。
「なるほどな……、どうりで馴染みのない風味のはずだ。ホラマロバ王国の食材はアビーもマリオも使わなかったし、魔王になる前も縁が無いものだったから」
「私も、初めて味わいました。歴代の魔王の食事係や奴隷たちも、このようなものは使っていなかったと思います」
「そうなんだ。ホラマロバ王国の食材って僕には馴染みのある味わいのものばかりなんだけど、二人にとっては未知のものだろうから、けっこう恐る恐る使ってるんだ。美味しく食べてもらえたなら、良かった」
和食系のものを作るときには、慣れていない味や食材に抵抗感があるのではと心配になったりする。ジルもカミュも、いつも何でも美味しそうに食べてくれるからありがたいけれど、それでも新メニューを出すときには不安になるものだ。
「ミカが作りたいものを好きに作ってくれていいと、いつも言っているだろう。俺たちは何を出されても嬉しいし、本当に気にしないでくれ」
「そうですよ。ミカさんはいつも気を遣ってくださいますが、もっと自由にしてくださいね」
「ありがとう。でも、僕は十分、自由気ままにさせてもらっているよ」
むしろ、僕のほうこそ、気遣ってもらいっぱなしに思えてならない。でも、それを言ってしまうと、いやいやこちらのほうが、いやいや僕のほうが、という無意味な応酬が始まってしまうのは分かりきっている。
だから、さらりと流して食事に集中してしまうほうがいい。そう考えて、僕は自分でもサンドイッチを頬張った。──うん、我ながら美味しい。カラシの風味と、出汁の効いた卵焼きは、不思議と相性がいいんだよね。久しぶりの味わいに、つい頬が緩んでしまう。
僕が食事を始めると、魔王と悪魔も続きを食べ始めた。おかずも美味しそうに平らげていってくれていて、密かに安堵と勝利感を噛みしめる。窓際の愛鳥たちも、トーストを細かく砕いたものを嬉しそうに啄んでいた。
「──なぁ、ミカ。相談があるんだが」
和やかに食事が進んでいく中、不意にジルからそう言われて、思わず背筋が伸びる。改まって相談だなんて、一体どうしたんだろう。やや緊張して身構えると、ジルは微苦笑を浮かべて首を振った。
「いや、すまない。別に、大層な話じゃないんだ。だから、そんなに構えないでくれ」
「う、うん……」
「本当に、怖かったり悲しかったりする話ではないんだ。……この、新しいほうの卵のサンドイッチ。これは、もっと細く、もしくはもっと小さくすることは出来るか? 片手で持って、出来れば一口で食べ切れるくらいの大きさが望ましいんだが」
ジルの相談内容が予想外で、目が点になる。たぶん間抜けな顔をしているだろう僕は、それでも答えを返すために頷いた。
「まぁ、うん……、細長くよりは、一口大の真四角のほうが作りやすいかな。それでよければ可能だけど……、どうして?」
もしかして、食べづらい大きさだったんだろうか。今からでも、小さくカットしてこようかな。
そんな僕の思考を見透かしたように、ジルはまた首を振る。
「いや、今はこれでいいんだ。食べづらいというわけじゃない。カミュも平気だろう?」
「ええ。私も問題ありませんが……、もしかして、サリハ様のご来訪の際に、でしょうな」
「ああ」
──サリハ様?
聞いたことがない名前だ。カミュが「様」と付けて呼んでいるということは、それなりに地位が高い人物だろう。もしかして、また王族……?
「サリハというのは、ここ七、八年ほど、毎年この時期に勝負を挑みに来る娘の名だ。この国の端の方にある乾地帯に住む民族の者で、雨をもたらす精霊の加護を受けている巫女のようだ」
情報量が多い。──というか、巫女? 自動翻訳上で「巫女」となっているけれど、この世界にも神様を信奉する宗教があるのかな? そもそも、巫女さんが魔王に勝負を挑むって、どんな状況……?
考え込み始めた僕を見て、フォークを置きながらカミュがくすりと笑った。
「ミカさん。勝負といっても、魔法や武器で戦うわけではありませんよ。『創世大戦』という盤上遊戯での対決なのです」
ちょっと不安だったことを尋ねてみると、ジルとカミュはハッとしたように何度か頷いた。
「そういえば、少し辛い風味があったな。多少は驚いたが、俺は別に平気だ。舌がピリッとするというか、唇が少し痺れるというか、鼻がわずかに痛いというか……、斬新な感覚で面白い」
「ええ。私も大丈夫です。興味深く、そして、美味しくいただきました。少し辛味を感じた後だからか、卵の部分の甘じょっぱさが際立っていたように思います」
概ね好評だったようで、ほっとした。何を使って作ったのか興味津々といった様子の二人に対し、種明かしをする。
「これは、マティ様が来たときに持ってきてくれたホラマロバ王国の食材の中にあった、練ってある調味料みたいなのをパンの表面に薄く塗ったんだよ。たくさんつけると辛いから、ほんの少しね。僕がいた国でカラシって呼ばれていたものと、よく似た風味のものがあったから」
日本のカラシは黄色かったけれど、ホラマロバ王国のカラシっぽいものは黄緑色で、カラシというよりワサビのような見た目だ。でも、風味はカラシだったから、パンにバターを塗った後、これを薄く重ね塗りして出汁巻き卵を挟んでみた。
「なるほどな……、どうりで馴染みのない風味のはずだ。ホラマロバ王国の食材はアビーもマリオも使わなかったし、魔王になる前も縁が無いものだったから」
「私も、初めて味わいました。歴代の魔王の食事係や奴隷たちも、このようなものは使っていなかったと思います」
「そうなんだ。ホラマロバ王国の食材って僕には馴染みのある味わいのものばかりなんだけど、二人にとっては未知のものだろうから、けっこう恐る恐る使ってるんだ。美味しく食べてもらえたなら、良かった」
和食系のものを作るときには、慣れていない味や食材に抵抗感があるのではと心配になったりする。ジルもカミュも、いつも何でも美味しそうに食べてくれるからありがたいけれど、それでも新メニューを出すときには不安になるものだ。
「ミカが作りたいものを好きに作ってくれていいと、いつも言っているだろう。俺たちは何を出されても嬉しいし、本当に気にしないでくれ」
「そうですよ。ミカさんはいつも気を遣ってくださいますが、もっと自由にしてくださいね」
「ありがとう。でも、僕は十分、自由気ままにさせてもらっているよ」
むしろ、僕のほうこそ、気遣ってもらいっぱなしに思えてならない。でも、それを言ってしまうと、いやいやこちらのほうが、いやいや僕のほうが、という無意味な応酬が始まってしまうのは分かりきっている。
だから、さらりと流して食事に集中してしまうほうがいい。そう考えて、僕は自分でもサンドイッチを頬張った。──うん、我ながら美味しい。カラシの風味と、出汁の効いた卵焼きは、不思議と相性がいいんだよね。久しぶりの味わいに、つい頬が緩んでしまう。
僕が食事を始めると、魔王と悪魔も続きを食べ始めた。おかずも美味しそうに平らげていってくれていて、密かに安堵と勝利感を噛みしめる。窓際の愛鳥たちも、トーストを細かく砕いたものを嬉しそうに啄んでいた。
「──なぁ、ミカ。相談があるんだが」
和やかに食事が進んでいく中、不意にジルからそう言われて、思わず背筋が伸びる。改まって相談だなんて、一体どうしたんだろう。やや緊張して身構えると、ジルは微苦笑を浮かべて首を振った。
「いや、すまない。別に、大層な話じゃないんだ。だから、そんなに構えないでくれ」
「う、うん……」
「本当に、怖かったり悲しかったりする話ではないんだ。……この、新しいほうの卵のサンドイッチ。これは、もっと細く、もしくはもっと小さくすることは出来るか? 片手で持って、出来れば一口で食べ切れるくらいの大きさが望ましいんだが」
ジルの相談内容が予想外で、目が点になる。たぶん間抜けな顔をしているだろう僕は、それでも答えを返すために頷いた。
「まぁ、うん……、細長くよりは、一口大の真四角のほうが作りやすいかな。それでよければ可能だけど……、どうして?」
もしかして、食べづらい大きさだったんだろうか。今からでも、小さくカットしてこようかな。
そんな僕の思考を見透かしたように、ジルはまた首を振る。
「いや、今はこれでいいんだ。食べづらいというわけじゃない。カミュも平気だろう?」
「ええ。私も問題ありませんが……、もしかして、サリハ様のご来訪の際に、でしょうな」
「ああ」
──サリハ様?
聞いたことがない名前だ。カミュが「様」と付けて呼んでいるということは、それなりに地位が高い人物だろう。もしかして、また王族……?
「サリハというのは、ここ七、八年ほど、毎年この時期に勝負を挑みに来る娘の名だ。この国の端の方にある乾地帯に住む民族の者で、雨をもたらす精霊の加護を受けている巫女のようだ」
情報量が多い。──というか、巫女? 自動翻訳上で「巫女」となっているけれど、この世界にも神様を信奉する宗教があるのかな? そもそも、巫女さんが魔王に勝負を挑むって、どんな状況……?
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