魔王と僕≪しもべ≫のしあわせごはん

羽鳥くらら

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【第11話】秋と冬の狭間で屋台料理を君たちと

【11-1】

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 第十一星図期間も半ばになり、だいぶ冷え込む日も増えてきた。まだ積もったりはしていないけれど、朝晩に雪がちらつくこともある。
 日中でもそれなりに肌寒いので、もふもふとしたショールのようなものをカミュが作ってくれたんだ。柔らかくて、なんだか良い匂いのするそれは、羽織っているだけでとても温かい。今日も今日とてそれを身に纏いつつ、僕はカミュに連れられて裁縫室にいた。

「なんか……、すっごい豪華だね……?」

 見せられた衣装──僕がマティ様と一緒に秋の感謝祭に参加するときのための黒いローブの完成度の高さに、思わず感嘆の溜息が漏れてしまう。
 パッと見た感じは真っ黒でシンプルなローブだけれども、よく見ると、黒と光沢が控えめの銀色の糸で袖口や裾に豪奢で細かい模様が刺繍されていた。ローブの素材も、カシミヤみたいな手触りの柔らかな布地で、見るからに高級品だなと伝わってくる仕上がりだ。

「本当は、もっと華やかに作りたかったのですが、あまり悪目立ちしてしまうのはよろしくないかと思い控えめにしたのです」
「そう……? 僕から見たら、すごく豪華だなって思っちゃうけど。それこそ、僕が着るには勿体ないくらい素敵だと思うよ」
「そう言っていただけると、安心しますし嬉しいですが……、でも、これはミカさん専用の外衣ですので。これを着て、マティアス様の隣で感謝祭を楽しんでいただきませんと」

 カミュはそう言って、どこか誇らしげにローブを眺めている。彼としても、満足のいく仕上がりになっているんだろう。

「以前、マティアス様がいらしたときに一度見ていただいておりまして、そのときにどの程度まで装飾を施してよいものかを確認しておりますので、あの御方もきっと納得してくださると思いますよ。……一応、ミカさんはマティアス様の特別なお相手という設定で行かれるので、かの第三王子様の寵愛を感じられるものがいいと考えまして、マティアス様を象徴する花の模様が入っております」
「へぇ……! ……あ、これかな?」

 百合の花に似た形の模様が入っているのを見つけて指さすと、カミュは優しく微笑んで頷いた。

「ええ、そうです。王族の方にはそれぞれ生まれた季節に合わせて象徴の花をお決めになられているそうで、生誕祭のときなどに、王都民が自宅や広場等いろいろな場所で飾って楽しむようです」
「そうなんだ。なんか、そういうのいいね。王族と国民が仲良しっていうか、平和な感じがして素敵だなって思うよ。感謝祭もそんな感じで一緒に賑やかに楽しむから、王族の人たちが城下に出て参加することも普通に受け入れられてるんだろうなぁ」

 僕はずっとこの魔王の城にいるから、プレカシオン王国の内情に詳しいというわけでもないんだけど、ジルやカミュから聞く話や、たまに来てくれるマティ様が聞かせてくれる話から、王族は国民から尊敬されていると同時に愛されてもいて、親しみを抱かれている様子がよく分かる。

 ──そして、その温かな関係性を壊さないために、きっと「魔王」が必要だったんだろうなとも思う。たとえ悪事の影に潜んでいるのが王族だったとしても、それを魔王のせいだと印象操作をすることで、王族は守られてきたという部分があるんだろう。
 勿論、全ての王族が悪い人だとは思えない。マティ様は本当に正義感に満ちた人だし、長い歴史の中でほんの一握りの悪い王族が悪事に手を染めていただけなんだろう。
 ……でも、その僅かな悪い人を守るために、何人もの魔王が犠牲になってきたんだ。その魔王だって、元々は普通の人間だったのに。そう考えると、胸が痛い。

「ああ、そういえば。マティアス様から大切なものを預かっていたんでした」
「えっ? ……マティ様からの預かり物?」

 ポンと手を叩いたカミュが零した一言で、ふと我に返る。なんだろうと思って彼を見ると、美しい悪魔は柔らかな微笑を口元に刻みながら、魔法で何かを取り出して手のひらに載せ、こちらへ差し出してきた。
 覗き込んでみると、そこには洗練された雰囲気の綺麗なブローチのようなものが鎮座していた。マティ様の瞳を思わせる、アイスブルーの美しい石が嵌められていて、例の百合に似た象徴の花っぽいデザインだ。この世界の貴金属の価値は不明だけれど、どう見ても高級品だと思う。

「どうしたの、これ? マティ様の忘れ物?」
「いいえ。これを身に着けて秋の感謝祭に来てほしい、と仰っていました。ミカさんに差し上げたいけれど、きっと遠慮されてしまうだろうから、衣装の装飾品としてさりげなく渡してほしい、と」
「さりげなく……、は無理だよねぇ」
「ええ。ですから、今こうしてお話してしまったわけなのですが」

 二人して顔を見合わせて苦笑してから、カミュは恭しい仕草でローブを手に取り、僕の背後へ回ってきた。

「ミカさん、よろしければ試着してみていただけませんか?」
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