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邂逅

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 先程ヒヤッとさせられたが、ドロップ品はたんまりだし、第一目的であるシルバリウスの「時」属性魔法が発動して俺は大変気分が良い。
 魔物に囲まれて、補助媒体が弾き飛ばされた時はどうなるかと思ったが、次の瞬間には一斉に魔物の体が崩れ落ち、真横にはシルバリウスがいたのだ。
 ……「時」属性魔法の事を知らなかったら軽くホラーだよね。
 一瞬で真横にいるとかマジ怖かったわ。俺の反射神経がもっと良ければ、撃ってた気がする。(残念ながらそこまでの反射神経は持ち合わせていない)
 うん。後ろには立たないようにお願いしておこうと思う。

 そんな訳で何でペースが乱れたか若干忘れかけていたのだが、ドロップ品の回収が終わりボス部屋を出るとその人達はいた。
 茶髪に整った眉に意思が強そうな緑目の青年がこちらを睨んでいる。
 その横にいるのは、緑髪に青目に眼鏡のこれまた頭が良さそうな美形の青年が困ったような顔をしながら立っている。
「おい、これはどーいうことだ?」
 茶髪の青年が低く唸るような声で言いながら俺に近付くように一歩前へ出た。
 横にいたシルバリウスに緊張が走り、剣を構えるが、大丈夫だと目配せをおくる。

「あぁん? なぁリューイ」

 ……もうこれ、ただのヤクザだよね?
 バレたのなら仕方ないと魔石回収中に被りなおしていたフードを再びとり挨拶する。

「お久しぶりです。エドガー兄上」
 フォンデルク辺境伯爵家の次男であり、リューイの兄が目の前に居た。

 ***

 ――所変えて、ダンジョン協会の貴賓室。
 高級そうなソファーが置いてあり、テーブルには紅茶とクッキーが並んでいる。
 ダンジョン協会にこんな所もあったんだねぇと俺は感心した。
「で? なんでお前がここに居るんだ? お前死にそうだったじゃないか」
 不機嫌そうに、エドガーが話しかける。
「そうそう、死にそうになって、ここにいるヴィーと屋敷の皆んなのおかげで生還したんですー」
 俺は目を合わせずに適当に答える。
 その回答に苛立ったのか、エドガーはバンッと高級そうなテーブルを叩いた。
 ……あぁ、紅茶の中身が溢れちゃったじゃないか。
「お前ふざけるのも大概にしろよ?」
「別にー」
「てめぇ……」
 エドガーの指が怒りでぷるぷる震えている。
「ちゃんと質問には答えてる筈だけどー?」
「ふざけんじゃねぇ。治ったなら家族に連絡位連絡しろよ」
「私の生死にご興味ありましたか? それは失礼しました。まぁ、もう知ったから良いですよね? 兄上より連絡していただければと」
 エドガーに胸ぐらを掴まれ持ち上げられる。
 シルバリウスとエドガーの腹心である緑髪の青年クリスが、止めにかかるが俺もエドガーを睨み返す。
「なんですか?」
「なんですか? じゃねぇだろう。みんなてめぇの事を心配してたんだから、真っ先に連絡するのは当たり前だろうが」
「ええー? 心配されてたんですか? 成人前の子供を田舎の屋敷にほっぽり出して、家族の誰も屋敷に会いに来ない。
 それどころかこの3年、エドガー兄上は手紙の1つすら送って来ませんでしたよね? それで心配してたなんて言われてもねぇ」
 いくら”魔力枯渇症“だったとはいえ、未成年を1人田舎に追いやり、使用人と物資だけ与えて本人達は会いに来ず……。なんて、常識的に考えておかしいよね?
 ”心配していた“なんて思ってもいない事を、怒り口調で言われればそりゃ反発もしたくなるものだ。
「それは……」
 エドガーが悔しそうな顔をしながらも俺の首元からゆっくり力を抜く。
 今迄考えないようにしていた感情が溢れ出てきて止まらない。
「別にスチュアートの定期報告で満足してたなら、良いじゃないですか。私がどうしようと、どうなろうと関係ないでしょ?」
「そうじゃねぇ……」
「そうでしょうか? ああもしかして早く死んで欲しかったですか? もう葬式も墓も準備しちゃってましたかね?
 それとも、先程のを見て辺境伯爵家にとって利益がありそうだからまた家族ごっこをしたくなりました?」

 ――パシンっ

 頬を叩かれた。
「そうじゃねぇ……」

 感情がぐちゃぐちゃで、自分でも何をしたいのか分からない。
 もうこの場に居たくなくて、貴賓室を飛び出した。
 走れ……はしないので、とぼとぼ廊下を歩く。
 涙が止まらない。この時ほどフードがあってよかったと思った事はなかった。
 この3階は関係者以外立ち入り禁止の場所で階段を2つ下りればダンジョン協会のいつもの風景になる。
 けど、泣き濡れたままで下に降りるわけにはいかないと、階段に座って落ち着かせようとするものの、涙は一向に止まらない。
 誰かが、横に座る。
「リューイ」
 いつもの低い優しい声が聞こえる。
 ローブ越しにそっと背中を撫でてくれる。

 振り返れば、日を追えば追うほど段々減る家族からの便り。
 誰も見舞いに来ない簡素な屋敷。
 形式的にお金と誕生日プレゼントだけ送り続けられる現実。

 誰も俺が生き残ることを望んでいなかった。
 どうせ死ぬのなら誰にも望まれていないと知る前に、例え病気の進行が早くなるとしても家族の元で死にたかった。
 まだ生きているのに、既に死んでいるも同然だった。
 
 シルバリウスを助けたのも自分のエゴだ。
 このまま誰からも生を望まれずに死ぬのが嫌だった。
 ほんの少しでも誰かの記憶に残りたかった。
 誰かに惜しまれたかったのだ。

「ただ最期まで愛されたかっただけなのに」
 俺の為と言って田舎の屋敷へ送られたのは厄介払いしたかったんじゃないのか?
 世間体があるから、延命措置をせずにはいられなかったのではないか?

「早く死んでれば良かったのかな?」
 そうしたら、屋敷で既に死んだも同然の忘れ去られていく現実を見なくて済んだのかな?
 
「家族に捨てられたなんて知りたくなかった」
 愛されていない現実を知りたくなかった。

「望まれたかっただけなのに……」

 生きる事を望んで欲しかった。
 
 側にいる事を望んで欲しかった。

 ただそれだけだったのに。

「私はリューイを望むよ」

 シルバリウスの温かい言葉が耳元をくすぐる。
 
「例えこの世界の全ての人が望まなくても、私がリューイを望むよ」

 温かい言葉が俺の冷えた心に染み込んでいく。

「……ずっと捨てないで側にいて欲しい」
「勿論。捨てる事はないし、死ぬまで、いいや死んでも離さない」
「ふふふ、それはちょっと怖いね」

 例え家族が捨てても、全員が要らないと言っても、一人でも俺を望んでくれるなら幸せなのかもしれない。

「うちへ帰ろう。スチュアートもリューイを望んでいると思うから、さっきの話を聞いたら怒られるぞ」
「ええぇ、そうかなぁ?」
「そうだぞ、あれは異常の域に達していると思う。普通の使用人はもっとドライだ。リューイの屋敷にいる使用人がちょっとおかしいんだ」
「またまたぁ」
 シルバリウスは俺を抱き上げ、階段を降りて行った。

 そんな二人を悔やむような顔で見守る人が居た事をリューイは知らない。
 勿論シルバリウスは気が付いていた。
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