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8章「悪魔のポケベル(職場にて)」
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前章のポケベルは最強の不倫手助けツールだった。
当時の私は、不倫も先端技術の恩恵を受けるものなのだなと漠然と思ったものだった。
現在のスマホを考えて見ていただきたい。不倫にとって絶対に欠かせないのは、誰が考えても当たり前の事だろう。
当時のポケベルも、使っていなかった頃よりも確実に二人の距離を縮めてくれたと思う。
ヨーコはポケベルで電話をかける通知だけでなく、付属の機能を使って簡単なメッセージを送ってよこした。
「イマナニシテル:今何してる」「オヤスミ:おやすみ」「イマカライクヨ:今から行くよ」「10プンゴイツモノトコロデ:10分後いつもの所で」
等の単純なショートメッセージである。今から思えば、子供のおもちゃ程度の機器でしかないのだから笑ってしまう。
でも、真剣に愛し合う二人にとっては実にありがたいシロモノだったのだから、当時の私達には笑う事など出来なかった。
電話がつながらないと、ヨーコから送られるポケベル通信のみの一方通行なのだが、今この瞬間に彼女が私の事を考えているのが分かるので、それだけでも私にとっては嬉しかった。
双方向通信が当たり前で便利な現在よりも、連絡を待つ側のドキドキワクワク感は非常に大きかったと言えるだろう。
*******************
ある日、電話の会話の中でヨーコが言った。
「セイジさんの働いてる場所を見たいねんけど…」
私はちょっと考えて返事をした
「〇月×日の土曜日やったら大丈夫かな…」
ヨーコも、それで何とか都合をつけてみると言ってくれた。
私は医療従事者で、病院で働いている。
平日や日曜祝日に関わらず、日勤帯以外でも当直勤務があるのだ。
土曜日は当直者一人での勤務であり、業務の無い時間帯は当直者の自由時間となる。
この時間を利用してヨーコを私の職場に招いたのだ。
外部の者を入れることが許されるのかと言われる諸兄もいると思うが、同じ部署で働く私以外の者も家族や恋人等を連れて来ていた。
公にバレなければ問題になる事は無い。
病院でなくても、働く人間はそういう事を行なってはいないだろうか?
考えてみていただきたい。
もちろん、病院内の危険な場所や個人情報に関する場所では、彼女に対して私が注意している。私にも最低限の良識はある。
土日祝の当直は午前中がルーティンの業務があり、緊急の仕事は一日中時間を選ばずに入ってくる。
午後からは緊急の呼び出しがなければ、ヨーコと過ごす自由な時間はある。
ヨーコには午後に来てもらうことにした。
彼女が到着したのは、ちょうど私がルーティン業務を終えて落ち着いた時間帯だった。
ヨーコを私の働く現場へと案内し、行なっている検査等の簡単な説明をして回った。
現場では緊急検査がない限りは、他の職員が立ち入る事はあまり無い。
彼女は医療関係の人間では無いので、初めて見る物ばかりだっただろう。
もっとも、ヨーコはあまり関心が無いようだったが…
一通り案内して回った後、私の部署での職員の控え場所へと向かった。
そこには当直者の仮眠室があり、ベッドも置いてある。
私はヨーコをそこに連れて行き、
「今、君が欲しいねん」
と伝えた。
ヨーコは突然の私の求めに驚いていた。
「こんなところで…」
と彼女は躊躇したが、普段自由に逢うことが出来ない私は実際にヨーコを前にして我慢することが出来なかった。
強引な私の要求に抗え切れずに、ヨーコは私の口づけを受け入れベッドに腰を下ろした。
やはり、こんな場所で行うという禁忌に触れる行為は、よけいに若い二人の欲情を煽った。二人は抱き合ってベッドに横たわり、愛の行為を始めた。
普段逢いたくても逢えない、若い二人だったのだ…燃え上がるのに時間はかからなかった。
私はヨーコの服を脱がし自分も脱いでベッドに横たわった。
二人は夢中で相手を求めた…
前戯を終え、十分に潤ったヨーコと私が一つになろうとした正にその時…
ポケベルが鳴った!
もちろん彼女のポケベルではなく、私の業務用である…仕事で私を呼んでいるのだ。緊急コール…
このポケベルはヨーコのポケベルと違って、愛し合う二人にとって悪魔の不倫妨害ツールだった…
私は気が狂いそうだったが仕方がない。
「あと少しやったのに…」
互いに見つめ合い、二人とも気まずい苦笑を浮かべた。
ヨーコは悲しそうに私を見つめて言った。
「しょうがないね… 仕事やもんね…」
私はそんな彼女を抱きしめ、キスをして言った。
「ごめんな、この埋め合わせは絶対するから…」
私は服を着ながら、ヨーコに未練がましく言った。
「もし大丈夫やったら待っててくれへんかな? そんなに時間はかからへんと思うから。」
「うん、待ってるで。頑張って仕事してきてね!」
と言ってヨーコは微笑みながら、私に軽く手を振ってくれた。
だが… 予想外に緊急の検査は時間がかかるものになってしまった。
私が戻った時にはヨーコの姿は無かった…
私の机にはヨーコが書いた置手紙を添えた彼女の手作り弁当が置いてあった…
手紙にはこう書いてあった。
『セイジさん、ごめん。今日は帰る… 忙しいのに無理させてごめんな…
これ作って来てん、食べて。また逢おね… ヨーコ』
私は悔しかった… 彼女に対してではなく、こんな悲しい私達二人の関係が…
私は泣きながら彼女の弁当を食べた…
美味しかった…
当時の私は、不倫も先端技術の恩恵を受けるものなのだなと漠然と思ったものだった。
現在のスマホを考えて見ていただきたい。不倫にとって絶対に欠かせないのは、誰が考えても当たり前の事だろう。
当時のポケベルも、使っていなかった頃よりも確実に二人の距離を縮めてくれたと思う。
ヨーコはポケベルで電話をかける通知だけでなく、付属の機能を使って簡単なメッセージを送ってよこした。
「イマナニシテル:今何してる」「オヤスミ:おやすみ」「イマカライクヨ:今から行くよ」「10プンゴイツモノトコロデ:10分後いつもの所で」
等の単純なショートメッセージである。今から思えば、子供のおもちゃ程度の機器でしかないのだから笑ってしまう。
でも、真剣に愛し合う二人にとっては実にありがたいシロモノだったのだから、当時の私達には笑う事など出来なかった。
電話がつながらないと、ヨーコから送られるポケベル通信のみの一方通行なのだが、今この瞬間に彼女が私の事を考えているのが分かるので、それだけでも私にとっては嬉しかった。
双方向通信が当たり前で便利な現在よりも、連絡を待つ側のドキドキワクワク感は非常に大きかったと言えるだろう。
*******************
ある日、電話の会話の中でヨーコが言った。
「セイジさんの働いてる場所を見たいねんけど…」
私はちょっと考えて返事をした
「〇月×日の土曜日やったら大丈夫かな…」
ヨーコも、それで何とか都合をつけてみると言ってくれた。
私は医療従事者で、病院で働いている。
平日や日曜祝日に関わらず、日勤帯以外でも当直勤務があるのだ。
土曜日は当直者一人での勤務であり、業務の無い時間帯は当直者の自由時間となる。
この時間を利用してヨーコを私の職場に招いたのだ。
外部の者を入れることが許されるのかと言われる諸兄もいると思うが、同じ部署で働く私以外の者も家族や恋人等を連れて来ていた。
公にバレなければ問題になる事は無い。
病院でなくても、働く人間はそういう事を行なってはいないだろうか?
考えてみていただきたい。
もちろん、病院内の危険な場所や個人情報に関する場所では、彼女に対して私が注意している。私にも最低限の良識はある。
土日祝の当直は午前中がルーティンの業務があり、緊急の仕事は一日中時間を選ばずに入ってくる。
午後からは緊急の呼び出しがなければ、ヨーコと過ごす自由な時間はある。
ヨーコには午後に来てもらうことにした。
彼女が到着したのは、ちょうど私がルーティン業務を終えて落ち着いた時間帯だった。
ヨーコを私の働く現場へと案内し、行なっている検査等の簡単な説明をして回った。
現場では緊急検査がない限りは、他の職員が立ち入る事はあまり無い。
彼女は医療関係の人間では無いので、初めて見る物ばかりだっただろう。
もっとも、ヨーコはあまり関心が無いようだったが…
一通り案内して回った後、私の部署での職員の控え場所へと向かった。
そこには当直者の仮眠室があり、ベッドも置いてある。
私はヨーコをそこに連れて行き、
「今、君が欲しいねん」
と伝えた。
ヨーコは突然の私の求めに驚いていた。
「こんなところで…」
と彼女は躊躇したが、普段自由に逢うことが出来ない私は実際にヨーコを前にして我慢することが出来なかった。
強引な私の要求に抗え切れずに、ヨーコは私の口づけを受け入れベッドに腰を下ろした。
やはり、こんな場所で行うという禁忌に触れる行為は、よけいに若い二人の欲情を煽った。二人は抱き合ってベッドに横たわり、愛の行為を始めた。
普段逢いたくても逢えない、若い二人だったのだ…燃え上がるのに時間はかからなかった。
私はヨーコの服を脱がし自分も脱いでベッドに横たわった。
二人は夢中で相手を求めた…
前戯を終え、十分に潤ったヨーコと私が一つになろうとした正にその時…
ポケベルが鳴った!
もちろん彼女のポケベルではなく、私の業務用である…仕事で私を呼んでいるのだ。緊急コール…
このポケベルはヨーコのポケベルと違って、愛し合う二人にとって悪魔の不倫妨害ツールだった…
私は気が狂いそうだったが仕方がない。
「あと少しやったのに…」
互いに見つめ合い、二人とも気まずい苦笑を浮かべた。
ヨーコは悲しそうに私を見つめて言った。
「しょうがないね… 仕事やもんね…」
私はそんな彼女を抱きしめ、キスをして言った。
「ごめんな、この埋め合わせは絶対するから…」
私は服を着ながら、ヨーコに未練がましく言った。
「もし大丈夫やったら待っててくれへんかな? そんなに時間はかからへんと思うから。」
「うん、待ってるで。頑張って仕事してきてね!」
と言ってヨーコは微笑みながら、私に軽く手を振ってくれた。
だが… 予想外に緊急の検査は時間がかかるものになってしまった。
私が戻った時にはヨーコの姿は無かった…
私の机にはヨーコが書いた置手紙を添えた彼女の手作り弁当が置いてあった…
手紙にはこう書いてあった。
『セイジさん、ごめん。今日は帰る… 忙しいのに無理させてごめんな…
これ作って来てん、食べて。また逢おね… ヨーコ』
私は悔しかった… 彼女に対してではなく、こんな悲しい私達二人の関係が…
私は泣きながら彼女の弁当を食べた…
美味しかった…
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