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7章「彼女のポケベル」
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多くの男女がそうであるように、身体の関係が出来てからの二人の言動は大胆になっていった。
私も以前は遠慮がちにだったのだが、ヨーコに逢うことを積極的に望むようになっている自分に驚いた。
もう私には…彼女のいない世界など考えられなった。
いつヨーコに逢えるだろう…
ヨーコから早く電話がかかってこないだろうか…
寝ても覚めても考えるのはヨーコの事ばかりになっていた。
彼女からの電話は、ほぼ毎日かかってくるのだが、私はそれを待ちきれなかった。
私の家族がヨーコからの電話を取ることもあった。
その際はヨーコは私の彼女だということになっていた。
ヨーコとの通話はいつも長電話になる。
話すのは圧倒的にヨーコが多いが、私は彼女の声を聴いているだけで幸せだった。
いや、正直では無いな。声だけでは当然の事ながら、私は満足出来なくなっていた…
早くヨーコに逢いたい…また彼女を抱きたい…
若い私はヨーコを想って自分で慰めるしかなかった。
時には彼女の声を電話で聴きながら… 彼女に聴いてもらいながら…
寂しい…ヨーコに逢いたい…
二人の逢瀬はヨーコの都合が最優先される。
私はそれに予定を合わせて休暇を取るのだ。
ある日の逢瀬で、ヨーコは私に対して開口一番こう言った。
「今日はええ物持ってきたで。はい、これ…」
私は差し出された物を手に取ってヨーコに聞いた。
「何これ?」
ヨーコは悪戯っぽく笑いながら、私に言った。
「ポケベルやん。」
私はすぐにはヨーコの意図が吞み込めずに首を傾げた。
「ポケベル… 何すんの、こんなん?」
彼女は笑いながらポケベルを叩いて言った。
「セイジさんがこれを持つんやんか、私からの連絡用に。」
そうか。なるほど、その手があったか…
スマホやガラケー等の携帯電話が無かった当時、ポケベルは相手との連絡用に使われた。
持った相手に電話を使って信号を送り、受けた相手から折り返しの電話をかけさせるための機器である。通常は電話会社と契約して、リースでの利用となっていた。
私も職場で業務用のポケベルを使用していた。当時の社会人は職場との連絡のやり取りに、当たり前の様に使用していたのだ。
ヨーコが言った。
「NTTに行って私名義で契約してリースしてきてん。これをセイジさんがいつも持っててな。私が連絡したらセイジさんが折り返して電話するねんで。
それに、私から簡単なメッセージも送れるから。」
ヨーコに渡されたポケベルは当時としては最新式の物で、電話の番号を使って簡単なメッセージを入力して相手に送ることが出来た。
私は感心して言った。
「すごいな、こんなん… 仕事で使ってるやつよりすごいわ…」
正直、私はヨーコの考えに感嘆し、彼女の行動力に脱帽した。
ヨーコが少し自慢そうに微笑みながら私に言う。
「今日から電話の前にポケベルでまずメッセージ送るから、電話は必ずセイジさんが取ってや。」
「わかった。」
私はヨーコに大きく頷いて答えた。
この小さな機器がヨーコと私を結ぶ絆になるのか… 私はポケベルを握りしめた。
その日は、もちろん二人はたっぷりと愛し合った。
その日の夜、ポケベルにヨーコからのメッセージが…
「イマカラデンワスル(今から電話する)」
そして、その後すぐに掛かってきたヨーコからの電話を私が取った。
彼女は嬉しそうに言った。
「よかった、電話に出てくれて。これで必ずいつもセイジさんが電話に出てくれるね。」
私もポケベルを握りしめながらヨーコに賛同した。
「うん、便利やなこれ。ヨーコと僕を結んでくれてるみたいや。」
ヨーコは自慢げに笑いながら言った。
「そうやろ。えらいでしょ、私。」
私もヨーコに調子を合わせて笑いながら言った。
「うん、えらい、ヨーコは賢いな。」
そう言って二人は笑い合った。
その後、いつもの二人の愛の長電話が続いたのは言うまでもない
しかし、このポケベルが二人にとって頼もしい味方の便利なグッズとなったのは事実である。さしずめ、愛し合う二人を結ぶ伝書バトのような存在といったところか。
スマホ全盛の今から思えば、何ともまどろっこしい時代であった…
しかし、当時の他の不倫カップルも同じようにしていたのだろうなと考えるが、おそらく間違ってはいないだろう。心当たりのある読者諸氏は頷いておられる事と思う。
ヨーコのくれたポケベル…
それは私にとって、二人を結ぶ何より大事な必須アイテムとなった。
私も以前は遠慮がちにだったのだが、ヨーコに逢うことを積極的に望むようになっている自分に驚いた。
もう私には…彼女のいない世界など考えられなった。
いつヨーコに逢えるだろう…
ヨーコから早く電話がかかってこないだろうか…
寝ても覚めても考えるのはヨーコの事ばかりになっていた。
彼女からの電話は、ほぼ毎日かかってくるのだが、私はそれを待ちきれなかった。
私の家族がヨーコからの電話を取ることもあった。
その際はヨーコは私の彼女だということになっていた。
ヨーコとの通話はいつも長電話になる。
話すのは圧倒的にヨーコが多いが、私は彼女の声を聴いているだけで幸せだった。
いや、正直では無いな。声だけでは当然の事ながら、私は満足出来なくなっていた…
早くヨーコに逢いたい…また彼女を抱きたい…
若い私はヨーコを想って自分で慰めるしかなかった。
時には彼女の声を電話で聴きながら… 彼女に聴いてもらいながら…
寂しい…ヨーコに逢いたい…
二人の逢瀬はヨーコの都合が最優先される。
私はそれに予定を合わせて休暇を取るのだ。
ある日の逢瀬で、ヨーコは私に対して開口一番こう言った。
「今日はええ物持ってきたで。はい、これ…」
私は差し出された物を手に取ってヨーコに聞いた。
「何これ?」
ヨーコは悪戯っぽく笑いながら、私に言った。
「ポケベルやん。」
私はすぐにはヨーコの意図が吞み込めずに首を傾げた。
「ポケベル… 何すんの、こんなん?」
彼女は笑いながらポケベルを叩いて言った。
「セイジさんがこれを持つんやんか、私からの連絡用に。」
そうか。なるほど、その手があったか…
スマホやガラケー等の携帯電話が無かった当時、ポケベルは相手との連絡用に使われた。
持った相手に電話を使って信号を送り、受けた相手から折り返しの電話をかけさせるための機器である。通常は電話会社と契約して、リースでの利用となっていた。
私も職場で業務用のポケベルを使用していた。当時の社会人は職場との連絡のやり取りに、当たり前の様に使用していたのだ。
ヨーコが言った。
「NTTに行って私名義で契約してリースしてきてん。これをセイジさんがいつも持っててな。私が連絡したらセイジさんが折り返して電話するねんで。
それに、私から簡単なメッセージも送れるから。」
ヨーコに渡されたポケベルは当時としては最新式の物で、電話の番号を使って簡単なメッセージを入力して相手に送ることが出来た。
私は感心して言った。
「すごいな、こんなん… 仕事で使ってるやつよりすごいわ…」
正直、私はヨーコの考えに感嘆し、彼女の行動力に脱帽した。
ヨーコが少し自慢そうに微笑みながら私に言う。
「今日から電話の前にポケベルでまずメッセージ送るから、電話は必ずセイジさんが取ってや。」
「わかった。」
私はヨーコに大きく頷いて答えた。
この小さな機器がヨーコと私を結ぶ絆になるのか… 私はポケベルを握りしめた。
その日は、もちろん二人はたっぷりと愛し合った。
その日の夜、ポケベルにヨーコからのメッセージが…
「イマカラデンワスル(今から電話する)」
そして、その後すぐに掛かってきたヨーコからの電話を私が取った。
彼女は嬉しそうに言った。
「よかった、電話に出てくれて。これで必ずいつもセイジさんが電話に出てくれるね。」
私もポケベルを握りしめながらヨーコに賛同した。
「うん、便利やなこれ。ヨーコと僕を結んでくれてるみたいや。」
ヨーコは自慢げに笑いながら言った。
「そうやろ。えらいでしょ、私。」
私もヨーコに調子を合わせて笑いながら言った。
「うん、えらい、ヨーコは賢いな。」
そう言って二人は笑い合った。
その後、いつもの二人の愛の長電話が続いたのは言うまでもない
しかし、このポケベルが二人にとって頼もしい味方の便利なグッズとなったのは事実である。さしずめ、愛し合う二人を結ぶ伝書バトのような存在といったところか。
スマホ全盛の今から思えば、何ともまどろっこしい時代であった…
しかし、当時の他の不倫カップルも同じようにしていたのだろうなと考えるが、おそらく間違ってはいないだろう。心当たりのある読者諸氏は頷いておられる事と思う。
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