夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら

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第3章

【3-93】勝機を見出すべき瞬間

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「でも……、魔族の人たちがどのくらいの人数存在するか、僕たちは知らないでしょう? 海の向こうの大陸がとても広くて、魔族も沢山いるとしたら、彼らにとっての『少ない』は僕たちにとっての『多い』かもしれません」

 ライアンの見解に対し、キリエが疑問を投げかける。するとライアンは、表情を曇らせて言い添えた。

「いや、魔族の人数はそう多くはないのだ。──カインの言葉に嘘がなければ、という注釈を付けざるをえないが、先にも述べた通り彼の言葉におそらく偽りは無い。自己掲示に関わるものであれば、特に。……彼は言っていた。現在、魔族の中で魔力を持つ者は、ウィスタリア王国の王都で暮らす民の数より少ない、と。そして、半分以下に減らすつもりである、とも」
「えっ、……ちょっと待ってください。減らすつもり、と言いましたか? 減ってしまう予定、とかではなく?」
「……そうだ。彼は優秀な魔力持ちが減少し続けているのを憂いて、魔族の遺伝子を一新したいと言っていた。……つまり、魔力を持たない者や、あっても微弱な者たちは排除していくつもりだったのだ。実際、私が交流していた時点で既に行動に移しつつあったようだからな」

 あまりの衝撃に、キリエは絶句する。まるで農作物を間引くような感覚で同胞を処断していくなど、到底理解できそうにない考えだ。
 キリエ以外の者たちも、何とも言えぬ顔で唇を引き結んでいる。そして彼らは口に出さないまでも、その選民思想はライアンに通じるものを感じると思った。だからこそカインはライアンに目をつけて接触したのではないか、とも。

 ライアンにもその自覚はあるのか、自嘲気味に乾いた笑いを発した。

「ははっ……、賢明な諸君は分かっているだろうが、カインと私の考えには似通った部分がある。だから彼は私の味方に立とうとしてくれていたのだろうが、私が敗れた後はすぐにそっぽを向いたよ。そして、おそらくは魔術だろうが、私が魔族のことなどを決して口に出せないようにしたのだ。……いつの間にか術が解けていたのか、今はこうして語れているが」

 ライアンが敗北したからなのか、はたまた、どこかで様子を見ていて満足のいく情報を得られたからなのか。その理由は本人でなければ断言は出来ないが、カインにとってライアンは不要な存在となったのだろう。だからこそ、切り捨てた。
 人質として活用することも出来たのではないかとも思えるが、カインはライアンではなくマデリンを連れ去った。転移の魔術を使いながらの誘拐には、王城の地下牢より幽閉塔のほうが都合がよかったのかもしれない。

「──ライアン様が仰るように、強い魔力を持つ者はごく少数だとしましょう。むしろ、カインの単独犯で、彼が単身でウィスタリア中大陸へ攻めてくるという極端な仮定をしてもいいでしょう。……たとえそうだとしても、正直なところ、勝つ術は見当たらないと私は考えております。そのあたりは、どのように御考えでしょうか」

 沈黙を静かに打ち破ったリアムの言葉を受け、ライアンはじっと見つめ返した。

「実際に彼と対峙した君が言うと、説得力があるな。しかも、夜霧の騎士の実力をもってしても難しいと見るか」
「対峙したといっても、幻影でございますので。それでも、恥ずかしながら私は敵わず、……キリエ様の御身を傷つける結果となってしまいました」

 魂結たまむすびの件は今この場に集っている面々へは伏せているため曖昧な言い方になってしまったが、悲壮感は聞き手にも伝わり、一同はそれぞれ渋い面持ちになる。

「幻影相手ですら、その有様でございました。それが、そのカイン本人が此方へやって来た場合、どのように対処したら良いものか……、何か御知恵があれば拝聴いたしたく存じます」

 カインの幻影と闘っていたときのリアムの動きは、決して悪くなかった。それどころか、なんとしても主君を取り戻そうと必死に食らいついていた様は、これまでの実力以上を感じさせる奮闘具合であったのだ。
 その場にいたキリエはそれを実感しているが、わざわざ明言しなくとも、皆が想像に難くないことだろう。夜霧の騎士の実力を分かっている一同は、彼の疑問に同意するかのような視線をライアンへ向けた。
 どう答えるのかと注目されているライアンは、薄青の瞳で皆を見渡す。

「確かに、カイン一人でも厄介な相手には違いない。転移してきた幻影ではなく、彼本人が目の前にいた場合、どのような魔術を駆使されるのか分かったものではないという危惧もある。──だが、実体がそこにあるのであれば、僅かな隙を掻い潜りながら一撃を与えることも可能かもしれない。その方法については、戦術に詳しくない私からは何とも言えないのが申し訳ないところだが、ひとつだけ確かな情報は言える。先刻も少し触れたと思うが、魔術を使うためには、魔石を握らなくてはならない」

 その言葉を聞き、何かを察したのか、リアムがハッとして息を呑んだ。その藍紫の瞳を見据え、ライアンは首肯する。

「そうだ。その手から魔石を奪うなり、いっそのこと手首ごと斬り落とすなりすればいい。──そこで生じる隙こそが、我々が縋れる勝利の可能性となる」
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