魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第10話】聖者も交わるカボチャパーティー

【10-1】

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『おじさんは、結婚してないの……?』

 幼い子どもだった僕は、特に深い意味も無く、中水上なかみかみのおじさんへその質問を投げ掛けた。何の悪意も無く、本当にただの純粋な好奇心だったけれど、いつも穏やかに凪いでいるおじさんの瞳が一瞬とても傷ついていたから、その質問は間違いだったのだとすぐに後悔したんだ。

『ごめんなさい……』
『どうして謝るの? 海風みかくんは何も悪いことをしていないでしょ』
『だって、おじさん、僕の質問で悲しいってなっちゃって……』

 上手く言葉に出来ずモゴモゴと口ごもる僕を、おじさんは膝立ちになって抱きしめてくれた。優しくて、あったかくて、心がキュッとなる。

『海風くんは、優しいね。大丈夫、僕は悲しくないよ。海風くんがいてくれるから、おじさんは毎日とっても元気なんだ』

 そう言って、おじさんは柔らかく微笑んでくれた。

『僕にはね、とても大切な人がいたんだ。でも、その人は結婚できない人で……、だから、家族にはなれなかったんだよ。──どんなにお互いに大好きでも、ずっと一緒にいられるとは限らないんだ』
『大好きなのに……?』
『そうだよ。でも、僕たちはずっと、少しでも長く、一緒に家族でいたいね。……あと、海風くんが愛して、海風くんを愛してくれる人が、一緒に幸せになれますように』

 そう言って僕の頭を撫でてくれた中水上のおじさんは、とても儚い印象だった。その数日後に、おじさんは亡くなってしまったけれど、彼が祈ってくれた愛情深い願いは、今も僕の心の中で息吹いているように思えてならない。


 ◆◆◆


「夢……」

 意識が現実に戻って、ぼんやりと瞬きをする。肌寒さを感じて毛布を引き寄せると、傍で丸まっていたクックとポッポが近づいてきて頬擦りしてくれた。

「ん……、おはよう、クック、ポッポ」
「クゥ」
「ポー」

 愛鳥たちをもふもふと撫でながら、改めて朝のひんやりした空気に身震いする。
 第十星図期間──日本での十月に該当する時期になり、日中の気温もグッと下がってきた。少し前まで暑さに苦しんでいたはずなのに、今度は冬支度を意識せざるをえない日々だ。特に朝晩の空気はけっこうな冷え込みで、そういえばこの世界に召喚されたばかりの頃もかなり寒かったなぁなんて懐かしく思ったりもする。

「おじさんの夢……、久しぶりに見たなぁ」

 クックとポッポをもふもふしながら、ぽつりと独り言を漏らす。一時期は毎日のようにおじさんの夢を見ていたけれど、今は時々、予想できないようなときに見る程度になってしまった。
 夢の中とはいえ、おじさんに会えるのは嬉しい。もっと夢の中に出てきてくれてもいいのにな、と思ってしまうくらい、僕は今でもおじさんが大好きだ。
 ──そんな大好きなおじさんが大好きだった人とは、一体誰だったんだろう。

 おじさんのお葬式には、彼が生前に交流していたと思われる多くの人が来ていたけれども、結婚相手に該当しそうな人物には見当もつかない。僕自身、おじさんの突然の死にショックを受けていたせいで、そのときの記憶は割と曖昧だから確かなことは言えないけど、でも、恋人に該当しそうな人はいなかったと思う。仕事関係の知人と友人だけで、そういえば親族も僕以外はいなかったな……。

 あんなに思いやりのある優しい人がどうして僕を養子にするまで天涯孤独の身の上だったのか、真面目で誠実で仕事も私生活も大切にする人がどうして結婚することができなかったのか──、今思えば、中水上のおじさんについては謎めいている部分も多い。子どもの頃は気にならなかったことも、大人になった今、冷静に思い返してみると不思議に感じたりもする。

「クゥ……?」
「ポッ? ポッ?」

 いつまでも起き上がらない僕を心配してくれたのか、クックとポッポが顔を覗き込んできた。まんまるの目が不安そうに揺れている気がして、なんだか申し訳なくなる。上半身を起こしつつ、愛鳥たちを撫でた。

「ごめんね、なんでもないよ。ちょっと考えごとをしていただけなんだ。悲しいとか、具合悪いとかじゃないからね」

 クックとポッポは納得してくれたのか、おはようというかのようにキュッキュと鳴いてくれる。彼らに「おはよう」と返しつつベッドから出て、カミュに作ってもらった温かい素材のスリッパを履いた。顔を洗って、朝ごはんの支度をしないと。秋の収穫野菜がたくさんあるから、料理をするのも楽しいんだけど──、

「でも、さすがにカボチャが多すぎるんだよなぁ……」

 この世界ではガボンと呼ばれている、オバケカボチャ的な野菜がある。要はめちゃくちゃ大きなカボチャなんだけど、僕とカミュが栽培の手順をちょっと間違えてしまった結果、とんでもない増殖をしてしまったのだ。
 ガボンは美味しいし、収穫した以上はきちんと使いたのだけど、割と甘みが強いから毎日ごはんとして調理するのはちょっと厳しかったりする。

「この世界にハロウィンパーティー的なものは無いもんなぁ」
「ハロインパーチィ、……とは、何ですか?」
「えっ? ひぇっ!?」

 急に第三者の声が聞こえて驚いて振り向くと、いつの間にか美しい悪魔が佇んで微笑んでいた。
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