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【第6話】両片想いとフライドポテト
【6-5】
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「サリハ様とも、二、三日……?」
先程の話を踏まえて考えると、ジルとカミュの勝負で三日以上続く見込みで、サリハ様はそれには敵わないものの、それなりに長く勝負を続けられるのだから、相応の知力や魔力を持っている人なんだろう。
考え込む僕を見て何を思ったのか、カミュがのほほんとした声で言ってきた。
「ミカさんは、様を付けて呼ばずともよろしいかと思いますよ。貴族や王族といった身分をお持ちの方ではないですから」
「そうなの? でも、カミュはサリハ様って呼んでいるよね?」
「ええ。ただ、敬称というよりは愛称という感覚ですね。フィラスさんを真似て呼ぶようになったので」
「フィラスさん……?」
「サリハ様の従者です。気立ての良い青年で、サリハ様の幼馴染だそうですよ。幼い頃から、巫女の従者として鍛錬を積まれているのだとか」
「そう、なんだ……」
魔王と巫女が数日間に渡る勝負をしている間、従者同士で交流しているんだろうか。カミュの口ぶりからして、そこそこ親しくしているように見受けられる。
毎年、この時期──第六星図期間に勝負を挑みに来る巫女と従者。彼らを迎え入れるのを当然のことのように捉えている魔王と悪魔。この関係性は、一体何なんだろう?
「サリハさんとジルは、どっちが多く勝っているの?」
「多くも何も、全て俺が勝っている。そうでなければ、俺はもう、ここにはいないだろう」
「……えっ?」
「暴走化の前であろうとも、魔王への挑戦者が勝利した時点で、魔王の魂の欠片は依代となっている肉体を離れるようだ。大魔王は敗北を何よりも嫌い、だからこそ、それぞれの魂の欠片の宿主の『勝負』の際に能力値を跳ね上げさせる。それでも敗北するような肉体には興味が無いということなんだろうな」
ということは、ジルもいつか、勝負を挑んできた相手に負けてしまったとしたら魔王ではなくなるのだろうか。それは、良いことなのか、悪いことなのか……?
「ミカ。──俺は、そう簡単には負けない。負けられないんだ。勝負において、『魔王』は勝つことが義務のようなもの。俺の意思に関わらず、魂によって勝たされる。通常は誰も勝てないからこそ、魔王が暴走化した場合には勇者の素質を持った者が現れる。伝説の勇者と精霊たちと魔の者の頭首が交わした古の契約によってな。……勇者以外で魔王を殺せるとしたら、それこそ上級の魔の者くらいだろう」
──上級の魔の者。そう聞いて、ハッとなる。
以前、マティ様とお会いしたとき、彼は確かカミュを「上級の悪魔」と称していた。暴走状態で自我を失っている魔王相手でも、上級の悪魔が殺されたりするはずがないと。
確かに、そうだ。カミュは、自身の立場を「魔王の監視兼補佐役」と言っていた。そして、現在の魔王システムのようなものが出来た当初から、彼はずっとその任務を遂行しているらしい。──魔王よりも弱い者が、監視など出来るはずがない。規律から逸脱した魔王を諫め、時には実力行使で止めなくてはならないのだろうし、そのためには魔王よりも強い必要がある。
──つまり、やろうと思えば、カミュはジルを殺せるのではないか。
唐突に思い至った考えに、ぞっとする。背筋に寒気を感じた僕は、無意識に自分の二の腕を撫でた。
「まったく、ジル様は時々、タチの悪い冗談を仰いますね。いくら上級の悪魔であろうとも、私が、ジル様に勝負を仕掛けるなんてこと、するはずないじゃありませんか。……ね、ミカさん?」
こちらの様子を見ながら妙に明るい声で話を振ってきたカミュに対し、僕は無防備に頷いて、思いつくままに言葉を返す。
「えっ、ぁ……、う、うん。そうだよね。時間も掛かるだろうしね」
「そうですね。……ミカさんは、私が上級の魔の者だとご存知でしたか。私から話したことがありましたか?」
「え、っと……」
「ああ、あるいは、マティアス様に伺ったのかもしれませんね」
しまった、と、つい思ってしまった。
カミュの口調は穏やかで、紅い視線も決して僕を責めるものじゃない。ただ、探りを入れるような口調からして、彼としてはまだ伏せておきたい事実だったのかもしれない。──上級の魔の者だという身の上を僕に知られたとして、カミュにどんな不都合があるのか分からないけれど。
曖昧に頷くことも濁した返事をすることも出来ず縮こまる僕に、ジルが助け舟を出してくれる。
「そんなことより。……この、卵のサンドイッチを小さくしたものを、サリハが来た際に作って欲しいんだ。勝負中は、最低限の入浴と仮眠の時間以外、ずっと遊戯盤の傍に座っていなくてはならない。食事もそこですることになるから、食べやすい大きさで腹に重たすぎないものを出してもらえると助かるんだが」
ちょっと強引な話題転換だったけれど、僕はありがたくそれに乗っかることにした。
「大丈夫だよ。軽食とおやつをいくつか考えておくね」
「……良かったですね、ジル様。昨年のご来訪時は酷い有様でしたが、今年はきちんとお迎え出来そうです」
カミュもきっちりと話題に乗り、綺麗に微笑んだ。
先程の話を踏まえて考えると、ジルとカミュの勝負で三日以上続く見込みで、サリハ様はそれには敵わないものの、それなりに長く勝負を続けられるのだから、相応の知力や魔力を持っている人なんだろう。
考え込む僕を見て何を思ったのか、カミュがのほほんとした声で言ってきた。
「ミカさんは、様を付けて呼ばずともよろしいかと思いますよ。貴族や王族といった身分をお持ちの方ではないですから」
「そうなの? でも、カミュはサリハ様って呼んでいるよね?」
「ええ。ただ、敬称というよりは愛称という感覚ですね。フィラスさんを真似て呼ぶようになったので」
「フィラスさん……?」
「サリハ様の従者です。気立ての良い青年で、サリハ様の幼馴染だそうですよ。幼い頃から、巫女の従者として鍛錬を積まれているのだとか」
「そう、なんだ……」
魔王と巫女が数日間に渡る勝負をしている間、従者同士で交流しているんだろうか。カミュの口ぶりからして、そこそこ親しくしているように見受けられる。
毎年、この時期──第六星図期間に勝負を挑みに来る巫女と従者。彼らを迎え入れるのを当然のことのように捉えている魔王と悪魔。この関係性は、一体何なんだろう?
「サリハさんとジルは、どっちが多く勝っているの?」
「多くも何も、全て俺が勝っている。そうでなければ、俺はもう、ここにはいないだろう」
「……えっ?」
「暴走化の前であろうとも、魔王への挑戦者が勝利した時点で、魔王の魂の欠片は依代となっている肉体を離れるようだ。大魔王は敗北を何よりも嫌い、だからこそ、それぞれの魂の欠片の宿主の『勝負』の際に能力値を跳ね上げさせる。それでも敗北するような肉体には興味が無いということなんだろうな」
ということは、ジルもいつか、勝負を挑んできた相手に負けてしまったとしたら魔王ではなくなるのだろうか。それは、良いことなのか、悪いことなのか……?
「ミカ。──俺は、そう簡単には負けない。負けられないんだ。勝負において、『魔王』は勝つことが義務のようなもの。俺の意思に関わらず、魂によって勝たされる。通常は誰も勝てないからこそ、魔王が暴走化した場合には勇者の素質を持った者が現れる。伝説の勇者と精霊たちと魔の者の頭首が交わした古の契約によってな。……勇者以外で魔王を殺せるとしたら、それこそ上級の魔の者くらいだろう」
──上級の魔の者。そう聞いて、ハッとなる。
以前、マティ様とお会いしたとき、彼は確かカミュを「上級の悪魔」と称していた。暴走状態で自我を失っている魔王相手でも、上級の悪魔が殺されたりするはずがないと。
確かに、そうだ。カミュは、自身の立場を「魔王の監視兼補佐役」と言っていた。そして、現在の魔王システムのようなものが出来た当初から、彼はずっとその任務を遂行しているらしい。──魔王よりも弱い者が、監視など出来るはずがない。規律から逸脱した魔王を諫め、時には実力行使で止めなくてはならないのだろうし、そのためには魔王よりも強い必要がある。
──つまり、やろうと思えば、カミュはジルを殺せるのではないか。
唐突に思い至った考えに、ぞっとする。背筋に寒気を感じた僕は、無意識に自分の二の腕を撫でた。
「まったく、ジル様は時々、タチの悪い冗談を仰いますね。いくら上級の悪魔であろうとも、私が、ジル様に勝負を仕掛けるなんてこと、するはずないじゃありませんか。……ね、ミカさん?」
こちらの様子を見ながら妙に明るい声で話を振ってきたカミュに対し、僕は無防備に頷いて、思いつくままに言葉を返す。
「えっ、ぁ……、う、うん。そうだよね。時間も掛かるだろうしね」
「そうですね。……ミカさんは、私が上級の魔の者だとご存知でしたか。私から話したことがありましたか?」
「え、っと……」
「ああ、あるいは、マティアス様に伺ったのかもしれませんね」
しまった、と、つい思ってしまった。
カミュの口調は穏やかで、紅い視線も決して僕を責めるものじゃない。ただ、探りを入れるような口調からして、彼としてはまだ伏せておきたい事実だったのかもしれない。──上級の魔の者だという身の上を僕に知られたとして、カミュにどんな不都合があるのか分からないけれど。
曖昧に頷くことも濁した返事をすることも出来ず縮こまる僕に、ジルが助け舟を出してくれる。
「そんなことより。……この、卵のサンドイッチを小さくしたものを、サリハが来た際に作って欲しいんだ。勝負中は、最低限の入浴と仮眠の時間以外、ずっと遊戯盤の傍に座っていなくてはならない。食事もそこですることになるから、食べやすい大きさで腹に重たすぎないものを出してもらえると助かるんだが」
ちょっと強引な話題転換だったけれど、僕はありがたくそれに乗っかることにした。
「大丈夫だよ。軽食とおやつをいくつか考えておくね」
「……良かったですね、ジル様。昨年のご来訪時は酷い有様でしたが、今年はきちんとお迎え出来そうです」
カミュもきっちりと話題に乗り、綺麗に微笑んだ。
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