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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと
【11-3】
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「カミュ、お前……」
少し驚き混じりの呟きを落としたジルは、次に溜息を零す。そして、どこか気まずそうな様子で、スッと視線を逸らした。けれども、カミュはそれを許しはしない。ジルの視線が向いた先へ移動し、美しい悪魔は真正面から魔王を見つめた。
「私たちは、家族同然に過ごしております。互いを慮るのは当然のこと。けれど、本当に支え合うためには、弱い部分こそ晒し合わなければ。……夏に情けない姿を見せてしまった折、私はそう学びました。それを教えてくださったのは、ジル様とミカさんです」
「……」
「ジル様。私もミカさんも、貴方のことを本当に心配しております。少しでも貴方と──、魔王ではなく、ジルベール様と共に過ごす時間を伸ばすため、出来ることは何でもしたいのです」
「……」
「……もう、だいぶお加減が悪いのでしょう?」
ジルは何も言葉を返さず、唇を噛み締めるように引き結んでいる。すると、そんな魔王の両肩へクックとポッポが飛び移り、クルクルと甘えた声を出しながら頬擦りした。
「ジル。……クックとポッポも心配してるよ」
「……」
「もちろん、僕も。……毎日毎日、泣きたくなるくらい心配してるよ」
「……ああ、そうだろうな」
ジルは諦めたような吐息と共に頷き、クックとポッポの頭を指先で交互に撫でながら静かに言った。
「カミュの言う通り、段々と限界が見えてきたというか、俺自身の何かがすり減っているというか……、正直なところ、そろそろ俺の意識の敗北が見えてきた気がするな」
「……えっ?」
「ジル様、そのお話、詳しくお聞かせください」
僕が動揺している横で、カミュがすっと表情を引き締める。鋭ささえ感じる赤い視線を受け止めるジルは、わずかに微笑んで首を振る。
「言っておくが、必ずしも絶望的な状況というわけじゃないぞ」
「それでも、我々は聞いておく必要があります。──これは、魔王を監視する魔の者としてではなく、ジルベール様と共に暮らしているカマルティユとしてお願いしているのです。ミカさんを守るためにも」
「ああ、そうだな。……お前たちに余計な心配を掛けまいと思っていたのだが、黙っていたほうが心労を掛けてしまいそうだ。きちんと話しておこう」
ずっと胸に秘めていたものを解き放とうとしているからか、ジルの蒼白い頬に少しだけ赤みがさしてきたような気がした。──そっか。彼が一人で抱え込んでいた悩みも、負担のひとつだったんだろうな。それを一緒に分かち合えたらいいと思う。
「……ねぇ、ちゃんと話すなら、食堂とかに行かない? 魔法であっためてくれてるから寒さはそんなに感じないけど、しっかり座ってさ、あったかいものでも飲みながら話したほうが、なんかこう……、ほっとするかも」
「ああ、そうだな。……行こうか」
ジルに促され、僕はローブを脱いでカミュへ渡し、カミュはそれを丁寧にトルソーのようなものに掛ける。いつものショール姿になった僕の肩へ、クックとポッポが飛び移ってきた。そして、みんなで裁縫室を出て、ゆっくりと食堂を目指した。
◇
作り置きしていたジンジャービスケット風のクッキーと、モカっぽい飲み物を手早く作ったものが載ったテーブルを囲って、いつもの三人の定位置に座る。クックとポッポも窓辺に行ったので、彼らにもクッキーを砕いたものを出してあげた。
「……ミカの味を楽しむと、心が落ち着くな」
「そうですね。毎日いただけるミカさんの手料理に、とても安心します」
嬉しい言葉をもらって、思わず顔が綻んでしまう。
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。それだけ、僕の存在がここに馴染んできたってことなのかな」
「そうだな。……ミカも、この世界にいることに違和感は無いか?」
「うん、おかげさまで、すっかり。この世界でもう一度生きることが出来てよかったって、心から思っているよ。ジルも、カミュも、クックとポッポも、ありがとう」
「こちらこそ、そう言ってもらえると嬉しい」
「ええ、本当に。ありがとうございます」
温かい飲み物を楽しみながら、素直な気持ちを交わし合って、ぽかぽかとした気分になってきた。それはたぶん僕だけではなくて、他のみんなもそうなんだと思う。
同じ気持ちで嬉しいね、とわざわざ明言しなくても、交わし合う視線でそれは十分に分かる。それだけ僕たちが一緒にいることが当たり前になったってことだよね。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ジルはひとつ頷いてから、優しく目を細めた。
「これからする話は、愚痴ではなく、悲劇的なものでもなく、こうして共に暮らす日々の時間を守っていくためのものだ。衝撃を受けるかもしれないが、前向きに考えてもらえると嬉しい」
頷きを返す僕とカミュを順番に見つめてから、ジルは穏やかに語り出した。
少し驚き混じりの呟きを落としたジルは、次に溜息を零す。そして、どこか気まずそうな様子で、スッと視線を逸らした。けれども、カミュはそれを許しはしない。ジルの視線が向いた先へ移動し、美しい悪魔は真正面から魔王を見つめた。
「私たちは、家族同然に過ごしております。互いを慮るのは当然のこと。けれど、本当に支え合うためには、弱い部分こそ晒し合わなければ。……夏に情けない姿を見せてしまった折、私はそう学びました。それを教えてくださったのは、ジル様とミカさんです」
「……」
「ジル様。私もミカさんも、貴方のことを本当に心配しております。少しでも貴方と──、魔王ではなく、ジルベール様と共に過ごす時間を伸ばすため、出来ることは何でもしたいのです」
「……」
「……もう、だいぶお加減が悪いのでしょう?」
ジルは何も言葉を返さず、唇を噛み締めるように引き結んでいる。すると、そんな魔王の両肩へクックとポッポが飛び移り、クルクルと甘えた声を出しながら頬擦りした。
「ジル。……クックとポッポも心配してるよ」
「……」
「もちろん、僕も。……毎日毎日、泣きたくなるくらい心配してるよ」
「……ああ、そうだろうな」
ジルは諦めたような吐息と共に頷き、クックとポッポの頭を指先で交互に撫でながら静かに言った。
「カミュの言う通り、段々と限界が見えてきたというか、俺自身の何かがすり減っているというか……、正直なところ、そろそろ俺の意識の敗北が見えてきた気がするな」
「……えっ?」
「ジル様、そのお話、詳しくお聞かせください」
僕が動揺している横で、カミュがすっと表情を引き締める。鋭ささえ感じる赤い視線を受け止めるジルは、わずかに微笑んで首を振る。
「言っておくが、必ずしも絶望的な状況というわけじゃないぞ」
「それでも、我々は聞いておく必要があります。──これは、魔王を監視する魔の者としてではなく、ジルベール様と共に暮らしているカマルティユとしてお願いしているのです。ミカさんを守るためにも」
「ああ、そうだな。……お前たちに余計な心配を掛けまいと思っていたのだが、黙っていたほうが心労を掛けてしまいそうだ。きちんと話しておこう」
ずっと胸に秘めていたものを解き放とうとしているからか、ジルの蒼白い頬に少しだけ赤みがさしてきたような気がした。──そっか。彼が一人で抱え込んでいた悩みも、負担のひとつだったんだろうな。それを一緒に分かち合えたらいいと思う。
「……ねぇ、ちゃんと話すなら、食堂とかに行かない? 魔法であっためてくれてるから寒さはそんなに感じないけど、しっかり座ってさ、あったかいものでも飲みながら話したほうが、なんかこう……、ほっとするかも」
「ああ、そうだな。……行こうか」
ジルに促され、僕はローブを脱いでカミュへ渡し、カミュはそれを丁寧にトルソーのようなものに掛ける。いつものショール姿になった僕の肩へ、クックとポッポが飛び移ってきた。そして、みんなで裁縫室を出て、ゆっくりと食堂を目指した。
◇
作り置きしていたジンジャービスケット風のクッキーと、モカっぽい飲み物を手早く作ったものが載ったテーブルを囲って、いつもの三人の定位置に座る。クックとポッポも窓辺に行ったので、彼らにもクッキーを砕いたものを出してあげた。
「……ミカの味を楽しむと、心が落ち着くな」
「そうですね。毎日いただけるミカさんの手料理に、とても安心します」
嬉しい言葉をもらって、思わず顔が綻んでしまう。
「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。それだけ、僕の存在がここに馴染んできたってことなのかな」
「そうだな。……ミカも、この世界にいることに違和感は無いか?」
「うん、おかげさまで、すっかり。この世界でもう一度生きることが出来てよかったって、心から思っているよ。ジルも、カミュも、クックとポッポも、ありがとう」
「こちらこそ、そう言ってもらえると嬉しい」
「ええ、本当に。ありがとうございます」
温かい飲み物を楽しみながら、素直な気持ちを交わし合って、ぽかぽかとした気分になってきた。それはたぶん僕だけではなくて、他のみんなもそうなんだと思う。
同じ気持ちで嬉しいね、とわざわざ明言しなくても、交わし合う視線でそれは十分に分かる。それだけ僕たちが一緒にいることが当たり前になったってことだよね。
そんな僕の気持ちを知ってか知らずか、ジルはひとつ頷いてから、優しく目を細めた。
「これからする話は、愚痴ではなく、悲劇的なものでもなく、こうして共に暮らす日々の時間を守っていくためのものだ。衝撃を受けるかもしれないが、前向きに考えてもらえると嬉しい」
頷きを返す僕とカミュを順番に見つめてから、ジルは穏やかに語り出した。
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