魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと

【11-2】

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 僕の返事を待つことなく、カミュは僕の肩にローブを掛けてくれる。見た目の重厚感よりも軽い羽織り心地で、ふわっとあったかい。

「すごく着心地いいね! ……どう?」
「とても似合っていますよ。……うん、丈もちょうどよさそうですね。いい具合に膝の下まで隠れています。頭巾部分も被ってみていただけますか?」
「うん」

 カミュに促されるままふわりとフードを被ってみると、視界の上方が一気に覆われる。でも、だからといって前方が何も見えなくなるというわけじゃなくて、いい感じに自分の目元が隠されている状態だ。
 きょろきょろしてみると、その動きに合わせたタイミングでカミュがひょこっと覗き込んできた。

「どうでしょう? 不便ではありませんか?」
「うん、大丈夫だと思う。視界が狭い感じはするけど、慣れれば平気かなって思うよ。柔らかくて気持ちいいし、あったかくていい感じ。素敵な衣装をありがとう、カミュ」

 お礼を言って軽く頭を下げると、美しい悪魔は何故だか感慨深そうに瞳を潤ませる。どうしたのかと思いきや、彼は予想外なことを言い出した。

「今、かつてマリオさんが仰っていた気持ちが理解できた気がします」
「えっ? マリオさん……?」

 マリオさんは、僕の前にこの城で食事係を務めていた人だ。とても陽気で優しいおじさんで、地球での前世では温かな家庭を築き、満足のいく人生を謳歌して、いつ死んでも後悔は無いという気持ちで穏やかに余生を過ごしていたらしい。
 そんなマリオさんはマティ様とも面識があったみたいだけれど、流石に王都へ出向いたことは無かったはずだ。マティ様と出会った時点でマリオさんはかなり高齢だったし、年齢や体力面を考慮しなかったとしても、魔王のしもべが魔王の領地外へ出向くことはよくないだろうし。

 マリオさんとマティ様の間の何かに対してカミュが感動しているのかと思いきや、そうではないらしいと、彼の次の一言で分かった。

「マリオさんは、娘さんが嫁入りする際、花嫁衣装をまとった姿で感謝の言葉を伝えられて、思わず泣いてしまったそうです。今の私には、そのお気持ちの一端が分かる気がします」
「えっ? なんで?」
「旅立つための衣装を身に纏ったミカさんから『ありがとう』なんて言われてしまっては、もう、泣くしかありません」
「いや……、えっ、なんで? 花嫁衣裳じゃないし、そもそも僕はお嫁に行かないし、大体ちょっとお祭りを観に行くだけですぐに此処へ帰ってくるんだけど!?」
「それはそうですが、そうではないのですよ」
「いやいやいやいや、よく分からないよ……!」

 やっぱり魔の者って、独特な感性を持っているんだろうか……? なんて考え始めたとき、ふわりと空気が揺れてジルが姿を現した。

「何か賑やかだと思ったら、試着をしていたのか。……ミカ、よく似合っているな」
「ジル。……具合は大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」

 そう言って微笑む魔王の顔色は、正直言って結構蒼い。ジルはもともと蒼白い感じの色味の肌だけれど、今の彼は明らかに不調を思わせる顔色の悪さだ。
 ──それもそのはず。ここ最近、ジルの中に湧き上がってくる暴走化の兆しの発生頻度が高まっているようで、その度に衝動を抑制している彼の負担は大きく、寝込んでしまう時間が増えてきている。今しがたも、ジルは自室で休んでいた。

「──ジル様。まだ、もう少し休まれていたほうがよろしいかと。幸いなことに、第十一星図期間に入ってしまえば、魔王への挑戦者は殆ど訪れなくなります。春が来るまでは、比較的おだやかな日々になるでしょう。ゆっくりお休みしていても、大丈夫かと思います」
「ああ、そうだな。……だが、無性にお前たちの顔が見たくなったんだ。……本当に、よく似合っている。流石はカミュが仕立てたものだ。この姿のミカをマティアスに会わせてやるのが楽しみだな」

 悪魔の心配を振り切り、うっすらと笑う魔王の表情は、どこか切ない。彼自身、段々と限界を感じてきてしまっているんじゃないかと心配になってしまう。

「……ジル。感謝祭のとき、王都の近くまで一緒に来てくれるって言ってたけど、無理しないほうがいいんじゃないかな? カミュに付いて来てもらうか、それか、マティ様とカイ様には申し訳ないけど、僕が行くこと自体を中止にするか……」
「いや、そういうわけにはいかない」

 僕が遠慮がちに出した提案を、ジルはきっぱりと拒否した。

「あのマティアスが、珍しく真剣に頼みごとをしてきたんだ。それほどカイ王子──弟のことが大切なのだろう。大事な者のために力を尽くしたいという気持ちは、痛いほど理解できる。ミカが嫌だというのなら話は別だが、そうでない限り、協力してやりたい」

 真剣な声でそう言われてしまっては、それ以上何も返せない。口ごもる僕の背後でカミュが頷き、唇を開いた。

「大事な者のために力を尽くしたいという気持ち、私にも十分に分かります。……今の私とミカさんの貴方に対する気持ちも、まさにそうなのですから」
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