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第3章
【3-94】重なり合う部分
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手首を切り落とすという言葉に、キリエは怯えたように肩を震わせ、ジャスミンは不愉快そうに眉を顰めたが、それぞれの側近が宥めるように背を撫でたため、特に発言することはなく口を噤んだ。
「確かに、魔石を手にしていることが魔術の絶対条件であるのなら、それを妨害して隙を生み出し、一気に畳み掛けて倒すのが一番現実的でございますね」
そう返したリアムに同調するように、ダリオとブルーノも頷く。実戦経験のある彼らの脳内では、何かしらの戦況が描かれているのかもしれない。
「そう、相手が少数精鋭で挑んでくるのであれば、こちらは隙を誘い出した後に多数攻撃で落としていくのが理想的だ」
「ええ。……ただ、ジェイデン陛下の御考えでは、民兵を率いることは避けたいとのことでございました。キリエ様もそれに御賛同されており、この国だけではなく両隣国からも無辜の民を犠牲にすることは避けたいと強く望んでいらっしゃいます」
自分の言いたいことをリアムが綺麗にまとめて代弁してくれているので、キリエもせめてもの意思表示として、こくこくと何度も頷いた。そんな主を目の当たりにして一瞬だけ表情を和らげたリアムだが、すぐに緊張感のある表情へと戻り、ライアンとジャスミンを交互に見つめる。
「殿下方は、その辺りにつきましては、どのように御考えになられるのでしょうか」
ジェイデンと自分だけではなく他の兄弟の考えも汲んでいきたい、というキリエの意思に沿って、リアムは話を進めてくれているのだろう。キリエは感謝の気持ちを抱きつつ、礼を述べるのは後で改めてにして、今は話の腰を折って邪魔をしないようにと沈黙を選んで見守った。
「そうね……、わたしもやっぱり、一般国民を巻き込みたくないわ。わたしたちが直接悪いことをしたわけではないけど、王家の始祖が犯した罪の尻拭いは王家がするべきだもの。……といっても、綺麗事だけでは立ち向かえないでしょうし、王国騎士には手を貸してもらうことになってしまいそうだけれど」
申し訳なさそうに顔を曇らせるジャスミンの肩に触れ、ダリオは首を振る。声が出せない彼の代わりに、その心情を口に出したのはブルーノだった。
「私たち王国騎士は、王家へ忠誠を捧げております。王族の皆様が矢面に立たれると仰るなら、更にその前面に出てお守りするのが我々の使命です。騎士は皆、そういった気持ちでおります。どうか、そのように御心を痛めないでください」
ブルーノの言葉にリアムも頷いたものの、本心としては王国へのそれよりもキリエへの忠誠と想いが上回っているので、それ以上の発言は控えた。
それでも、ジャスミンの心は少し楽になったようで、姫君は「ありがとう」と小さく微笑む。彼女の気分が和らいだところで、今度はライアンが意見を口にした。
「私も、民兵を集める必要は無いという考えだ。といっても、君たちとは観点が違うのだろうが」
「様々な視点から物事を捉えるのって、大切なことなのだと思います。ライアンがどう考えているのか、ぜひ教えていただきたいです」
キリエが促すと、ライアンは片手で眼鏡の位置を直しつつ、詳細を語り始める。
「まず、そもそもの前提として、剣を握ったことすらない一般国民を集めたところで、対魔族の戦争においては無意味だ。普通の白兵戦であればいざ知らず、一般的な兵器で敵う相手ではないと思われるのに有象無象を頭数だけ揃えてみても、肉盾にすらなれるか疑問なところだ」
あまりの言い草に少々腹立たしさをおぼえるものの、ライアンが指摘している内容はあながち間違っているとも言えない。キリエは反論したくなる気持ちを抑え、とりあえずは耳を傾けることにした。
ジャスミンも似たような心境なのか、ちらりとライアンを睨んだものの、すぐに真顔へ戻る。
「更に言えば、戦があるということは、この国全体に大なり小なり損害が生じる。魔族との争いがどれだけの規模になり、どれほどの痛手を負うかは定かではないが、何にせよ復興には民の力が必要になってくる。無意味な徴兵で民草を搾取してしまっては、戦争後の回復に問題が出てしまうだろう。……隣国とも手を組めるのであれば、各自が出せる軍事力を上手く束ね、少数精鋭で対峙すべきだろうな」
「なるほど……、一般国民を戦場に出すべきではないという見解は、みんな同じようですね」
それぞれ立場や見方は違うものの、民兵は不要であるという意見は一致している。マデリンがこの場にいたとしても、そこの合意は得られたはずだ。
キリエはそう納得し、一同もおおむねは意見を擦り合わせられたと感じているだろうと思えたので、次の話題へ移そうと考えた。
「その、魔族の襲撃に関してですが……、マデリンが人質に取られてしまいました。魔族の要求は、こちらから彼らへ攻撃せず、この王都まで迎え入れることです。──これに関しては、どのように考えますか?」
それまでとは異なる緊張感が、三人の兄弟の間を走り抜けた。
「確かに、魔石を手にしていることが魔術の絶対条件であるのなら、それを妨害して隙を生み出し、一気に畳み掛けて倒すのが一番現実的でございますね」
そう返したリアムに同調するように、ダリオとブルーノも頷く。実戦経験のある彼らの脳内では、何かしらの戦況が描かれているのかもしれない。
「そう、相手が少数精鋭で挑んでくるのであれば、こちらは隙を誘い出した後に多数攻撃で落としていくのが理想的だ」
「ええ。……ただ、ジェイデン陛下の御考えでは、民兵を率いることは避けたいとのことでございました。キリエ様もそれに御賛同されており、この国だけではなく両隣国からも無辜の民を犠牲にすることは避けたいと強く望んでいらっしゃいます」
自分の言いたいことをリアムが綺麗にまとめて代弁してくれているので、キリエもせめてもの意思表示として、こくこくと何度も頷いた。そんな主を目の当たりにして一瞬だけ表情を和らげたリアムだが、すぐに緊張感のある表情へと戻り、ライアンとジャスミンを交互に見つめる。
「殿下方は、その辺りにつきましては、どのように御考えになられるのでしょうか」
ジェイデンと自分だけではなく他の兄弟の考えも汲んでいきたい、というキリエの意思に沿って、リアムは話を進めてくれているのだろう。キリエは感謝の気持ちを抱きつつ、礼を述べるのは後で改めてにして、今は話の腰を折って邪魔をしないようにと沈黙を選んで見守った。
「そうね……、わたしもやっぱり、一般国民を巻き込みたくないわ。わたしたちが直接悪いことをしたわけではないけど、王家の始祖が犯した罪の尻拭いは王家がするべきだもの。……といっても、綺麗事だけでは立ち向かえないでしょうし、王国騎士には手を貸してもらうことになってしまいそうだけれど」
申し訳なさそうに顔を曇らせるジャスミンの肩に触れ、ダリオは首を振る。声が出せない彼の代わりに、その心情を口に出したのはブルーノだった。
「私たち王国騎士は、王家へ忠誠を捧げております。王族の皆様が矢面に立たれると仰るなら、更にその前面に出てお守りするのが我々の使命です。騎士は皆、そういった気持ちでおります。どうか、そのように御心を痛めないでください」
ブルーノの言葉にリアムも頷いたものの、本心としては王国へのそれよりもキリエへの忠誠と想いが上回っているので、それ以上の発言は控えた。
それでも、ジャスミンの心は少し楽になったようで、姫君は「ありがとう」と小さく微笑む。彼女の気分が和らいだところで、今度はライアンが意見を口にした。
「私も、民兵を集める必要は無いという考えだ。といっても、君たちとは観点が違うのだろうが」
「様々な視点から物事を捉えるのって、大切なことなのだと思います。ライアンがどう考えているのか、ぜひ教えていただきたいです」
キリエが促すと、ライアンは片手で眼鏡の位置を直しつつ、詳細を語り始める。
「まず、そもそもの前提として、剣を握ったことすらない一般国民を集めたところで、対魔族の戦争においては無意味だ。普通の白兵戦であればいざ知らず、一般的な兵器で敵う相手ではないと思われるのに有象無象を頭数だけ揃えてみても、肉盾にすらなれるか疑問なところだ」
あまりの言い草に少々腹立たしさをおぼえるものの、ライアンが指摘している内容はあながち間違っているとも言えない。キリエは反論したくなる気持ちを抑え、とりあえずは耳を傾けることにした。
ジャスミンも似たような心境なのか、ちらりとライアンを睨んだものの、すぐに真顔へ戻る。
「更に言えば、戦があるということは、この国全体に大なり小なり損害が生じる。魔族との争いがどれだけの規模になり、どれほどの痛手を負うかは定かではないが、何にせよ復興には民の力が必要になってくる。無意味な徴兵で民草を搾取してしまっては、戦争後の回復に問題が出てしまうだろう。……隣国とも手を組めるのであれば、各自が出せる軍事力を上手く束ね、少数精鋭で対峙すべきだろうな」
「なるほど……、一般国民を戦場に出すべきではないという見解は、みんな同じようですね」
それぞれ立場や見方は違うものの、民兵は不要であるという意見は一致している。マデリンがこの場にいたとしても、そこの合意は得られたはずだ。
キリエはそう納得し、一同もおおむねは意見を擦り合わせられたと感じているだろうと思えたので、次の話題へ移そうと考えた。
「その、魔族の襲撃に関してですが……、マデリンが人質に取られてしまいました。魔族の要求は、こちらから彼らへ攻撃せず、この王都まで迎え入れることです。──これに関しては、どのように考えますか?」
それまでとは異なる緊張感が、三人の兄弟の間を走り抜けた。
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