魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと

【11-4】

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「──まず、カミュの指摘通り、ここ最近は暴走化の衝動の大きさが増していてな、俺が自我を保つのにも限界が見え始めてきた。その影響で、心身の不調や消耗が激しくなっている。……本当は、こうしてお前たちと、……特にミカと顔を合わせているのも怖いんだ。和やかに談笑している最中、いつどんな暴走化の兆しが生じるか分からない。今、次の瞬間には、お前のその細い首を絞めているかもしれない。そんな可能性を秘めている俺という存在が、嫌で嫌でたまらない。──だから、実は、ミカを感謝祭に参加させた後、そのままマティアスの元で預かってもらえないかと、秘密裏に相談の手紙を出したりもしていた」
「そんな……、」

 あまりのショックに、それ以上は言葉が続けられず、僕はただ力無く首を振った。ジルがそこまで弱って追い詰められていたことも、思い悩んで僕を手放そうとしていたことも、今語られた全てのことに胸が痛む。
 ──それでも。どんな危険を孕んでいても、僕は此処を離れるつもりはない。その強い意志を込めて漆黒の瞳を見つめると、ジルは分かっていると云うように頷いた。

「マティアスも悩んだようだが、単にミカを手離しただけでは何の解決にもならないと、前向きな賭けをしてみないかという返事を受けた。これは賢者ドノヴァンの意見も踏まえてのもののようだ」
「前向きな賭け……?」
「ああ。ただミカを遠ざけただけでは、結局は俺は遅かれ早かれ暴走する。ミカを遠ざけたことで心に緩みが生じ、自我を保とうと抗う意志は弱くなるだろう。その結果、完全に『魔王』となった俺が暴れ始めたら、ミカが匿われている地域とて安全とは言い切れなくなる。最終的にはミカを殺してしまうことになるかもしれない。──ならば、ミカを護りたいという自意識が働いている間に、魔王の魂の欠片の力を封じ込める力を得られるように動くべきではないか、と」

 確かに、ジルが魔王の魂の欠片に押し負けて暴走してしまった場合、勇者に倒されるまでの間、暴走化した魔王は殺戮を繰り返してしまうようだから、暴走化自体を防げるのならそのほうがいい。僕が死ぬかどうかに関わらず、そう思う。
 ──でも、具体的な方法があるんだろうか?

「確かに、魔王の魂の欠片の力を無効化できるように働きかけることが出来るのであれば、それにこしたことはありません。ですが、以前に賢者殿がいらしたときにその話題が出た際、賢者殿では魔力が不足していて、編み出した魔法が発動できないというような話になっていたかと思うのですが……、何か対処法でも出たのですか?」

 僕と同じことを疑問に感じたのか、カミュが冷静に問い掛ける。その言葉を受けたジルは首を振り、説明を続けた。

「その点に関しては、未だに解決策は見つかっていないようだ。……だが、暴走化の兆しを感じてからの俺の精神的な動きを詳細に報告したところ、暴走の衝動を一度完全に抑え込めるようになれると、次にまた暴走化が始まろうとするまでに数十年の猶予が出来るという見立てがあるらしい」
「それは、確かに前向きに検討する価値のある可能性ですね」

 カミュがやや目を瞠って驚いたように言うのに、僕も頷きながら同調する。

「数十年も時間に余裕が生まれるのは有難いよね。その間に、ドノヴァンさんの魔法を完全体にする方法が何か見つかるかもしれないし」
「ああ、そうだな。……だが、俺としては引っ掛かる部分もあるんだ」
「え? どの辺り? 勝率とか?」
「いや……、」

 少し口ごもったジルはカフェモカを一口飲み、小さな溜息を零してから、呟くように先を続けた。

「上手くいったとしても、いかなかったとしても、俺が己の心を強化するためにミカの存在を利用しているようで……、お前の命を危険に晒しているようで、それが自分で気に病んでしまっている部分だ」

 自嘲交じりのジルの言葉を聞き、カミュも無意識のように頷く。魔王も悪魔も、僕に過保護なのは共通しているから、同じところが気になってしまうんだろうか。
 ──僕は、そんなの全然気にしないのにな。

「あのね、僕は元々、こうして生きていない存在なんだよ。たまたまカミュが見つけて召喚してくれて、ジルも受け入れてくれて、二人に守られてこその日常を送っているんだ。僕の作ったごはんをみんなで食べる幸せな日々は、ジルとカミュがいてくれるから。勿論、クックとポッポもそうだけど。……いずれにせよ、僕は魔王の食事係だから。この城を離れるつもりはないよ。どう転んだとしても、君たちの傍にいる。君たちの傍にいてこその、この二つ目の命だから。……他の場所で生きていけって言われるほうが、魔王に殺される運命を受け入れることよりも悲しいし、嫌だなって思うよ」

 自分で言っていてなんだか悲しくなってしまい俯くと、優しい手が伸びてきて、僕の頭をぽんぽんと撫でてくれた。
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