247 / 335
第3章
【3-93】勝機を見出すべき瞬間
しおりを挟む
「でも……、魔族の人たちがどのくらいの人数存在するか、僕たちは知らないでしょう? 海の向こうの大陸がとても広くて、魔族も沢山いるとしたら、彼らにとっての『少ない』は僕たちにとっての『多い』かもしれません」
ライアンの見解に対し、キリエが疑問を投げかける。するとライアンは、表情を曇らせて言い添えた。
「いや、魔族の人数はそう多くはないのだ。──カインの言葉に嘘がなければ、という注釈を付けざるをえないが、先にも述べた通り彼の言葉におそらく偽りは無い。自己掲示に関わるものであれば、特に。……彼は言っていた。現在、魔族の中で魔力を持つ者は、ウィスタリア王国の王都で暮らす民の数より少ない、と。そして、半分以下に減らすつもりである、とも」
「えっ、……ちょっと待ってください。減らすつもり、と言いましたか? 減ってしまう予定、とかではなく?」
「……そうだ。彼は優秀な魔力持ちが減少し続けているのを憂いて、魔族の遺伝子を一新したいと言っていた。……つまり、魔力を持たない者や、あっても微弱な者たちは排除していくつもりだったのだ。実際、私が交流していた時点で既に行動に移しつつあったようだからな」
あまりの衝撃に、キリエは絶句する。まるで農作物を間引くような感覚で同胞を処断していくなど、到底理解できそうにない考えだ。
キリエ以外の者たちも、何とも言えぬ顔で唇を引き結んでいる。そして彼らは口に出さないまでも、その選民思想はライアンに通じるものを感じると思った。だからこそカインはライアンに目をつけて接触したのではないか、とも。
ライアンにもその自覚はあるのか、自嘲気味に乾いた笑いを発した。
「ははっ……、賢明な諸君は分かっているだろうが、カインと私の考えには似通った部分がある。だから彼は私の味方に立とうとしてくれていたのだろうが、私が敗れた後はすぐにそっぽを向いたよ。そして、おそらくは魔術だろうが、私が魔族のことなどを決して口に出せないようにしたのだ。……いつの間にか術が解けていたのか、今はこうして語れているが」
ライアンが敗北したからなのか、はたまた、どこかで様子を見ていて満足のいく情報を得られたからなのか。その理由は本人でなければ断言は出来ないが、カインにとってライアンは不要な存在となったのだろう。だからこそ、切り捨てた。
人質として活用することも出来たのではないかとも思えるが、カインはライアンではなくマデリンを連れ去った。転移の魔術を使いながらの誘拐には、王城の地下牢より幽閉塔のほうが都合がよかったのかもしれない。
「──ライアン様が仰るように、強い魔力を持つ者はごく少数だとしましょう。むしろ、カインの単独犯で、彼が単身でウィスタリア中大陸へ攻めてくるという極端な仮定をしてもいいでしょう。……たとえそうだとしても、正直なところ、勝つ術は見当たらないと私は考えております。そのあたりは、どのように御考えでしょうか」
沈黙を静かに打ち破ったリアムの言葉を受け、ライアンはじっと見つめ返した。
「実際に彼と対峙した君が言うと、説得力があるな。しかも、夜霧の騎士の実力をもってしても難しいと見るか」
「対峙したといっても、幻影でございますので。それでも、恥ずかしながら私は敵わず、……キリエ様の御身を傷つける結果となってしまいました」
魂結びの件は今この場に集っている面々へは伏せているため曖昧な言い方になってしまったが、悲壮感は聞き手にも伝わり、一同はそれぞれ渋い面持ちになる。
「幻影相手ですら、その有様でございました。それが、そのカイン本人が此方へやって来た場合、どのように対処したら良いものか……、何か御知恵があれば拝聴いたしたく存じます」
カインの幻影と闘っていたときのリアムの動きは、決して悪くなかった。それどころか、なんとしても主君を取り戻そうと必死に食らいついていた様は、これまでの実力以上を感じさせる奮闘具合であったのだ。
その場にいたキリエはそれを実感しているが、わざわざ明言しなくとも、皆が想像に難くないことだろう。夜霧の騎士の実力を分かっている一同は、彼の疑問に同意するかのような視線をライアンへ向けた。
どう答えるのかと注目されているライアンは、薄青の瞳で皆を見渡す。
「確かに、カイン一人でも厄介な相手には違いない。転移してきた幻影ではなく、彼本人が目の前にいた場合、どのような魔術を駆使されるのか分かったものではないという危惧もある。──だが、実体がそこにあるのであれば、僅かな隙を掻い潜りながら一撃を与えることも可能かもしれない。その方法については、戦術に詳しくない私からは何とも言えないのが申し訳ないところだが、ひとつだけ確かな情報は言える。先刻も少し触れたと思うが、魔術を使うためには、魔石を握らなくてはならない」
その言葉を聞き、何かを察したのか、リアムがハッとして息を呑んだ。その藍紫の瞳を見据え、ライアンは首肯する。
「そうだ。その手から魔石を奪うなり、いっそのこと手首ごと斬り落とすなりすればいい。──そこで生じる隙こそが、我々が縋れる勝利の可能性となる」
ライアンの見解に対し、キリエが疑問を投げかける。するとライアンは、表情を曇らせて言い添えた。
「いや、魔族の人数はそう多くはないのだ。──カインの言葉に嘘がなければ、という注釈を付けざるをえないが、先にも述べた通り彼の言葉におそらく偽りは無い。自己掲示に関わるものであれば、特に。……彼は言っていた。現在、魔族の中で魔力を持つ者は、ウィスタリア王国の王都で暮らす民の数より少ない、と。そして、半分以下に減らすつもりである、とも」
「えっ、……ちょっと待ってください。減らすつもり、と言いましたか? 減ってしまう予定、とかではなく?」
「……そうだ。彼は優秀な魔力持ちが減少し続けているのを憂いて、魔族の遺伝子を一新したいと言っていた。……つまり、魔力を持たない者や、あっても微弱な者たちは排除していくつもりだったのだ。実際、私が交流していた時点で既に行動に移しつつあったようだからな」
あまりの衝撃に、キリエは絶句する。まるで農作物を間引くような感覚で同胞を処断していくなど、到底理解できそうにない考えだ。
キリエ以外の者たちも、何とも言えぬ顔で唇を引き結んでいる。そして彼らは口に出さないまでも、その選民思想はライアンに通じるものを感じると思った。だからこそカインはライアンに目をつけて接触したのではないか、とも。
ライアンにもその自覚はあるのか、自嘲気味に乾いた笑いを発した。
「ははっ……、賢明な諸君は分かっているだろうが、カインと私の考えには似通った部分がある。だから彼は私の味方に立とうとしてくれていたのだろうが、私が敗れた後はすぐにそっぽを向いたよ。そして、おそらくは魔術だろうが、私が魔族のことなどを決して口に出せないようにしたのだ。……いつの間にか術が解けていたのか、今はこうして語れているが」
ライアンが敗北したからなのか、はたまた、どこかで様子を見ていて満足のいく情報を得られたからなのか。その理由は本人でなければ断言は出来ないが、カインにとってライアンは不要な存在となったのだろう。だからこそ、切り捨てた。
人質として活用することも出来たのではないかとも思えるが、カインはライアンではなくマデリンを連れ去った。転移の魔術を使いながらの誘拐には、王城の地下牢より幽閉塔のほうが都合がよかったのかもしれない。
「──ライアン様が仰るように、強い魔力を持つ者はごく少数だとしましょう。むしろ、カインの単独犯で、彼が単身でウィスタリア中大陸へ攻めてくるという極端な仮定をしてもいいでしょう。……たとえそうだとしても、正直なところ、勝つ術は見当たらないと私は考えております。そのあたりは、どのように御考えでしょうか」
沈黙を静かに打ち破ったリアムの言葉を受け、ライアンはじっと見つめ返した。
「実際に彼と対峙した君が言うと、説得力があるな。しかも、夜霧の騎士の実力をもってしても難しいと見るか」
「対峙したといっても、幻影でございますので。それでも、恥ずかしながら私は敵わず、……キリエ様の御身を傷つける結果となってしまいました」
魂結びの件は今この場に集っている面々へは伏せているため曖昧な言い方になってしまったが、悲壮感は聞き手にも伝わり、一同はそれぞれ渋い面持ちになる。
「幻影相手ですら、その有様でございました。それが、そのカイン本人が此方へやって来た場合、どのように対処したら良いものか……、何か御知恵があれば拝聴いたしたく存じます」
カインの幻影と闘っていたときのリアムの動きは、決して悪くなかった。それどころか、なんとしても主君を取り戻そうと必死に食らいついていた様は、これまでの実力以上を感じさせる奮闘具合であったのだ。
その場にいたキリエはそれを実感しているが、わざわざ明言しなくとも、皆が想像に難くないことだろう。夜霧の騎士の実力を分かっている一同は、彼の疑問に同意するかのような視線をライアンへ向けた。
どう答えるのかと注目されているライアンは、薄青の瞳で皆を見渡す。
「確かに、カイン一人でも厄介な相手には違いない。転移してきた幻影ではなく、彼本人が目の前にいた場合、どのような魔術を駆使されるのか分かったものではないという危惧もある。──だが、実体がそこにあるのであれば、僅かな隙を掻い潜りながら一撃を与えることも可能かもしれない。その方法については、戦術に詳しくない私からは何とも言えないのが申し訳ないところだが、ひとつだけ確かな情報は言える。先刻も少し触れたと思うが、魔術を使うためには、魔石を握らなくてはならない」
その言葉を聞き、何かを察したのか、リアムがハッとして息を呑んだ。その藍紫の瞳を見据え、ライアンは首肯する。
「そうだ。その手から魔石を奪うなり、いっそのこと手首ごと斬り落とすなりすればいい。──そこで生じる隙こそが、我々が縋れる勝利の可能性となる」
0
あなたにおすすめの小説
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
【完結】World cuisine おいしい世界~ほのぼの系ではありません。恋愛×調合×料理
SAI
ファンタジー
魔法が当たり前に存在する世界で17歳の美少女ライファは最低ランクの魔力しか持っていない。夢で見たレシピを再現するため、魔女の家で暮らしながら料理を作る日々を過ごしていた。
低い魔力でありながら神からの贈り物とされるスキルを持つが故、国を揺るがす大きな渦に巻き込まれてゆく。
恋愛×料理×調合
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
酒好きおじさんの異世界酒造スローライフ
天野 恵
ファンタジー
酒井健一(51歳)は大の酒好きで、酒類マスターの称号を持ち世界各国を飛び回っていたほどの実力だった。
ある日、深酒して帰宅途中に事故に遭い、気がついたら異世界に転生していた。転移した際に一つの“スキル”を授かった。
そのスキルというのは【酒聖(しゅせい)】という名のスキル。
よくわからないスキルのせいで見捨てられてしまう。
そんな時、修道院シスターのアリアと出会う。
こうして、2人は異世界で仲間と出会い、お酒作りや飲み歩きスローライフが始まる。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる